閑話.お酒の練習
ミーティア集落にてお酒で大失敗した数日後の話です。
ミーティア集落での歓迎会が終わった数日後、夕食の後ララミーティアがイツキ達に意を決したようにして真剣な顔で告げる。
「私、お酒に強くなりたいわ。飲む度にあんな失態を犯すのはイヤ。」
「強くなりたいって言ってもなぁ。体質みたいなもんだからさ…中々難しいと思うよ?」
イツキが言葉を選びながらやんわりとやらない方向に持って行こうとするが、ララミーティアは真剣な表情を変えない。
「私もイツキとお酒を楽しみたいわ。何かいい方法はないかしら。」
「んー、兎に角毎日飲めば慣れるんじゃないの?よくそんな風に言うよ?」
ベルヴィアが口元も隠さずに爪楊枝で歯間をシーシーさせながら適当に答える。
聖フィルデスも首を傾げながら意見する。
「人に寄りますけれどね…。ティアちゃんはすぐ真っ赤になる訳ではないので、決して下戸という訳ではないと思うのですが…。」
「じゃあ強くなれる可能性があるって事かしら!」
二柱の意見に目を輝かせるララミーティア。
しかしイツキはあくまで慎重派だ。
「なんて言うか酒乱になるならないってのは遺伝が影響しているらしいんだけどさ、血の中にアルコールが一気にわーっと増えちゃう人はティアみたいになりやすいんだ。もしどうしてもと言うなら水を多めに飲みながらちょっとずつ飲む練習かなぁ。」
そうしてイツキは困った表情のままテーブルに手をかざす。
「召喚、ウイスキーボンボン!」
イツキがそう言うとテーブルの上に銀色の紙に包まれた物が大量に出てくる。
「わおっ!これウイスキーボンボン!?やったーっ!」
説明も聞かずにベルヴィアはピンと来たようで賺さず包みをいくつかガサッと掴んで早速食べ出す。
イツキは呆れながらも説明を始める。
「ベルヴィアも言ってたけど、これはウイスキーボンボンと言って、チョコレートの中に香りが良いお酒が入っているお菓子なんだ。ほんのちょっとしかお酒が入ってないからさ、これでちょっとずつ食べてまずは様子を見てみようか。」
「それ、俺とルーチェは食べて良いの?」
ガレスが包みを一つ手にとってウイスキーボンボンを見つめる。
ルーチェもそんなガレスの様子を見ている。
イツキは子ども達にニッコリとしながら返答をする。
「ああ、子供でも食べて平気だよ。まぁ一日に何十個も食べちゃいけないけど、別に子供は食べちゃだめとは言われてないかな。それくらい微量なんだ。」
「やった!ルーチェ食べる!」
ルーチェが待ってましたと言わんばかりに包みを解いてウイスキーボンボンを口の中に入れる。
ガレスもそんなルーチェの姿を見て一粒口にいれてみる。
ルーチェが口をモグモグさせるうちに笑顔が消えていく。
「んー?…まずい…。口の中がかぁーってする…。うわぁ…。」
「鼻や口に確かに変な感じがするね。でも俺は案外嫌いじゃないかな。」
「あらあら、ガレスくんは大人ですね。」
ガレスには案外好評だったようでガレスはその後も何粒か食べていた。
ベルヴィアも聖フィルデスも次々にウイスキーボンボンに手を伸ばしてニコニコしながら食べている。
「ガレスやルーチェだって食べてるのよ。私だって…。」
そんな姿を見てララミーティアも恐る恐るウイスキーボンボンを包みからだして、試しに口に入れてみた。
「どう…?平気そう?」
「ん…。うん。これなら大丈夫そう!これ美味しいわね。」
イツキの問い掛けに笑顔で答えるララミーティア。
ベルヴィアはウイスキーボンボンを次々に食べつつ呆れ顔で喋る。
「そもそもウイスキーボンボンで酔う人なんて見たことないわよ。こんなお菓子よりもカクテルとかから始めた方がいいと思うなー。」
「ふふ、そうですね。ウイスキーボンボンは子供でも食べられるくらいですしね。ちょっと練習には向かないかと。」
ベルヴィアと聖フィルデスの意見は最もだなと思い、イツキはカクテルをいくつか召喚する。
「カシスオレンジとレゲエパンチとジントニック。とりあえずカシスオレンジから飲んでみようか。ゆっくりでいいからね?ほら水も…。」
「まるでジュースみたいね。わかったわ。」
イツキがララミーティアにカシスオレンジが入ったグラスをスッと差し出す。
ララミーティアはカシスオレンジをチビチビと飲み始める。
ベルヴィアが横から騒ぎ出す。
「私も欲しい!いっぱい出してよ!聖フィルデス様も飲むでしょ?」
「ふふ、それじゃあ私達も頂こうかしら。」
イツキは適当にカクテルを召喚する。
ガレスとルーチェは興味深そうにカクテルを眺める。
「わぁ美味しそう!ルーチェ達は飲んじゃダメなの?」
「何も言われなかったらジュースだとしか思えない見た目だね。俺も知らなかったら飲んじゃいそう。」
「はは、2人はまだ早いかな。とりあえずジュースを出すからそれで勘弁してな。」
そう言うとイツキは子供達のためにジュースを召喚する。
イツキはララミーティアの様子を確認する為に声をかける。
「ティアは大丈夫?水も飲んでる?」
「ええ、大丈夫。ちゃんと罠は設置してるから。それに赤トマリスの実もワンピースに入れたし、弓も矢もしっかり内臓まで処理して凍らせたわ。」
「…そ、そうか。それは良かった。ほら水でも飲んで落ち着こう?」
ララミーティアはニッコリしながら一同に答える。
顔色一つ変えずに喋っているので、一見するとまだ大丈夫そうに見えるが、喋っている内容が既に支離滅裂になっていた。
イツキは努めて穏やかな表情でララミーティアに水を勧める。
(ちょっとっ!目離したらダメじゃない!酒乱モード突入しちゃったわ!)
(そう思うならカクテル出せって強請るなよ!そりゃ目も離すよ!)
イツキとベルヴィアは小声で言い争いを始める。
ララミーティアはニコニコしながらガレスやルーチェに話し掛ける。
「2人ともこれ役に立つ物だからとっておいて。魔物に遭遇したときに歓迎会が出来ないと困るでしょ?擦り傷だってミスリルは魔力が通せないから石がないと大変だしミールの町だって嫌よ。」
「う、うん!…ありがとうティア。」
「…???ティアさっきから何言ってるの?ルーチェこれいらな…モゴモゴ!」
「ほら、水でも飲みなよ!」
ガレスはすぐさまララミーティアの酒乱モードに気が付いていないルーチェの口を塞ぎ、ひきつった顔でニコニコしながらララミーティアにお礼を言って水を勧める。
ガレスとルーチェの前に差し出された物はララミーティアがアイテムボックスに仕舞っていた細瓜数本だった。
ララミーティアは受け取ってもらえた事に満足したのか、ニコニコしながら手元のグラスを一気に呷った。
ララミーティアの喋る内容は既に意図的にバグらせて遊んでいるゲームのようにハチャメチャだ。
「あっ、ティアちゃん!これ以上はいけないわ!お酒の練習はおしまいですよ!」
ララミーティアが一気に飲み干したのはジントニックだった。
慌てて止めに入った聖フィルデスだったが時既に遅し。
ララミーティアは先程以上に酩酊してしまったようだった。
ついに酒乱モードの最終形態に突入してしまった。
「なんら?なにがいけないんら?おわりのはじまりはこれからよ!おみずのんでなにがいけないんら!?いじわるよー!」
ララミーティアが豪快にてガハハと笑い出す。
何とかしてくれと言わんばかりの視線を一同から浴びるイツキ。
「ティアほら。ちょっと一旦外に出ようか。俺ティアと星が見たいなー!」
「わーイツキぃ!すきすき!わらしもイツキのこどもほしい!みたい!」
ララミーティアがよろけながら立ち上がってイツキに抱きつく。
立ち上がった勢いで椅子はそのまま後ろに倒れてしまい、聖フィルデスが慌てて椅子を直す。
「よし!イツキつかまえたぁ!じゃあこどもつくろー!おーっ!」
ララミーティアはそのままイツキを軽々と横抱きにしてしまう。
下手に暴れてララミーティアが倒れたらいけないとイツキは必死でララミーティアにしがみつく。
「わわわわ!降ろして!降ろして!自分で歩けるから平気だよ!」
「だーめー!つかまえたぁ!すぐほかのおんなににげよーとするんらから!だーめ!イツキはわらしのものよ!ぜーったいにだめ!イツキにはちゃーんとわらしのぜんっぶあげるからね?ほらぁ、このからだ、すきにして!めちゃくちゃにして!イツキー、すきすき!だーいすき!あはは!あらおっとっと…。なんかいえがゆれてる?」
イツキを横抱きにしたまま千鳥足で豪快に笑うララミーティア。
イツキはいつ落とされるのか気が気ではなく、ひきつった顔で笑っている。
ルーチェが周囲に質問する。
「ねえねえ、子供って作るものだったの?どうやって作ってるの?」
「お、俺達にはまだ早いよ…。俺だってまだあやふやだし、大人になったらちゃーんとルーチェにも教えるから、今はとりあえずティアをどうにかしよう…。」
「そ、そうですね。まだちょっと早いですね。」
「えー?早いとか遅いとかあるの?ルーチェ成長したよ?」
聖フィルデスとガレスがあわあわしながらルーチェを窘めているうちにララミーティアがイツキを横抱きにしたままフラフラとソファーまで行く。
そしてそのままソファーにイツキをボサッと放り出した。
「わっ!あぶっ!ほら、星を見ようよ?ね?」
イツキは何とか扉を通して酩酊状態を治療したいが、悲しいことにララミーティアにはその意図が全く伝わっていない。
「うんうん、わらしもはやくこどもほしい!みたい!」
「違う違う!『欲しい』じゃなくて星だよ星!お空で瞬く星ね!」
「イ、イツキはこどもいらないの…?わらし…、わらしきらいになったの…?いやだよ…うう…。」
ララミーティアが目をウルウルさせて今にも泣き出しそうになる。
イツキは慌てて否定する。
「おっと違う違う!違うんだなぁ。好きだよ!めっちゃ大好き!で、子供?欲しいに決まってるじゃん!大好きなティアとの子供ね?欲しすぎるよ!そ、その前に2人で星空でも見てロマンチックな気分になろうか?って意味だよ。ね?気分をもっと盛り上げてさ、ね?」
「イツキもこどもほしい?えへへ、うれしー!じゃあそらなんてどーでもいいから、いますぐつくろーっ!うー…こんなものぬいじゃえ!どれ…。」
ララミーティアが着ていたワンピースに手をかける。
ベルヴィアが慌ててララミーティアを止めにかかる。
「どわーっ!ちょっとここじゃマズいわ!ティアちゃん!ここで脱ぐのはマズいって!」
「またおまえ!またイツキをねらうわるいおんなめ!おまえはぬぐな!イツキをたぶらかして…あっこら!やめてー!やめてー!」
ベルヴィアに後ろから羽交い締めにされてジタバタ暴れるララミーティア。
「みんなー!早く何とかしてー!私の力じゃ無理ー!助けて!」
ベルヴィアが半泣きで叫ぶ。
イツキがジタバタするララミーティアを抱きしめ、ガレスやルーチェがベルヴィアを引っ張ってララミーティアから離す。
イツキはそのままララミーティアに重力魔法をかけて身体を軽くしてから横抱きにし、本邸の外へと向かう。
「大丈夫だよティア。子供もゆっくり考えよう。俺達には沢山時間があるから、子供は自然に任せてさ、2人でゆっくり過ごそうよ?俺、ティアとまだイチャイチャしたいなー!?愛してるよティア。」
「うん!ゆっくりすごす!イツキすきすき!すきよー!いちゃいちゃしたい!はやくしよう!」
「そうだね!早くしよう!だから足をバタバタさせないで!ね?」
どうにかこうにかイツキは暴れるララミーティアを抱えたまま本邸の入り口を通過する。
『身体のスキャンを開始します。システムイエロー。バットステータス要素を検知。症状は酩酊。除去を試みます。除去中、成功。』
イツキに横抱きにされたままのララミーティアは突如いつも通りの普通の表情に戻る。
そして段々と顔を赤くして耳をピコピコ動かしてしまう。
「私ったらまたやらかしたのね…。恥ずかしい事に何となく覚えているわ…。忘れたい…。」
「はは、まぁ何事もなくて良かったよ。折角だから星空でも眺めようよ。見てごらんよ、今晩は夜空が綺麗だよ。」
そうしてイツキは重力魔法を解除し、ララミーティアをゆっくりと降ろして2人で並んで座って夜空を眺めた。
「わぁ、本当綺麗ね!空気が澄んでいてよく見えるわ。」
「俺が居た地球は夜空が街の明かりのせいで明るすぎて、ここまでは見れなかったよ。こんな綺麗な星空を愛しい人と一緒に見れるなんて贅沢だなぁと思う。」
イツキがララミーティアの頬を軽く口付けをする。
ララミーティアはイツキの月明かりのような柔らかい愛情に包まれ、幸せそうな表情を浮かべてイツキに身体を預ける。
「今日はごめんね?」
ララミーティアが申し訳無さそうにイツキに謝る。
イツキはララミーティアの唇を奪い、ニコッと微笑みかける。
「気にしないでよ、俺だってみんなが居なかったら多分我慢出来なかったと思う。酔っているティアも俺の事に夢中になってくれているから悪い気はしないよ。」
「本当に?それなら良かった。でもお酒はコリゴリよ。弱いままでいいわ。」
2人は暫くクスクスと笑い合った。
本邸の中ではすっかり疲れきった面々がその様子を透過する壁越しに眺めていた。
「大事に至らなくて良かったですね…。本当…。」
「もうお酒の練習は嫌…。」
聖フィルデスとベルヴィアがホッとした表情で呟く。
ルーチェがガレスに尋ねる。
「お酒飲んだらルーチェもああなる?」
「どうだろうな?流石にあそこまでにはならないと思う。」
イツキとララミーティアは暫く寄り添うようにして夜空を眺めながら座っていた。
それ以降ララミーティアはお酒の練習をしたいとは言わなくなった。
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