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MIDNIGHT MUTANT HOUR  作者: 朝倉春彦
Cecil's Weekend 4.パイル・ワーク
21/50

-1-

 調査開始1日目。俺はローレルを走らせ、07メガタワーにやってきていた。今はまだ19時過ぎ…今日の夜の、最初の目的地は、時計工房。21階の駐車場から、一気に3階まで降り、仕事が終わったサラリーマン共の合間を抜けて、フロア中央付近までやって来る。


 その時計工房は、工房とは名ばかりで、高級腕時計を扱うディーラーみたいなものだ。ちゃんとワンオフ時計の制作であったり…古の腕時計の修理や再生もしているが、最近はそういう事を求めてくる客は居ないと愚痴っていたっけか。


 フロアの中央に出来た狭い商店街の様な通りに入り、奥へと進んでいく。立ち食い蕎麦だったり、屋台の様な飲食店が並ぶ狭い路地、そこを進んで、超ド真ん中あたりにポツンとある時計工房。その扉に手をかけて中に入ると、外見からは想像もできない、細長い店舗に繋がった。


「やぁ、ミナミ。珍しいな、この時間に来るなんて」


 左右の壁一面を時計が覆う異様な店舗。その一番奥、カウンターの奥に座っていた中年の男が俺に声をかけてきた。


「どうも。アキさん。ちょっとね。今、暇かな?」

「あぁ、最近、1週間は客が来てない」

「どうやって儲けてんだよ」

「何も、店で売れなくたって、他で売ればいいのさ」

「例えば?」

「インターネットだ。店の売り物を公開したら、案外、サクサク売れていく」

「インターネットねぇ。俺のツレが得意なんだが、俺はサッパリ」

「勉強の1つや2つ、やっておけ。まだ若いんだから。間違いなく次の時代はコレだぜ」

「一回りしか違わないっての…どうも、こう言うのには疎くてダメなんだ」


 俺はそう言いながら、カウンターの奥を指差し、指鉄砲の形を作って見せる。アキさんは表ではただの時計屋だが、裏では銃火器のブローカーだった。


「じゃ、奥で」

「分かった」


 その素振りで、アキさんは温和な笑みを消し、俺をカウンターの中へと招き入れる。カウンターの奥に見えていた扉を開けると、俺達は揃って中に入っていった。


「で、話は?」


 扉の向こう、店舗の事務所のソファに座ると、早速アキさんが尋ねてくる。俺はそれにすぐ答えず、スイングトップの内側から、油紙に包まれた物を取り出すと、テーブルの向かい側に座ったアキさんに手渡した。


「これの流通ルートを知りたい」

「なんだ。お前もブローカーの仲間入りか?」

「まさか。どこから流れてくるかを知りたいだけだ。これを持ってた奴の周囲を洗ってる」

「ほう?」


 アキさんはそう言いながら、油紙の包みを取って、中身に目を向ける。入っていたのはベレッタM1934。この間お話した男が手にしていた拳銃だった。


「どこで拾った?」

「この間、東京でハンバーガー屋が銃撃された事件を知ってるよな?」

「あぁ」

「その襲撃犯の1人が持ってた」

「お前、あの場に居たのか?」

「あぁ、偶々な」


 偶々を強調して言うと、アキさんは少し目元に皺を寄せる。


「で、すったもんだで襲われて、返り討ちにして、これが戦利品」

「すったもんだと偶々の内容を知りたいがね」

「それはスーさんの仕事だ。終わったら笑い話がてら話してやるよ」

「分かった。ただ、これを持ってた男の素性だけは知りたいな」

「それは言うさ、ちゃんと…帝国秘匿興信所の子飼いだ」

「帝国秘匿興信所」

「聞いたことは?」

「ある。俺の客じゃないが…ベレッタか…」

「2日で仕上がるか?」

「恐らく、ちょっと高いがな」


 アキさんはそう言いながらベレッタをテーブルの上に置くと、テーブルに置かれていた電卓を弾いて俺に金額を見てきた。


「確認だが、相手側の都合もあるから…余り細かい情報は出せないぞ?」

「あぁ、それでいい。藪蛇にならないかのチェックだからな」

「分かった」

「そうだ。代金の一部はその銃じゃダメか?」

「要らないのか」

「コレがある」

「そんな大柄なのより、こういう方が良いだろ?」


 アキさんはそう言いながらも、本心ではどこかそう思っていないような声色でそう言った。俺は小さく笑みを浮かべると、ポケットから木製のケースを取り出して、中身を見せる。


 遺品で出てきて、暫くは弾も何も無く、只の骨董品として持っていたモーゼルを動くように直し、改造してくれたのは、他でもないアキさんだった。


「快調に動くんだから問題ない。それにアキさん。ノリノリで改造してたじゃないか」

「トカレフ弾に合わせただけだ。あとは内部のすり合わせ」

「簡単に言ってくれる。そうだ。替えのバレルを1本、持っておきたい」

「なんだ。この間、使ったのか」

「1発だけ。で、昨日整備してみたら、予備含めて無くなってた事に気付いてさ」


 俺がそう白状すると、アキさんは鼻で笑い、そして頷いて見せた。


「用心深いヤツだな。ソッチの筋でも無いだろうに」


 そう言いながら電卓を弾くアキさん。俺のモーゼルは、フレーム一体型のバレルを差し込み方式のバレルに改造していた。モーゼル弾から比べて、少々威力のあるトカレフ弾に耐えうるバレル…そして銃口先のサイレンサーアダプター。諸々の制作を担ってくれるのも、弾薬の確保も全てアキさん任せなのだ。


「じゃ、ベレッタ分を引いてこれでどうだ?」

「お、思った以上に安い。いいのか?」

「これを直して売れば余裕で黒字だ。決まりだな?」

「ああ」

「なら、手付は1割。それは今払ってくれ」

「あぁ、分かった」


 俺は財布から、用意していた金を抜いてテーブルに置く。アキさんはそれを数え、問題ない事を確認すると、小さく頷いた。


「じゃ、2日後だな」


 俺はそれに頷くと、財布を仕舞い、取り出していた銃を仕舞ってこういった。


「頼んだ。多分、しょっぼい連中が出て来るんじゃないかと思うんだがな…」

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