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ダークエルフと暮らす異世界間違い転生  作者: 三沢 七生


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68.定例会

歓迎会から二月ほど経過した。


ガレスとルーチェは同年代の子供たちとの交流が余程楽しかったらしく、週に二回程はミーティア集落へ連れて行って欲しいとせがむようになった。

イツキとララミーティアもガレスとルーチェにとっていい刺激になるかと思って毎回快く了承。

4人でミーティア集落へ行くのが専らだった。


ベルヴィアと聖フィルデスはしばしば難しい話をしながらウィンドウ画面を操作しており、この世界の魔力調整も本格的に運用が始まったんだろうとイツキとララミーティアは思い、その件については積極的に触れなかった。


イツキとララミーティアは相変わらず仲睦まじく、お互い別のことをやっている時でも常に傍にいる事が多く、離れるのはトイレに行くときくらいのものになっていた。


そんな姿にベルヴィアすらも特に何も言わなくなって居たし、ガレスやルーチェも当然と言わんばかりに全く気にする素振りはなかった。




イツキたち4人がミーティア集落へ遊びに行った日のこと。


ベルヴィアと聖フィルデスは本邸のリビングのソファーで天啓ウィンドウ画面越にデーメ・テーヌやテュケーナと定例会を開催していた。


「どの加護も予定通り満遍なく使用してくれているお陰で、概ね計画値通りに世界全体の魔力量は推移しています。まだデータが一年分程度しか集まって居ませんが、このペースでシミュレートしてみると、大きくバランスが崩れることもなく、恐らく五百年後には事件の前の水準近くまで落ち着くかと思います。後は各種加護の打ち切りのタイミングについてですが…。」


ベルヴィアが各自のウィンドウ画面に資料を表示させて説明している。


「五百年後の魔力調整が落ち着く頃になったら『聖女の力』は不要になるかと思います。そのあたりで加護を打ち切っても、元々魔物に悩まされていた世界ではないので、特段魔物あふれ等の懸念はないかと思います。」


聖フィルデスが淡々と喋る。

天啓ウィンドウの向こうのデーメ・テーヌが頷く。


『2人ともありがとう。今の所は順調ね。万が一魔力の消費速度が計画より早く進む場合は『豊穣の大地』は早めに加護を切り上げましょう。あれはベルヴィアちゃんの加護でカバー出来る話ではあるので、まあ特に問題はないでしょう。』

「はい。私もそう思います。一応そのパターンでのシミュレートもしてあります。資料を別途お送りしますのでご確認下さい。」


ベルヴィアが参加者に別途資料を送りつける。

送られた資料を見ていたテュケーナが口を開く。


『あれぇ?アテーナイユ様の『城塞の守護者』を打ち切るパターンはシミュレートしてないんですかぁ?』


ベルヴィアが冷や汗をかきながらゆっくりと口を開く。


「シミュレートしてありますが、その…、載せられないです…。」

『あら、どうして?一応確認しておきたいわ。資料はないの?』


デーメ・テーヌがベルヴィアに催促をする。

ベルヴィアは聖フィルデスと顔を合わせ、頷くと新しい資料を参加者に展開する。


「今お送りしたものが没にした資料になります。…とりあえず見てみて下さい。」


資料を読みながらテュケーナが声を上げる。


『んん?どういう事ですかぁ?『城塞の守護者』をどのタイミングで打ち切っても、その後のデータがぷっつり消えてますよぉ?』

『あら、本当ね。シミュレーターに不具合でもあった?『城塞の守護者』はバージョン適合調整が甘かったかしら?』


ベルヴィアが言い淀んでいると、替わりに聖フィルデスが口を開いた。


「しっかりシミュレート出来ていますよ。率直に言いますね。『城塞の守護者』を打ち切ると、滅びるんです。この世界。」


デーメ・テーヌとテュケーナは頭上にクエスチョンマークを浮かべたまま聖フィルデスの言葉を何度も頭の中で反芻して考え込んでいる。

ベルヴィアが閉じていた口を開いた。


「『城塞の守護者』をどこで打ち切っても、…その、起こり得る出来事を説明します。ただしあくまで現状維持で過ごした場合で且つ『召喚』以外を打ち切った場合のシミュレートです。」

『…よろしくお願いね。』


デーメ・テーヌの言葉にベルヴィアと聖フィルデスが見つめ合って頷き合う。

やがてベルヴィアが感情を殺したように淡々と喋り出す。


「『城塞の守護者』の消失により発生する事象は、魔境の森を長きにわたり覆っていた干渉不可能な結界の突然の消失。それにより周辺各国から月夜の聖女を囲い込みたい亜人の勢力や人族国家の人族至上主義者達による泥沼の月夜の聖女争奪戦が始まります。結界がなくなって侵入者の把握が出来なくなった魔境の森には、たちまち周辺各国の様々な勢力が進出し、パワーバランスが崩壊した魔境の森で月夜の聖女を一番安全な本邸に匿ったまま、イツキと将来確実に規模が大きくなるミーティア集落対周辺各国との大規模な泥沼の戦争が始まります。」

『…。』


デーメ・テーヌもテュケーナもまじめな顔で聞き入る。


「シミュレートの条件指定を変えても、必ずミーティア集落は壊滅。四方八方から絶え間なくやってくる大量の有象無象によりやがて本邸は陥落します。その際に月夜の聖女の奪い合いが発生、月夜の聖女が命を落とす可能性が非常に高いです。月夜の聖女が死ぬとイツキによる魔力暴走で世界が終わるという結果ばかりが出て来ます。」


ベルヴィアが一旦大きく息継ぎをする。


「…荒唐無稽な話では無いのが何とも…。」

「ですねぇ…。」


その隙にデーメ・テーヌとテュケーナがボソッと呟く。


今度は聖フィルデスが話し始める。


「千年前の例の大陸滅亡寸前の時とは違って、文字通り本当に星が破壊されて終わる事もあり得ます。あの大陸は安定していると聞いていたので当初はそこまで考えていなかったのですが、人族が台頭し過ぎていて亜人差別が酷すぎます。聖女が亜人と言うことで強すぎる影響力を大陸中に生み出してしまいました。あの2人の距離を、片方が死んでも何も起きないレベルまで開けるのなんて今更無理ですし…。」


4人は暫く押し黙ってそれぞれ思い思いに思案し始める。

聖フィルデスが再び口を開く。


「やはり個体の性格を加味しないままの検証だけで加護を決めるべきではありませんでした。『聖女の力』を外したとしても、月夜の聖女の話は既に生きにくい亜人達の希望になってしまっており、今後も伝説としてずっとあの大陸に残ってしまいます。そうなってしまった以上、他の加護は外せても、もはや『城塞の守護者』だけは最後まで外せない加護になってしまいました。」


デーメ・テーヌはしばらく思案した後、手元のティーカップを呷ってからゆっくりと口を開く。


『例えば『城塞の守護者』と『召喚』を最後まで残した場合、魔力の状況のシミュレートはどうなってるかしら?』

「はい、最初に渡した資料に戻って下さい。後半に記載してあります。」


テュケーナがサッと目を通してから唸る。


『うーん…。結界の範囲を広場だけにして、召喚を自分達の為だけに細々使えば…ですかぁ。何か案外保ちますねぇ。』

『そうね。んー…。あの2人ならこの線でお願いすればすんなり了承してくれると思うけれどね。しかしミーティア集落が四百年以内に国として立ち上がれば…ですか。タイミリミットも結構長いわね。まぁ『城塞の守護者』はこちらとしても使い道が無いわけではないから…、ちょっと考えをまとめます。とにかくその路線で行けば割と上手く行くのね。』

「はい。国として正式に認められ、自分達で自衛出来ようになれば各国は下手に手出し出来なくなりますし、そうなれば加護の力です広範囲を守護する必要もなくなりますので…。そうでないと守護範囲外にする事を了承するとは思えません。」


聖フィルデスが手元のウィンドウ画面を眺めながら喋る。


「そうですね…。『聖女の力』がある以上、信仰している者達を何の後ろ盾もなく放置することは出来ないと思います。ティアちゃんがそう思う以上、イツキくんは守り抜きたいと思うかと。そもそも緊急措置としてティアちゃんのステータスを弄るのも視野に入れたらどうかなと私は思いますけどね。イツキくんと同じくらいの寿命になるよう調整してしまえばイツキくんみたいに出鱈目に強くなるし、力を誇示するような子達ではありませんので、丸く解決するんじゃないかなと思います。」


定例会の場はそれぞれが思案を始めて沈黙が続く。

テュケーナが反応する。


『それは…、前例がなくて難しいですぅ。』

「でも何柱も神が関わって毎回こんな相談をするんですか?それなら十分現実的な提案かと思いますよ。それに破滅の魔女の時だって前例の無い対応だったじゃないですか。はっきり言って私はもうああいうのは嫌ですよ。あんなの…。」


デーメ・テーヌが唸ってしまう。


『あの時はだって…。そ、そうそう。ベルヴィアちゃん、フライアの世界の魔法をイツキに教えてたみたいだけれど、他のエリアに行きそう?』


ばつの悪い話題に流れそうなるとデーメ・テーヌはパッと思い付いた適当な話題をベルヴィアに振った。


「あー、気軽に飛んでいけるほど近くもないですし、あの2人は他のエリアどころか大陸の中でもあちこち行こうとも思ってないので…。」


ベルヴィアは重力魔法を教えたことが怒られるかと思い一瞬身構えたが、そうではなさそうな雰囲気にホッとする。しかしデーメ・テーヌの口調が変わる。


『万が一他のエリアに行ってしまったら大変よ!デタラメな強さを持っていて、実装されていない魔法を使う者が他のエリアに乱入してしまったらどうなることか!何より他のエリアの様子を地球人に見られたらいけないのは何でか理由くらい分かるでしょう?あなたはもう少し自重しなさいね!?これ以上は余計な事は教えちゃダメよ!』

「すいませんでした…。」

「ごめんなさいね。これからは過度に干渉しないように私の方からベルヴィアちゃんには言い聞かせます、この辺で許してちょうだい。」


聖フィルデスが賺さずフォローしてくれたお陰でこれ以上のお小言は貰わずにすんでホッとするベルヴィア。


『しかし凄い事になってきましたねぇ!部分実装の原因になった破滅の魔女の後継者が今度はまさか…』

『テュケーナ、それ以上はダメよ。あなたもベルヴィアちゃんも本当に要らないことをすぐポロッポロポロッポロ喋っちゃうんだから!例え見てないときでも余計な事を言う癖は直しなさい。全く…、また面白がって…、あなたも管理している世界なのよ?ラッキーパンチがいつまでも続くわけではないのよ?』

『えへへ、はぁーい。』


テュケーナが思わぬ飛び火を受けて苦笑いで曖昧にしようとする。

聖フィルデスが口を開いた。


「とりあえずベルヴィアちゃんは一旦返そうと思います。現地の監視は私が残ってやります。」

「えっ!?どうしてですか?」


ベルヴィアが慌てて聖フィルデスに縋る。

デーメ・テーヌが天啓ウィンドウの向こう側で諭すように語る。


『あなた、これから1人前の『神様』としてやっていかなきゃいけないのよ?いつまでもこの案件に掛かり切りになっていたら他のことが何も経験できないでしょう?それにハッキリ言ってあなた危険よ。転生前にあんなにペラペラ情報を漏らすのもマズいし、うっかりポロッとじゃ済まないことを今後漏らしたらどうするつもり?あなたにはあなたの私生活もあるのよ?だからしばらく聖フィルデスに監視や誘導は任せます。』

「うぅ、確かに…。」

『子らと仲良くするのは咎めません。でも仲良くし過ぎるのも良くありません。その辺の線引きがきっちり出来ない以上は長期ログインは承認できませんよ?』


本邸の外にイツキたちがゆっくりと降りてくる姿が見えた。


「あ!帰って来ちゃいました!」

『あらら、もう…。とにかく頼みましたよ?』

「はい、任せて下さい。ね?ベルヴィアちゃん?」


本邸の入り口が開いて出掛けていたイツキたちがゾロゾロと部屋の中に入ってくる。


「ただいまーってあれ、会議でもしてたの?俺達外で待ってようか?」

「あら、デーメ・テーヌ様もテュケーナ様もお久しぶり。」

「あ!デーメ・テーヌ様にテュケーナ様!」

「この前は加護をありがとうございました!」


帰った来た一同が声をかけるとデーメ・テーヌがニコニコしながら挨拶を返す。


『みんなお久しぶりです。用件は済んだからもう平気よ。』

「そ、そうよ!もう雑談してたの!何も疚しい事なんて話してないんだから!」

『う、うんうん。そうなのぉ、済んだ済んだ。今だってぇ、向こう五百年は安泰だねぇとか、まさかあの破滅の魔女の後継者が今度はぁ『わーっ!こらっ!本当に馬鹿!!また要らないことをペラペラペラペラとっ!どうしてあなたたちはいつもそうなの!本当に馬鹿ねっ!!』


天啓ウィンドウの向こう側でデーメ・テーヌによる御説教が始まり、ベルヴィアと聖フィルデスに視線を送ってからコソコソと外に出るイツキたち。




外に出てガレスとルーチェは暇だからと魔法の鍛錬を始める。

イツキとララミーティアはその辺に腰を下ろして2人の様子を見守る。


「ねえティア。ぶっちゃけると俺さ、どうしてもあの人達が『神様!』っていう存在ではないような違和感を覚えるんだけどさ、ティアはどう思う?」

「イツキもやっぱりそう思う?私、不敬になるかなと思って口には出さなかったけれど、はっきり言ってそんな存在とは到底思えないわ。私達と同じ普通の人よあれは。人間味が溢れ過ぎよ。」


イツキはララミーティアの手を取って絡めるように手をつなき、空を仰いで持論をゆっくりと述べる。


「何というかな、俺達が一般的に思うさ、自然現象の究極にいる神様って感じではなくて、何かこう…。」

「仕事として任されてやっている人達?」

「そうそれ!そっちの方がしっくりくるなぁ。」


イツキがララミーティアの膝にゴロンと頭を乗せて身体を投げ出す。

ララミーティアはイツキの頭を優しい撫でつける。


「いいのかな…。このまま『神様』の言われるがままにしているの。」

「踊らされている気はするわね。私達を悪いようにはしないと思っているけれど。」


ララミーティアは微笑みながらイツキの唇を指でなぞる。


「そうだなぁ、そうだよなぁ。しかし仕事だとして、一体何の意味がある仕事なんだろう…。」

「私達には想像がつかないわね…。」


イツキはぼんやりとララミーティアの表情を見つめる。

ララミーティアは柔らかく微笑んでイツキの頬を撫でる。


(ひょっとしてこの世界や天界って…、いや、この考えは止めとこう)


イツキはひょいと身体を起こしてララミーティアに不意打ちでキスをする。


「ま、俺はティアさえ傍にいれば、別に何でもいいや。神様達に逆らったところで対抗策なんて浮かばないし、何より今が幸せだからね。」

「ふふ、私も。イツキさえ居れば細かいことは全部どうでもいいわ。」




聖フィルデスが本邸から出てすぐのところで2人の様子をじっと見ていた。

その表情はまるで人形のように綺麗なばかりで感情に乏しい印象を受けるものだった。


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