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虚崇世界  作者: 塵埃
9/12

ページ8「梅雀」

生涯、彼の作品で売れた物なんて微々たるモノだったろう。

売れない彫刻作家、無名のベテラン、彼が開催した画廊には誰も訪れない。

日に当たることもないまま彼の人生は幕を閉じた。

---

誰も住まなくなった空き家に客人が訪れた。泥棒だ。

彫刻作家の家、と聞いて金目の物を探しに来たようだが……溜息と舌打ちが何もない家に響く。

それはそう、彼が人生の中で唯一した贅沢なんて石を削るためにちょっと高めの小さなロックハンマーを買ったぐらいだ。

詰まる所、ここには魅力ない作品達と彫刻道具と埃の被った家財道具しかない。

---

道端で売られシスターと一緒に来ていた少女に買われた。

銅貨三枚、硬いパンが一個も買えない値段だった。

寂れた教会の入り口に置かれた、教会にはシスターが一人と子供が三人。

祭壇に置かれた女神像はいつも子供の話ばかりする、口うるさい母親みたいだ。

礼拝に来るのは年寄りばかりだった。

何もない日常が過ぎていく。

このまま、彼らと共に静かに消えて忘れ去られていくのも悪くないのかもしれない。

---

国の末端で戦争が起こったらしい。ここから近い。

---

戦火が広がってきているようでシスターが子供たちの疎開先を探していた。

三方を海に囲まれた小さな国、この国は、戦争になっただけで逃げ場はなくなる。

海へ逃げるためには莫大な資金が、西は既に戦争最前線で無事に抜けるのは難しい……何処にも逃げ場がなかった。

---

暫くして、怪我をした人間が教会に運ばれてくる。

野戦病院として協会を貸すことで軍に守ってもらうことにしたようだ。

一人のシスターと手元の覚束ない年老いた医者だけではまともな医療が受けられないだろうが。

---

遠い国から来たというあの子は子供たちに慕われていた。

国から出たことのない彼らにとって彼女の話は楽しかったのだろう。

友人と買い物に行った話や、キャンプに出掛け数日帰らなかった時は母親から叱られたと、屈託ない笑顔で答えていた。

---

彼女が来てからはシスターもだいぶ休めるようになったようだ。

死人よりも酷い顔をしていたのがいくらか和らいできた。

それでも忙しいことに変わりはない。

---

日が昇る前に協会にシスターが祈りを捧げている。

いくら忙しくても祈りを欠かしたことはない。

今日も、女神像は静かに泣いていた。

本当の女神さまはもうとっくの昔にこの世界から去ってしまったから、シスターの声は誰にも届かない。

---

天井から星灯りが降っている、子供たちの寝顔が遠くに見えた。

大きな音と共に瓦礫が落ちてくる。

~~~

教会で見たあの子と似ている子を見つけた。

誰かと話しているようだけど……浮かない顔をしている。

……今の、言葉を交わせる今の姿なら、誰かを救うことはできるだろうか。

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