7.魔法
ララミーティアの右目から青い光が溢れてきた。
「おぉ!それ魔法ですか?」
「相手の感情を看破する看破魔法だ。青は本当の事を言ってる証拠、赤になると相手が嘘を付いている証拠、これは魔力が豊富な種族でないと使えない。私みたいに毛嫌いされている種族や人族から狙われやすい種族は重宝する魔法だ。これで相手が信頼できる者かどうか判断する。」
なんと便利な魔法なんだと感心するイツキ。
確かベルヴィアが『魔法はイメージ、だから地球の人間は割と器用に魔法が使えるはずよ。』と言ってたことを思い出す。
「へー、じゃあ俺も使えるのかな。こんな感じかな?」
イツキの右目に魔力が集まる。
(嘘発見器みたいな感じかな?とイメージしてみる。青は正解。で、嘘は赤か。そういや嘘発見器の亜種みたいなんで相性診断だったか、ラブチェッカーだったか、胡散臭いヤツもあったな…。いかんいかん、脱線した。ララミーティアさんの魔法を思い出せ、ありゃ、思い出そうとすると自然に頭の中に情報が入ってくるような変な感覚だな…)
「人族でこの魔法が使える者なんて恐らく中々居ないと思う。一度見て出来る種族も恐らく居ないと思う。よし、試しになんでも聞いてくれ。」
「よし、えーと…。あなたはララミーティアさんですか?」
「ああ、そうだ。」
イツキの右目から青い光が溢れ出す。
「おお!これ面白い!じゃあ、ララミーティアさんは男ですか?」
「ああ、そうだ。」
今度は青い光が赤い光へと変わる。
「へぇ、嘘の場合はそんな風な赤になるんだ。これ便利っすねー、凄い!」
はしゃぐイツキを見てララミーティアの表情が柔らかくなる。
「じゃあえーと、俺のことはどう思っていますか?」
「…んんっ!め、明確に『はい』か『いいえ』ではない質問でも勿論使える。先程私がやっていたようにな。」
しかしイツキの新たな質問の内容についてはお茶を濁すララミーティア。また耳がピコピコしてしまう。
そんな表情に気づいたイツキは目を奪われてしまう。
(コロコロと表情が変わって、いちいち綺麗な人だな…。可愛い…。しかも、俺に対して案外悪くない、以外と良い印象じゃないのか…?いやいや、思い上がりかな…)
すると赤かった光が消え、両目から黄色い光が溢れ出してくる。
「わ!この光の結果はなんですか?えーと両目から黄色い光が出てきてますが…。」
慌てて自身の両目をペタペタと触りだすイツキ。
その光を見てララミーティアがぷいと明後日の方向を向いてしまった。
「…教えない!」
「えー、そんな。教えてくださいよー。」
「ほら、折角だから白い建物を案内して欲しい。」
ララミーティアが慌てた様子でイツキに用意された小屋を指さす。
「あ、是非是非。」
「しかしカローシ?何だそれは?」
ララミーティアは先程イツキが言っていた『過労死』という言葉に引っかかったようで、首を傾げて尋ねてくる。
イツキも確かに『過労死』と口にしても翻訳スキルが機能していない事が感じられた。
(この世界では過労死なんて言葉は存在しないのか…。そんな言葉ない方が幸せかもしれないな)
過労死なんて言葉がないと言うことは、恐らくこの世界がまだ人間らしく暮らせているんだろうと、少し羨ましい気持ちになるイツキ。
とりあえずララミーティアにも伝わるように噛み砕いて説明を試みる。
「強制されるというよりは、自発的に働いて、うーん、自発的に働くよう仕向けられたりもするかな。とにかく働いて働いて、そのうち働き過ぎて、結果疲れすぎて死んじゃうんですよ。俺の世界では珍しくもない、よくある話でした。」
「妙だな、まるで奴隷ではないか。疲れたら休めばいい。」
「本当ですよね、今考えると馬鹿馬鹿しい死に方でしたよ。折角貰った第2の人生なんで、今回はのんびり暮らしたいと思います。」
「そうした方がいい。」
2人は雑談をしながらイツキの小屋に向かった。
イツキにとって、ここまで何気ない会話が出来る女性には前世でも会ったことが無かったので、ララミーティアとの会話はとても新鮮だった。
ララミーティアは最初険しい顔をしていたが、そのうち驚いた顔をしたり、不思議そうな顔をしたり、優しく微笑むような顔をしたり、きっと感情豊かな人なんだろうなと感じるイツキだった。
それだけに人を突っぱねるような口調をするララミーティアに違和感があるというか、無理をしているのではないかと感じていた。
(ララミーティアさん、案外おしゃべりなんだな…。コロコロ表情を変えて、でも突き放すような言動、か。相当虐げられて来たのかな。この世界は美的感覚がおかしいのか…?)
黄色い光は好感を抱いている証拠、右目は相手で左目は自分自身。
ララミーティアは恥ずかしくて、意味を教えることは無かった。
イツキも黄色い光についてはすっかりわすれたようで、ララミーティアは胸をなで下ろしていた。
「そういえばララミーティアさんのお住まいはどちらなんですか?この辺りは森ばかりで家なんて無さそうな感じがしましたが…。」
「ああ、そうか。それならここだ。」
そういってララミーティアが右手をかざして何かを考え込むようにすると、何もなかった平地が突然光り出し、突然こぢんまりとした山小屋が姿を現した。
「うわっ!急に小屋が出てきた!これも魔法ですか?」
「隠蔽魔法で普段から隠している。森の中は鬱蒼としすぎて油断しているとすぐに木が小屋に突き刺さるから森には建てられないし、目立つと魔物やら私を討伐に来る輩が嗅ぎつけてきたりと本当にろくな事がないからな。」
「へぇ、今度やり方教えてもらおうかなぁ。」
「いや、イツキなら恐らくすぐ出来ると思う。」
ララミーティアが微笑む。一樹は再び目を奪われてしまうが、誤魔化すよう咳払いを一つした。
「よし、さっきみたいな感じで…。」
イツキが両手を自身の小屋に向けてかざして目を閉じる。
(さっきララミーティアさんがやってたように小屋の気配ごと全部隠すイメージ。うーむ、ステルス迷彩みたいな感じかな?あー某猫型ロボットのアニメで秘密道具の説明であった盲点みたい感じかな…。おお、自然に情報が入ってくる感じきた!これでいけるな!)
すると次の瞬間イツキの小屋が姿を消した。
「凄いな…。一発で魔法を再現するとは…。」
「ララミーティアさんの魔法を頭の中で思い浮かべながら、自分なりにどんなイメージの魔法かなと想像してみるんです。それが正解したときに一気に情報が頭の中に流れ込んでくるような感覚でした。」
イツキが小屋を何度も消したり出したりしながら説明する。
「魔力が減っていく感覚というか、何か疲れる感覚はないか?」
「え?そういうば全然何も感じないですね。魔法が使えるのは解ったし、今までに感じたことのない力みたいなものが身体の中を巡っているぞって感覚は理解できたんですけど、魔力が減るとか増えるとか、その手の感覚はさっぱりです。」
ララミーティアが考え込むような表情になる。
「やはりイツキの魔力は凄い。凄いという次元の話ではないかもしれない。普通は魔力が削られる感覚というか、わかりやすくいえば走って疲れてしまう感覚に似ているが、とにかくそういう感覚がある筈なんだ。」
「うーん、特に疲れてないかなぁ…。」
イツキは腕を組んで首をひねる。本当に全然疲れていないからだ。
「その身に帯びている魔力も少しも減っているように見えない。というかじっくり観察してみてわかったが、人族がというか…、どの種族でも人1人が纏える魔力量とは思えない程に膨大なんだ。」
ララミーティアが改めて魔力視、もとい魔力の観察をしてみると、古竜や魔王なんかが居たら魔力はこれくらいあるのではないかと思うほどに膨大だった。
しかしイツキはあっけらかんとして「へぇ、そりゃ便利そうだ」と言ってのけた。
「そんなに魔力があるなら、体を動かさなくても日常生活が送れそうですね。でも動かないうちに豚みたいな凄い体型になっちゃったら魔物と勘違いされて討伐されちゃうかもしれないですね。」
「凄い魔力を持っていても、それがイツキなら悪用もしなさそうだし、心配なさそうだな。」
イツキが笑いながらララミーティアに言う。そんな姿を見てララミーティアも花が開くように笑った。





