レイモンド・ウィリアム・フォン・シュラルグ
お父様の書斎を出てマーサと共に子供部屋に戻る。
昼食の後普段着のドレスを脱ぎ、おめかし用のドレスを選んでもらう。
淡いグリーンで差し色に紫色の刺繍が入ったドレスをマーサに着付けてもらい、横の髪を編みハーフアップにしてもらった。小さな淑女の完成だ。
お父様とお母様と玄関を出てそわそわとレイの到着を待つ。
すると一台の煌びやかな馬車が門の方からゆっくりと入って来て玄関の斜め前で停まった。
扉が開き中から昨日よりもきっちりとした服装のレイが降りてきた。
相変わらず綺麗だ。小さなステップを降りてこちらにやって来る。今日も護衛らしき人達が一緒だ。
「昨日ぶりだね。リズ」
「レイ!まさか今日も会えるとは思わなかったわ」
「また会えるって約束したからね」
レイがウィンクした。そんな姿も様になる。まるで王子様のようだ。ハッ。本物の王子様だった。
「ベルゲン公爵、急にすまないね」
「いえ、この度のお話我が家にとって光栄な事です。」
お父様はさっきまでのしょんぼり顔はどこへやら、笑顔で対応している。お母様もにこにこしながら
「お会い出来て光栄ですわ。中へご案内致します」
と屋敷の中へ促した。
レイを応接間へ案内する。その間も私はうきうきとしていた。これから結婚について話すのだろう。
応接間は私も入ったことが無かった。大きなソファが2つと真ん中にテーブルが置いてあり、使用人がもう準備をしている。
暖炉の上にはよくわからないが高そうな物が沢山あった。
レイはソファに座りその後ろに護衛らしき人が立つ。応接間に入って来たのは2人だが2人とも帯剣していて片方はとても大きく、もう片方は細身の男性だった。
レイの向かいに私達親子が座った。
メイドは紅茶を用意すると部屋から出て行った。
いつもなら壁際にいるのに。それだけ大切な話なのだろう。
「先触れの通りこの度は婚約の申し出に来た。急な事で改めて申し訳ない」
「いえいえ、光栄な事ですから。それにしても何故リズを望まれたのでしょうか」
そう問い掛けられレイは少し顔を赤くしながら答えた。
「恥ずかしながら一目惚れというやつなのだろう」
「まぁ」
お母様が声をあげる。
「昨日陛下にリズを婚約者に望むと話をしたのだ。だが5歳頃に魔力が安定し行われる魔力測定までは婚約者として決定は出来ないと。だから婚約者候補ということになったんだ」
昨日すぐに陛下に話をしてくれたらしい。
真剣な顔をしたレイは確かに男の子だった。
「婚約者候補としての誓約書を持って来た。問題がなければサインして頂けないだろうか」
「わかりました」
お父様がひと通り目を通す。
問題無かったようでお父様はその書類にサインした。
「これでひとまずリズは私の婚約者候補だ。」
「殿下、娘をよろしくお願いします」
「ああ、レイモンド・ウィリアム・フォン・シュラルグの名において必ずリズを幸せにする」
レイモンド・ウィリアム・フォン・シュラルグ。
その名前を聞いた瞬間様々な記憶が駆け巡った。
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