72.集落の壁
翌日、どうしてもガレスとルーチェの様子が気になったイツキとララミーティア。
朝からミーティア集落へと赴き、ガレスとルーチェが頑張って建設している壁を見学した。
空の上から集落にくる際に結界スレスレの所で穴を掘って何かやっているなとは思っていたが、ちゃんと見学するのは初めてだった。
ガレスとルーチェが2人の手をぐいぐい引っ張りながら連れてきた所には、幅が2メートル、地表に露出している高さが3メートル近くあり、厚さも1メートル近くはあるであろう一枚岩のようなものが地中に突き刺さってそびえ立っていた。
まだ壁がない部分を見ると、2メートル近くの深い穴が掘ってあった。
壁が突き刺さっている箇所に関しては、壁のあたりの地面が岩のように硬くなっている。
ララミーティアが試しに壁をグッと押してみたが、まるでびくともしない頑丈な仕上がりになっていた。
「あの…、想像以上に本格的ね…。これ、結構な規模の町とかでも作るのが難しい壁よ。なんせ積み上げている壁ではないから。穴も随分深いわ…。」
「思ってたんと違う…。なんというか力業だな…。ミールの町だって切り出したみたいな石を積み上げてたよね。これ集落の壁ってレベルじゃなくない…?」
ガレスとルーチェがえっへんと言わんばかりに得意気になって、呆然としているイツキとララミーティアの後ろから見守っている。
聖フィルデスも予め見学していたのか、特に驚く様子もなく後ろからニコニコしたまま見守っている。
「石を積み上げる方法も考えたんだけどさ、石同士の繋ぎとか、積み上げるのとか考えたら、いっそのこと一枚岩みたいな物をってね。」
「ガレスとルーチェでね、せーのでくっついてやるの!」
ルーチェの発言の意図がイマイチ分からないイツキとララミーティア。
イツキがボソッとララミーティアの耳元で質問する。
「合体魔法みたいなのもあるの…?」
「……?集団魔法かしら?でも教えてないわ…。」
ララミーティアは肩をすくめて首を傾げる。
「ねえ、それどうやってるの?」
ララミーティアがガレスとルーチェに聞くと、ルーチェは満面の笑みで「やるね!」といってガレスをけしかける。
「ええ…?ちょーっと2人に見られるのは恥ずかしいかな…。」
「えーっ?いいじゃん!ルーチェあれ好きだよ!」
ルーチェに押されて渋々といった感じでガレスが頷く。
2人はイツキから貰った魔力が回復する水を飲んで、これから壁を作るであろう穴の前に立つ。
聖フィルデスはニコニコしながらその様子を見守っている。
「じゃ、じゃあやるから…。笑わないでよ…?」
「ええ、笑わないわ。ねえ?」
「そ、そうだな。頼むよ。」
イツキとララミーティアから回答を得たガレスが、顔を赤くしながらルーチェの前に立つ。
ルーチェは真剣な顔で目を閉じるとガレスに向けて両手を広げる。
「…?」
「…?」
イツキとララミーティアにはこれから何が始まるのか全く検討が付かない。
ガレスがルーチェの両手をとり、目を閉じて指と指を絡ませてキツく手を握ると、つないだ両手をすっと下に下ろして、そのままおでこ同士がくっつくまでぴったりと全身をくっつける。
顔の角度を変えると今にも唇同士がくっついてしまいそうだ。
驚いたイツキとララミーティアが声を上げそうになるが、聖フィルデスが2人の手を引いて、まだだと言わんばかりに顔をゆっくり横に振る。
ララミーティアが魔力視で見てみると、ガレスとルーチェの纏っている魔力は極端に減ることなく段々と同じ量になり、やがて一つの巨大な魔力としてまとまった。
「…2人の魔力が重なって一つの大きな魔力になってるわ…。凄い、こんな事が出来るのね…。」
ララミーティアは邪魔にならないようイツキにだけ聞こえる程度の小声でボソッと呟く。
やがてガレスとルーチェが目をゆっくりと開ける。
まるで視線で会話しているように真剣に見つめ合っているうちに地中から迫り出すように壁が出現する。
そして壁周辺の地面が硬くなって、ようやくガレスとルーチェは離れる。
「凄いな!こんな事も出来るんだなー、凄いなぁ魔法って!2人とも天才じゃないのこれ!?」
「2人とも凄いわ!集団魔法なんて教えてないのに!どうやってあんな方法を見つけたの?」
ララミーティアがガレスとルーチェに駆け寄って2人をまとめて抱きしめ、興奮しながら質問をする。
「寝る前にね、ガレスと横になりながらぴったりくっついて光魔法で部屋を明るくしたりして遊んでるときに見つけたの!凄いでしょ!」
「違うんだよ、寝る前にも魔力を消費しておこうってやってたんだよ…。2人でくっついてイメージがぴったり一致した時に、あんな風に一つの魔法として発動出来る事に偶然気がついたんだ。」
無邪気にニコニコするルーチェに対して、気まずそうに顔を背けて喋るガレス。
「無詠唱で集団魔法が出来る人なんてガレスとルーチェくらいだと思うわ!私達の子どもは本当に凄いわー!」
ララミーティアはそのまましゃがみ込んで2人をぐっと引き寄せて頬をグリグリと押し付ける。
イツキはその凄さがイマイチ理解できなくて、ララミーティアに質問をする。
「確かにこんなデカい壁を正確に出現させるのは凄いと思うけれど、無詠唱だとそんなに凄い事なの?」
「凄いなんてものじゃないわ!普通集団魔法は威力や効果が一定の詠唱魔法で何年も練習を重ねてやるものなの。例えば大規模結界とかね。無詠唱魔法は術者の匙加減な魔法だから、他人とイメージを全く一緒にさせる事なんて普通は出来ないわ。」
確かに効果は術者の匙加減の無詠唱魔法を完璧に一緒にする事なんて想像がつかない。
ガレスとルーチェはそれほどにまで思考をシンクロさせて実現しているのかと思うと、イツキも段々とその高等技術に恐れおののく。
「そう言われると、何だかとんでもないね…。」
「双子でもない2人がこんなに正確に出来るって事は凄い事よ。」
ガレスも段々と誇らしい気持ちになってきたのか、照れながらも得意気な表情になっている。
「ある時から鍛錬の時にも急にやり始めたので私も最初は驚きましたが、ずっと一緒に鍛錬して来たからか、魔力をシンクロさせるのがとても上手なんです。魔法のイメージも一致させやすいようですよ。」
聖フィルデスも微笑みながら2人の凄さについて語る。
ルーチェも大人から誉められて気分が良くなったのか段々と饒舌になっている。
「凄いでしょ!凄いでしょ!毎晩ね!寝る前にガレスとずーっと練習してるの!色んな形でガレスとピタッてくっついて試してるけど、今のやつが一番やりやすいの!」
「あっ、こら!あんまりペラペラと…!」
「えー?だって毎晩やってるよ?ガレスだって早く練習しよう練習しようっていつも言うじゃん!色んな姿勢を試そうって!」
ガレスは慌ててルーチェの口を塞ごうとするが、伊達に鍛錬していないルーチェはヒラリヒラリとガレスの手をかわしてキャッキャ笑っている。
イツキはふと疑問に思ったことをララミーティアに聞く。
「集団魔法をもっと大人数でやるときはどうやってくっつもんなの?」
「アリーからは、くっつくって条件は聞いてないわね。だって、良い歳したおじさんたちが発動させたい時に、ぴったりくっつかないと発動しない魔法だったら、きっと誰もやらないわ。」
それを聞いていたルーチェがぽかんとしてララミーティアに声をかける。
「え、くっつかなくても出来るの…?」
「まぁ…、そうね。出来るわ。」
「ふーん…、そうなんだー…。」
ララミーティアからくっつかなくても出来ると聞いてしゅんとするルーチェ。
「余計なこと言うな」と言いたげな顰めっ面をしたガレスがイツキとララミーティアを見ながらルーチェに駆け寄っていく。
「ル、ルーチェ。俺たちのやつは、その…あれだ!くっつかないと出来ないオリジナルのやつだ。だからこれからもくっつかないとダメなんだ。そうだよな、ティア?」
急に話を降られたララミーティアが慌ててガレスに同意する。
「そ、そうね。魔力視で見てたけど、あれはくっつかないと出来ないやつね、うん。」
「本当に!?くっつくやつの方がいい!」
「そうだな、ルーチェ。」
ルーチェはパッと顔中に笑顔を咲かせてガレスに抱きつく。
ガレスはホッとした表情を浮かべたままルーチェの背中をぽんぽんと叩く。
イツキは腕を組んだままボソッと喋る。
「しかしさ、俺達鍛錬させ過ぎて、ひょっとしてとんでもない怪物を作り上げてしまったのではなかろうか…。」
「…あの無詠唱の集団魔法をマスターしたら、あの子達私と同等の力が出せるわ…。今まだ一桁の年齢だから兎も角として、これから先成長したらもっと凄い事になるわね…。」
ガレスとルーチェが世間に並々ならぬ怨みを持ったりせず、真っ直ぐにいい子として育ってくれて本当に良かったと心から思うイツキとララミーティアだった。
「ふふ、ガレスくんとルーチェちゃんは大陸の歴史に名を残す偉人になるかもしれませんね。ガレス・モグサとルーチェ・モグサ、奴隷と孤児から成り上がった稀代の魔法使い!なんて人々に語り継がれる存在になるかもしれませんよ。」
聖フィルデスの言葉が大袈裟だと言いかけたララミーティアだったが、あながち大袈裟でもなさそうだなと思って苦笑いを浮かべるのだった。
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