63.宴
2人がミーティア集落から本邸に帰ってきた頃には日もすっかり落ちてしまっており、イツキとララミーティアは本邸の外で待ち構えていたガレスとルーチェからこっぴどく叱られてしまった。
叱った理由として、心配したというよりは「自分達も飛びたかった」という抗議が主な理由だった。
「ルーチェも飛びたかった!」
「一体どこまで飛んでいったのさ!俺達も飛びたかったよ!」
ガレスとルーチェがイツキにすがりついてユサユサと揺すってくる。
イツキは苦笑いを浮かべてそんなガレスとルーチェを抱きしめて捕まえる。
「すまんすまん!後でな、後で!」
「ふふ、そんなに遠くには行ってないわ。ちょっと凄いことになってて、とりあえず中で説明するわ。」
ララミーティアがガレスとルーチェにウインクを送って本邸に入るよう促す。
本邸の中ではソファーでベルヴィアと聖フィルデスが、予めイツキが召喚してパントリーに放り込んでおいたおかしを食べながらくつろいでいた。
「ちょっとぉ…、一体何をしていたらただの散歩がこんな時間になるまでかかるのよ…。あの後ガレスとルーチェから質問責めで大変だったのよ…。」
ベルヴィアは大袈裟に降参のポーズをして疲労感をアピールしてくる。
聖フィルデスはお菓子を食べる手を止めてイツキとララミーティアに声をかける。
「あら、2人ともお帰りなさい。ガレスくんとルーチェちゃんには治癒魔法の練習をさせたわ。それにしても『聖女の力』に対しての信仰心が物凄く高まっていますね。久しぶりにこちらに来て驚きました。」
イツキとララミーティアはソファーに腰掛ける。
ガレスはいつも通り筋トレを始め、ルーチェは治癒魔法の練習をしている。
ララミーティアが口を開いた。
「それがね、実は凄いことになってたの…」
散歩の途中で魔境の森のすぐ近くに新しく集落が出来ていた事。
いつぞや行ったミールの町から独立した人達がミーティア集落という集落を作った事。
聖女ララミーティアを熱心に信仰しており、新しい宗教が生まれそうな勢いだった事。
イツキとララミーティアは1日留守番をやらされた2柱に説明していった。
「あらあら、通りで信仰心が増している訳ですね。それじゃあミーティア集落はこの城塞の範囲内という事なんですね。良かったじゃない、ティアちゃん。」
「ミーティア集落って!それじゃあティアちゃん現人神じゃないの!そりゃ信仰心も爆上がりするわね。だって、信仰心している神様が近所で暮らして自分達を護ってくれるんだもの。信仰心ガッポガッポでウッハウハよ!」
聖フィルデスとベルヴィアはこの状況を楽しんでいるようで、終始ニヤニヤしている。
イツキはふと思っていることを口にする。
「でもさ、聖フィルデス様の名前を彼らは耳にした訳だけれど、この世界の神様じゃない神様の信仰心が高まるってどうなの?デーメ・テーヌ様とテュケーナ様の信仰が廃れるとは思わないけれど、実際に特定の人に加護を与えて人々を護ってくれる3柱目の神様って事で聖フィルデス様が勝手に人々から認識されちゃうと思うんだけど、いいの?」
「確かに私もちょっと気になっていたわ。アテーナイユ様とかミクラノミタマ様の加護はそういう結界魔法だとか土魔法だって誤魔化せるけれど、聖フィルデス様の加護はそういう魔法ですで誤魔化すのはさすがに無理よ。魔物をまとめて消し去るような強力な魔法なんてあるわけ無いもの。」
心配そうにするイツキとララミーティアなどお構いなしといった様子でベルヴィアが手をひらひらさせて軽く言う。
「平気平気!途中で管理している神様が変わったりする事もあるくらいだし、信仰している神様なんて時代によって変化する事も珍しくないものよ。」
「アテーナイユ様とミクラノミタマ様がそう言ってたもんね?」
「うっ…、憶えてるのね…。」
得意気に語るベルヴィアの鼻をとりあえず折っておくイツキ。
聖フィルデスがお菓子を食べる手を止める。
「そうですねぇ。ただ、一応デーメ・テーヌとテュケーナには一言断りを入れて、筋を通しておいた方が良いかもしれないですね。」
ベルヴィアが急にテーブルをバンと叩き、前のめりになってイツキとララミーティアに顔をググッと接近させる。
突然の出来事に仰け反るイツキとララミーティア。
こういう行動は、ベルヴィアが厄介なことを言い出す時の合図だ。
「そんな事より祭り!祭りをやりましょう!」
「おいおい、そんな事って…。」
「神様がそれを言う…?」
イツキとララミーティアが呆れてベルヴィアを見る。しかしベルヴィアはそんな事ではへこたれないと言わんばかりに目を輝かせている。
ララミーティアは首を傾げる。
「それで?どうしてお祭りなの?」
「お祭りっていうのはね、本来神様に感謝するイベントなのよ!子らがね、その日だけは特に神様に祈願してくれるわ!何にもやらないよりやった方がいいに決まってるわ!それにどうするのよ、考えてみなさい?もし後世で勝手に『ララミーティア様に生け贄をー』とか言って幼気な子供を捧げ出したり、大怪我するような喧嘩祭りになっちゃったらどうするのっ?」
「えぇ…、どうするのって…。」
ララミーティアはベルヴィアに圧されてタジタジになる。
「ねえねえ、ララミーティア様ってなんか怖い人だったの?血の気が多くて喧嘩っ早い人だったから喧嘩祭りになったのよ、おほほってなったら困るでしょ!?」
「ま、まぁ…良い気はしない…かしら。」
「ね!でしょ!こういうのは出だしが肝心よ!」
ベルヴィアが鼻息荒くララミーティアにまくし立てる。
聖フィルデスはカシューナッツをゆっくり食べながらベルヴィアを窘める。
「ふふ、ベルヴィアちゃんは大袈裟ですけれども、確かに何か決まったお祭りがあると、辛いときや苦しいときでも一時の安らぎを与える物ですよ。せっかくティアちゃんに集まってきたんですもの。もしやるとしても、何かこの世界にあっても不自然ではない食べ物を召喚して振る舞うとか、イツキくんが歌ってみせるとか、そんなささやかな感じでもいいと思いますよ。」
イツキとララミーティアは困った表情を浮かべて顔を見合わせる。
「うーん、これから集落を作ってゆくって忙しい時なのにさ、俺とかティアからそんな提案されたら集落の人達は断りづらくない?」
「そうよ、私達から押し付けるようで変に気を使われるかもしれないわ。『この忙しい時にー!』って。」
ベルヴィアは人差し指を左右に振って「チッチッチ」と古臭いポーズを取る。
「甘い。2人とも今日の出来事を客観的に振り返ってみてよ?いい?」
ベルヴィアが指を一本ずつ小指から順番に立てながら説明を始める。
「畑をいっぱい広げてきて、その畑を豊作間違い無しの状態にして、集落の病人や怪我人を全員治してきて、大量の食糧を渡してきて、挙げ句結界で集落を難攻不落の砦状態にしたのよ?あの集落はこの大陸中が連合軍になって責めてきても落とせないわ!数えるのが片手じゃ足りなくなるところだったくらいに、そんな奇跡みたいな出来事が急に舞い込んで、小さくも慎ましい集落の人々は一体今何に忙しいのよ!」
「ルーチェもそう思う!お祭り行ってみたい!」
座っているベルヴィアに横から抱き付いたルーチェがベルヴィア派に回る。
ベルヴィアは「あらー、ルーチェは偉い!」と言って頭をわちゃわちゃと撫で回す。
ガレスもいつの間にか覚えた洗浄魔法で汗を吹き飛ばしてこちらに向かって口を開く。
「イツキとティアは感覚が麻痺しているかもしれないけれど、普通は魔物や盗賊に襲われない町や村なんて無いんだよ。ましてや集落なんて尚更だよ。怪我や病気を治せるほど金も余裕もない。俺もそんなに心配する事はないと思うな。後さ、ルーチェもだけど俺もお祭りって行った事がないから、行ってみたいな。」
ガレスの意見に大袈裟にうんうんと頷くベルヴィア。
聖フィルデスがお土産で貰った木彫りのララミーティア人形を見つめたままで喋る。
「それにね、開拓は大変でしょうに、こんな物まで作るくらいティアちゃんを慕っているのですよ。私は胸が熱くなる思いです。彼らは決してお2人を邪見にする事なんて有り得ないと思いますよ。『お祭』なんて大袈裟な物でなくても、交流会とかお食事会みたいなつもりでいいかと思います。」
聖フィルデスがララミーティアとイツキに優しく微笑む。
イツキとララミーティアはしばらく見つめ合って小声で相談しつつ、決心が固まったのかイツキは自身の両膝をパンと勢いよく叩いた。
「よし、明日ティアと2人で集落に行ってさ、集落のみんなを歓迎したいって名目で打診してみるよ!」
ガレスとルーチェは手を叩き合って、まるでこれから散歩に行く犬のようにクルクルと年相応にはしゃぎ回った。
ベルヴィアはぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいるうちにテンションが上がりすぎたのか、妙な調子の歌を歌いながらまるでタコ踊りのような奇妙な舞を披露する。
「はぁ~!まつぅりだ!まつぅりだ!まつぅりだ!ミーティアまーつーりーっ!あそれっほいっ!ほいっ!」
それを見てルーチェはゲラゲラ笑いながらベルヴィアの後ろについて同じ奇妙なタコ踊りを始める。
ガレスはそれを見ながら腹を抱えて笑い転げていた。
ヤレヤレと微笑みながら見ていたイツキとララミーティアも溜まらず吹き出してしまい、聖フィルデスも「こら、みっともないですよ!」とベルヴィアを窘めて居たが、そのうちに何故か体を張ってタコ踊りを踊るベルヴィアの姿に笑いが止まらなくなってしまう。
その後疲れたベルヴィアと聖フィルデスもあれやこれや祭りについて意見を交わしており、ルーチェとガレスも祭りとはどんなものなとアレコレ意見を交わしていた。
ララミーティアは麦茶を飲みながらイツキに質問をする。
「ねえイツキ、どうやって皆をミーティア集落まで連れてくの?」
「おっ!おぉ。おー…?」
誰もそこまでは考えていなかった。
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この段階でのミーティア集落の規模は100人程度の規模となります。
その殆どの9割がランブルク王国のミールの町からの移住組で、極わずかに周辺の別の町から噂を耳にしてやってきた少数種族だったり、冒険者パーティーが所有していた奴隷が逃げ出してきたりという者が1割です。
冬から春にかけて10名程のその手の者が増えたことから、ミーティアの集落の噂の広がり方を考慮したシモンはこの先あっと言う間に建物が足りなくなると危惧していました。





