57.おうちに帰ろう
「イツキとガレスはいいよって言うまで外で鍛錬でもしてて!」
翌日、午前中に魔法の鍛錬をしてからみんなで昼食をとったあと、ルーチェに背中をグイグイ押されてイツキとガレスは本邸から追い出されてしまった。
本邸の方を見ればララミーティアがイツキに向かってウインクを送っている。
ジェスチャーでトントンと包丁持って何かを切るような仕草をしていたので、イツキは何となく状況を察することが出来た。
「そうだなぁ、晩飯まで時間もあるし、森の中で採集ついでに狩りでもするかなぁ。ウサギとか鹿くらいなら狩れるんじゃないかな。」
「俺、魔物と戦ってみたいよ。ウサギや鹿は向かってこないしさ。必要でもないのに狩っていると、なんだか弱い物いじめみたいだよ。」
ガレスが口を尖らせて不満そうにリクエストを漏らす。
イツキは頬をポリポリしながらガレスに申し訳無さそうに告げ、苦笑いを浮かべる。
「そうは言っても毎晩ティアが聖女の力を使ってるでしょ、あれやると魔物居なくなっちゃうんだよなぁ。前にランブルク王国だっけ?そこのミール…?ミード?何だっけ?とにかく森に近い町に行ったときにさ、その町の近辺の魔物まで消えてたから、結構気合い入れて遠征しないと魔物っていないんだよなぁ。」
ガレスは後頭部をポリポリとかきつつ、イツキにつられて苦笑いを浮かべた。
「まぁティアの聖女の力のお陰で俺達もここまで来れたんだけどね…。魔物なんていない方がいいしさ。…魔物といえば魔核が高くなったって俺の主人だった商人も言ってたな。」
ガレスの何気ない発言ではっとするイツキ。
そうだ、魔物が居なければ魔物から取り出す魔核は流通量が減るに決まっているのだ。
「それって実は凄くマズいじゃないの…?魔核って結構みんな日常的に使うモンなんでしょ?」
「え?みんな魔物の脅威がなくなる方がいいに決まってるよ。魔核って言ったって水を出したり火をつけたりさ、別になきゃないで問題ないよ。俺だって魔核なんて使わせて貰えなかったし。」
そう言って井戸から水をくむ動作をしてみせるガレス。
イツキはふと疑問に思ったことを口にする。
「水は井戸があるとして、火は魔法なしでどうやってつけるの?」
「えっ…、火つけたことないの?イツキが居た世界では火打ち石とか使わなかったの?」
ガレスはキョトンとしてイツキを見つめる。
生粋の現代っ子イツキには火打ち石で火をおこすなんて発想はすぐに出てこなかった。
イツキは頬をポリポリ掻きながら苦笑いで「あー火打ち石ねハイハイ」とその場を適当に誤魔化し、とりあえず森に行こうと促すのだった。
森ではイツキがララミーティアから教わった知識とサバイバルスキルをフル活用し、食べられる野草や木の実をガレスに説明しながら採集して回った。
またサバイバルスキルのお陰か直感で食べられる物が空る場所を次々と発見出来たため、ガレスはいつもどこか抜けていてララミーティアの事ばかり考えているイツキに尊敬の眼差しを向けるのだった。
「ねえねえ、解体の時に使ってたあのナイフって魔剣なの?」
森を適当にウロウロしている時に、ガレスがふと尋ねてくる。
そういえばアイテムボックスから出した魔剣をじっと眺めていたなとイツキは思い出す。
「ああ、そうだよ。見たい?」
「いいの?見たい!」
イツキはアイテムボックスから魔剣モド・テクルを取り出す。
革の鞘から刀身を抜いてガレスの前に見やすいように差し出す。
ガレスは興味津々で見ていたが、エッジ部分を見て首を傾げる。
「何だか全然切れなさそうだけど、動物捌くときとか切れ味がいいのは魔力のお陰?」
「ガレスは鋭いなー、ティア曰わくそうらしいよ?ミスリル製の武器は魔力を流すと切れ味だけじゃなくて刃こぼれとかも直るらしいよ。」
そう言ってイツキが魔剣モド・テクルに魔力を込めると、刀身がぼんやりと淡く光る。
魔力がフル充電になった証拠だ。
ガレスは目を輝かせて魔剣モド・テクルを見つめる。
その姿はさながらショーウィンドウの中のトランペットに憧れる坊やだ。
対象が物騒なものという点が何とも残念である。
「…うーむ、よし!じゃあ特別にちゃんと魔剣にして使ってみようかね。」
「見たい!」
「よし、じゃあ木を伐採するついでに、ね。危ないから俺の後ろに居てね。いくぞー?」
そういうとイツキは魔剣モド・テクルを目にも留まらないスピードで投げては受け止めるという動作を繰り返す。
ガレスは魔剣モド・テクルがまるで最初から木など無かったかのようにして通り抜けて、ブーメランのように高速で往き来する様を呆然と眺めていた。
先程の採集の時もそうだったが、やはりイツキは桁違いに強いと実感するガレス。
いつも優しくニコニコしてどこか抜けているイツキだが、世界中を敵に回してもしっかり愛するララミーティアを守り抜く事が出きるのだ。
ガレスもいつかはそんな風にしてルーチェを守りたいと強く思い、そんなイツキの姿に益々憧れた。
やがて時間差で目の前にある木がゆっくりとズレるようにして一本、また一本と重厚な音を立てて倒れていった。
「イツキ、…鍛える必要あるの?」
「はっきり言って『ない』。そこらの鎧程度だったら今のと同じだ。この魔剣は初めからそんなもんはなかったみたいなふりして手に戻ってくる。」
ガレスは冷や汗を垂らしつつゴクリとつばを飲み込む。
「いいか?この魔剣には俺の手元に戻ってくるって魔法が込められいるから、どんなデラタメに投げても戻ってくるんだよ。人に渡すことも出来ないし、奪われることもない。ガレスはそんなのが自分自身の実力だと思う?」
イツキは魔剣モド・テクルを足元に放り投げて地面に突き刺しては手元に引き寄せる動作を繰り返しながら淡々と喋る。
ガレスは神妙な顔をしたまま首をブンブンと振って「違う」とぽつりと言う。
「そうだ。これは俺の実力ではなくて、この魔剣の力。だから、コイツに頼っていたら、肝心の俺はいつまでも強くならないんだ。俺さ、鍛練するというのは身体だけじゃなく心も鍛えていると思うんだ。自分自身が心身ともに強くならなければティアの事はきっと守れない。だからこんなデタラメな力に溺れてはいけない。なーんてな?」
「なんか、凄くよく分かったよ。心も鍛える…なるほどな…。」
イツキはいつかアテーナイユから言われた事をガレスへ言って聞かせる。
ガレスは言われた事を噛みしめるように何度もうんうんと小さく頷いていた。
その後木は全てアイテムボックスで回収して回った。
親から子へ思いを伝えるとは、こういう事なのかなとぼんやり考えるイツキだった。
その後も森をウロウロしながら食材や素材を回収して回ったイツキとガレスだったが、さすがに都合よく動物と遭遇する事は無かった。
実戦訓練が出来なかったガレスは、肩を落としてがっくりしていた。
イツキはそんなガレスの肩に手を置いて、
「ま、まぁ…肉はいつでも召喚出来るからさ、気を落とすなよ。」
「別に肉が欲しかった訳じゃないよ…。」
と見当違いの励ましを送って、ガレスのため息を増やしていた。
「うーむ、そろそろ夕方かな。ボチボチ本邸まで戻るかぁ。」
「そうだね。のんびり歩けばちょっと夕方って感じかな。」
イツキとガレスは何かいい食材や素材がないかキョロキョロしつつ本邸へ戻ることにした。
途中久し振りにマコルの実の群生地を発見し、イツキとガレスはここぞとばかりに実を収穫しまくってイツキのアイテムボックスに収納した。
「俺も何か短剣が欲しいなぁ。この木刀も中々硬くていいんだけど、まぁ所詮木刀だからね、これ。」
ガレスは手に持っているイツキ謹製の木の短剣を振り回しながら口を尖らせて不満を口にする。
確かにただの木にしては随分と頑丈だから、相手の攻撃をいなしたりするのには十分使えるが、やはりガレスの言うとおりどこまで行っても所詮は木刀なのだ。
「男ならナイフの一本でも持つものだ」とか「これで惚れた女を守れよ」などと言ってガレスに短剣の一本でもスッと渡すようなカッコいい事をしたいイツキだが、あいにく持っている物は食材や素材、後は火魔法打ち放題のバグった杖やバグったレーションセットくらいだ。
レーションセットは惚れた女を飢えさせない事で守ることは出きるが、なんか違う。
(カッコいい男は便利な杖や食べ物は渡さないな…。それじゃあ近所の親切なおばちゃんじゃないか…。大人しくティアに聞いてみるか。…こういう慣れていない事は見栄を張ると簡単にボロが出るからな…)
イツキは情けない自分にがっくりしつつも、そんな姿はおくびにも出さず、努めて自然体で喋る。
「うーん、ティアがあちこち放浪してた頃の装備品で何か良い物があるかもしれないね。帰ったらちょっと聞いてみるよ。」
「本当?やった!イツキありがとう!」
ガレスの表情がパッと明るくなる。
こういうところがまだまだ子供だなぁと改めて思わせる。
イツキはそんな無邪気なガレスを抱き寄せて頭をガシガシと撫でると、初めは照れているのか「ちょっとやめてよ」と言っていたガレスだったが、やがてはにかむような顔でイツキに大人しく抱きついていた。
今日の18時に本編とあまり関係ない閑話を挿入しました。
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