23 戦力強化の旅 対隠神刑部
「はあ、なんとかやったか」
「大分魔力を消費しましたね。まあ、大概大業を使いすぎたのが原因ではあるのですが」
「それにしても大分えげつない敵だったな。まあ、今となってはお前と同じ立場なのではあるが」
「にしてもどう言う原理なのでしょうね?あれだけ消し炭になったのに今に死にかけた状態で召喚世界にいるとは」
というのも、八岐大蛇をころ……捕まえた後あいつは満身創痍だったから捕獲しておいたのだ。
「んで、次はどこに行こっかねー」
「隠神刑部辺りがいいかなと」
まあ、お前が言うんだし行くかね。
「んでどうやっていこうか」
「……」
「……」
「頑張ってください」
強烈な横パンチが炸裂したのだった。
その後はなんやかんやあってたどり着いたわけだ。
陰世界の森――冷たく湿った霧が全てを覆い隠し、木々は巨人のようにそびえ立ち、黒々とした影を落としていた。ローランドと風神は、この不気味な森の中を歩き続けていた。彼らの目的はただ一つ、強大な妖である隠神刑部を屈服させ、自らの仲間に加えることだ。
「ここが隠神刑部の領域か……なんとも不気味な場所だな」
「そうですね、あの老狐はただの妖ではありません。千年の時を生き、知恵と魔力を極めた存在です」
風神は慎重に警戒を促したが、ローランドは聖炎刀をしっかりと握り、不敵な笑みを浮かべていた。
「そいつを調伏できたら、俺たちの力もさらに跳ね上がる。行くぞ!」
しかし、その一歩を踏み出した瞬間、霧の中に鋭い風が駆け抜け、二人の周囲が急速に暗闇に包まれた。無数の瞳が霧の中からじっと彼らを見つめている。
「……ふむ、無礼者が一人、いや、二人か」
重々しい声が森全体に響き渡る。その声はまるで風そのものが語りかけているかのようで、ローランドは咄嗟に聖炎刀を構えた。
霧が渦を巻き、その中からゆっくりと姿を現すのは――九本の尾を持つ巨大な白銀の狐。その目は黄金に輝き、知恵と力を秘めた妖の威圧感が全身から放たれていた。
「お前が隠神刑部か?」
「無礼者ども、我が領域に足を踏み入れたことを後悔させてやろう」
隠神刑部がその巨体を揺らすと、霧が生き物のようにうごめき、数百もの狐の影が霧の中から出現した。それは全てが隠神刑部の分身であり、彼の意志によって操られている。
「風神、援護を頼む!」
「お任せください、主人様!」
風神は赤団扇を振るい、烈風が霧の狐たちを吹き飛ばそうとする。しかしその風をも霧が絡み取り、狐たちは消えるどころかさらに増え続けた。
「くそ……こいつ、どこまでが本物だ?」
「全てが本物であり、全てが幻影だ。貴様ごときにはこの霧を見破れまい!」
隠神刑部が嘲笑を漏らし、無数の狐たちが一斉に飛びかかってくる。牙を剥き出しにし、爪を閃かせ、ローランドを囲む。
「ならば、焼き尽くすだけだ!」
ローランドは聖炎刀を振り抜き、灼熱の炎が彼の周囲に旋風のごとく巻き上がった。狐たちは炎に包まれて霧散し、わずかな焦げた臭いだけを残して消え去る。しかしその数は無尽蔵で、倒しても倒しても新たに現れる。
「さすがは隠神刑部、面倒な相手だな」
「ふふふ……絶望を知るがいい!」
その声と共に、霧の中から無数の光の刃が降り注ぐ。狐たちがその体から光を放ち、それが鋭い矢となってローランドと風神に襲いかかってきた。
「《神焰・障壁》!」
ローランドは左手を掲げ、炎の壁を出現させる。光の矢は炎に飲み込まれ、次々と消えていく。しかしその衝撃は絶え間なく続き、炎の壁が徐々に削られていった。
「風神!今こそ本体を見つけるんだ!」
「承知しました、主人様!」
風神は再び赤団扇を振り、烈風を送り込む。その風は霧をかき分け、数十体の狐たちを巻き込んで消し去る。そして、その風の隙間――そこに隠神刑部の本体が一瞬だけ姿を現した。
「見つけた!」
ローランドは聖炎刀を掲げ、蒼炎を刃に纏わせた。空を切り裂きながら突進し、その一閃が隠神刑部に迫る。
「ふん、甘い!」
だが、隠神刑部は九本の尾を瞬時に巻き上げ、その一本一本が巨大な蛇のようにローランドに絡みつく。ローランドは炎を放ちながら尾を切り裂こうとするが、尾は燃えながらも再生を繰り返し、彼を締め付けた。
「ぐ……!」
「愚か者よ、貴様の力は全て見通しだ。強き力を持っていようとも、我が千年の知恵には及ばぬ!」
隠神刑部の口から黄金の光が集まり始める。それは魔力を凝縮した一撃――この一撃を受ければローランドは無事では済まない。
「風神!」
「ご無事ですか、主人様! 今、救います!」
風神は強烈な烈風を放ち、その風が隠神刑部の尾を切り裂こうとする。だが、尾は再び絡みつき、ローランドは抜け出せない。
「無駄だ……貴様らの力など、霧に消える!」
しかし、ローランドはその笑みを崩さなかった。
「なら、最後の切り札を見せてやる!」
彼の全身が再び蒼炎に包まれ、その炎は急速に聖なる白光へと変わっていく。空気が焼け、霧すらも清められていく。
「《終焉の聖焔・カルマフレア》!」
眩い光が森全体を包み込み、隠神刑部の尾は焼き尽くされ、彼の巨体も浄化されていく。燃え上がる白銀の狐の姿は次第に消え、残されたのは淡く輝く狐面だけだった。
「これが……隠神刑部の本体か」
「ええ、主人様。それを手にすることで、彼はあなたの眷属となります」
ローランドは狐面を手に取り、その光が暖かく彼を包み込んだ。
「隠神刑部、お前はこれから俺の力となれ」
その言葉に狐面は光を放ち、彼の手に消えた。そして彼の背後に、一匹の白銀の狐が静かに頭を垂れていた。
「……従いましょう、我が主よ」




