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MIDNIGHT MUTANT HOUR  作者: 朝倉春彦
Cecil's Weekend 6.マッチポンプ

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35/50

-5-

 磯崎の子飼い連中を潰して回って早1週間。島内にいる奴等は殆ど処置を終えようとしている頃。俺はセシルを連れて東京までやってきていた。


「そろそろ教えてくれても良いじゃないですか。何処へ行くんです?」

「んー…クラブ?」

「へ?」

「磯崎の会社の社員が良く使ってるらしいぜ。雑誌に書いてた」


 向かう先は、渋谷のとあるビル…その地下にあるクラブ。クラブと言っても、最早ディスコというか…いや、ライブハウスみたいなものだろうか。上手く言い表せないが、それらの要素がごった煮になっている様な場所。


「何となく…思い浮かんでる事があってな。その確認だ」

「ワタシが居ても大丈夫なんですか?」

「店の中で事を起こす様なアホじゃない。ま、俺の傍からは離れるなよ」

「言われなくても離れませんよ」


 そう言ってセシルが俺の左腕に絡み付いてくる。僅かに不安げな表情が顔に滲んでいるのを見て、俺は茶化すのを止めた。


「ま、遠くから眺めてるだけさ」


 渋谷の人混みを抜けて、ビルの中に入っていく。階段で地下に降り…諸々を済ませて、ドリンクを手にしてクラブの中へ。


 中に入ると、体を震わせんばかりの大音量が体中をつんざいていく。広いワンフロア…暗いフロアの中で、平日という概念からは無縁である人々が妖しい空気を作り出していた。


 ビルや階段には、人影1つと見えなかったというのに、大した量だ。俺はセシルの腕を引いて、フロアの隅にあった階段を上り、ロフトの様になった、人の少ない高台に避難した。


「ここなら話し声が聞こえるよな!?」


 セシルに普段よりも大きな声で尋ねると、彼女はサムアップして答える。案外、こう言う場には慣れていないらしい。唖然とした様子で、クラブの中のあちこちを見回していた。


 俺はセシルを傍に置いたまま、ロフトの柵にもたれかかって目当ての人物を探し求める。雑誌の写真に写っていた会社の人間の顔は、ある程度頭の中に入っていた。


「なんだって、こんな事を答えたかな。いや、書く方も書く方か」


 自らの力を誇示するかのように、こんなクラブで遊んで暮らしてる風な事をインタビューで語っていたが…連中が妙にズレている証なのだろう。大半の人間なら、煽られている様にしか思えない答えというか、ライターがそれを煽っているというか…殆どの人間にとってはその程度の情報だったが、まさかこんな形で有効活用されるとは、誰も夢にも思っていないはずだ。


 暗い会場の中、目を凝らして1人1人顔を見て回り…そして、遂に写真に写っていた人間に行き当たる。俺はセシルの気を引いて、見つけた人物の方を指さした。


「いたな!」

「はい!でも、どうするんですか!?」

「何もしないさ!あの男の事を眺めてな!」


 俺はそう答えて、見つけた人物からジッと目を離さない。何となくだが、あの雑誌の記事を見た俺には、1つ考えが浮かんでいた。連中が態々このクラブを使っていることを大っぴらに話した理由。それを記者が記事に載せた理由。邪推と言われればそれまでだが、奴等は《《インタビューを利用して》》客を釣ろうと思ったのではないだろうか。


 いま勢いのある投資会社…あの雑誌を手に取るのは、恐らくそこそこ収入がある連中だろう。そんな奴等に向けて、ここにいますよと宣伝する。そうすれば、興味を持った人間がコンタクトを取ってくる…と思ったのだが…どうだろうか。


「おっ」


 俺が目を付けていた男の所に、1人の女がやってきて声をかけた。男は話しかけてきた女の方を向くと、気味悪い位の営業スマイルを貼り付けて応対し始める。内容は分からなかったが…さっきまで見ていた男の素の態度から察するに、仕事の話とみて間違いないだろう。どうやら、俺の邪推は正解だったらしい。


「ヨウさん…」

「あぁ、来たな」

「いえ、あの女の人、母の会社の幹部ですよ」

「はぁ!?」


 眺めている横から告げられた事実。俺は思わず声を上げて、セシルの方に顔を向けた。


「マジか!?」

「はい。あの様子じゃ、何かやってますよね?」

「違いないな。親しい友人じゃ無さそうだ。そして、その情報だけありゃいい」


 そう言うと、俺は再びフロアの方を見回して、セシルの手を引いた。


「長居は無用だな」


 殆ど口を付けていないドリンクを適当なテーブルに放置して、俺はセシルの手を引いて外に出る。鉢合わせするかどうかだけは運任せだったが…幸い、運は俺達についてきてくれたらしい。何事もなくビルの外に出て、渋谷のハチ公前広場まで来ると、ようやく俺達は一息つけた。


「なるほどな。あのやり取りの中身を知らなくても。接触してるってだけで十分だ」

「十分と言うと…?」


 そう言う俺に、セシルは煙草を取り出しながら聞いてくる。俺は悪い笑みを浮かべて、セシルに尋ねた。


「あの女、顔と名前知ってっか?」

「え?えぇ。一応…何度か話したこともありますし」

「ようし。スーさんの所に行ったら、もう1つ依頼を追加しよう。あの女には悪いが、ちょっとばかり利用させてもらうぜ」


 俺はそう言うと、ポカンとした表情で煙草を咥えたセシルにこう言った。


「あの女を利用して、磯崎達に会社を襲わせてやるよ」


お読み頂きありがとうございます!

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