婚約者候補(レイモンド視点)
私はリズに会ったその日に陛下へ謁見を申し出た。相手が私ということもありすぐに謁見の許可が降りた。
謁見の間で陛下へ頭を下げ片膝を付き胸に手を当て礼をする。
「お前から謁見を申し出るとは珍しいな」
声がかかったので顔を上げる。
「陛下へお願いがございます」
「お前が願いとは・・・どうした?」
「ベルゲン公爵の娘、ルイーズ・フォン・ベルゲンを婚約者に望みます」
陛下は目を見開いて驚いた。
しばしの沈黙の後
「婚約者の決定は7歳の披露目の後だとお前も知っているだろう。」
「はい。ですが私はもう彼女以外考えられないのです」
キッパリと言い切る。
「どこかで会ったことがあったのか?魔力が低かった場合どうするのだ」
「はい。今日庭園で偶然出会いました。魔力についてはベルゲン家は由緒正しい家系です。魔力が皆無ということは無いかと」
「ふむ」
「それにベルゲン公爵家は王族派です。貴族派が力を付け始める前に取り込んでおくのは得策でしょう」
私の後ろ盾になるということを売り込んでおく。
「そこまで言うなら・・・しかし万が一ということを考えて婚約者候補ということにしてはどうだ?」
婚約者候補。今の状態では充分だ。
「はい。今は候補で構いません。ありがとうございます」
魔力があろうと無かろうと2年の間に実質的な婚約者にすればいい。
「明日申し込みに行きますので書類を揃えて頂けませんか」
「明日!?もっと後でも良いのでは?」
「いえ、すぐにでも動きたいのです」
「お前がそんなに言うのは珍しいな。わかった。明日までに書類を作らせよう」
「ありがとうございます」
まずは第一関門を突破したことに安堵する。
私は優しい王子だと思われがちだ。笑顔も絶やさないし、使用人達にも横柄な態度は取らない。しかしそれは幼いながらも学んだ処世術だ。利益にならなければ切り捨てる覚悟も持っている。
勤勉で優しい王子様。それもあながち間違いでは無い。だが彼女に出会って生まれたこの仄暗い独占欲はなんだろうか。
陛下へ再び礼をとり、謁見の間を出る。
明日早速婚約の申し込みに行こう。
今夜は早く寝なくてはならないのに明日リズに会えることを思うといつものようには寝付けなかった。
翌日早速婚約の申し込みに先触れを出しベルゲン家へ向かう。白のクラバット、リズの髪色と同じ銀のジャケットを羽織り、紺のスラックスを合わせた。
リズは気付いてくれるだろうか。
公爵家に着くとベルゲン公爵、公爵夫人と共にリズが出迎えてくれた。リズは今日も可愛い。
薄い黄緑のドレスも可憐だがぜひ自分の色を纏って貰いたい。
応接間へ通され婚約について話し合いをする。
一目惚れだと話すのは気恥しかったが、これが政略によるものでは無いことをわかって欲しかった。
そしてそれは私がリズを幸せにすると宣言した時だ。
突然リズの顔が真っ青になり震え始めたのだ。そして急に倒れてしまった。しかも倒れる際に頭をテーブルにぶつけてしまった。
私は王子の仮面が外れるほど焦った。王族専用である侍医を呼び寄せてでも治療を優先する。
侍医である治癒士を待つ間も不安と焦りでどうにかなりそうだった。
結果、ストレスということで私は自分の行動を反省した。何もかも急過ぎたせいでリズに負担をかけてしまったのだ。
急にしおらしくなり呼び方や話し方まで変わった。
元のように話すように頼んだが敬称だけは残ってしまった。
そしてそれは衝撃的な言葉だった。
婚約を・・・解消?
その瞬間私の感情も表情も全てが消えた。すぐに怖がらせないように笑顔を作るが心の中は荒れ狂う嵐が去来していた。
どうして?あんなに嬉しそうだったのに。
魔力があろうと無かろうとリズであれば問題無いのに。
笑顔で詰め寄ると婚約の解消は諦めてくれた。
だが一応は了承の形を取っていてもきっと納得はしていないのだろう。
また会う約束をして邸を出る。帰りの馬車の中で今日のリズの様子を思い返していた。




