閑話.また生で食べるんですか?
やたら食のカルチャーショックを与えたがるイツキに振り回させるララミーティアや子供達の話です。
ガレスとルーチェは兎に角食べる。
身体を動かし魔法もMP枯渇させまくるので無理もない。
まだまだ子供の身体が物凄い勢いで消耗してしまうエネルギーを無性に欲しているのか兎に角よく食べた。
ガレスとルーチェが来てからは腹持ちが良い白米を毎晩食べるようになり、イツキは精米された5キロの袋を召喚し、ララミーティアに鍋での米の炊き方を教え、モグサ家ではここの所毎晩白米を炊くようにしていた。
ララミーティアも炊きたてのご飯の匂いが好きなようで、まとめて炊いてアイテムボックスに仕舞ってはどうかとイツキが提案したが「この匂いが好きなの」と言って率先して毎晩炊いていた。
「ご飯は腹持ちがいいよね。炊きたても美味しいけど、ティアが作ってくれる塩おにぎりも美味しいよ。冷めてもすっごく美味しいんだ。」
「ルーチェもどっちも好き!ご飯美味しいよ!」
ガレスとルーチェは基本的に何もかけたりしないで白米を堪能する通好みの食べ方が一番好きだが、イツキが召喚するふりかけをたまにかけていた。
たくあんも召喚して食べる機会が多かったが、もはや一本では足りないくらいにガレスとルーチェはご飯のお供にポリポリとたくあんをよく食べた。
イツキとララミーティアが驚いたのは、納豆に対してそこまで抵抗感なくあっさり受け入れた点だった。
ララミーティアの時の事を考えれば納豆は流石に難しいだろうなと思っていたイツキとララミーティアだったが、食べるもの全てが新鮮なガレスとルーチェにとって初めは粘つく豆に驚いていたが、イツキやララミーティアが食べているのに倣ってすっかり納豆好きになってしまった。
驚いてイツキが大丈夫かと聞いたが「ティアが美味しそうに食べるんだから間違いないでしょ」とガレスもルーチェも絶大な信頼を寄せているララミーティアが食べるなら間違いないというのが共通の認識で、もっと驚いて欲しかったイツキには何とも物足りないリアクションだった。
「白米好きなガレスとルーチェに新たな境地を紹介する。ティアも初めましての食べ方だと思う。まずは見てな。」
イツキはそう言うとアイテムボックスから小鉢を出し、卵パックを召喚してみせる。
「ああ、鳥の卵ね。確かニワトリだったかしら?」
「へぇ、鳥の卵か。ニワトリってどんな鳥なの?」
「ルーチェも知らなーい。」
イツキはニコニコしながら卵を小鉢に割り入れ、テーブルに置いていた醤油を少し垂らしてカシャカシャと卵をかき混ぜ始める。
「私も実は知らないの。この大陸にはきっといないんじゃないかしら。イツキ曰わく空を飛べなくてチョロチョロ走り回って『コケコッコー』って煩く鳴くみたい。」
「へぇ、飛べない鳥なんて居るんだ。不思議な鳥だね。」
「大声で騒ぐのに飛べなかったら他の動物とか魔物に襲われちゃうね。変な鳥だね。」
この世界でニワトリは居ないのかメジャーではないのか、少なくとも地球のように誰もが知るような親しまれたものではないらしい。
なので卵という物は大抵ニワトリではない何か別の野生の鳥の巣から拝借したよく分からない卵が一般的らしい。
ただ貴族や王族のような人達向けには小型のロックバードを飼い慣らして卵を確保したりもしているようだ。
イツキが箸で軽く白米の中心部に穴を開けて、そのまま卵をトロトロと流し込んだ。
「わっ!生で食べるの?それ卵よ?」
「えー!?火を通さないとお腹壊さない?」
「でもねでもね、寿司だって生だったよ。イツキが居た世界は変わってるから、何でも生が好きなんだよきっと。」
驚くララミーティアとガレスをよそに、案外冷静に分析するルーチェ。
「何でも生が好きって訳じゃないけどさ、俺が生まれた日本って国は寿司も然りだけど、生で食べれるほど新鮮な卵って事で有名だったんだよ。だから俺が召喚する卵は生で食べれるの。俺も養鶏業者じゃないからよく知らんけど、生で食べれるように徹底して色々衛生管理とかしてるんだよきっと。」
そうして説明しながらも完成した卵かけご飯をララミーティアに渡す。
ララミーティアはじっと卵かけご飯を眺めて、やがて頷いてみせる。
「鑑定結果でも問題なさそうね。」
「はは、ティアの御墨付きが出たら大丈夫だね。ガレスとルーチェも食べる?」
「食べる食べる!」
「食べてみたいなぁ。」
イツキが小鉢を更にアイテムボックスから出してガレスとルーチェに聞いている間にもララミーティアは卵かけご飯をかきこむ。
「あぁ、これ美味しいわ。何というか劇的に感動する程ではないけれど、素朴でホッとする味ね。癖になりそうよ。」
ララミーティアが顔をほころばせて卵かけご飯を堪能する。
やがてガレスとルーチェの分の卵かけご飯も用意し、4人揃って卵かけご飯を堪能する。
「いいねこれ。美味しいなぁ。」
「ルーチェもこれ好き!」
「そりゃ良かったよ。とは言え寿司の時みたいな『アッ!!』と驚く衝撃を期待してたんだけどなぁ。」
イツキは少しガッカリしながら苦笑いをする。
それをルーチェがケラケラと笑う。
「イツキはね、生で食べてルーチェ達を驚かせようとするんだもん。ルーチェもう慣れたよ!」
「ふふふ、ルーチェにはお見通しね。」
そうしてモグサ家では卵かけご飯がしばらく流行した。
また別の日の晩御飯の時に、リベンジだと言わんばかりにイツキは改まってララミーティアや子供達に告げる。
「今日はまた珍しい物を食べるぞ。すげー旨いから期待してろよー?」
得意げなイツキをよそに冷静なガレスとルーチェが予想をし出す。
「また生だよきっと。なんだろうね?肉じゃない?」
「ルーチェも生だと思う。卵に魚と来て次は肉だね。」
「ちょーい!勘のいいヤツらめ!勝手に予想するんじゃないよ!予想禁止!アッと言え!」
早速バレてしまったイツキは慌てて子供達にツッコミを入れるが、却って「やっぱり生だよ!」と子供達にケラケラ笑われるイツキ。
ララミーティアがニコニコしながらイツキに促す。
「ほらほら、早くその生肉を出してちょうだいよ。」
「ティアまで!まだ生肉とは言ってないよ!ネタバレするヤツらばっかりだなぁ!まぁいいや、召喚、馬刺し!」
テーブルに馬刺と甘口醤油とすりおろした生姜が出てくる。
「へぇ、バサシ?確かに新鮮そうで綺麗な肉ね。これなら生でも食べられそうだわ。」
「わぁ、綺麗なお肉!」
「美味しそう!なんのお肉かな?」
ガレスとルーチェが何の肉かワイワイ予想し始める。
ララミーティアはどれどれと毎度おなじみの鑑定をするが、暫くして黙り込んでしまった。
「ん?鑑定結果変だった?」
イツキが黙り込んでしまったララミーティアに尋ねる。
「だって、…これ、馬の肉よ…?」
「えっ…!?…馬?」
「何で馬のお肉を食べるの?」
3人はテンションが急降下してしまう。
イツキは想定外のリアクションに慌ててフォローに回る。
「いやいやいや、これはね?食べる用に育てた馬で、牛とか豚なんかとやってることは同じじゃない。ね?」
「馬は荷を運んで人を運ぶとても大切な動物よ。例え馬が歳を取ったって食べるなんて事は絶対にしないと思うわ。歳を取ったら野にはなって自由にしてあげるくらいよ。」
「そうだね。馬は町や村の生活に欠かせない凄く大切な動物だから、馬を食べる人が居たら狂気じみていて驚くし怖いよ。馬がいないと成り立たない場所だってあるんだしさ。」
「ルーチェ、馬は可哀想で食べたくない…。」
3人は完全にテンションが底まで下がってしまい、テーブルにはぽつねんと置かれた馬刺しと、とても冷え冷えした空気が流れていた。
とは言え流石はチャレンジャーのララミーティア。
思い切って馬刺しに醤油をつけて「えいっ」と口に放り込んだ。
「あら、でも案外美味しいわね。まぁその辺の村から人の馬を盗んできて食べた訳ではないんだし、深く考えなくてもいいかもしれないわ。これはあくまで召喚で出したお肉だし。馬も生き物として牛や豚と命の差が有るわけではないんだから、気にしちゃだめね。」
「まぁ、それもそうだね。ティアがそう言うんだし俺達も食べてみよう。」
「ティアが食べるならルーチェも食べる!」
そう言って結局みんなで仲良く馬刺しを平らげてしまうのだった。
こういう時のガレスやルーチェの食べる食べないの基準はやはりララミーティアなのだ。
子供達にとっていつの間にかララミーティアへの信頼は絶大で、とても大切な判断材料になっていた。
「どう?なかなか美味しかったでしょ?ちょっと刺激が強すぎたかもしれないけれど、まぁ色んな文化があるんだなって事で…。」
最悪の雰囲気にならずに済んだとイツキはほっと胸をなで下ろすのだった。
「ふふ、ある意味驚いたわね。」
「馬刺はね、ずっと昔に遙か遠くへ出兵した人達が食うに困って泣く泣く馬を食べたところ案外美味しくてそういう文化が生まれたとかそんな感じだったかなー。確かに馬の肉を食べるって国の方が少なかったと思うよ。俺の居た世界だって百年ちょっとくらい前までは移動に欠かせない大切な動物だったからね。多分遠くの地で馬を食べるしかないって状況は余程極限の状態だったんだと思うな。」
イツキが記憶を頼りに馬肉の歴史を説明してゆく。
「仲間が飢えて死ぬくらいなら馬を食べる、なるほどね。やっぱりどの世界でも馬はそれほどの極限にならないと食べないと思うよ。」
「そうね。馬は欲しいからってその辺で簡単に捕まえられるほどありふれた動物ではないし、大切な仲間とか友達って思う人の方が多いんじゃないかしら。」
ガレスとララミーティアが話している横でルーチェがしょんぼりしながら呟く。
「ルーチェ、馬乗ってみたいな…。」
「あー案外俺もないよ?ティアとガレスはある?」
イツキが話をふるとガレスもララミーティアを首を横に振る。
「商人の奴隷だったから凄くよく見かけたし世話もしたことはあるけど、背中に乗ったことも馬車に乗った記憶すらないかな。」
「私も同じくよ。大っぴらに人前に出られなかったから、遠くから見るだけね。」
それを聞いてルーチェの顔はぱあっと明るくなる。
「そのうち乗ってみたい!」
「そうだなー、4人で馬車にでも乗ってみたいなー。本物の馬車なんて俺、見たことすら無いよ。」
「「「えっ!?」」」
イツキの馬車見たこと無い発言に驚く3人。
そこから地球においての移動手段についてイツキの役に立たないあやふやな説明が始まるのだった。
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