58.幸せな食卓
辺りがすっかりどこもかしこも夕焼け色に染められた頃、イツキとガレスは本邸がある広場まで戻ってきた。
広場だけは冬が終わったように大地が顔を出しており、雪の中をずっと歩いてきた2人は歩きやすくなった地面にホッとする。
本邸の前に到着するとイツキが自分とガレスの身体を洗浄魔法で綺麗にする。
ガレスは綺麗にして貰っている最中にイツキへ質問する。
「もう中に入っても大丈夫だよね?」
「うーん、まぁいいんじゃない?俺チラッと確認してくるよ。」
そういうとイツキは一足先に本邸の中に入る。
中にはいるとダイニングテーブルには夕食がずらりと並んでおり、入り口に向かうようにララミーティアとルーチェが座っていた。
イツキが声をかけようとすると、グスグスと泣いているルーチェに気がつく。
「ティア、どうしたの?」
「ああ、イツキ。おかえりなさい。あのね…。」
ララミーティアが説明するに、ルーチェはガレスを喜ばせたくてララミーティアから教えて貰いつつ料理を作ってみたようだ。
しかし思ってたような仕上がりにならず酷く落ち込んでグスグスと泣いているとの事だった。
「ガレス、ガッカリする…。喜ばせたかったのに…。」
「ガレスはそんな男じゃない、俺が保証するよ。ルーチェ、心配するなよ。ほら、笑顔でおかえりなさいってガレスを迎えてやってよ。」
「そうよ、イツキの言うとおり。安心しなさい。誰でも初めは思い通りに行かないものよ。」
ララミーティアはそう言ってルーチェの頭を優しくポンポンと叩くと、そのまま本邸の外でぼんやり立っているガレスを呼びに行った。
イツキはルーチェの背中をさすりながら「大丈夫」と何度も繰り返す。
「ただいま。お!晩御飯か!お腹減ったー。」
ガレスがそのままどっかりとダイニングテーブルのルーチェの隣に座る。
そしてルーチェが泣いている事に気がついて慌てて声をかける。
「ルーチェ!どうした!何かあったのか!?」
「ガレス…、ごめんね…。」
俯いて肩を震わせるルーチェの肩に手を置いて必死に聞き出そうとするガレス。
イツキとララミーティアはそんな2人の前の席に座り、そんな様子をじっと見守っていた。
「大丈夫か?何があったんだ?」
「ガレスに、…喜んで欲しくて、ルーチェご飯作ったの…。ティアに教えて貰ったのにね…、全然上手に出来なかったの…。ごめんね…。」
野菜や肉がゴロゴロ入った赤トマリスのスープに、ズッキーニのような物をハーブで炒めたもの、マッシュポテトがテーブルに並んでいた。
確かにスープの中に入った野菜は形がちぐはぐ、肉は少し焦げている。ズッキーニのような物はスライスしてあるその厚さがマチマチで、マッシュポテトはまだ多少ジャガイモの形が残っていた。
ガレスはテーブルをじっくり見渡す。
「これ、全部ルーチェが作ったのか…?」
「…うん。」
「凄いよ!凄いじゃないか!早速食べてみてもいいか?」
「うん。」
そう言うとガレスは急いで『いただきます』をして目の前の料理を次々に口へ放り込んでいく。
「美味い!凄い美味いよルーチェ!」
「でも!形はグチャグチャだし、焦げたり、ティアみたいに上手に出来なかったの!…ガレスに喜んで欲しかったの!帰ってきてこんな変な料理があったら、ガレス、ガッカリするんじゃないかって…。」
ガレスは食べる手を止める。
「変じゃないぞルーチェ。俺は今嬉しい。俺のことを考えて、俺が喜ぶことをしたいって考えて、…真っ直ぐ、俺のことを…。本当に嬉しい。」
ガレスがルーチェの握り締めた拳に手を重ねる。
イツキとララミーティアがルーチェに優しく語りかける。
「ルーチェ、この世で一番美味い物は、知らない料理人が作った物でも、凄く見た目が綺麗なものでもない、大切な人が自分のことを一緒懸命想いながら作った物だよ。」
「そうね。大切な人のことを考えながら作った料理を、大切な人達とワイワイ食べるのが一番美味しいわ。」
「ルーチェ、食べてごらん。」
ガレスはそう言うと手元のスプーンでスープを掬ってルーチェの口元へ運ぶ。
ルーチェは徐に口を開けてスプーンを口に入れてスープを味わう。
「ありがとう、ガレス。ありがとう、2人とも。美味しいかも。」
「よし!改めて『いただきます』しようか!」
そうして賑やかな夕餉が始まった。
ルーチェの作った料理は形はともかくとして、味は中々のものだった。
「なんか随分心配していたみたいだけれども、美味いよこれ。」
「そうなの。美味しいの。美味しいんだからガレスがガッカリするわけ無いわって言っても落ち込んじゃってね。」
イツキとララミーティアの反応を聞いてモジモジするルーチェ。
「だってね、ティアが作ってくれるものとか、イツキが召喚するものに比べたら、ルーチェが作ったのは、なんだかみっともなくて…。」
「みっともなくてもいいじゃないか。俺はルーチェが作ってくれた料理が一番好きだ。」
ガレスは手元のスプーンでスープの具を弄りながら独り言のように呟く。
「ついこの前までは、俺が守ってやらなくちゃいけないんだって思ってたあのルーチェが俺のために料理を作ってあげたいって思って…、一緒懸命作ってさ。この具の一つ一つにルーチェの真っ直ぐな気持ちが入っているんだと思うと胸がいっぱいになるんだ。」
ガレスはスプーンを置いて、改めてルーチェの方を向く。
「だからみっともなくてもいい。ルーチェ、俺は幸せ者だ。ありがとうな。」
「うんっ!」
そういうとルーチェはガバッとガレスに抱きついた。
コップが倒れそうになり、前の席に座っていたララミーティアが慌てて手を伸ばしてコップを受け取る。
そんな姿をイツキとララミーティアもニコニコと見守っていた。
「そういえば、このハーブで焼いてるこれ。なんて名前の野菜なの?」
「これは細瓜よ。」
「へぇ、懐かしいなこれ。赤トマリスのスープも細瓜も、初めてティアに作ってもらったヤツだ。あれから半年以上経ったんだなぁ。」
イツキがフォークに刺した細瓜のハーブ炒めをひょいと口に入れる。
「初めて会った日ね。初めて会って、初めてキスもしたわ…。もう幸せなのが怖いとは思わなくなったわね。」
「はは、確かに。俺もティアが隣にいるのが当たり前になって、怖いとか信じられないとは思わなくなったな。」
ララミーティアも細瓜のハーブ炒めにフォークを刺して口へと運ぶ。
「初めて会った日と言えばやっぱあれだね。『貴様!先程から何故ジロジロと見ているんだ!』って。」
「もうっ!イツキだってニヤニヤヘラヘラして『本当にチラチラとすいません!凄い綺麗な人だなと思っただけなんですー』って!お世辞ばっかり。」
頬をぷくーっと膨らませて耳をピコピコさせるララミーティア。
イツキはララミーティアの頬を人差し指で突っついて頬を萎ませる。
「お世辞じゃないよ、看破魔法で確認してるでしょ?本心だよ、あの時も、今も。」
「ふふ、もう。イツキったら。」
イツキとララミーティアがクスクスと笑いながら見つめ合う。
「2人ともちゅーする…モゴモゴ!」
「こら!ルーチェ!」
ガレスが慌ててルーチェの口を手で抑える。
ガレスとルーチェがじっと見ていることなど完全に忘れて2人の世界に居たイツキとララミーティアは慌てて照れ笑いをしながら離れる。
「何というか、本当に仲が良いよね2人は…。」
「いやー、はは…。」
ガレスの言葉に頬をポリポリと掻きながら笑って誤魔化すイツキだった。
「短剣?あるけれど、そんなのどうするの?」
ララミーティアは不思議そうにイツキに尋ねる。
既にガレスとルーチェは就寝しており、イツキとララミーティアはソファーで並んで座ってくつろいでいる所だった。
「今日ガレスと森へ行ったんだけどさ、ガレスは短剣に興味があるみたいで、そろそろ何か渡してあげたいんだけれども、如何せん俺ろくな物持ってないしさ…。」
イツキは頬をポリポリ掻きながら申し訳無さそうに言う。
ララミーティアはアイテムボックスのウィンドウを見ながらぼやく。
「うーん。よく覚えてない物ばかりね…。とりあえず床にでも並べてみましょう。」
そう言ってララミーティアが次々と床に短剣と思われる武器を並べていく。
長さが20センチから70センチくらいまで様々な剣が次々と現れる。
「おお!かっこいいなー!壮観だなぁ。」
「こうして見るとよく集めたなと自分でも思うわ。ちなみに渡すなら比較的新しそうで剣身と柄の部分がしゅっとしすぎてない真っ直ぐな物がいいと思うわ。ガレスはいなす感じでも使うでしょうから、ガード部分もしっかりしてそうなのがいいわね。」
ララミーティアが剣身と柄の部分が括れて、剣身に模様が刻まれていて、ガード部分が何か植物の蔓のように緻密な形をしている小剣を手に持ってみせる。
「こんなのはダメよ。てんで実用的ではないわ。」
「へぇー、一見すると如何にも高そうなのにね。相変わらずティアは博識だなぁ。」
ティアが照れ笑いを浮かべながら耳をピコピコさせる。
手に持った実用的ではない小剣をポイと投げ捨てる。
「照れるわ…。ほ、本当に役に立つのはこういうのね。」
そう言って手に取った物は、ガード部分の片方が曲線を描くように上向きになっていて、もう片方が同じく曲線を描くように下向きになっている。剣身は30センチもないかなという程で、柄と合わせても50センチはなさそうなショートソードとも短剣ともつかないものだった。
その外の部分はイツキから見ても平凡そのもので、正直この中からは決して一番に選ばないだろうなというようなものだった。
「無駄なギミックがない、無骨な物よ。こういうのは壊れにくいし、変な癖がなくて使いやすいわ。」
「そう言われてみれば確かにしっくりくる気がするなぁ。」
イツキもララミーティアから受け取って構えてみる。
一通り動いてみて問題なさそうな事を確認してララミーティアへ返す。
「いいね。ガレスにはこれを渡そうかな。」
「ルーチェはどうするの?短剣くらい持たせてもいいと思うけど。」
「そうだなぁ…。」
そうして2人であれやこれや悩んで、結局イツキが持っている魔剣と同じシースナイフを選んだ。
2人に渡すのはイツキからと言うことで、結局イツキのアイテムボックスへ収納する事にした。
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