79.出逢いの秋
季節は秋を迎え、イツキとララミーティアが知り合って大体一年ほど経過した。
ミーティア集落の塀の工事は概ね完成。
ガレスとルーチェは一旦帰ってくるのかと思ったが、町を作ることにすっかりハマってしまっているようで、今度は代表のシモンや集落の人々と相談しながら区画を決めて土魔法を駆使して頑丈な石の道の建造を始めていた。
家の移動については元々しっかりしている家など殆どないので、ガレスとルーチェがアイテムボックスを駆使して家を移動するという荒業でせっせと区画整理に励んでいた。
集落に居る同年代の子達と比べても、とてもじゃないが6歳や7歳の子供が夢中になる事ではなかったが、別に強制労働をさせているわけでもなく、本人達もかなり楽しんで町作りに取り組んでいるので、イツキたちも特に言及する事はなかった。
しかし驚いたのはそんなに忙しそうなガレスとルーチェは、夕方以降になると毎日欠かさずに魔纏岩で砥石づくりをしているという事だ。
本人達も鍛錬とかではなく、暇潰し程度にしか考えていないらしい。
2人で話をしながら1日1個作るのが日課になっており、ガレスは「イツキはどうせ暇だろうから、魔纏岩を集めておいて欲しい」とイツキに頼んでいた。
図星だったイツキは二つ返事で了解した。
そんなガレスやルーチェ達について回っている聖フィルデスにも退屈ではないかと心配して声をかける事があった。
しかし聖フィルデスは集落が発展していく様子を目の前でみるのは楽しく人々の悩みや懺悔を聞いているのがとてもやりがいを感じると言っていたのでこちらについても様子を見ることにした。
「確かに自分達と居た方が日々同じ事の繰り返しで退屈かもしれない」と納得したイツキとララミーティアだった。
ちなみにベルヴィアの近況について尋ねてみたところ、今は神様としての基本的な事の研修をしているようだ。
日々忙しく色々な神様に付いて、あちこちの世界を見て、管理している様子などを勉強しているようだった。
特に、今後魔力過多の世界の救済をする神様になる予定なので、通常よりも相当濃い内容で研修をしてヒーヒー言っているとの事だった。
聖フィルデスはベルヴィアの替わりにこの世界の現地側の視点での監視でデーメ・テーヌやテュケーナとのやりとり、遠隔でベルヴィアの日々の報告書の確認などをしていると言っていた。
何気にどの神様もかなり忙しいのかもしれないと思い、イツキ達も天啓を使うことはいつしか全く無くなっていた。
ララミーティアとララハイディはお互いに仲のいい同性の友達と言う存在が居なかったせいもあってか、相当親密になっていた。
近頃ではララミーティアもイツキと別行動を取っていてもヤキモキしたりソワソワしたりはしなくなっていた。
日中はエルフ系種族同士で仲良く鍛錬をしたり畑仕事をしたりする事が多く、イツキもそんな風にして楽しそうに過ごすララミーティアを見るのは好きだった。
そんなある日の朝の事。
いつものようにララミーティアとララハイディがレジャーシートの上で鍛錬をしながらお喋りを始めた頃、『城塞の守護者』に反応があった。
普段ならミーティア集落かなと思ってスルーしてしまうララミーティアだったが、今回は大マーリング王国の方面から結界の内部に人が入り込んでいたので、何事かと注視した。
魔纏岩集めで出掛けていたばかりのイツキもすぐさま空を飛んで本邸まで帰ってきた。
「何か珍しい方面から人が入ってきたね、なんだっけ、大なんとか王国?の方から。」
「大マーリング王国ね。多分そっちから『城塞の守護者』内部に人が入ってきたのは初めてね。えーと、種族はライカン。あまり聞いたことがない種族ね。魔人系だとは思うけど何かしら…?」
ララミーティアが『城塞の守護者』のウィンドウ画面を見ながら首を傾げていると、ララハイディがお菓子を食べながら淡々と説明する。
「ライカンはライカン族。魔人系の種族。かなり珍しい種族だけど、まぁ全くいないという程でもない。見た目はぱっと見、人族か獣人系種族とそっくりだから町中でも分かりにくい。そして強い部類。何せ超長命種。」
ララハイディの説明に「へえ」とただただ感心するイツキとララミーティア。肝心のそのライカン族のアイコンは着々とこちらに向かってくる。
「お客さんかな…。とりあえず俺様子見てくるよ。内部にこれる時点で無害だとは思うけれど、まぁ一応ね。」
そう言ってイツキは森の中へと消えていった。
ララミーティアとララハイディも特に警戒する程でもないだろうと考え、引き続き鍛錬と言う名の女子会を再開した。
しかしイツキとララミーティアは口には出さなかったが、お互いに同じ事を思ったなと視線を絡ませて確信した。
これからやってくる男は半端なく強い、と。
昼過ぎになって、イツキが人を連れて帰ってきた。
連れてきたのはイツキより少し大きい男で、銀色っぽく短くも長くもないサラサラの髪、瞳は髪と同じ銀色、格好はまるでイツキがアーマーを着けていないようなカジュアルな出で立ちをしていた。
「ここです。ここで暮らしているんです。」
「いい場所じゃないですか。とても静かで神聖、創作意欲が沸きそうですね!」
イツキと男が喋りながらララミーティアたちのところへ歩いてくる。
黙り込んでいるララハイディをよそにララミーティアはイツキに声をかける。
「お帰りなさい!」
「ただいま!この人はリュカリウスさんと言って旅の吟遊詩人だそうだよ。いつぞやにテッシンさんやキキョウさんに会ってここの話を聞いたらしくてさ、来てみたって。」
リュカリウスが恭しい挨拶を口にしてお辞儀をする。
「麗しきエルフ系種族のお嬢様方、初めまして。私は旅の吟遊詩人を生業にしているライカン族のリュカリウス・サルバルトと申します。皆様にお会いできた事、大変光栄に存じます。」
「初めまして。私はイツキの妻のララミーティア・モグサ・リャムロシカよ。よろしくね。」
「私はララハイディ・サリ・リャムロシカ。強くなるために放浪の旅をしている。今は遠い親戚であるララミーティアの元で鍛錬の為に滞在している。」
リュカリウスにはともかくとして、イツキとララミーティアは無表情で平坦なララハイディが若干緊張しているのがわかる。
「お二人はリャムロシカの里出身ですか。あそこはいいところですね。ずっと東の方にあって、森の雰囲気もこことどことなく似ていますね。あちらは魔物がウヨウヨしていますが。」
「私はリャムロシカの里出身ではないの。ここで私を拾ってくれたおばあさんがそこの出身で、私に名前をくれたの。」
ララミーティアが微笑みを浮かべながらリュカリウスの質問に答える。
ララハイディは少し考えてから口を開く。
「言われてみればリャムロシカの里と森の雰囲気が少し似ていたかもしれない。今でこそティアの力で神聖な雰囲気のある森になったけれど。」
「へぇ、そうだったんだ。アリーもそんな雰囲気が気に入って住んでたのかもね。」
「ふふ、そうかもね。」
まだリャムロシカの里を知らない2人は、まだ見ぬリャムロシカの里を思い浮かべながら軽く笑いあう。
「まぁとりあえず時間も時間だし、お昼でも食べましょうか。リュカリウスさんもまだお昼は食べてないでしょ?是非ご一緒に!」
「ええ、喜んで頂きます。」
「じゃあ持ってきますのでしばらく待っててください。ハイジ、ちょっとここで待ってて。」
ララハイディは少しだけ頭を下げ「ん」と言って了解した。
そういうとイツキはララミーティアと目配せをし、一旦レジャーシートにララハイディを残して本邸に2人で入っていった。
「どうやら、聖女の件ってよりは俺の音楽に興味があって来たらしいよ。テッシンさんとキキョウさんと南の街で知り合って色々話を聞いたみたい。」
「まぁここまでやってくるくらいだから悪い人ではなさそうね。あの2人が紹介するくらいだし…。」
イツキとララミーティアはダイニングテーブルの前に立ったまま話をする。
「しかしあの人ハイジよりステータス高いね…。」
「そうね…。吟遊詩人が単独でフラフラ旅をするって事は、それだけ強い事ではあるんだけれど、まあ私達からどうこうするって事はないかしらね、こういうのは。」
とりあえず昼食でよく食べるサンドイッチを次々と召喚するララミーティア。
イツキは腕を組んで考え込むようにしていたが、やがてゆっくり口を開く。
「ちなみに召喚の事を教えれば次から次へ色々説明しなきゃいけなくなるんだけどさ、どうしようね?」
「ふふ、こんな妙な建物に入る姿を見られた時点でおかしいなって気付いていると思うわ。あのレジャーシートも御菓子やジュースの数々も。もう手遅れだから徐々に打ち明ければいいわ。それこそイツキが楽器とかあげたり曲を教える代わりに、ここでのことは黙っててくれとか。ね?」
ララミーティアは召喚したサンドイッチを皿に並べながらイツキにウインクをする。
「まぁそれもそうだね。」
イツキは負けじとララミーティアに下手くそなウインクをして、ララミーティアが吹き出してしまう。
「もうっ、そうやって笑わせて!サンドイッチがズレちゃうわ!」
「えーっ?不敬なヤツめ!こうしてやる!」
イツキはララミーティアの邪魔にならないようにララミーティアの頬に何度も軽い口付けをお見舞いする。
そんな2人の後ろでは外でレジャーシートに座ったララハイディとリュカリウスが会話をしていた。
「森エルフが里から出て己の鍛錬の為に旅をするとは、とても珍しいですね。まるでかの有名なララアルディフルーのようです。そういえば彼女もリャムロシカの里出身でしたね。なる程。」
「私は子供ながら里の誰より強かった。元々好戦的ではない森エルフの里では強い私に稽古をつける者は誰もいない。だから200年前、30歳の時に遠い親戚だったララアルディフルーを頼って里を飛び出した。」
ララハイディは少し緊張気味にあくまで無表情で話す。
リュカリウスは微笑みながらララハイディに返答を返す。
「その向上心、とても立派です。それにしても森エルフの中でまだ30歳は子供のはず。ララアルディフルーの元にたどり着くまでの道のりはさぞ大変だったでしょう?」
「森エルフの私は世間の常識を知らない。人族の町にいるような冒険者があんなに弱いとは知らず、ある意味で大変だった。それに森エルフという色眼鏡で見られる事も戸惑いが大きかった。何故子供の私に言い寄るのだろうと。」
無表情のまま肩をすくめてみせるララハイディにクスクス笑うリュカリウス。
「はは、短命種にとってしたら30歳の森エルフが子供だなんて思いませんもんね。日頃差別意識が強い割に森エルフのような美しい種族には惹かれる。全く現金な方たちです。ララハイディさんはその点特に苦労したこととお見受けします。」
しばらくリュカリウスの言った発言を頭の中で反芻していたララハイディはやがて耳をピコピコさせて俯いてしまう。
「リュカリウスは口がうまい…。」
「私のことはリュカで結構です。今230歳であれば、偶然にもララハイディさんとは同じ歳のようですし。ね?」
「長命種で同じ歳なんて凄く珍しい。私も、…ハイジと呼んで欲しい。」
モジモジするララハイディを微笑みながら見つめるリュカリウス。
「ハイジ、とても良い呼び名ですね。ララという呼び名も捨てがたいですが、リャムロシカの里で産まれた女の子は皆さんララが付きますもんね。ララと呼ぶのに慣れてしまったら一緒に里に行った時に不便してしまいそうです。うっかり『ララ?』と何気なく呼んだらご老体から子供まで女性が皆振り返って『あら私?』となってしまいます。」
リュカリウスが肩をすくめて笑う。
ララハイディはそんな光景を思い浮かべて思わず笑ってしまう。
(私、笑った…)
「おや、不思議そうな表情になりましたね。笑顔もとても魅力的だと思いますよ?」
「…ありがとう。嬉しい。」
ララハイディは耳をピコピコさせながらはにかむ。
「失礼は承知ですが、耳が動く仕草が可愛らしいですね。」
「自分では分からないけれど感情によってピコピコ動いてしまう。今みたいに照れたりすると動いてしまうから、少し恥ずかしい。」
ララハイディはモジモジしながらも務めて冷静に説明する。
そんなララハイディの姿をニコニコしながら見つめるリュカリウス。
「恥ずかしがるハイジも美しいですよ。冷静そうな見た目なのに、時折覗かせる笑ったり照れたりする表情の意外性、ドキッとさせます。」
「リュカはズルい…。意地悪…。ペースを乱される…。」
「意地悪をしてしまって申し訳ありません。でも意地悪をしてしまう事を赦してください。ハイジの可愛らしい表情を引き出したいとつい思ってしまうのです。」
ニコニコ微笑むリュカリウスと、照れ臭そうに俯いてはにかむララハイディ。
そんな姿を本邸から見ていたイツキとララミーティアは完全に出るタイミングを見失っていた。
お互い顔を見合わせて初々しい雰囲気に微笑みあうのだった。
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