閑話.野営の練習
ガレスとルーチェが中級ウィンドウ魔法を覚える直前の野営の練習の日の話です。
中級ウィンドウ魔法を覚えると時間経過するアイテムボックスが使えるようになります。
中級ウィンドウ魔法は要求される必要魔力量がそこそこ高い設定ですので、人族や獣人系種族は余程の手練れじゃないと覚えられません。
「じゃあ今日はこの辺でテントを張りましょう。ガレス、ルーチェ。出来る?」
「うん。よし、ルーチェ。やろう!」
「やろーやろー!ティア、出してー!」
ここは魔境の森のカーフラス山脈方面の少し開けた場所。
ガレスとルーチェに野営を教えるという事で4人で雪が残る魔境の森を歩いてやってきていた。
日も大分傾いてきてからララミーティアが野営をするのに良さげな場所を見つけて腰を下ろした次第だ。
ガレスやルーチェにも野営場所を決める時間帯や、なぜこのロケーションなのかについて丁寧に分かりやすく説明するララミーティア。
教える側だった筈のイツキもガレスやルーチェと並んで関心事ながら聞いていた。
ララミーティアは一通りの道具をボトボトと自身のアイテムボックスから出して地面に並べる。
「でもこの時期はまず地面の整備よ。やり方はわかるわね?」
ララミーティアがそう言うとガレスとルーチェが手分けして火魔法と風魔法を組み合わせて手際良く辺りの雪を溶かして乾かしてゆく。
「よし、こんなもんでいい?」
「ルーチェたち上手になった?」
ガレスとルーチェはララミーティアに駆け寄る。ララミーティアは2人の頭を撫でて微笑む。
「ふふ、2人とも上手よ。じゃあテントを立てられるかしら。」
「はーい!ガレスやろー!」
「そうだな。よし!」
そう言うとガレスとルーチェはララミーティアから出してもらったテントを身体強化をしながら手際良く建ててゆく。
身長が足りない部分についてはガレスがルーチェを肩車したり身体強化を駆使したジャンプで補いつつあっという間にテントを完成させる。
テントはぎゅうぎゅうながら4人並んで寝られる程度に大きい。
「いやぁ、手際良いなぁ。ガレスとルーチェは本当に凄いね。」
イツキが邪魔にならないスペースに敷いたレジャーシートにララミーティアと並んで座りながら腕を組んで感心している。
ガレスとルーチェはその辺から拾ってきた石を組んで竈門を作っている。
「ええ、まだ子供だって言うことを忘れてしまいそうなくらい手際が良いわ。」
「ティアの教え方が上手いんだよ。無駄がなくて丁寧。出来たら先に良かった点をちゃんと誉めて、至らなかった点はアドバイスのように指摘。ティアはね、1つ指摘するのに2つ3つ必ず誉めてるんだ。特に意識しないでやっていたのなら、ティアは天性の教え上手だよ。元居た世界で人を教える方法を学んだ俺が言うんだから間違いないよ。ティアは凄い。」
イツキが微笑みながらララミーティアを褒め称える。
ララミーティアは耳をピコピコ動かしながらイツキに寄りかかる。
「嬉しい。イツキに誉められると蕩けてしまいそうになるわ。とろーんとして甘えたくなるの。」
「俺も甘えられたくなっちゃうな。いつもしっかりしたティアがとろんとした顔して甘えてくるんだ。甘えるティア、色っぽく微笑むティア、お茶目なティア、ぷくっとむくれるティア。どんどんティアに溺れていくよ。」
「ねえ!溺れる前にちゃんと出来てるか少しは見てよ!」
すっかり2人の世界に入っていたイツキとララミーティアにガレスがツッコミを入れる。
「アハハ!放っておくとあれになりそうだね!イツキとティアが夜お布団でガサゴソ仲良くしてるあれ!」
「わっ!それは黙ってあげろ!こら!」
「えー?なんモガッ!!モガモガッ!!」
無邪気なルーチェの口を慌てて塞ぐガレス。
イツキとララミーティアは自分達のアレコレが見られていたとはつゆ知らず、顔を真っ赤にしてしまう。
しかもガレスは全て察しているようで益々恥ずかしくなる。
「あーははは。俺とティアは仲がいいからなー。お布団の中でもくすぐり合ったりしてついついふざけちゃうんだ。ねえ?」
「そ、そうね。ついついね、ついつい。」
「そうだぞ。大人でも仲がいいと中々寝ないんで遊ぶんだ。な、なあ?イツキ。」
ガレスは慌ててイツキに話を振る。
「そうだな。そうなんだな。」
「へー。そうなんだね。ルーチェ、大人はお利口さんだと思った。」
「さ、ほら!ルーチェ、火をおこすぞ。」
ガレスはイツキとララミーティアに抗議の視線を送りつつルーチェに促して竈門に火をおこす。
イツキとララミーティアは眉を八の字にして申し訳無さそうにして、ララミーティアはガレスにウインクを送る。
「音を遮る結界みたい事って出来るかな?隠蔽魔法と組み合わせてさ…。」
「遮音結界はあるわ。まだ子供だからって完全に油断してたわね…。ガレスに至っては全部察してたわ…。反省ね。」
しばらくして辺りがオレンジ色に染まる頃漸く野営の準備が完成した。
「上出来よ。配置も完璧、ちゃんとテントも張れているわ。用を足す場所もちゃんと考えられているわね。強いて言えばコンロ、上手に組過ぎね。少し隙間があった方が火が良く燃えるわ。後、鍋なんかを使う時は丈夫な木を3本縄で組んで吊すのもオススメよ。火力調整が楽なの。」
そう言うとララミーティアは自身のアイテムボックスから木と縄で組んだトライポッドを取り出してコンロに設置してみせる。
地球に居たときもアウトドアグッズで金属製のものがあったし、現にイツキも持っていた物なのでその出来に感心してしまう。
「へぇ、ティアは凄いや!勉強になったよ。」
「ティアカッコいい!」
ガレスとルーチェはララミーティアを誉める。
「さ、それじゃあ日が落ちる前にご飯の準備をしましょう。」
ララミーティアがパンパンと手をたたいて一同を促す。
イツキとガレスは森へ乾いた枝や座るための平べったい石を探しに行った。
その間ララミーティアとルーチェは調理を始めた。
ルーチェもこの頃は徐々に調理の腕を上げていて、ララミーティアの足を引っ張ることもなくなっていた。
夜になり一同は拾ってきた程よい大きさの平べったい石に腰をかけて食事を取ることにした。
作った物は以前採集してきた野草や野菜や肉で作った野菜スープだ。
後はララミーティアがアイテムボックスからえん麦を粉にしたものを取り出し、その中に水と砂糖を練り込んだ。
竈門の中の石にこねて平べったくしたオートミールを置いて焼いた。
暫くするとちょっとしたパンが出来上がり、それをスープに浸しながら食べると中々の物だった。
「即席でこんなパンが作れるなんて、ティアは本当に凄いな!これスープに浸さなくても美味いよ!」
「スゴい!ティアは天才ね!」
ガレスとルーチェは興奮しながらオートミールパンをスープに浸してパクパク食べる。
「ティア、美味しいよ。ティアが奥さんで幸せだなぁ。」
「ふふ、そんなにみんなに誉めて貰えると嬉しいわ。」
ララミーティアは耳をピコピコさせながらはにかんで見せた。
夜になり焚き火を囲んでいる時に、イツキが鉄の串とマシュマロを召喚してみせる。
マシュマロを串に刺して焚き火の中にいれ、しばらく焼いて取り出すとガレスとルーチェ、そしてララミーティアにもマシュマロを渡す。
「これは俺が居た世界でこうして焚き火をするときに食べるんだ。美味しいよ。」
そう言ってイツキはハフハフ言いながらマシュマロを頬張って顔をくしゃっとさせる。
それを見てララミーティアが食べ、ガレスやルーチェもララミーティアに続く。
「わぁ!美味しいわ!」
「うん!美味い!」
「甘いー!ルーチェこれ好き!」
3人はその甘さに驚いてどんどん焼いて食べる。
イツキはそんな3人を見て顔をほころばせた。
夜も更けて、ララミーティアはガレスとルーチェを引き連れてテントの周りに大きめの魔核を軽く埋め込む。
魔核はテントを囲むように四隅に埋め込んでからガレスとルーチェに視線を送る。
「簡易結界の張り方は憶えているわね?」
「ああ、ルーチェはそっちの2つ頼む。」
「うん!」
そう言うとガレスとルーチェが手分けして大きめの魔核に魔力を込めてゆく。
やがてテントの辺りに淡い光が溢れ、結界が完成する。
「よく出来たわ。大きめの魔核は町では高値みたいだけどそれは2人にあげる。一つ一つに結界魔法が込められているけれども、そうやって囲めばこのテントくらいの範囲は守れるわ。」
「本当?いいの?これ高いんでしょ?」
ガレスが心配そうにララミーティアに尋ねるが、ララミーティアはウインクをしてガレスに返す。
「もういらないの。私はもうイツキが居るから放浪はしないし、もう使う必要はないわ。だからこれからはガレスとルーチェが使ってね。」
「ありがとう!本当に嬉しいよ!」
「これ使ったらティアに守られてるみたいね!」
ルーチェがニコニコしながらララミーティアに抱きつく。
ララミーティアはそんなルーチェを愛おしそうに撫でながらガレスも手招きする。
そしてはにかみながら近寄ってきたガレスも抱き寄せる。
「これからもずっとずっと私はあなた達の母親よ。いつだってあなた達を想っているわ。」
「お、そういう事なら俺も混ぜろ!」
イツキが慌てた様子でララミーティアたちにをまとめて抱き締めるようにしてくっつく。
4人はそのままクスクス笑いあった。
夜中になりイツキとララミーティアが挟み込むようにしてガレスとルーチェが間で寝ている。
イツキが尿意を覚えて、起こさないようにそっと外にでる。
ガレス達が用意した場所で済ませてからふと空を見上げると満天の星空が広がっていた。
暫く夜空を見上げているとガレスがテントからそっと出てきた。
「イツキ、どうしたの?」
「お、ガレスか。ほら、見てみなよ。星が綺麗だよ。」
イツキが上を指差すとガレスが星空を見上げる。
「…綺麗だね。ルーチェとトゥイールの町で見上げていた星空と同じだ。あの頃は綺麗だなんて思う暇は無かったけれど、こうして星空が綺麗だと思える事が幸せだよ。」
「綺麗な物が綺麗と思えるということは幸せな事だね。ガレスの心にも綺麗な物が綺麗だと思えるゆとりが出来た証拠だ。」
イツキがガレスの頭に手を置く。
ガレスはイツキの顔を見て照れ臭そうに微笑む。
「本当にありがとう。一緒にワイワイご飯を食べたり、色々教えて貰ったり、こんな風に過ごしたり、両親が居るってきっとこんな感じなのかなって最近思うよ。ルーチェは何となく母親の記憶はあるけどさ、俺どっちも全然知らないんだ。だからよくわかんないけどね。」
ガレスは寂しさを我慢するように笑いながらそうに呟く。
イツキはしゃがみ込んでそんなガレスをギュッと抱き締める。
「ガレス、俺とティアが両親の思い出をこれから作ってやる。ちゃんと出来るかわかんないけどさ、だからそんな寂しそうな顔をするなよ。」
「イツキ、ありがとう。俺の父さんはイツキだけだよ…。」
ガレスがイツキに顔を埋めて抱きつく。
テントからララミーティアとルーチェはニコニコしながらその光景を眺めていた。
ルーチェは素直な設定なのでこの手の話が書きやすかったのですが、ガレスはしっかりしているし男の子なので難しく、漸くこの手の話をねじ込めました。
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