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街の一角、平民向けの大衆食堂に目立つ綺麗な服に華やかな顔のお兄さん。
最近常連になったシューさんはしょっちゅう私を何かに誘ってくる。
「アリーシャ!季節の綺麗な花が咲いたし、見に来ない?すぐ近くに薬草や野草が生えている場所もあるんだ。」
「シューさん、無理だよ。忙しいの。」
他の常連さんからもたまに何かしら誘われるけれど、そんな時間があるわけもない。
「そういわずに、ね?」
シューさんは色白でちょっとくすんだ金色が輝くさらっさらの髪を持っている。
「貧乏暇なし、葉っぱを見るより客の腹を満たさなきゃ!」
私は古着を装備して、一見さんにも軽く見られないような態度で生きていく野良みたいなものだ。
貴族の端くれか良い商家出か何か知らないけれど、ど平民の私とじゃ大違い。
「うーん、じゃ、女将さん、明後日この店に3人日雇いを連れてくるからさ、アリーシャの時間をもらえないかな。」
「シューさん、アリーシャを気に入ってもらえてるのはありがたいけれど、ろくに働けない3人来たってしょうもないよ。彼女は店の要なんだから。」
「わかってるよ。じゃあさ…」
おもむろに席を立って女将さんの傍に寄っていく。
普通にしていれば美形の良い男なのに、どうしてあんななよなよ歩いているのか…。
「わかった!アリーシャ、明後日は休みだよ。店に出てきちゃいけないからね!」
「ええ!?女将さん、困りますよー。」
「1日分の給料は出すから、あたしを助けると思って休んで頂戴!シューさんの誘いにのるかどうかは好きにして良いから、休んで。」
う…なんで働かず給料が貰えるのかはわからないけれど、女将さんが本当に困った時の顔をしている…。
「…わかりました。女将さんがそういうなら…。」
シューさんが何をしたのかは知らないけれど、女将さんは良い雇い主だ。
賄いだって給料だってしっかり貰える良い職場だもの、嫌な思いをさせたくはない。
「やった!じゃあアリーシャ…」
「でも、シューさんの誘いにはいかないからね。休みでも忙しいの。」
「忙しいってなんで?」
なんでって…
「溜まった掃除に洗濯、食料も買わなきゃならないし、うちの頑固なドアも、隙間が開いて閉まらない窓も直さなきゃならないの!金持ちだとそんなこともわかんないのかい。」
絶対この人、隙間風で寒い夜も、洗濯でかじかむ手も知らないんだろ。
手すらすべすべそうだもの。
「なるほど…わかった。なんとかすると言ったら、来てくれるかい?」
「あの家がしっかり綺麗になってぴっかぴかで帰り着けるようになったら花畑くらいいってあげるよ。そうなったら家賃が爆上がりで私なんか住めないけどね。」
「よし、二言は無いな?じゃあ、また明日来る!」
お代を置いてさっさと出ていく後ろ姿が、異様に元気だわ。
何をしだすのやら…ま、偉いんだか賢いんだか金があるんだか…無縁な人間の考える事なんかわかるわけないね。
「アリーシャ、洗い物お願いできる?」
「アリーシャちゃん、定食とビールお願い。」
「アリーシャさん、料理落としちゃいましたー」
そんなことよりまだまだ戦いが残ってるんだ。
「はいはい、順番に行くから待ってよー!」




