お茶会
マーサの目を盗んで特訓すること数日。屋敷に手紙が届いた。
「こちらはお嬢様宛でございます」
執事に封の開いた手紙を渡される。先に確認してくれたようだ。
差出人を見るとその手紙はレイからのものだ。
「レイ様からの手紙?」
マーサに読み上げて貰うと内容はお茶会への誘いだった。
お母様にくっ付いてお茶会に参加したことはあるが正式なお誘いは初めてだ。
木登りの成果はまだ出ていないがこれはチャンスかもしれない。
婚約者として相応しくないところを見せるのだ!
私は鼻息荒く決意した。
それからまた数日後レイから贈り物が届いた。
中を開けて見るとブルーのデイドレスが入っていた。金の刺繍が見事な逸品だ。
これだけでいくらするのだろう。
これを着てお茶会に来るようにということなのだと思う。
ブルーと金という配色はレイの瞳と髪の色と同じだ。偶然という訳ではなさそう。
試しに着てみるとぴったりで、何故サイズを知っているのか疑問だったけど、贈ってくれたのだから有難く着ていくことにしてマーサにお礼の手紙を代筆してもらった。
お茶会当日。
マーサは人一倍気合いが入っていて、サイドを編み込みにしてくれた。
そしてマーサと共に馬車で王城まで向かう。人生2度目の王城だ。
城門をくぐり馬車停めに馬車を止め、扉を開けるとレイが待っていてくれた。
「こんにちは。リズ。そのドレスよく似合っているよ」
「ありがとう。レイ様」
2人揃って笑顔になる。あー。やっぱり素敵だな。
転生先が悪役令嬢じゃなくて聖女だったら良かったのに。
そんなことを思いながらレイのエスコートを受ける。
5歳にしてレイのエスコートは完璧だった。
お茶会のテーブルでレイの対面に着くとメイドが紅茶を入れてくれた。
目の前には色とりどりのお菓子が並ぶ。
わぁ。どれも美味しそう。
お茶会がスタートし、私は沢山のお菓子の中からチョコレートケーキを選んだ。
レイはチーズタルトを給仕してもらっている。
紅茶のカップの取手に指をと入れ込みグイッと紅茶を呷った。
ふー。絶対ありえないマナーだ。少し離れてマーサの焦った顔が見える。
まさか紅茶のカップの取手に指を入れ紅茶を一気飲みするとは思うまい。
ドヤ顔でレイを見るも微笑ましげに見ていただけだった。
言っておくがもう3歳なのでカップに指を入れてはいけないと家庭教師に習ったしカップ自体も小さく作られているがあえてそうしてみた。
そう、王妃向いて無いですよ作戦だ。
しかしレイは動じることなく自分の分の紅茶を飲む。
「喉が渇いていたんだね」
そんな微笑みを付け足しながら。
ぐぅ。効いていない。さすがに3歳だと、お目こぼしされてしまうのだろうか。
気を取り直してケーキに手を付ける。
しっとりとした生地にフォークを刺し込むとスっと入った。口に運ぶとチョコレートの豊かな香りと甘みがぶわっと広がり溶けて行く。さすが王城のお菓子だ。とんでもなく美味しい。
ついつい笑顔になってしまう。美味しいものは正義だ。
「美味しそうだね。こっちも美味しいよ」
にこにこと食べているとレイがフォークにチーズタルトを刺して差し出して来た。
これは・・・恐る恐る手を伸ばすとスイっと避けられた。
「ほら、口を開けて?」
あーんして食べろってこと?
恥ずかしくて顔が赤くなる。
「ほら」
レイが益々笑顔になった。
ええい・・・ままよっ!
目をつぶり口を開ける。
口の中にフォークが入って来た。そのままチーズタルトを食べる。
「ほら、美味しいでしょ?」
なんだか味なんて分からないがコクコク頷いておいた。
「じゃあ、そっちも食べさせて欲しいな?」
こ、これはあーんの要求!?
ますます顔が赤くなる。
訳が分からないながらも震える手でチョコレートケーキをフォークで刺す。
そのままレイの顔の前に差し出すと嬉しそうに口を開けて食べた。
普段表情を崩さないはずのメイドや侍従達も微笑ましげだ。
恥ずかしい。恥ずかしすぎて顔から火が出そうだ。
何故私はあーんのし合いっこをしているんだろう。
「うん、リズに食べさせて貰うといつもより美味しく感じるよ」
そう言うとレイは立ち上がり侍従に言って私の隣に椅子を移動させた。
そして残りのチーズタルトも私の口に運ぶ。
私は何が何だか分からない状態でチーズタルトを食べ切った。
レイの爽やかな笑顔で流されてしまった気がする。
そうして初めてのお茶会は何故か私がケーキを食べさせて貰って終わった。
読んで頂きありがとうございます。
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