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ダークエルフと暮らす異世界間違い転生  作者: 三沢 七生


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70.夏の始まり

ベルヴィアが天界へ帰ってから二月程経過し、梅雨の時季もそろそろ終わっていよいよ本格的な夏がやってくる初夏の頃。


ベルヴィアが居なくなった本邸には比較的穏やかな時間が流れていた。


ガレスとルーチェは突然ベルヴィアが帰ってしまった事に戸惑い暫くは寂しそうにしていたが、鍛錬とミーティア集落へ遊びに行くのに忙しくしているうちに、すっかりベルヴィアなしの生活にも慣れていた。


聖フィルデスに関しては日頃普通に日常的な会話はあるが、あれからイツキたちと何となく一線を引いているような気がして、イツキたちもあまり突っ込んだ話はしなくなっていた。

聖フィルデスも同じ気持ちなのか、必要以上にイツキたちに関わることも少なくなり、ガレスやルーチェの鍛錬を見ていない時は、イツキもララミーティアも何となく聖フィルデスからの視線を感じるような気がしていた。


しかしイツキとララミーティアは、自分達の監視役としては当然の事だろうと思って特に気にせずに暮らしていた。

とは言え話せば普通に話すし、特に険悪になったと言う訳ではないので、ガレスやルーチェは僅かな空気の変化には全く気が付いていないようだった。


ガレスとルーチェは鍛錬の成果があったのか、いつの間にか中級の治癒魔法を習得していた。

鍛錬という事でミーティア集落に行った際には集落中を治癒して回っていた。


この頃になると2人で集落にあるララミーティアの小屋のコピーに2人でお泊まりをしてみたいと言い出し、集落の代表のシモンと相談。

とりあえず試してみることになった。


当初は心配していたイツキたちだったが、ガレスもルーチェも手際良く食事を用意して身の回りの事は自分達でテキパキとこなした。

余った時間でガレスは集落の薪割りを率先して手伝い、水魔法で集落のあちこちにある生活用水用の水瓶に水を足して回った。

ルーチェは鍛錬の為といって覚えたての浄化魔法で集落の人々の汚れを落として回った。


後から迎えに行った時に口々に感謝の意を述べられて、イツキとララミーティアはとても誇らしい思いだった。


本邸と離れがある魔境の森の広場では既にララミーティアの畑は地球産のトマトやキュウリ等比較的育てやすい野菜でいっぱいだった。

イツキが召喚していた野菜の種をララミーティアが確保して乾燥させていたものを植えていた。


一般人は苗からしか普通育てないトマトやキュウリだったが、冬の終わり頃に蒔いた種が思ったより順調に育ち、これから初夏を迎えるにあたってそろそろ収穫が出来そうな頃合いになっていた。


後は森でよく採集していた実がなる木などをイツキの力業で持ってきて本邸の周辺に植え換えをしていたが、そちらもララミーティアの加護の力の影響か、問題なく土地に馴染んで順調に育っていた。


大好物の赤トマリスの苗やマコルの実も木を丸ごと植樹していた。




そんなこれから夏が本格的に始まる頃のある日、ふと気がつくとイツキもララミーティアも一つ歳を取って、イツキが39歳、ララミーティアが43歳になっていた。


「私達、産まれた日が近いのね!何だか嬉しい!」

「そうだね。毎日チェックしてるわけじゃないから分かんないけれど、かなり近そうな気がするね。こういうのって無性に嬉しいよね。」


ララミーティアはイツキと誕生日が近い事が嬉しいようで、歳を取ったことが分かってからしきりにステータスのウィンドウ画面を眺めてはニコニコとしていた。

そんな無邪気に喜ぶララミーティアがとても可愛らしく、イツキもついついララミーティアを度々抱き締めては人目もはばからずイチャイチャとしていた。




ミーティア集落に泊まっているガレスとルーチェを迎えに行く日。


2人はいつも通りイツキがララミーティアを横抱きにして空を飛んでいた。

今回は珍しく聖フィルデスもガレスとルーチェにくっついて一緒に集落へ行っていたので、ストッパー不在のイツキとララミーティアは久しぶりに思う存分自堕落にイチャイチャしていた。


空を飛ぶ前にも『飛んでいるときは出来ないから今のうちにね』といつまでも口づけが止まらず、さすがに2人ともいい加減に行こうとどちらと無く言い出し、漸くミーティア集落へ向かうことが出来た。


「そういや俺さ、ランブルク王国とエルデバルト帝国しか知らないんだけど、他に魔境の森に隣接している国ってどんなのがあるの?」

「そういえば説明した事は無かったかしらね。えーと…。」


ララミーティアの説明によれば、魔境の森の丁度北に位置するのがランブルク王国、北東から東にかけて大きく隣接するエルデバルト帝国、南側はカーフラス山脈という長大な山脈が魔境の森をぐるりと覆っている。

その山脈の向こうは隣接と言って良いか怪しいが、南東にベーメン王国、南にエフェズ王国、南西から北西にかけて位置し、魔境の森にの西側に一部かかっている大マーリング王国と、計五カ国が隣接しているとの事。

魔境の森のようにどこの国にも属していない地域のような物は大陸のあちこちに点在しているようで、ナントカ族の里だとか、ナントカ人の地区などと呼んでいる事が多いとの事だ。


他にも魔境の森と隣接していない国はまだあるようで、この大陸もひょっとするとなかなかの大きさなのかと考えるイツキだった。


「南側の三国は魔境の森との間にカーフラス山脈が邪魔しているから、まず山脈を越えてまで何かしようとは思わないわね。魔境の森を手中に収めたとしても山脈を挟んでいたらまともに統治出来ないものね。大マーリング王国も王都が南の方にあるから、魔境の森に直接隣接する辺境はランブルク王国との睨み合いに忙しくて魔境の森までどうかしようとは思わないって感じかしら。」


ララミーティアは古い知識だけどねと前置きこそしていたが、魔境の森に落ち着くまでは色々なところを放浪していたようなので、そう現状と乖離していないのだろうとイツキは踏んでいる。


「後で本邸に帰ったら紙に書いてまとめておこうかな…。大陸の形自体はよく分かんないけど、位置関係だけでも知っておこうかなぁ。」

「そうねえ。まあ注意すべきはやっぱりランブルク王国と、特にエルデバルト帝国かしらね。この二国はしょっちゅう小競り合いを繰り返しているし、何かあれば巻き込まれるかも。特にエルデバルト帝国は奴隷取引が盛んなだけあって差別意識が凄く高いの。人族至上主義と言うのかしらね。」


ララミーティアはうんざりと言った表情で肩をすくめる。

イツキは兼ねてから考えていた今後の予想を語り始める。


「ランブルク王国は、多分このまま魔境の森とは付かず離れずな形になりそうだよね。なんせミーティア集落の開拓を領主が認めているくらいだし。頭が痛かったであろう辺境の魔物被害も激減して寧ろ余計な手出しはしない方が徳があると思っている気がする。」

「私もそう思うわ。でも問題はエルデバルト帝国ね…。」


ララミーティアが唸るようにして帝国の名前を口にする。

イツキも進行方向を見据えたまま頷き、頭の中に浮かんだ内容を淡々と述べる。


「そうだね。冒険者組合の噂や、ミールの町発信の噂話を纏めると、元エルデバルト帝国の奴隷だったティアが聖女としてランブルク王国界隈では黙認されている。ランブルク王国は森の割と近くに町があるので利が大きいが、ランブルク王国程近く隣接していないエルデバルト帝国は利が少ない。まぁ面白くはないだろうなぁ。帝国って何となくだけど、独裁っぽい印象あるし。魔物被害がもっと減るなら、その余裕でついでに王国にけしかけようとか、魔境の森をどうにか手中に収めようとか思うかも。」

「『城塞の守護者』が発動している以上放っておいていいとは思うけれど、ガレスやルーチェみたいにどうしようもなくなって魔境の森目指して逃げようとしている人達が大勢いるかと思うと、ちょっと複雑な気分ね。」


ララミーティアの意見に概ね同意だったイツキは「そうなんだよなぁ」と言ってそのまま考え込んでしまった。


イツキのその仕草に何かを察知したララミーティアはイツキに予め釘を刺す。


「でもね、イツキ1人で帝都に乗り込んでどうにかしようとは思わないでね?1人で革命を起こそうと思えば起こせるとは思うけれど、皇帝をすげ替えた所で後任が素晴らしい人って訳ではないんだから。」

「はは、鋭いなあ。そう思うことも無きにしも非ずだけどさ、そういう革命の後って、その後の国の運営をする陣営が余程しっかりしてないと、今より悪化するなんて事も珍しくないからね。俺はそこまでやるつもりもないし、出来ないかなぁ。」


イツキは苦笑いをしながらララミーティアの目を見る。


「それに、俺はティアとのんびり幸せに暮らせればそれだけでいいよ。冷たい言い方かもしれないけど、頑張らないと手が届かないところへ無理して手を伸ばすつもりは今の所ないかな。」

「ミーティア集落みたいに私を慕って来てくれたような人達はともかく、世直しなんて大層な事は出来ないわ。」


ララミーティアはイツキの頬に口づけをする。


「それに、私も大好きなイツキが隣に居ればそれだけでいいわ。」

「ありがとう、嬉しいよ。まぁミーティア集落もエルデバルト帝国とはかなり離れているだろうし、さすがに直接手出しは当面出来ないでしょ。小競り合いをしているランブルク王国の中に入り込んでそんな事したらランブルク王国と戦争になるだろうしさ。」


この時はまだ思いもしなかった、まさか…なんて心の中で思えば、間違いなくフラグが立つような会話だなとしょうもない事を思うイツキだった。


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