55.サプライズの準備
「ティア、ティア。あのね、あのね…。」
ひと月ほど経った、ひたすらガレスとルーチェの訓練に明け暮れていたある日のこと。
夕餉の後、ルーチェがキッチンに居たララミーティアの傍までトテトテ走ってきて何やら耳打ちをする。
暫くするとララミーティアがニッコリと笑顔を浮かべて「いいわよ」と言って頷く。
ルーチェは顔にパァッと笑顔の花を咲かせて、ダイニングテーブルで何やら絵を始めた。
「ルーチェ、随分機嫌が良さそうだけれど、一体どうしたんだ?」
「だめ!ガレスには内緒!」
イツキやララミーティアになぜかやたら話しかけていた影響か、最近はすっかり喋りも流暢になってきたルーチェ。
ガレスに秘密だと言って書描いていた絵を隠す。
「お楽しみだよ!待っててね?」
「お、おう。わかったよ。楽しみにしてる。」
ガレスは不思議そうな顔をしてイツキが座っているソファーに向かい合わせでドカッと座る。
イツキはそんなガレスに声をかける。
「ま、そんなに悪い話という訳ではなさそうだな。」
「うん…。まぁそうなんだけどさ。なんだろうなぁ…。」
ずっと一緒に暮らしているうちにガレスもイツキやララミーティアにもすっかり打ち解けて、漸く砕けた感じで話せるようになっていた。
「とりあえず鍛錬でもしようかな…。」
そう言うとガレスは床で筋トレを始める。
ガレスは本当にストイックな少年で、暇さえあればひたすら鍛錬だと言っては短剣で相手の懐に飛び込む踏み込みの練習をしていたり、筋トレにあけくれていたり、ひたすら基礎の魔法を発動し続けたりと、鍛錬に余念がなかった。
お陰で短剣術を始め、各属性の魔法もたったひと月で中級まで取得する程だった。
「ガレスなぁ、たまには子供らしく遊んだりとかしないのか?」
「確かにそうね。たまには息抜きしたって誰も責めないわ。」
キッチンからララミーティアがやってきて、イツキの隣にぴったりとくっついて座る。
ガレスは腹筋をしながら静かに喋り出す。
「ダメだ……!この世界は…!くそったれだ…!だから…!少しでも…!2人から…!吸収して…!もっと…!強く…!ならなきゃ…!」
腹筋をしているガレスを無言で見つめるイツキとララミーティア。
「ルーチェが…!襲われて…!震えて…!居たときの…!顔が…!忘れられないんだ…!ルーチェには…!ずっと…!ニコニコしていて…!欲しいんだ…!」
ガレスは苦しそうにひたすら腹筋を続ける。
「こんなに…!可愛いのに…!魔物だとか…!気味が悪いとか…!そういう…!奴らから…!守るのは…!俺しか居ないんだ…!」
ガレスは腹筋を止めてその場に座り込む。
「だから、2人から学べるうちに全てを学びたいんだ。ちょっとやそっとの力じゃない。イツキのような、ティアのような、圧倒的な力が欲しいんだ…。」
ガレスは腕立て伏せを始める。
「ルーチェの…!笑顔を…!奪おうと…!する…!奴らから…!守れなかった…!俺自身が…!許せないんだ…!」
ガレスの腕立て伏せが止まる。
やがて床に汗と共に涙もポタポタと零れる。
「月夜の聖女様の噂を聞いてなかったらどうなっていた…?もし森に行く途中で魔物に会っていたらどうなっていた…?追っ手に見つかっていたら…?2人に会えなかったら…?途中で俺が力尽きていたら…?あの時、俺は途中で膝をついて倒れ込んだらどんなに楽だろうなと思ってしまったんだ…、今ルーチェと一緒に死ねばきっと来世で幸せになれるって…。許せないんだ…。」
ガレスは拳を握り締める。
「俺はっ、俺は弱い俺が許せないんだ…!ナイフで切られて、それでもニコニコして、涙を浮かべながら、助けて、助けてと言っているルーチェの顔が、忘れられないんだ…!あの時にこの力があれば…!もっと力があれば…!うぅ…。俺は悔しいんだ…!俺は…ルーチェを…殺しかけたも…同然じゃないか……。」
ガレスは俯いたまま嗚咽を漏らす。
イツキがソファーから立ち上がり、ガレスを起こして抱きしめる。
「ガレスは1人前の戦士だと思う。ただの奴隷だった子供が丸腰の状態から女の子一人をずっと抱えてここまでたどり着いて、ここまで強くなったんだぞ?よくここまでたった一人で最愛のルーチェを守り抜いたと思うよ、ガレスすげー格好いいよ!そんな格好いいガレス自身を自分が誇りに思えよ。ガレスの瞳は出会ったときと同じ不屈の精神で燃えているよ。ガレスはもっと強くなれる。俺もティアもガレスに渡せる物は全部渡す。だから自分を責めないで、もっと誇りに思いなよ。」
「ルーチェをそんな地獄から力ずくで拾い上げてここまで連れてきたのは間違いなくガレス、あなたよ。ガレスにとってルーチェが光だったように、ルーチェにとってガレスは光なのよ。明日も見えないような暗闇から救い出してくれた王子様なの。もっと胸を張りなさい。こんな格好いいエピソードを持っている男なんて中々居ないと思うわ。」
トテトテ走ってきたルーチェがギュッとガレスに抱きつく。
「私、ずっと辛かった。どうしてみんなと違うのって。私魔物なのって。そんな私を助けてくれたのはガレスだよ。私を普通の女の子のように扱ってくれる。ルーチェって素敵な名前をくれた。自分だってお腹がグウグウ言ってるのにパンをくれた。」
「ルーチェ…。」
「私、ちゃんと喋れるように、いっぱい頑張ったよ。ガレスにちゃんと、ありがとうって。大好きよって。ちゃんと伝えたかったの。」
「安心してくれ。俺が必ず一生守るからな、ルーチェ。ありがとう。俺もルーチェが好きだ。」
ガレスとルーチェが突如淡く光り出す。
イツキとララミーティアが驚いて身構えると、久しぶりに天啓ウィンドウが現れる。
『うぅ…。あだじ…、感動しちゃっだよぉ…。だから、ガレスちゃんどぉ、ルーチェちゃん、加護を…。うぅ…。さず!さずっ!おーいおいおい…。』
『こら、テュケーナ。ふふ、ごめんなさいね。いつもいつも覗いてた訳じゃないのよ。ほほほ。』
「お久しぶりです!デーメ・テーヌ様!テュケーナ様!」
「期間が空いちゃってごめんなさい。特に用事もないのに神様を呼び出すのはどうかなって思っていたの。」
イツキとララミーティアの様子を見てぽかんとするガレスとルーチェ。
デーメ・テーヌが話を続ける。
『ガレス。ルーチェちゃん。私達はこの世界を管理している神のデーメ・テーヌとテュケーナよ。イツキとティアちゃんのお友達なの。私達からあなた達へプレゼントをあげたから、イツキとティアちゃんに後で見せてもらってね。』
『ぐすっ…、真面目に…真面目に…。んんっ、ガレスちゃん、ルーチェちゃん。あなた達に私達の加護を授けたわぁ。きっとあなた達の手助けになるはずよぉ。どうか遠慮せずに受け取ってねぇ。』
デーメ・テーヌと目を真っ赤にしたテュケーナがガレスとルーチェに呼び掛ける。
「神様…?流石は月夜の聖女様なんだね!ティアはやっぱり凄いや!」
「凄い!凄い!2人は神様のお友達なの!?」
ガレスとルーチェが目を輝かせてイツキとララミーティアにすがりつく。
ララミーティアは耳をピコピコさせながらモジモジ呟く。
「ま、まぁ隠していた訳ではないんだけれどね…。でもイツキの方が凄いわ。」
「まぁ2柱の神様が加護をくれたんだ。有り難く貰っておこうよ。ほら、2人ともお礼をちゃんといいなよ?」
イツキがガレスとルーチェの肩をポンと叩く。
ガレスとルーチェは天啓ウィンドウを見てバッと頭を下げる。
「「ありがとうございます!」」
『ふふ、いいのよ。私達の加護はイツキやティアちゃんが持っているような強力な物とは違うけれど、力の底上げは出来るから、きっと2人の役に立つと思うわ。』
『でもでもぉ、イツキちゃんとティアちゃんの話とそっくりねぇ。2人の感動の馴れ初めを思い出してぇ、ついつい天啓しちゃったわぁ。ガレスちゃんなんてイツキちゃんと言うことが全く一緒なんだものぉ!』
テュケーナが身体をくねらせて頬を赤らめてキャーキャー言う。
デーメ・テーヌも頬を赤らめつつ冷静を装って同調する。
『そ、そうね。ルーチェちゃんもティアちゃんと同じ事言ってたわね。』
『あらあら、デーメ・テーヌ様ひょっとしてまたウルウルしてますかぁ?』
『こら!うるさい!ほほほ、ごめんなさいね。』
「俺たちはイツキやティアと一緒なんですか?」
『あらあら!聞きたいよねぇ!聞きたいよねぇ!待ってましたぁ!まずはまずは、イツキちゃん何だけどねぇ!』
天啓ウィンドウの向こうで一方的に映画の感想の如くペラペラ喋り出す2柱。
ララミーティアは耳をピコピコさせつつ慌てて止める。
「わー!わー!その話はこの子たちの前ではやめて…!」
「そうですよ!あぁ!そろそろ御風呂の時間かな~!?ね?っていうかそれ創作とかじゃなくて実際の存命の人の話だから!やたらめったらペラペラ喋らないで下さいよ!」
しかしガレスとルーチェの好奇心を止めることは出来ず、イツキとララミーティアを置いてけぼりにして丁寧な馴れ初めの説明会が始まってしまった。
イツキとララミーティアはいつしか諦めて、照れながらも寄り添ってその光景を眺めていた。
今日の18時に本編とあまり関係ない閑話を挿入しました。
よろしければ是非見て下さい。
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