64.準備
「みんな安全に運べる何かを考えて頂戴よ、そういうのは地球人の十八番でしょ?」
ベルヴィアが空を飛んでいく案について突然イツキに丸投げして考えることをやめる。
しばらくあれやこれや意見が飛び交ったが、どうしてもみんなを運ぶとなると馬車という意見が多い。
「安全にみんなを運べるってなると、イツキが手に持ったり背負ったり出来ないと話にならないわね。」
「そうなんだよなぁ。馬車とか浴槽をイメージしたけど、そんなデカいものを安全に持てる自身はないかな。」
馬車については風魔法の調整を誤って馬車を破損させたら怖いとイツキが言って却下となった。
殆ど無重力状態になったところを風魔法をイツキ自身の足や背中など身体から発動させて移動しているだけなので、力加減を誤ると馬車に無茶な力がかかって、結果馬車が耐えきれず壊れてしまう気がしたからだ。
「そういえばその重力魔法ってイツキ自身にしかかけられないの?もしかけられるのならみんなにかけてベルヴィアと聖フィルデス様だけは魔法が使えないから、私達で背負って飛べばいいんじゃないの?」
「おお!ティア頭良いな!そういや出来たな!」
「………。」
「………。」
「いやぁ、ティアをお姫様だっこして移動してたから、俺ウッカリしてたわ!悪い!はは、良かったー、本当、はは…。」
気まずい空気が流れる中、イツキが誤魔化しがてら試しにララミーティアに重力魔法をかけて無重力状態に近くしてみる。
ララミーティアは前のめりになったままフワフワと浮き始めた。
「わっ!凄い!私浮いてるわ!」
「ズルい!ルーチェも!」
重力魔法のリクエストはルーチェだけに留まらず、結局みんなを浮かせることにして、本邸の中は一時宇宙空間の様相を醸し出した。
暫くしてベルヴィアが何か閃いたと言わんばかりにニヤリと笑い、ガレスとルーチェに声をかける。
「ガレス隊員!ルーチェ隊員!今からこのベルヴィアクローネ大隊長が面白い物を見せるからよく見てなさいよ!」
「ベル隊長!了解しました!」
「ベル、何をするの?」
いつの間にか子ども達に自分をベルとよばせていたベルヴィアはララミーティアに声をかける。
「ティアちゃんティアちゃん!私にウォーターボールの小さくて弱い奴を打って頂戴!」
「…??え?…なんで?本当にいいの?」
「いつでも来なさい!」
ララミーティアが突拍子のないベルヴィアのリクエストに対して首を傾げながら答える。
それを見ていたイツキが慌ててララミーティアを止めようとするが既にララミーティアの手により小さいウォーターボールは発動していた。
「待った!あーっ!よけろベルヴィア!」
「ぶっ!!!」
ウォーターボールが口をパカッと開けていたベルヴィアの顔に炸裂してベルヴィアがびしょ濡れのまま縦方向にグルグル回る。
「あははは、ベル隊長面白い!あははは!」
「えっ!ベル!一体何がしたかったの…?」
「ちょっと!ベルヴィア大丈夫?」
ルーチェは空中でぐるぐると身を回転させながら爆笑している。
ガレスはポカンとしてベルヴィアを見ていた。
ララミーティアは慌ててベルヴィアの元へ行って顔を拭く。
「水が、水が水玉になって、口でキャッチするやつ…、やりたかったのに…。」
「おいおい、ここ全部が無重力空間になった訳じゃないんだよ?無重力になってるのは俺たちだけだよ…。テーブルとかソファーとか浮いてないでしょ…。あーあ、びしょ濡れじゃないか…。」
「地球人が、宇宙でやってるの見て、いいなぁって…、うぅ…。」
「ふふふ、ベルヴィアちゃん、ふふふ、ほら、ふふふ、お風呂に行きましょう。ふふふ、ふふふ。」
重力魔法は一旦解除して、ララミーティアと聖フィルデスがベルヴィアの両脇を抱えて風呂へと消えていく。
聖フィルデスはベルヴィアの大失敗がツボに入ったようで目に涙を浮かべながらずっと笑っていた。
「イツキ、それ重くも出来るんだよね?」
ガレスがイツキのところに来て質問してきた。
「ん?ああ、もちろん出来るよ?」
「じゃあさ、俺と武器を重くしてくれない?」
ガレスは真剣な表情でイツキを見つめる。
ガレスはいつかのような不屈の目をしている。
この子は自身に敢えて負荷をかけて生活するつもりだ、そう悟ったイツキがガレスに言って聞かせる。
「いいか?ガレスはまだまだ成長するんだ。そんな状況でずっと負荷をかけみろ。ガレスの身体が歪んで成長するかもしれない。だから親としてそれは出来ない。もうちょっと大きくなったら、な?」
「そうなんだ…、わかったよ。だから大きくなるまで忘れないでよ!」
ガレスはきっぱり諦めたようで笑顔でイツキに返事をした。
聞き分けが良すぎて不安になるイツキは、ガレスをそっと抱き寄せる。
「慌てて大人になろうとしなくていい。ゆっくり寄り道しながら大人になれよ、ガレス。それまでは俺とティアがしっかり鍛えてやるし守ってやる。だから、たまにはワガママも言えよ?」
ガレスはイツキの身体に顔を押し付けたままコクコクと頷く。
やがてルーチェもイツキに駆け寄ってきて抱きつく。
「ルーチェも!」
「はは、ルーチェもだ。」
イツキは2人の頭を優しく撫でる。
ララミーティアも近寄ってきてガレスとルーチェの肩を優しく抱きしめた。
翌朝、早速イツキとララミーティアはミーティア集落まで行ってくることになった。
広場にはベルヴィアとその両端にガレスとルーチェが立っている。
聖フィルデスはデーメ・テーヌとテュケーナに一言言っておくといって本邸の中で朝から部屋にこもっている。
「じゃあ行きましょう。んっ。」
ララミーティアが両手をイツキの方へ伸ばす。
重力魔法をかけようと思っていたイツキは一瞬ポカンとするが、意味を理解すると心の中で喜びが沸き立つような気分になった。
「あー!もう!ティア可愛いなぁ!よしっ、行きますよ?お姫様。しっかりお捕まりください?」
イツキは勢いよくララミーティアを横抱きにする。
ララミーティアは賺さずイツキの首に手を回す。
「だって…、こっちの方が好きなんだもん…。ふふ、飛ぶ前にちょっといい?」
「ん?」
まだ何かあったかと一瞬考えるイツキを見てララミーティアはにやっとする。
次の瞬間イツキをグッと引き寄せて唇を奪う。
突然の出来事にイツキは一瞬動揺する。
「飛んでるときは出来ないから、今のうちに。ね?」
「ティア…。」
イツキとララミーティアは微笑みながら視線を激しく絡め合うように見つめ合う。
「いちいちチュッチュチュッチュ!ほら、さっさと行ってきなさいよ…。ひょっとして子供たちの前でもいつもこんな事ばかりしてるの?」
「ベル、今更いいよ。」
「ベル隊長、ルーチェ達慣れてるし、見てると幸せな気分になるからいいよ!」
子供たちの優しい心遣いに対してベルヴィアが大袈裟に2人を抱き寄せる。
「あー健気ねえ!よく悪影響を受けずにここまで育ったわねぇ…。2人とも真っ直ぐに育つのよー?」
ベルヴィアに頬ずりされてニコニコのルーチェと、照れ臭そうに抵抗するガレス。
「わかったよ!わかったから行ってくるよ!」
「ふふ、ちょっとくらいいいじゃない。ちょっと行ってくるわ。」
そういうとイツキは颯爽と空へと舞い上がった。
「私、これからも空を飛んで移動するときはこれがいいわ。いい?」
ララミーティアが赤らめた耳をピコピコさせながらとろんとした上目遣いでイツキに聞いてくる。唇が艶っぽい。
イツキはララミーティアに一層の愛おしさを感じて、身体の中の血がグラグラと沸き立つような気分になるが、ぐっと我慢する。
「と、当然だよ。俺もそっちの方が嬉しい。でもな…。」
「でも?」
ララミーティアが首をコテンと傾ける。
「その、あんまり、朝から煽らないで欲しいな…。今、我慢するのに必死なんだ…。何だかティア、今日は朝から随分飛ばすじゃないか。すごく嬉しいんだけどね…。」
「うーん、そういえばそうね…。言われるまで気がつかなかったけれど、何だか無性にくっつきたくなるわ。まぁ難しい事はいいじゃない。愛おしくて堪らない気分。」
ララミーティアは悪びれもせずにイツキの首に手を回したままでピタリと抱き付く。
イツキは苦笑いを浮かべながらもララミーティアの頬に唇を落とす。
「まっ、いいか。ティアから甘えられるの好きだし。」
「でも集落に着いたら程々にしておかないとね。みんなびっくりしちゃうわ。だから今だけ…。」
そういうとララミーティアはイツキのおでこにおでこをあてて目を閉じた。
「ひょっとして、長命種の身体からのサイン…、いや考え過ぎかな。いくらなんでも情報が少なすぎるね。」
ララミーティアが顔を上げる。
「いつか話した、長命種は子供が出来やすいタイミングの見極めが難しくないか?ってあれ?」
「うん、まぁわかんないね。誰でもそんな日くらいあるよねって話かもしれないし。」
イツキが苦笑いを浮かべてララミーティアを見る。
「焦ることはないわ。難しい事は置いといて、今はこの溢れそうな幸せを目一杯満喫するだけで十分。」
「はは、そうだね。幸せをたっぷり満喫しよう。」
幸せな空の散歩はしばらく続いた。
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