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ダークエルフと暮らす異世界間違い転生  作者: 三沢 七生


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71.感涙

ミーティア集落に到着すると、珍しくガレスが待ってましたとばかりにイツキとララミーティアのところまで駆け寄ってくる。


「来た来た!待ってたよ!こっちこっち!ほら!」


問答無用でイツキとララミーティアの背中をぐいぐいと押して集落でガレスとルーチェが過ごしている小屋へと強引に案内した。


「あら、一体どうしたの?」

「なになに?なんかあった?」

「ほらほら!良いから良いから!さぁさぁ!」


ガレスが珍しく無邪気な声で「内緒!」と言ってイツキたちをグイッと小屋に押し込んだ。

イツキとララミーティアはお互いに顔を見合わせて「なんだろう?」と肩をすくめていた。


イツキとララミーティアが小屋の中に入ると、いつか集落の歓迎会で使われたテーブルも小屋のテーブルにくっつけて並べられていた。

そのテーブルにはこれまでララミーティアがルーチェに教えた料理の数々が所狭しと並べられていた。


ガレスが2人の隙間からするりと抜けてテーブルを挟んで向こうにいるルーチェと聖フィルデスの間に立つ。


「「「お誕生日おめでとう!」」」


イツキとララミーティアは思わずポカンとしてその場に立ち尽くしてしまった。


「先日一つ歳をとって、産まれた日が近いんだって喜んでいたティアちゃんを見ていたようで、この2人がイツキくんやティアちゃんの為に何かプレゼントをしたいって私に相談してきたんです。」

「俺達なりに、喜んで貰える物はなんだろうって考えたら、やっぱり料理かなってさ。」

「いっぱい教えて貰ったから、頑張って作ったんだよ?食べて貰えると嬉しいな…!」


照れ臭そうにモジモジしながら喋るガレスとルーチェ。

ララミーティアは自身の涙がポツリポツリと頬を伝っているのに気がつくとイツキの脇腹に腕をねじ込んでぎゅっとしがみついた。


「…私、とても嬉しいわ…。だって、…こんな素敵な…。」

「まさかこんな用意をしてくれているなんて、…ガレス、ルーチェ、本当にありがとう。」


イツキも堪えきれずに涙で視界が滲んでいくのを止められなかった。

聖フィルデスはニコニコしながら手をパンと叩いてイツキとララミーティアに座るよう促す。


「ほらほら、2人とも泣いてないで座って早く食べましょう。ふふ、ガレスくんもルーチェちゃんも良かったわね。」

「大成功だね!聖フィルデス様もありがとうね!」

「大成功だ!はー、良かったよ。」


ガレスとルーチェはお互い見合わせて満面の笑みで大成功を喜び合った。


ルーチェが作る料理は短期間でメキメキ成長しているお陰か、味付けがララミーティアの作る物とそっくりだった。

調味料についてもララミーティアからちょくちょく貰っていた物を集めていたようで、足りない食材については集落で訳を話して少しずつ分けて貰ったようだった。


最初の頃は上手に作れないと涙を流していたルーチェ。

そんなルーチェも具材の皮をむいたり切ったりするのもすっかり上手になっていて、焦げや煮詰め過ぎな料理は無かった。


「ティアの料理とそっくりだよ!まだまだ子供だとばかり思ってたけれど、大人顔負けだなぁ。野菜も上手に切れるようになってさ…。」

「そうね、私がアリーから引き継いだ料理がこうして受け継がれて行くのね。こんな素敵なプレゼントを貰えて私幸せよ。」


ルーチェはイツキとララミーティアから誉められて照れ臭そうにはにかんでいる。


「えへへ、嬉しいな!お肉はね、ガレスが動物を狩ってきたんだよ!」

「へえ!凄いなぁ!捌くのはどうしたの?」


イツキがニコニコしているガレスに質問すると、ガレスは胸を張って得意気に語り出した。


「血抜きも捌き方も2人から教えて貰ったから、集落で場所を借りて身体強化をかけて自分で捌いたんだよ。」


ガレスやルーチェが特別なのか、他の子もそうなのか、ガレスとルーチェは本当に信じられない程に逞しい。

まるでお話に出てくるような絵に描いたようなよく出来た子だ。

自分が同じくらいの頃だったら、恐らくここまでの料理も動物を絞めて捌くなんて芸当は絶対に出来なかったと思うイツキだった。


「ふふ、ガレスもルーチェも自慢の子どもね。集落でも色々お手伝いしているんでしょう?」


ララミーティアが猪肉の香草焼きを食べながら尋ねる。

ガレスは「ああ」と言ってスープを一口飲んでから話を続ける。


「今はお手伝いとして、集落を囲む木の柵をさ、俺とルーチェの土魔法で作った強い石製のものに作り替えているんだ。まだまだ時間はかかりそうだけどね。」

「うん、木のやつじゃなくて、石の頑丈なやつ!」


ガレスとルーチェの口から出たお手伝いは、もはや子供がちょっとするお手伝いを遥かに凌駕していた。

子供が自発的なお手伝いとして率先して集落の防衛力強化、イツキとララミーティアは想像の斜め上を行くお手伝いがどんなクオリティの物なのか皆目見当もつかず、首を傾げてしまう。


「ここら辺一帯は『城塞の守護者』の範囲だから、強固な壁なんていらないと思うけど…また何で?」

「そうね、結界を破れる人なんて多分いないわ。」


ガレスは首を横に振って真剣な表情になって反論する。


「それじゃあダメだと思うんだ。自分達で自分の集落を守れるようにならないと、イツキもティアもいくら長生きだって言ってもさ、永久に生きる訳じゃないだろ?このまま何もしなかったら何百年経っても2人は集落をずっと心配してあれこれ手助けをするだろうから、魔物が居ない今の時代からこのミーティア集落の自立の手伝いをして、遠い未来にはなるけどさ、2人に楽をさせたいなって思ってるんだ。」

「シモンさんにもちゃんとお話してるよ、みんなも賛成してくれてるよ!」


聖フィルデスの話によれば、集落で手が空いている人々が塀の土台になる部分の穴を掘ったりして一緒になって最近始めたらしい。


集落の人々も他に類を見ない快適な暮らしに、このまま甘えたままでいいのだろうかと困惑する声もあり、ガレスの自立論に概ね賛成のようだ。


「2人とも本当にありがとう。何か手伝えることがあったら俺たちに何でも言ってくれよ?」

「あっ!それならさ、魔力が回復するやつをもう少し貰える?上級の土魔法が使えるのなんて流石に俺とルーチェしか居なくてさ、効率があんまり良くないんだ。」


ガレスやルーチェであれば一儲けしようと企むことは無いだろうと考え、イツキは大量の水をガレスとルーチェに託した。

クッキーに関してはまだ2人ともウィンドウ魔法は上級ではないので、おやつ代わりに多少渡しておくに留めておいた。


その後食後の後片付けまで終わり、いつもならみんなで帰るタイミングになってガレスが意を決したように口を開いた。


「ねえ、しばらく集落の壁作りに専念したいからさ、ミーティア集落に俺とルーチェで泊まり込みをしても良い?」

「自分達の事は自分達でやるから、いい?」


ガレスとルーチェが真剣な顔でじっと見つめてくる。

イツキとララミーティアは2人の急な提案に困り果ててしまう。


「うーむ、子供2人か…!こういうのってどうなんだろうね?育児放棄とも言えるかな…。とは言え自分達で何でも出来るし、危険はまず無いし…、うーむ。」

「そうね…、まぁこの集落であれば、シモンが良いって言うなら良いのかしら…。ここ自体は結界内だから間違いなく安全だし…。」

「そうだけど…、うーん。」


イツキとララミーティアが決めかねていると、聖フィルデスが横からガレスとルーチェに助け船を出す。


「子供2人で心配でしたら私が保護者としてここに残ってもいいですよ。実は勝手ながらシモンさんや集落の皆さんには話は通してあります。私個人としてもガレスくんとルーチェちゃんのやることを見守りたいですしね。お二人は定期的に食料の補充がてら顔を見に来れば良いのではないでしょうか?」


聖フィルデスの想わぬ提案にララミーティアが賺さず心配の声をあげる。


「聖フィルデス様にそこまでお願いしていいの?日頃2人の鍛錬まで見て貰っているのに、なんだか悪いわ。」

「ふふ、いいですよ。みんなが生き生きと暮らしているこの集落の発展を見ているのが楽しくて私も便乗しているのですから。」


ララミーティアが降参だと言いたげな表情でイツキを見る。

イツキも肩をすくめて聖フィルデスに向かう。


「じゃあお言葉に甘えて、2人をお願いしていいですか?」

「ええ、任せてください!」

「何か間違ったことをしていたら遠慮なく叱ってやって下さい。俺たちも過保護にならない程度には顔を出しますので、何卒よろしくお願いします!」


イツキとララミーティアが聖フィルデスに深々と頭を下げる。

ガレスとルーチェは飛び跳ねて「やった!やった!」と喜び合っている。


その後小屋を出て、イツキとララミーティアはシモンにもくれぐれもお願いしますと頭を下げた。


「話は既に聖フィルデス様から伺っておりますよ。お二人の庇護を受けているこの集落で魔物や盗賊と言ったような者に襲われる心配は皆無ですし、我々集落の大人もちゃんと気にかけておきます。だから安心して集落に預けて下さい!喜んで引き受けます!」

「何だか毎度すいませんね本当…。助かります。」

「色々迷惑をかけてしまうかもしれないけれど…。ごめんなさいね。」


恐縮してしまう2人にシモンは最近のガレスやルーチェの様子を、ニコニコと我が子の事のように嬉しそうにイツキとララミーティアに話す。


「いえいえ、そんな恐縮しないで下さい!我々もガレスくんとルーチェちゃんが本格的に来るようになってから、集落の為に何が出来るだろうと考えるようになったんです。」

「そうなの?負担をかけてない?」


ララミーティアが心配そうに尋ねるが、シモンはニコニコしたまま否定する。


「負担なんてとんでもない!お二人やガレス君やルーチェちゃんのお陰様で暮らしが一気に楽になって手が空いてしまう者が増えていたんです。ですから丁度良いタイミングだったんですね。自分の為だけでなく、周りの皆の為、集落の為にというとても活気溢れる良い雰囲気になっています。」

「それなら良かったわ。あの2人じゃ対処できないような事があったら、私達も顔を出すから遠慮なく頼ってね。ガレスやルーチェだけじゃなくて、この集落のみんなまで私たちを頼らなくなったら寂しいわ。」

「そうだね、ティアもこう言ってるし気軽に頼って下さい。」


ララミーティアとイツキはシモンの言葉にホッとしたような安堵の表情を浮かべ、やがてイツキはいつも通りララミーティアを横抱きする。

聖フィルデスとガレスにルーチェ、シモンが見守る中、イツキとララミーティアはふわりと宙を舞う。


「それではよろしくお願いします!」

「またすぐ来るわ!2人をお願いね!」


イツキに横抱きにされたララミーティアが集落に向かって手を振り、やがて魔境の森へ向かって飛び去ってしまった。


集落の住人達はいつもその後ろ姿に向かって密かに祈りを捧げていた。

『ララミーティア様とイツキ様は良き隣人として普通に接する事』『祈りを捧げるのは本人不在の際に行う事』これらはミーティア集落における絶対的な鉄則だ。


「それでは2人とも、おうちに帰りましょう。シモンさんも本当にありがとうございます。」

「いえいえ、とんでもありません。何かあったらいつでも言って下さい。」


聖フィルデスとシモンが言葉を交わし、聖フィルデスはシモンに軽く会釈をしてからガレスとルーチェと手を繋いで家へと帰って行く。


「大成功だったね!ティアもイツキも泣いてよろこんでたよ!」

「ああ、大成功だったよ。聖フィルデス様も本当にありがとう。お陰で一つ恩返しが出来た気分だよ。」


ルーチェもガレスも聖フィルデスを見ながら満面の笑みを浮かべる。

聖フィルデスも負けじと微笑む。


「ふふ、2人が幸せそうだと私も幸せな気分です。お手伝いした甲斐がありました。」


実際問題、イツキやララミーティアに集落を見つけて貰うまではごく一般的な開拓事業だったのだ。


『月夜の聖女』が住む魔境の森のすぐ近くを開拓し、迷惑をかけてしまった『月夜の聖女』を信仰するという理由のお陰でそこそこの援助こそあった。

しかし自分達で自給自足するのはどうしても数年はかかってしまう。


開拓事業を始めた時期もあまり良くなく、初めは冬を無事に過ごす事で精一杯だった小さな集落を支えたのは『月夜の聖女』とその夫イツキの存在だった。

ミールの町で傷ついた筈の聖女ララミーティアとその夫イツキは二度と町に来る事は無かったが、それでも毎晩聖女の力で一帯に加護を与えて続けた。


それどころか時たまミールの街郊外の壁の建造が全く間に合っていない畑に何かしらの魔法か若しくは加護を与えているような姿もしばしば目撃されていた。 お陰でミールの街はかつて無いほどに豊作で収穫される小麦の品質も良かった。


熱心に慕う者、かつて『月夜の聖女』に命を救われた者、亜人差別撤廃を密に願っていた者、様々な事情を抱えた者が集まり、集落を作った。


ミーティア集落の住人はただ傍で暮らし、その存在を感じ取れればそれだけでも良かった。

しかし『月夜の聖女』ララミーティア様とイツキ様は天から集落へと降り立ち、神の御業としか思えないような数々の奇跡を起こしてミーティア集落に途轍もない恩恵を与えて、集落をずっと見守ってくれている。


イツキとララミーティアが想像しているより遥かにミーティア集落の住人は2人を信仰しており、2人が申し訳無さそうに頼んでくるこの手の些細なお願い事を断ったり蔑ろにしたりする訳がないのだ。


ガレスとルーチェによる集落の防衛力の強化、ミーティア集落の歴史が大きく変化した第一歩だった。

面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。


閑話の閲覧数が好調で嬉しいです。かく言う私も閑話を考えるのは好きです。

とは言えいつぞや閑話を量産しすぎて本編のストックが一気に減っちゃって…中々難しいですね。

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