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仕事が無くてもいつも通りに目が覚めるのは習慣だ。
別に早く起きてもやることは変わらない。
今日は一応、シューさんのお礼?代わりに花畑へ行くのだから、と思って、私の持つ服の中でもまだ綺麗目なチェックのワンピースを着ることにした。
幸い今日は晴れていて風も強くないみたいだけれど、髪は邪魔だから軽くまとめてリボンで留める。
「迎えに来るとは言っていたけど、いつ来るのかしら?」
その辺すら確認できないまま、シューさんは帰ってしまった。
待つだけで時間が経つのはもったいないから、破れていたエプロンなんかを繕おう。
縫い始めから思っていたところと違うところに針を刺して嫌になる。
「縫物は苦手なのよねぇ…」
四苦八苦してなんとか破れた部分やほつれた部分を直すけれど、時間がかかりすぎる上にイライラしてくる。
だから縫物を始めてあまり時間が経たないうちにノックがされたのは、縫物をやめるいい口実になった。
「はーい、おはよう、シューさん」
今日のシューさんはいつもよりちゃんとしてる。
少し長い前髪も整えられて、きちっとシャツは上まで留めて綺麗なジャケットまで着ている。
「随分…オシャレね?」
自分の思っていたお花畑とは違うのかもしれない。
「おはよう、アリーシャ。待たせてごめんね。オシャレって言って貰えるなんて嬉しいなー。」
ニコニコと返事をする様子からは、特に私の服装が場違いになりそうとかっていうことは無さそうだ。
「さ、行こう!昼食も用意してあるから一緒に食べよう。」
差し出された手が随分と色白で綺麗なことに目がいく。
「はいはい。でも悪いけど、子どもと違うんだから、迷子防止はいらないわよっ。」
大きい手のひらを私の小さい手でぺしっと払ってさっさと横を抜けて外に出る。
後ろから何か聞こえた気がして振り向いたら、長い足でさっと私の傍に立つといつものテーブル越しよりずっと頭の位置が高い。
「今日のワンピース、可愛いね、似合ってる。あちらへどうぞ。」
まるで紳士がレディにするように手を流した先には馬車がある。
「は?わざわざ馬車に乗るの…?しかも豪華な馬車だけど…??」
この辺も馬車は走るけれどギッシギシいって今にも崩れそうな辻馬車か、通り道に貴族サマが通るツヤツヤの馬車だ。
そして、これは貴族サマ系の馬車だ。
これに、私が乗れって?
「シューさん、無理して借りてきたの?」
まさかね、と思いつつ一応聞いてみる。
「そんな!借りてきたりしてないよ、大丈夫、ちゃーんと今日はエスコートさせてよ。」
そう言ってぐいぐいと馬車の所までくると、さっきの家でと同じように手を出される。
「あのねぇ、一人で馬車くらい…」
改めて綺麗な馬車を見ると、辻馬車より位置が高い。
自然と地面との距離もある。
そして何より馬車の横にあるような掴む棒がない。つるっつるだ。
じろじろと乗り口を見てから、諦めてシューさんを見ると楽しそうに笑って肩を震わせてるけど、知らない物はどうしようもない。
「はいはい。で、お金持ちの人々はこの馬車にどう乗られるのかしら?私が知っている馬車より高くて、私の短ーい足じゃあ乗れませんけど?」
「ごめんごめん。これを使って、俺の手を掴んで乗ったら良いよ。」
どういう仕組みか足場が出て一段増えた。
ありがたく手を掴んで、馬車に登る。
もう乗るより登るの方が合っているような高い位置に目線が来て、新鮮な気分で街が見える。
とりあえず座ると柔らかくて知ってる乗り物と全然違うことを改めて実感する。
シューさんは当たり前みたいにすんなり乗ってきて正面に座ると、身体に揺れが来て動き出したことがわかる。
「で、花畑ってホント?どこに行くの?今日中に帰れないと困るよ?」
流石に馬車で長時間走られて、今日は帰れません、なんてなったら困る。明日は仕事だ。
「今日中に行って帰ってこられる花畑だよ。日が暮れる頃には家に帰りつける。」
「ふぅん?」
とりあえず行先ははっきり言う気はないみたいだから、今後一生乗れないだろう『本物の』馬車の乗り心地を楽しむことにしよう。
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