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ダークエルフと暮らす異世界間違い転生  作者: 三沢 七生


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69.不穏な空気

いつもより少し遅いが、デーメ・テーヌによる説教の後すぐに夕食の時間になった。


ララミーティアとお手伝いのルーチェによってパパッと作った料理をイツキがよそってガレスと聖フィルデスがせっせと運び始める。


ベルヴィアがずっとしょんぼりしたままで、さては相当説教されたんだろうなと思い、イツキはいつぞや召喚に成功したイチゴサンデーを召喚して何も言わずにベルヴィアの目の前にスッと差し出す。


「イツキぃ…、優しくしてくれるのはイツキだけよぉ…。ありがとう!」

「普段騒がしい奴がしょんぼりしてたら、そりゃ何かしてやりたくもなるよ。」


ララミーティアもクスクス笑いながらベルヴィアの前に料理を並べる。


「ふふ、そうね。いつもベルヴィアはお喋りだものね。」

「デーメ・テーヌだって別に意地悪したくて怒ったわけではないですよ?叱ることも優しさです。」


聖フィルデスの至極真っ当な意見に消化不良を起こしたのか「そりゃ、まぁ…」と歯切れの悪い返事をするベルヴィア。


「まぁどうでもいいヤツの事は怒らないからね。愛情の反対は無関心ってやつさ。」


イツキが眉を八の字にしながらベルヴィアにそう告げる。

ベルヴィアはイツキから貰ったイチゴサンデーを食事前に1人でそそくさと『いただきます』と挨拶をして食べ始めた。


「ベル隊長いいなぁ、ルーチェも食べたいなぁ。」

「ありゃベルを励ますために出したもんだから、そのうちイツキかティアにおねだりするんだぞ。」


イチゴサンデーを羨むルーチェをやんわり窘めるガレス。

あっと言う間にペロリとイチゴサンデーを完食したベルヴィアだったが、みんなで夕食を食べている最中も終始暗い表情を浮かべており、食後はそそくさと部屋に閉じこもってしまった。


聖フィルデスは「心配しないで、そういう時期なの」と言ってベルヴィアと寝泊まりしている部屋に入っていった。



お風呂の時間になり、イツキとララミーティアが2人で浴槽に浸かっている時、ふとイツキがポツリと口を開いた。


「神様たち、あんま信じすぎてはいけないかも。」

「え?どうしたの急に?」


ララミーティアがイツキに聞き返すが、イツキは唸ったまま言葉を探しているようだった。


「『破滅の魔女の後継者が』ってテュケーナ様がうっかり漏らした言葉がずっと引っかかってるんだ。」

「多分だけどアリーの事よね、そして後継者は…。」


イツキがララミーティアの頬に唇を落とす。


「ティア、かな。」

「ふふ、確かにちょっと引っかかっては居たわ。」


イツキはゆっくりと頭の中を整理しながら喋る。


「向こう五百年は安泰。これはこのペースで暮らしていれば、って事だね。次に破滅の魔女の後継者、これはティアもしくは俺?まぁ俺たち…、なのかな。大陸を滅ぼしかけた魔女、その後継者がまさか。つまり俺たちもどういうタイミングか分からないけれど、同じ事ような事をする危険性が排除しきれていない。」

「それであんなに真剣にあれこれコソコソやっているの?未来の事じゃないの。忙しいのか暇なのか分からない人達ね。」


ララミーティアがクスクス笑って、湯船の縁に腰掛ける。

イツキも隣に腰掛けてララミーティアの肩を抱き寄せる。


「俺は本当にティアさえ居れば別に良いんだけどなぁ。何か頼みたい事があるならさっさと教えて欲しいよ。」

「どういう風になってくれって前もって言って欲しいわね。操られているみたいでまどろっこしいわ。ふふ、私もイツキと一緒に居れればそれだけでいいわ。」


2人はどちらともなく吸い寄せられるように何度も唇をむさぼり合った。





翌朝になるとベルヴィアの姿は既になく、イツキが聖フィルデスに聞こうとする前に聖フィルデスは見透かしていたかのように答える。


「未明のうちに天界に戻ってしまいましたよ。」

「えっ!そんなシリアスな説教だったんですか!?」


正直いつもの「こら!」程度の説教だとばかり思っていて、まさかそこまで深刻な説教だと思っていなかったイツキは酷く動揺してしまったが聖フィルデスは、


「彼女もこれからの為にもっと色々経験しなければいけないので、特に罰としての強制帰還ではないですよ。」


と言っていたので一安心だった。


とは言えベルヴィアが不在というだけで本邸の中はとても静かだ。


朝食が終わるとガレスとルーチェは治癒魔法の鍛錬がしたいと言ってそそくさと外へ出て行ってしまった。

聖フィルデスは当たり前のように2人の後をついて行って、本邸の中はイツキとララミーティアの2人だけになってしまった。


イツキとララミーティアがソファーで並んでくつろいでいた時、イツキはふと思い出したようにアリーの残したロングソードとレイピアのコピー品を取り出してテーブルに並べる。


「例のうっかり大量にコピーしちゃったアリーの残したこれ。どっちもミスリル製なんだけどさ、せっかくいっぱいあるんだしティアも魔剣にして持ち歩く?」

「確かにそれはいいかも。どうしようかしら、使うとしたらレイピアなんだけれど…。」


ララミーティアはあれこれと思案し始める。

イツキはレイピアを持って思いついたことを次々言い始める。


「まぁティアが持つなら身体強化とか思考加速とかだよね。とは言えそんな普通に発動出来る平凡な魔法を入れてもなぁ。」


イツキはレイピアに向かって話しかけるようにしてブツブツと喋る。


「あっ、重力魔法とか入れられるのかな?ティアも使えたら安心かなー。」

「面白いことを思い付くわね!どうせいっぱいあるし試してみたら?ロングソードをイツキ、レイピアを私みたいに持つのもいいかもしれないわ。」


ララミーティアが楽しそうにイツキの肩をパシパシと叩く。

イツキはレイピアを手に持って気合いを入れる。


「っよし!じゃあまずは魔力をドバッと突っ込むか!」


ゆっくり魔力を込め始める。

魔力がレイピアにどんどん吸われてゆく。

しばらくすると身体がだるくなってくる感覚を覚えるが、ミスリルナイフの時よりまだ余裕はある。

やがてレイピアが淡く発光したままで止まる。


(重力…、重力…、おっと重力魔法か…)


レイピアの発光はとまり、イツキはレイピアをテーブルにそっと置いてソファーの背もたれにどっかりと身を預ける。


「成功したのかしら?お疲れ様。」


そう言ってララミーティアは自身のアイテムボックスにも入れているクッキー風レーションをイツキに食べさせる。


「ああ、ありがとう。楽になった。さあさあ、ちょっと試してみてよ!テーブル軽くしてみようか?」


イツキがレイピアをララミーティアに渡す。

ララミーティアはテーブルがフワフワ浮くイメージを思い浮かべ、剣身でトンと軽くテーブルを叩いてみる。

するとテーブルは無重力状態になってフワフワと浮かび始めた。


「わぁっ!私も重力魔法が使えるようになったわ!ふふふ!これ面白いし便利ねえ!」

「だろー?これ凄い便利なんだよ。周囲を重くすれば身を守る術にもなるし、軽くして風魔法をぶっ放せば吹き飛ばせるってね。」


ララミーティアはとりあえずテーブルの重力を元に戻してニコニコしながらレイピアを眺めている。


「魔剣…なんて読むの?これ。」


早速鑑定したララミーティアがイツキにウィンドウ画面を見せる。

その画面を見てイツキは絶句してしまう。


「ねえねえ、これイツキの故郷のチキュウ?の言葉でしょ?なんて書いてるの?読んで読んで!」

「これ何で毎回こんな中途半端な名前になっちゃうんだ…?モド・テクルの時もそうだけど…!」


ララミーティアは魔剣モド・テクルの時のイツキの落ち込みっぷりを思い出して思わずクスクス笑い出す。


「なるほど。ふふ、またそのパターンのネーミングなのね。」

「『おっと重力魔法』だってさ。」

「ん?オットー・ジュールマフ?」


ララミーティアは全然聞き取れなくて何度もイツキに確認していた。


そして最終的に『魔剣オットー・ジュールマフ』になってしまった。


「全然意味分からない名前だけれど、何だかモド・テクルみたいで遠い異国の魔剣みたいじゃないの。私なかなか気に入ったわ。」

「んーまぁどうせ誰かに見せびらかす訳でもないし、ティアさえ気に入ればいいや。はい、あげる。」


ララミーティアはしばらくニコニコしながら嬉しそうにレイピアを眺めて、やがてアイテムボックスへと仕舞った。


「ロングソードはどうしようかなぁ。俺は別に重力魔法を入れる必要ないしなぁ。」


イツキがソファーに座ったまま右手に持ったロングソードを眺める。

ララミーティアもロングソードをじっと見つめている。


「そうねえ。イツキもだけれど、身体強化とか思考加速を入れても全然面白くないし、発動出来るから意味ないわね。折角のミスリル製武器に在り来たりな魔法を入れても…。」

「そうなんだよなぁ、火力も求めてないし、どうしたもんかなぁ。あ!俺すげー良いこと思いついた!」


そういうとイツキは先程より素早く魔力を込め始め、すぐにロングソードは淡い光を帯び始めた。


ララミーティアはニコニコしながらクッキー風レーションをイツキの口元へ運ぶ。

イツキは「ありがと」といってララミーティアの頬にキスをする。


(ティアを守るバリア…、ティアを守るバリア…、ティアバリア…?ティアバリアかな…)


やがて光が収まって、ロングソードをララミーティアへ手渡す。


「ほらこれ使ってみて。」

「あら、これも私にくれるの?どんなロングソードになったのかしら?」


ララミーティアが早速鑑定し、相変わらず読めない鑑定結果をイツキへ見せる。


「これは『ティアバリア』だよ。」

「ティア・バリア?私の名前?」


イツキはニヤリと笑い、ララミーティアを少し離れた場所に立たせる。


右手にロングソードを持ったまま「動かないでね」と言ってララミーティアに動かないよう指示をする。

イツキは魔剣に込められた魔法をかけてから、徐にララミーティアめがけてアイテムボックスから出したマコルの実を投げつける。


「きゃっ!」


ララミーティアがとっさにマコルの実を弾こうとするが、その前にララミーティアの周囲に電話ボックス大の結界が現れ、マコルの実を防ぐ。


「これには魔法を発動しておけばティアに何があっても結界で守るっていう魔法を思い浮かべて入れてみました!その名も魔剣ティア・バリア!これ何気に凄くない?対象をティアに限定したから、結構離れてても発動すると思うよ。戦場で突っ立ってても死なないんだよ?そのうちさ、どこまで離れても発動するか試そうよ!」


イツキがロングソードをテーブルに置いて、胸を張ってドヤ顔を決めてみせる。

ララミーティアがイツキの胸に飛び込んでくる。

ララミーティアは泣いていた。


「ありゃ、なんかごめん!はは、流石にちょっと気持ち悪かったかな…?あー…、やり過ぎちゃった?」

「ううん、違うの。レイピアにも私を守るため、ロングソードにも私を守るため。イツキはいつでも私を守る事を一番に考えてくれているのが嬉しいの。好きな人に守られるって、こんなに幸せな事なのねってまた実感したら嬉しい気持ちが溢れちゃったみたい。」


イツキはララミーティアの背中をさすりながら顔をララミーティアの頭に顔を埋める。


「そりゃ当たり前だよ、好きな魔法が入れられるって言ったら、真っ先にそれしか思い浮かばないよ。俺は本当にティアさえ居ればいいと思っているんだよ。ティアを守り抜ける確率を少しでも上げたいんだ。」

「嬉しい、ありがとう。イツキ、愛してるわ。」

「俺もティアを愛してる。ティアは俺を照らす光なんだよ、日の光のような暖かい光、月の光のような暗闇を照らす光、星のような道しるべになる光、俺はどうしてもティアを失いたくないんだ。」


ララミーティアは涙でキラキラした目をイツキに向けて泣いたままニッコリと笑ってみせる。


「先に言われちゃった。私にとってもイツキは私を照らしてくれる光よ。いつでも私を暖かく包み込んでくれて、暗闇でも迷わずに私を導いてくれるわ。心の中にいつだってイツキが居るの。」


見つめ合う2人は触れるだけの優しい口づけから、やがて切なさに耐えきれなくなったかのように激しく唇を奪い合った。


今日の18時に本編とあまり関係ない閑話を挿入しました。

よろしければ是非見て下さい。

面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。

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