閑話.お父さんとお母さん
ある日の晩の出来事です。
珍しくイツキとララミーティアはベルヴィアと天啓ウィンドウでやり取りをしていた。
ベルヴィア発信の天啓で、内容は『これまでの召喚についての報告』との事だ。
最近は魔力消費量について特に意識をせずにミーティア集落の為にガンガン使っていたので、イツキとララミーティアは使いすぎた事についてのお小言かと少し心配していた所だった。
しかしベルヴィアはそんな心配とは裏腹に終始ニコニコ顔で上機嫌だ。
『ここ最近随分調子がいいじゃないー。ガンガン召喚してくれるから魔力量の推移も順調順調!』
「結構さ、食べ物とかドンドン出してるから、ちょっとやり過ぎかなと心配してた所だよ。」
「あれだけ召喚したのに順調なの?」
ララミーティアが尋ねるとベルヴィアが腕を組んでうんうんと頷く。
『野菜とか食べ物とかって本当大したコスト掛からないから、別に気にしなくて良いわよ。それよりそれよりっ!そんな事よりっ!何かもっとデザート召喚してよ!朧気な記憶でどこまで攻められるか検証しよう検証!』
早速本性を現したベルヴィアに対しジト目で天啓ウィンドウを見つめるイツキとララミーティア。
報告なんて二の次で、結局あくまでデザート目的だったのだ。
「『そんな事』ね…。」
「馬脚を現したな。報告なんて随分律儀な事をするようになったんだなぁと思ったけど、やっぱりだ。」
『ちゃ、ちゃんと色々シミュレーションしたり報告をまとめたりしてるわよ!ほら!今画面に証拠を出すから!』
ベルヴィアがそう言うと画面がパッと切り替わる。
切り替わった画面を見てイツキが思わず声を上げた。
「うわ!ちっさ!改行もしてないじゃんか!これ何?参考資料?新手の嫌がらせ?」
出てきた画面は目を凝らしてもよく見えないゴマ粒のような文字がびっしりと書かれた画面だ。
イツキは言語理解スキルのお陰で何とか文字と理解出来るが、そんなスキルを持ち合わせていないララミーティアにとってしてみたら縞模様が書かれた画面だ。
『う、うるさいわね!参考資料じゃないわよ!プレゼンテーションよ、プレゼンテーション。』
「えーっ?こんな画面パッと見せられても困るだろ!誰が一目で理解出来るんだよこれ。文字読めないから何が言いたい画面なのかさっぱり分かんないよ!」
ララミーティアがイツキとベルヴィアのやりとりを聞いて驚いて声を上げる。
「ええっ!?これ文字なの?しましまの模様じゃないの?」
『むむっ、失礼ね!立派に文字ですぅー!これまで召喚したものの名前と魔力消費量を書いて纏めたんですぅー!』
ベルヴィアは顔を真っ赤にして反論するが、事実何を伝えたい画面なのか言語理解スキルがあるイツキでさえさっぱり理解出来ない。
ベルヴィアはどうやら資料作成のセンスが壊滅的らしい。
「纏めたって羅列しただけじゃないか…。せめて大項目を決めようよ。食品とか衣類とか食器とか分類分けしてさ。大項目で円グラフとか作って、何がどんだけ消費してますみたいなさ、その後のページに大項目ごとの消費量順にリストを載せるとか。飴一粒いくらみたいな細かすぎる値は割愛しなよ?」
『そ、そうね…。こう?』
暫く天啓ウィンドウ内で図形などが慌ただしく動き回り、何とか見られる資料の画面が出てきた。
イツキがあれこれと指示を出しながらベルヴィアが素直に言われたとおりに画面を作ってみせる。
「そうそう。画面がうるさいとみんな見ないよ。1ページあたりの情報量で大渋滞を起こさない方がいい。」
イツキの指導の元、ベルヴィアがその場でせっせと画面を構成し直す。ララミーティアはその物珍しい光景にイツキの腕に手を絡ませながら興味津々で眺めている。
『こう?』
「天界ではモノクロ画面しか対応してないの?色当てゲームじゃないんだから、灰色ばかりじゃなくてベースカラーを決めて濃淡でメリハリをつけて分かりやすいようにしなよ。」
『ほうほう、なるほど…!こう?』
「そうそう、いいね。それでさ、一番強調したいやつをベースカラーの反対色にすると凄く目を引くでしょ?『あぁ、この分野を重点的に召喚すればいいんだな』って。」
イツキの指導の元ベルヴィアがうんうん納得しながら作業を進めてゆく。
普段滅多に見られない仕事モードのイツキの姿が新鮮なララミーティアは邪魔をしないようドキドキしながらもイツキの真剣な姿を盗み見る。
(ああ、真剣なイツキカッコいいわ…)
「おいおい、誰が誰を好きで誰がライバルとか書いてるドラマの登場人物の相関図じゃないんだからあっちゃこっちゃ矢印だらけにするんじゃなくて、もっと同じ図形をさ、同じ行とか列とか規則性を持たせて配置しなよ。流れを決めてさ、読み手にこれの規則性を理解してもらうの。そうすると矢印なんて最低限で済むでしょ?」
『なるほどなるほど、こんな感じ?』
「図形の見た目がうるさいなぁこれ。影とかいらないし枠線もいらないよ。同じ形で整列させたら別に枠線なんて無くても分かりやすいと思うよ。そうそう、うんうん、いい感じ。」
『おー、いいねいいね!分かりやすい!私が作った資料じゃないみたい!』
やがてイツキ指導の元、ベルヴィアのプレゼンテーション資料が完成した。
天啓ウィンドウは元のベルヴィアの映る画面に切り替わり、ベルヴィアは天啓ウィンドウの向こうで大喜びだ。
『イツキありがとうー!頑張ったご褒美ちょうだいよー!』
「えぇ…、あげるじゃなくてちょうだいなの!?どっちかって言うと善意で指導した俺の方がご褒美じゃないの?」
「ふふ、ベルヴィアはどこまで行ってもベルヴィアねぇ。」
相変わらずのペースにイツキとララミーティアはつい笑ってしまう。
『たまにはいいじゃない!どこで見たものとか、多分こんな味がするとか、人が食べてる姿とか、兎に角少しでもヒントをちょうだい。こっちで頑張れば特定出きるかも!』
「そうだなぁ。食べたこと無いんだけどいけるもんなのか?召喚、イチゴサンデー。」
物は試しとイツキはたまに行っていたデカいサイズばかりを提供する珈琲チェーンで見かけたデザートを召喚してみる。
すると目の前に2つ、天啓ウィンドウのベルヴィアの前に一つイチゴサンデーが出てくる。
「わぁ!綺麗ね!うわぁ!」
『やほーい!イチゴサンデーきたーっ!それじゃあありがとね!』
そういうと天啓ウィンドウが突如消えてしまう。
イツキとララミーティアはあまりの出来事に暫くあ然としてしまうが、やがて2人揃って失笑してしまう。
「結局ベルヴィアの手伝いをしただけだったな…。まぁとりあえず明日にでもガレスとルーチェの分も召喚して振る舞うかね。」
「そうね。でもその前に私からもご褒美。」
ララミーティアが悪戯っぽく笑うとイツキの顔を両手で掴み、グイッと自分の方に向けるとそのまま激しく唇を奪った。
イツキは突然の出来事に驚いて目を見開くが、やがてララミーティアとの口づけに夢中になる。
どちらともなく唇を離して微笑みあう。
「あぁ、ベルヴィアに教えた甲斐があったよ。しかしまたどうしてこんな嬉しいご褒美を貰えるの?俺すげードキドキしちゃったよ。」
「イツキが真剣に指導している姿にドキドキしたの。とてもかっこよかったわ。私、イツキの事がもっともっと好きになっちゃった。堪らないわ。ふふ、もっとご褒美を堪能してもいいのよ?」
ララミーティアはぞくりとするほどに艶めかしく微笑む。
イツキはララミーティアの輪郭を確かめるようにゆっくりと頬から徐々に下へ下へと身体を撫でつける。
「我慢出来ないな…、ティア…。」
「ふふ、我慢する必要なんてあるの?ほら、我慢の限界だって言ってるところがあるわ。ねえ…。」
お互いくらくらするほど官能的な気分になるが、イチゴサンデーが溶けかかっていることを思い出し、お互いに顔を見合わせて吹き出してしまう。
「折角だから溶ける前に食べてごらん。多分美味しと思うよ。」
「じゃあいただきます。わぁ、これ美味しい!明日にでもガレスとルーチェにも出しましょう!きっと喜ぶわ!今から楽しみね。」
口元にクリームを付けているララミーティアの笑顔に顔を近づけペロリとクリームを嘗めとるイツキ。
その後2人は一つのイチゴサンデーをお互い食べさせ合っていたが、突然ガレスとルーチェの部屋の扉が静かに開いた。
「うートイレ…、あっ!イツキとティアズルい!何か美味しそうなの食べてる!ルーチェも食べたいよ!」
「わっ!ヤバ!見つかっちゃった!」
「あら、仕方ないわね。ほらルーチェもトイレに行ったらこっちにいらっしゃい。」
「うんっ!」
イツキとララミーティアは現行犯という事で大人しく観念してルーチェを呼び寄せた。
ルーチェは大急ぎでトイレを済ませてイツキとララミーティアの間に座る。
「えへへ、真ん中ー。」
ルーチェはニコニコしながらイツキとララミーティアの腕に手を絡めてご機嫌そうにしている。
「ほらルーチェ、あーん。」
「あーん!」
ララミーティアに応えてルーチェが雛鳥のようにパカッと口を開ける。
ルーチェの口の中にイチゴサンデーが入ると、ルーチェは満面の笑みでイツキとララミーティアを交互に見る。
「美味しい!ルーチェ幸せー!」
「はは、そいつは良かった。寝る前にちゃんと洗浄魔法で口の中を綺麗にするんだよ?」
「ふふ、そうね。なんせこんなに甘いんだもの。」
結局イチゴサンデーは3人で仲良く完食してしまった。
ルーチェがはっとして表情を曇らせたので、ララミーティアがルーチェに質問を投げかける。
「あら、どうしたの?お腹でも痛くなった?」
「違うの。美味しくてガレスの分忘れてた…。」
目を潤ませるルーチェの頬にララミーティアは口づけをする。
「ルーチェは優しい子ね。優しいルーチェが大好きよ。でも大丈夫。起きたらまた召喚してみんなで食べましょう?」
「うん!大好きよ、えーとえーと、…お母さん!えへへ…。」
モジモジしながらルーチェが顔を綻ばせてララミーティアに抱きつく。
ララミーティアはそんなルーチェがとてもいじらしくて、思わずぎゅっと抱きしめ返す。
「私の可愛いルーチェ。大好きよ。」
「ねえねえ!俺は俺は?」
蚊帳の外になったような気分になったイツキが慌てて自身を指差してルーチェにせがむと、ルーチェとララミーティアは顔を合わせてクスクス笑い出す。
「えへへ、お父さんも大好き!」
「ありがとね!俺もルーチェが大好きだよー!」
イツキがルーチェの頬に口づけをし、ルーチェはイツキとララミーティアに両側から抱きしめられ、幸せそうに目を閉じた。
「ほらほら、そろそろまた寝ないといけないわ。」
「そうだね。ゆっくりおやすみ。」
ララミーティアとイツキがルーチェに声をかけると、ルーチェはニコニコしながら「うん!」と元気良く返事をした。
そしてイツキとララミーティアにそれぞれキスをした。
「おやすみなさい!お父さん、お母さん!」
ルーチェが部屋に戻る姿を寄り添いながら見守るイツキとララミーティア。
2人は微笑みながら暫くの間ガレスとルーチェが眠る部屋の扉を眺めていた。
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