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26 魔王八宝の守り手

「魔族――しかも八宝の守り手だ。ナインス=クルシューゲンとエイス=バルトロメオ……あいつらがブライアント領を襲った」


「魔王八宝……! そんな強敵がこの領に……」


フローレンスは恐怖と怒りが入り混じった表情で声を漏らす。その手は震えていたが、ローランドの顔を見ると、その震えは徐々に収まった。


「ローランド様……私、戦いますわ。あんな奴ら、このまま放っておけません!」


「当然だ。俺たちもここを守る」


「ですが……」


サンクトシリアは躊躇いの表情を見せた。冷静に考えれば、彼らは既に姿を消している可能性が高い。追跡しても空振りに終わるかもしれない。


「サンクトシリア、俺たちがここに来たのは偶然じゃない。あの瘴気の痕跡、そして今度は魔王八宝の守り手……全てが繋がっている」


「……そうですね。偶然にしては重なりすぎています」


「だろう? だからこそ、ここで引くわけにはいかない」


ローランドは剣の柄を強く握りしめた。戦いの覚悟は既に固まっている。しかし――


「ですが、ローランド様。二体の魔王八宝を相手にするのは無謀ですわ」


フローレンスが真剣な表情で訴えた。彼女はローランドの強さを誰よりも信じている。だが、それでも二体の魔王級は未知の脅威だ。


「確かに危険だ。だが、放っておけばこの領はさらに被害を受ける」


「では……どうしますか?」


サンクトシリアはすぐに戦闘に走らず、策を求める視線を向けた。彼女の冷静さはローランドにとっても心強かった。


「俺たちはブライアント領内を捜索し、ナインスとエイスの痕跡を探す。もし戦闘になれば……俺が前に出る。フローレンス、君は補助に回ってくれ」


「はい!」


「サンクトシリアは後方から回復と支援を頼む。君の聖光があれば、俺たちも踏ん張れる」


「承知いたしました」


三人はすぐに準備を整え、領主館を飛び出した。城壁の外では避難民たちが集まり、不安げに見つめ合っていた。衛兵たちは必死に彼らを守ろうとしているが、その顔にも恐怖が浮かんでいる。


「皆さん、安心してください。私たちが必ずこの領を守ります」


サンクトシリアが優しく呼びかけ、その声に聖なる光が乗る。心を落ち着かせる彼女の力が、群衆の動揺を少しずつ和らげた。


「これで少しは大丈夫ですね」


「さすがだな、サンクトシリア」


ローランドが感嘆しながらも、その視線は城壁の向こうを睨んでいた。


「さて……問題は奴らの姿が見えないことだ」


「おそらく姿を隠し、こちらを伺っていますわ」


フローレンスが指摘する。その推測は正しいだろう。八宝の守り手がただ破壊を楽しむために領主を襲ったとは考えにくい。


「どこかに潜んで、次の動きを狙っている……」


その時――


「……主よ、感じますか?」


風神の声がローランドの耳に響いた。風神は空中に浮かび、風の流れを感じ取っている。


「瘴気が……南西の森から漂ってきています」


「南西の森か……!」


ローランドは即座にそちらへ駆け出した。フローレンスとサンクトシリアもその後を追う。


「待ってください、ローランド様!」


「危険ですわ! せめて迎撃の準備を……」


「迎撃なんてしてたら領内に被害が出る!」


彼の声には焦りが滲んでいた。魔王八宝が領主を殺し、今なお領を脅かしている。それを見過ごすことはできない。


やがて三人は南西の森に到着した。鬱蒼と茂る木々の中は薄暗く、湿った冷気が漂っている。その中を進んでいくと、木々の間に黒い煙が漂っていた。


「瘴気……間違いない、ここにいる!」


ローランドは聖炎刀を構え、炎を宿した刃が闇を照らし出す。フローレンスも魔力を高め、炎のオーラが彼女を包んだ。


「来るぞ……!」


黒い霧が渦を巻き、漆黒の巨人エイス=バルトロメオと、赤いローブを纏った男ナインス=クルシューゲンが完全に姿を現した。二人の魔王八宝の守り手。その圧倒的な妖気が森全体を飲み込み、空気が重く、冷たく張り詰める。


「……ようこそ、死に急ぎの冒険者たちよ」


ナインス=クルシューゲンは不気味な笑みを浮かべ、赤い瞳でローランドたちを睨みつけた。彼の周囲には黒い霧が漂い、その霧から無数の影の腕が現れては消える。どこか幽霊じみた不気味な力が漂っている。


「くそ……!」


ローランドは聖炎刀を構え、その刃に炎を宿した。しかし、その炎も黒い霧の前ではわずかに揺らぐだけで、圧倒的な妖気に飲まれていた。


「お前たち、何が目的だ!? どうしてブライアント領を襲った!」


「目的……? そうだな、退屈しのぎ……いや、我々は試したかったのだよ。この世界にどれほどの抵抗が残っているのかを」


「……ふざけるな!」


ローランドは聖炎刀を振り抜き、灼熱の炎を放った。炎の刃は赤い霧を切り裂き、ナインスの顔を包み込む。


だが――


「無駄だよ」


霧が再び集まり、炎を押し返すように消し去った。ナインスの笑みは変わらず、そのまま黒い影の腕を振りかざす。影は鋭利な刃のように空を切り裂き、ローランドに向かって突き進んだ。


「《神焰・障壁》!」


ローランドは防御の聖炎を展開し、影の刃を受け止めた。だがその衝撃は予想を超えており、炎の障壁は瞬く間に砕け散る。


「くっ……!」


「ははははは!素晴らしい防御だが、私には通じない!」


「なら、これでどうだ!」


フローレンスが叫び、紅蓮の魔力を放出する。その炎は剣を纏い、灼熱の剣圧がナインスを直撃する。しかし――


「甘い!」


ナインスは影の腕で炎を払い、逆にフローレンスへと突き刺そうとした。


「フローレンス、下がれ!」


ローランドが駆け寄り、聖炎刀で影を弾き飛ばす。だがその瞬間、背後から強烈な衝撃が彼を襲った。


「ぐあっ!」


エイス=バルトロメオが巨大な漆黒の拳を振り下ろし、ローランドを地面に叩きつけた。その衝撃で大地が砕け、ローランドは苦痛に呻き声を上げた。


「ローランド様!」


サンクトシリアが祈りの言葉を唱え、聖光の回復魔法が彼を包む。だがその回復すら、エイスの強烈な瘴気に押し返されていく。


「……貴様たちの光も、ただのかすかな燭光に過ぎぬ」


エイスは冷たく言い放ち、その巨大な拳を再び振り上げた。地面が軋み、空気が震える。ローランドは立ち上がりたい一心で剣を構えるが、足が震え、力が入らない。


「くそ……こんな……!」


「これで終わりだ」


エイスが拳を振り下ろす――その瞬間、聖なる光が彼の腕を弾き飛ばした。


「今です、退いてください!」


サンクトシリアが両手を掲げ、聖光の結界を展開した。だがその結界も、エイスの力の前では徐々に軋みを上げ始めている。


「フローレンス、全力で支援を!」


「はい!」


フローレンスは炎を集中させ、結界に力を注ぎ込んだ。炎と聖光が混じり合い、一瞬だけ防御が強化される。


「ちっ……あがくな!」


ナインスは黒い霧を操り、無数の影の刃を降り注がせた。結界は悲鳴を上げ、徐々に砕け始める。


「このままじゃ……!」


「いいや、もう十分だ」


エイスが手を止め、ナインスも笑みを浮かべたまま手を下ろした。


「貴様たちに興味は無いと言っただろう。我らの目的はまだ……その時ではない」


「な、なんだと……?」


「せいぜい、次の再会を楽しみにすることだな。次は貴様らに慈悲は無い」


エイスが手を振ると、黒い霧が再び巻き起こり、二人の姿を覆い隠した。霧は徐々に薄れ、風と共に吹き飛ばされていく。


「逃げた……!」


ローランドは剣を握りしめ、悔しさで震えていた。


「くそ……俺たちを圧倒しておきながら……逃げるなんて……!」


「ローランド様……」


フローレンスは涙を浮かべながら彼の背中を見つめ、サンクトシリアも静かに手を合わせ、祈りを捧げた。だがその祈りは、どうにも虚しく響くだけだった。


「俺たちは……俺は……何もできなかった……!」


ローランドは拳を地面に叩きつけ、悔しさを押し殺すことができなかった。その傷ついた拳から血が滲むが、彼は痛みすら感じていない。


「次は……次こそ……!」


彼の言葉は空虚に響き、ただ暗い森の中に消えていった。

追記


明日から投稿時間を12時10分にします

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