木登り(前半レイモンド視点)
ベルゲン家へ訪問した数日後私はリズをお茶会に誘った。まだリズは読み書きが完璧では無いようで代筆だったが参加の返事も貰った。
もちろん自分の色のドレスを贈ることも忘れない。
リズの乳母は私に好意的なようでドレスのサイズも教えてくれた。
お茶会の日、エスコートのため馬車停めまで迎えに行く。扉が開き中から降りて来たリズは私色のドレスを着てくれていた。やっぱりとてもよく似合っている。
リズはやはり妖精のように可憐だった。
リズをエスコートしお茶会の席に着く。
席に着くとリズは給仕されたカップを一気に呷った。
少し驚いたがまだ3歳だ。婚約者として決定すれば王子妃教育が始まる。マナーが出来ていればそれに超したことは無いが、教育が始まるまでは自由なリズを見ていたいという気持ちもある。
ケーキを食べ始めた時にふといたずら心が湧き上がって来た。
リズに自分のチーズタルトを差し出すと顔を真っ赤にさせて固まってしまった。
可愛い。
そのまま引かずにいると目をつぶってチーズタルトを食べた。
なんだこれは。楽しい。ものすごく楽しい。
リズにも食べさせて貰う。
更に顔を真っ赤にさせて震えている。
席を隣に移し本格的に食べさせ始める。
口元に差し出せば次から次へと口を開けてくれる。
これがまたひなの餌付けのようで可愛くてたまらない。
チーズケーキをひとつ食べ終え、他のものも食べさせようとしたが首を振って断られてしまった。
今回は初めてのお茶会なので短い時間だったが可愛らしいリズを見れて良かった。
仲の良い婚約者としてのアピールとしても使えそうだ。
次回からも食べさせよう。
あれからレイとの定期的なお茶会が始まった。
お茶会の前には必ずドレスが贈られて来る。決まって青や金の色合いのドレス だ。
それに食べさせ合いが常態化してしまった。
主に食べさせられる側だが毎回恥ずかしくなる。
でも少しずつ慣れてしまった自分もいる。
毎回帰りの馬車ではマナーについてのお小言があるがそれは仕方ない。
そして4回目のお茶会。季節は夏になっていた。
やっと木登りを試す日が来た。
その日も気合いの入ったマーサに身支度を整えて貰い馬車に乗り込んだ。
またレイのエスコートでお茶会の席に着く。
お茶会の会場は王城の庭で天気も良く風が気持ちいい。
レイの席は最初から私の隣だ。もう指定席になっている。相変わらず美味しいお菓子を食べさせて貰った。こんなに美味しいならこのお茶会も良いかもとちょっと餌付けされつつある。
最後のひと口を食べ終えた後私はレイを散歩に誘った。
「レイ様、王城のお庭を案内して欲しいな」
「良いね。ゆっくり歩こうか」
レイのエスコートのもと、王城の庭を歩く。
立派な薔薇の咲く区画を2人で見る。
本来の目的を忘れそうなほど素晴らしい庭園だった。
でも、木が無い。私は遠くに見える林を指差して言った。
「レイ様!林が見えるわ。私あそこに行きたいのだけど」
「林に?良いけど・・・少し遠いよ?馬車を出そうか?」
「大丈夫!」
見えている場所だし日頃の木登り特訓のおかげで体力もある。
レイと護衛達や従者と共に歩いて林まで来た。
日差しが遮られて涼しい。
林の中を散策しているとちょうど足をかけられそうなところがたくさんある木を見つけた。
これだ!
「レイ様!私いつも木登りしてるの!あの木なんて良さそう」
そう言うと止められる前にさっと木に足をかけた。
特訓の成果もあって上の方に登って行く。
木の途中の枝に座ると結構な高さがあった。
レイ様はぽかんとしているし周りのみんなは青ざめている。
マーサなんて気絶してしまいそうだ。
どうだ!こんなお転婆な令嬢、婚約者には無理だろう。そう思っていたら突然レイが笑い始めた。
「あはは、木登り!木登りって!」
何故か分からないけれどめちゃくちゃウケている。
レイはお腹を抱えて笑い始めてしまった。
「もしかして練習したの?」
ギクッ。バレている。
「い、いいえ?木登りが趣味なの」
「あはは、良いね。私もやってみようかな」
「おやめ下さい!」
周りはレイを止めた。そりゃそうだ。万が一怪我でもしたら周りの者は物理的に首が飛びかねない。
全然効いてない。それどころか何かツボを刺激したようでレイにとっては楽しいことみたいだ。
「木登りは楽しそうだけど、そろそろ私の元へ帰って来ておくれ」
レイは笑い過ぎて滲んだ涙を拭きながら言った。
私は観念して、するすると木を降りる。マーサは私が足を着けるまで手を上げたり下ろしたりしながら右往左往していた。
「私の婚約者は木登りまで出来てしまうなんてね。ますます好きになったよ」
満面の笑みでレイに言われ、私は作戦の失敗を悟った。
更新頻度遅くてすみません。




