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今みたいな季節は毎朝寒さで目が覚める。
明け方の冷たい風が入ってきて不快な目覚まし代わり。
どうせあったまらないような布団だからさっさと飛び起きて家の事をしてから仕事に行く。
今日はどうしたんだろ。
いつもより、明るい陽射しだけで起きた。
布団の外に出た顔が冷たくないし、普段なら縮こまった身体が腕を投げ出している。
「は…?」
夢か?
「いや、まず時間!」
貧乏暇なし、ほんとか夢かなんてどうでも良くて、仕事の遅刻だけは避けたい。
女将さんは時間に雑なやつが嫌いだ。
私も女将さんをがっかりさせたくない。
窓から外を見てほっとする。
いつもなら家のことをしている明るさだけれど着替えて朝ごはんを食べる時間はある。
クローゼットからいつものお仕着せを来てパンを押し込む…けど。
「何か…服も良くなってる?しかもいつもより良いパンじゃん?」
特に変わった所は無いように見えるのに、ガサガサじゃない洋服は軽く感じる。
硬くて顎を鍛えるみたいな塊じゃなくて、柔らかい。
あまりに美味しくて2つもぺろっと食べてしまった。
「贅沢か。」
うちにあったものだ、食べて駄目じゃないはず。
でもこんな食欲続いちゃ困るね。
さっさと仕事場に向かって手早く準備をする。
「おはようございます、女将さん!」
「おはよう、アリーシャ。いつもより顔色も良いし、元気そうだね。」
「そういえば、すっきりはしてますね。」
「良いことだ。今日も頼んだよ、看板娘。」
「はーい、賄いは女将さん特製のシチューが良いな。」
「はいはい。」
女将さんは、お母さん代わり。
私の身体を気にしてくれて、賄いは希望をいつも聞いてくれる。
本当のお母さんはあまり知らないけれど、女将さんのおかげで私はやっていけている。
開店準備をさっさと済ませて朝の時間が始まる。
仕事に行く前の人と、夜中に働いて帰る前の人が入り乱れる時間。
一日の混む時間の1つだけど、一番静かだ。
皆、お喋りする暇も元気もないんだよね。
時間に追われている人も多いから手早さが大事。
ぱっぱとテーブルを片付けて注文をとって料理を持っていく、その繰り返し。
一回シューさんがこの時間に来たことがあるけれど、流石に浮いてるって気づいて昼にもっかい来たんだよな。
朝営業のあとの店は昼まで、開いていても落ち着いたものだ。
休みの人やら暇な人がくる。
「アリーシャちゃーん」
そう、偉いとこの坊ちゃんっぽい人とか。
「シューさんいらっしゃい。」
「どう?どう?明日デートしてくれる?」
結局犯人はこの人しかいないんだよね。
「やっぱりシューさんの仕業?」
「え?何か足りなかった?」
足りない?何言ってんのこの人。
本気でわかってない顔をしていて、どうしようもない。
「アリーシャ…??」
「……シューさんの前でやらなきゃいけないリストは言うのやめようと思っただけだよ。」
「いくらでも言ってよ。」
にっこりと輝く美形は、心臓に悪い。
むさくるしい労働者のたまり場じゃなければ、黄色い声でも聞こえそう。
私より、ずっと年上の我が家を生まれ変わらせてくれたお礼が花畑を見に行くなんておかしすぎるけど、お礼もしないのは背中がむず痒い。
「どこ行けば良いの?」
「ん?」
自分で言い出したのに忘れたのかしら。
「明日。どこ行けば良いの。お礼にもならないけど、花畑行きたいんでしょ?」
その瞬間、さっきの輝きなんてかすむくらいの笑顔で身体を乗り出してくる。
人間って、自分で輝くのね。
「うっわ、近いわ。」
一歩下がりながらつぶやくと、前のめりの身体だけは一応戻してくれる。
「ああ、うん、うん、ありがとう。明日はそうだな、迎えに行くよ!一緒に行こう。楽しみだ。準備しなきゃ!また明日、行くからね!」
そう言って軽やかに去っていくシューさんは、やっぱりこの辺では目立ちすぎる後ろ姿だった。
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