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ダークエルフと暮らす異世界間違い転生  作者: 三沢 七生


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閑話.雨の思い出

梅雨の時季に暇をしていた2人が思いで作りをする話です。

魔境の森は梅雨の時季の真っ只中に居た。


スコールと呼べるほどの集中豪雨ではないが、この時期は一日中カラッと晴れることは極稀。

たまに中休みのように雨が上がって晴れ間がと言った程度だ。


今日のように未明からどんよりとした曇り空で大雨が深夜まで続くことの方がこの時期は多い。

外は風もなく只ひたすら真っ直ぐに雨が豪快に降りしきる。


しかしそんな豪快な雨は梅雨の時期特有のぼうっとしていると苔が生えてきてしまうようなジメジメとした蒸し暑さを洗い流してくれてるのは唯一の救いだった。


ガレスとルーチェに聖フィルデスは中が広い本邸で治癒魔法の練習をしているので、イツキとララミーティアは邪魔にならないように朝から離れで過ごしていた。

雨が離れのあちこちを叩く音が耳を澄まさずとも延々と聞こえてくる。

外をふと見やるとまるで川を流れて旅をしているようだった。


イツキとララミーティアはテーブルの席について、イツキが召喚したカップの上に乗せるタイプのドリップコーヒーを飲んでいた。

ララミーティアもコーヒーが割と好きで、イツキ同様に砂糖もミルクも入れずに飲んでいる。


頬杖をつきながらララミーティアが窓の外を眺めつつぼんやりと口を開く。


「…毎年の事ながら雨って憂鬱。私、雨にはあまりいい思い出がないわ。」


イツキはララミーティアの言葉を受けて自身の思い出を振り返ってみるが、確かにイツキにも家でじっと本を読んでいたり校舎の窓から外を眺めていたり、革靴やスーツが濡れてやたら臭かったりと良い思い出は殆ど無かった。


「確かに無いなー。まぁどの世界でも雨降りなんてそんなもんだよ。じっとしてると自分までカビちゃいそうだね。」

「そうねぇ、ジメジメするものね。朝から薄暗くて益々ジメジメした気持ちにさせるわ。今は本邸のトイレがあるから良いけど、前は用を足す時に濡れるのが何となく嫌だったわ。」


ララミーティアが苦笑いしながら肩をすくめる。


離れもそうだが、ミーティア集落も家にトイレがあるわけではなく、大抵家の裏手に目隠しの衝立を立てて穴を掘っていた。洗浄魔法が使えない者は定期的に拭くのに使える柔らかくてかぶれない葉っぱを摘んでトイレットペーパーとしている事が多かった。

特によく使われる葉っぱはその辺から根っこごと引き抜いてきて玄関先の地面に植えたりしている家が多く、ある程度植えておけば勝手に増えていく逞しい雑草だった。


「そういや雨の日に移動するときって、世間一般の人達はどうするの?まさかそのままずぶ濡れってことはないでしょ?」

「んー、ちょっとそこまでなら木の板とか適当に、まあまあ歩くなら大抵ローブかしらね。とは言えローブなんて結局グズグズに濡れちゃうから、よっぽどの理由がない限りは出歩かないわ。」

「へぇ、なる程なぁ。それじゃあきっとみんな窓の外を憂鬱な気持ちで眺めてるんだろうなぁ…。」


確かにミーティア集落でも傘なんて見たことがない。

よく考えてみれば確かに雨が降るとみんな木の下に逃げ込んだりローブを被ったりしているかもしれないと思い出すイツキ。

2人は暫くぼんやり雨音を聞きながら窓の外を眺めていた。


そんな時、イツキがふと自分が日本で暮らしていたときにやりたくてもやれなかった大事なことを思いついた。


「そうだ!良い思い出、無かったら作ろうか!」

「あら、何か妙案があるのね。」


イツキはふふんと胸を張って見せ、大きめの黒いジャンプ傘を召喚する。

ララミーティアはポカンとしてしまう。


「ん?杖?」

「これは元居た世界で雨の日にみんなさしてる傘だよ、ここだとちょっとアレだから外に出てみようか。」


訝しがるララミーティアの背中を押して離れの外に出るイツキ。

外に出て傘のベルトのボタンを外す。

ボタンを押して傘がバンと開いた瞬間にララミーティアが咄嗟に屈んでイツキの後ろに回る。


「ほら傘の音だよ。これで雨に濡れない。」

「もうっ!ビックリした!人族の貴族みたいな人が晴れた日に持っているのを見たことがあるわ。」

「それは日傘だね。日の光から目や肌を守るんだ。」


ララミーティアがイツキの腕をつねりながらも興味津々で傘を眺めている。

イツキがララミーティアに傘を手渡すと、恐る恐る傘を手に取ってクルクルと回してみる。


「これ布がびしょ濡れにならないの?」

「水を通さないから大丈夫だよ。俺が居た世界ではみんなこんな感じの物ををさして雨の中を歩くんだ。」


イツキが傘を持って雨の中に立つ。


「なる程ね…。ところでこれがどうやったら良い思いでになるのかしら?」

「ほら、こっちにおいで。」


イツキか傘の中に手招きすると、ララミーティアがぴょいと入り込む。

ピッタリくっついて漸く2人とも傘の中に収まる事が出来るサイズ感だ。


「狭い!ピッタリつっくかないと濡れちゃうわ!」

「ね?くっつかないといけないでしょ?ふふん、そういう事だよララミーティア君。こうやって並んで入ることを『相合い傘』って言うんだ。これがどういう意味か分かるかね?」


イツキがニヤニヤしながらララミーティアを見ると、ララミーティアの耳が少しピコピコと動き出す。


「アイアイガサー?まぁ何ともイヤラシイ発想ねー。なる程、好きな女の子とこれをするのが楽しいって訳ね。」

「ふふん、そういう事。せっかくだから広場を歩いてみようか。」


そうして傘を差すイツキの腕に手を絡ませ、足並みを揃えながらゆっくりと雨の中を散歩する。


傘を雨が叩く音が新鮮らしく、ララミーティアは終始耳を澄ませてはニコニコしている。

何よりイツキとピッタリくっつきながら歩くのが楽しいようだ。


「元居た世界ではさ、男の子は好きな女の子とこれがしたいし、女の子は好きな男の子とこれがやりたいわけだよ。くっつく口実が出来るでしょ?濡れちゃうんだからくっついちゃってもしょうがないよねーって。」

「ふふ、濡れちゃうんだから仕方ないねって事ね。ねぇ、イツキもこんな風に好きな子と一緒に傘に入ったの?」


広場をぐるりと周り離れに戻ってきた時、ララミーティアが意地悪げにイツキに尋ねる。

イツキは顔をしかめておどけてみせる。


「俺がそんな事を出来る男だったらさ、ティアと会ったときにもっとスマートに対峙出来ていたと思うよ。答えは『無い』だ。」

「ふふふ、そんな気はしたわ。でも良かった!私がイツキの初めてね。」


ララミーティアはそういうとイツキの腕に顔を擦り付ける。


「そうだ!折角だからさ、俺たち付き合う前みたいな設定で『相合い傘』で歩こうよ!ね!?絶対楽しいよ!絶対絶対!」


くだらない事で目を輝かせて鼻息を荒くするイツキを見て思わず笑ってしまうララミーティア。


「あはは!何それ!?イツキったらもうっ!でも確かに楽しそうね、やりましょう!」

「お互い相手の事が好きで、ひょっとすると自分のこと好きなんじゃないかなって薄々気が付いている2人。そんなある雨の日の事、傘を忘れてしまったララミーティアは空を見上げて途方に暮れてしまう。そんな時に意中の男性イツキが傘を持ってやってくる。そんな感じで!行こう!」


イツキが芝居じみた様子でシチュエーションの説明をする。


そうして2人は何度も咳払いをして表情をキリッと切り替える。


「ララミーティアさん、ひょっとして傘を忘れたんですか?」

「あ、イツキさん。そうなの…。困ったわ…ぷ!ふふふ。」


ララミーティアが我慢できずに吹き出してしまう。

イツキは頬を膨らませる。


「ちょっと!ララミーティアさん!ちょっとちょっとー?それじゃあ全然困ってないよ!」

「ふふ、ごめんなさい!真面目にやるわ!」


ララミーティアが何度も咳払いをして困った表情をして空を見つめる。


「傘を忘れたわ…。しばらく雨宿りでもしようかしら。」

「ララミーティアさん、どうしたんですか?」


イツキが離れから出てきて後ろ姿のララミーティアに白々しく声をかける。

ララミーティアはクルッと振り返ってイツキを見ると、眉を八の字にして肩をすくめてみせる。


「私ったら馬鹿ね。傘を持ってくるのを忘れてしまったの。これじゃあしばらくここで足止めね。」

「あの…!もし良かったら一緒に入りませんか?送りますよ。」


イツキが傘を少し上に上げてララミーティアに見せる。

ララミーティアは少し耳をピコピコさせる。


「いいの?嬉しい!そうして貰えると助かるわ。」

「いいですよ。じゃあ行きましょうか。」


イツキは傘をバッと広げてみせる。

そして傘の下にララミーティアを呼んで、ララミーティアはモジモジしながら傘の中に入る。


そのまま雨の中へと歩みを進めてしまうとララミーティアの肩はびしょびしょだ。


「あのララミーティアさん、そのままだと濡れちゃうので、その…もうちょっと近寄ってください。」

「あ、そうね…。じゃあ失礼します。」


そういうとララミーティアはイツキとぴったりくっ付く。

そうして2人は雨の中を寄り添いながらゆっくりと歩き出す。


「雨の日は好きですか?」

「雨って憂鬱な気分にさせるから余り好きとは言えないわ。」


ララミーティアは困り顔でイツキを見つめる。

イツキは眉を八の字にしてみせる。


「はは、確かにどんよりと暗い空模様で心を憂鬱な気分にさせますね。でも俺は雨の日が好きになりましたよ。」


イツキの発言に首を傾げるララミーティア。


「どうして?」

「こうしてララミーティアさんと一つの傘に入れたからです。」


イツキは歯を見せつつ爽やかに微笑んでみせると、ララミーティアは溜まらずに吹き出してしまう。


「あはは!やっぱりダメよ!イツキったら芝居が臭すぎるわ!はーおかしい。」

「うー、恥ずかしい!非常に恥ずかしい!」


イツキが顔を赤くしてむくれてしまうが、ララミーティアはイツキの腕に手を絡めてピッタリと寄り添う。


「でも凄く分かったわ。好きな人とこんなに近付ける口実が出来るんだものね。きっと口から心臓が飛び出そうになるんでしょうね。想像するだけでドキドキするわ。」

「でしょー?」


イツキがいつものように人懐っこく笑ってみせると、ララミーティアは妖艶な微笑みを浮かべる。


「さっきのセリフじゃないけれど、私も雨の日が好きになったわ。イツキとの楽しい思い出が増えたんだもの。」

「そうだね。思い出がまた一つ増えたよ。雨の日も悪くないね。」


やがてぐるりともう一周広場を回り終える頃には雨がピタッと上がっていた。


雲の切れ間から眩しい日の光が地上に射し込んでいる。

それはまるで空に光のカーテンがかけられたように美しい自然現象だった。


「雨上がりの空に光のカーテンが降りてきたよ。綺麗だね。」

「ええ、とても綺麗。イツキと2人で見られて幸せよ。素敵な思い出になったわ。」


イツキは傘に風魔法をかけて水分を弾き飛ばすと、閉じた傘をくるくると回してベルトを留め具でパチンと留めてアイテムボックスに仕舞った。


ララミーティアの肩を抱き、暫く雨上がりの空を堪能していた。


「あっ!あっち!」


ララミーティアが指差す方向を見ると、カーフラス山脈に大きな虹がかかっていた。

イツキもララミーティアもその美しい光景に暫く言葉もなくただひたすら眺めていた。


「綺麗だね…。ティアと見られて良かった。」

「ふふ、私も。イツキと一緒に見れて良かったわ。」


そのまま口づけを交わす2人。


今日も何気ない1日が過ぎてゆく。


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