妖精との出会い(レイモンド視点)
私はその日妖精と出会った。家庭教師との勉強の途中の息抜きで護衛と共に庭園へ出た時のことだ。
5歳とはいえ、王族の私には学ばなければならないことが山ほどある。それに私の精神は5歳の割に早熟なようで同じ歳の子供たちとはなかなか合わない。勉強や鍛錬、魔法の練習をしている方が益になる。ただ、息抜きは必要だった。
この庭園は王族の者以外立ち入ることは出来ない。息抜きにはうってつけの場所だ。そのはずなのにその少女は当たり前のようにそこに立っていた。美しい銀の髪。私よりも幼く整った顔に横から見てもわかるほど綺麗なアメジストの大きな瞳。青のドレス。神秘的な雰囲気。そのどれもが少女を人間では無いものに魅せていた。
「妖精?」気付けばつい口をついて心の声が出てしまった。
こちらを振り向き驚いた顔をした彼女がなんだか特別なもののように感じた。
妖精はめったに人前に姿を現さない。
私が誰何すると彼女は妖精ではなく公爵家の娘だと言う。幼いカーテシーがまた可愛く見えた。誰かを可愛いと思うなんて初めてのことだ。しかも父親が迷子だと言い張る。始めの神秘的で近寄り難い印象からかけ離れた言動。ああ、声を出して笑うなんて久しぶりだ。
私は愛称を呼ぶように言った。護衛が声をあげるがそれを制した。せっかく愛称を許したのに今私が誰か言ってしまっては愛称呼びをやめてしまうかもしれない。
私の名を呼んだ彼女の笑顔は確かに人間のもので。それでいて途轍もなく美しかった。
彼女の父親が来てすぐに王子だとバレてしまった。仕方ない。それでも彼女には名前で呼ばれたい。そして名前で呼びたい。いや、名前ではなく愛称で呼び合いたい。愛称で呼び合うなんて本来ならとても仲の良い関係で無ければいけないがこの場には私に意見出来る立場の者はいない。
公爵がリズに帰りを促した。
愕然とした。そうか、帰ってしまうのか。そのことを思い付きもしなかった。握った手を離したくない。俯き真剣に考えた。
どうすればいい。どうすれば彼女とこれからも共にいることが出来るのか。誰にも渡したくない。
リズだって寂しそうにしている。
・・・そうだ。結婚相手にしてしまえば良い。今日父上に報告しよう。そうすればこれからも会える。自分だけのものに出来る。私の中に初めて芽生えた執着だった。今まで人や物に執着することも無かった。与えられたもので望まれる以上のことをこなす。それだけだったのに。
リズ、大丈夫。これからも会えるよ。絶対に逃がしはしない。