閑話.子供達のいる日常
ガレスとルーチェが転がり込んでから数日経ったある日の事です。
「あっ!すきやり!」
ルーチェがパッと弾け飛ぶようにしてイツキに切りかかる。
イツキはララミーティアの方をぼんやり見つめたままルーチェの木刀をくるっといなし、バランスを崩したルーチェの背中をポンと押す。
ルーチェはそのままゴロンゴロンと地面を転がった。
「よそみしてたのに!なんでー?」
「はは、それは俺がめちゃんこ強いからだ!」
イツキが両手を腰に当ててガハガハと笑う。
ガレスとルーチェは悔しそうにしながらイツキに向かって文句を言う。
ガレスも最初こそ警戒して丁寧な言葉遣いだったが、最近漸く普通に喋ってくれるようになっていた。
「ルーチェ、『すきやり』じゃなくて『隙有り』だぞ。それにしてもさっきからティアをチラチラ見てばっかりなのに全然隙がないなぁ。ちょっとはちゃんと俺たちの動きも見てよ!」
「イツキ、ティアばっかりみてる!隙有りだよ!」
子供達のクレームにイツキは少し恥ずかしくなり慌てて否定する。
「そ、そうでもないよ!見てる見てる!それにわざと隙を見せているだけだ!そうだよ!」
「ふーん。まぁそういう事にしておこう…。よし、ルーチェ行くぞ!」
「うんっ!」
そう言うとガレスとルーチェは再びイツキに飛びかかる。
そんな会話が繰り広げられているとは知らずに、ララミーティアはダウンコートを着込んでレジャーシートに座りながらハーブティーを嗜んでいた。
「よし、格好いい事をしてやろう。」
イツキはふふんと不適な笑みを浮かべると、アイテムボックスからもう一歩の木刀を取り出し、両手に木刀を構える。
「二刀流だ!2人してかかってこい!」
イツキは不敵な笑みをガレスとルーチェに送る。
「わぁ!かっこいい!」
「そりゃ格好いいけど、本当にそんな器用なこと出来るの…?」
「大人をなめんなよ!余裕だぜ!」
ガレスとルーチェは同時にイツキに切りかかる。
二刀流と言っても全く何も知らないイツキは結局右手の木刀しか使えず、やがて邪魔な左手の木刀で自身の足を引っ掛けてしまい、慌てて待ったをかける。
「わーっ!待った!ストップストップ!やっぱ無理!全然分かんね!いたっ!いててて!ひえーっ!」
イツキはガレスとルーチェから壮絶なたこ殴りに合う。
漸くたこ殴りは終わり、肩で息をしながらぜえぜえと言って四つん這いになる。
「二刀流になったら途端に弱くなったね…。」
「あはは、イツキよわい!」
「いやー、何とかなると思ったけど何ともなんないねー。どう立ち回ればいいのかさっぱり分かんなかったよ。」
イツキが苦笑いを浮かべながらふとそれぞれの手に持った木刀を眺めると、どうも違和感を覚える。
「ん…。あれ…?この木刀変だな…。」
「普通の木刀にしか見えないよ?」
「うん。木!」
イツキは魔剣モド・テクルの時と同じ感覚を覚え、徐に魔力を流し込んでみる。
するとすぐに木刀が二本とも光り出した。
「あっ!やっぱり!これ魔剣だよ!」
「うわっ!光ってる!」
「木がピカピカ!」
3人が何かを持って大騒ぎしているので、ララミーティアは気になってイツキ達の元へと向かう。
「さっきからみんなで何をそんなに楽しそうに騒いでいるの?」
「ティア!これ木刀かと思ったら魔剣だったよ!」
イツキが二本の光り輝く木刀をララミーティアに差し出す。
ララミーティアはそのまま鑑定してみる。
「…あら。それは元々木じゃなくてエルダートレントの死体ね。エルダートレントの死体はとても頑丈だし魔力が込められるからとても高値で売れるのよ。木に擬態しているしジッと何もしてこないからみつからないのよ。だから中々手に入らない代物ね。」
「森の中でまとめて木を切り倒したときのやつを加工したんだよ。ほら、建材にするには小さすぎるねって言ってたやつ。」
イツキが説明するとララミーティアは納得した顔でうんうんと頷く。
「あーはいはい、確かにあったわね。全然気が付かなかったわ。あんな風に本当に普通の木にしか見えないから滅多に手に入らないの。森の木を一本一本鑑定して回ろうとは思わないでしょ?」
「ねえねえ、それ魔剣って言ってたけど、どうやって使うの?」
説明に飽きたのかガレスがイツキとララミーティアに質問を投げ掛けてくる。
「込められるだけ魔力を込めるとこんな風に光るんだよ。光ったら何か簡単な魔法が付与出来るようになるんだ。試しに適当に込めてみるか。」
「ちなみにちょっとした詠唱魔法だけよ。無詠唱魔法で独創的なのは流石に込められないわ。」
ララミーティアの質問に頷くイツキ。
イツキは目を閉じてブツブツ呟くと、やがて木刀の光は収まった。
「何を付与したの?見たい!」
「みたいみたい!」
ガレスとルーチェが目を輝かせてイツキにせがむ。
イツキは3人からパッと距離を置くと、両手に木刀を構えたまま叫ぶ。
「刮目しろよー!さあ魔剣よ!我に力を与えたまえ!身体強化!」
するとイツキの身体が一瞬淡く光り出す。
「轟け!夜空に瞬く幾千の星々よ!スターライトレイヴ!うぉぉぉぉ!!」
イツキがすごい早さで何もない方向に向かって木刀を振り回す。
身体強化を重ねがけしているだけあり、確かに動きが早い。
しかし型など無い滅茶苦茶な動作なので、やがて木刀と木刀がぶつかり合ってイツキの手から木刀がこぼれ落ちてしまう。
「あだっ!いってぇー!!手がめっちゃ痺れたぁ!」
手に相当衝撃があったのか、両手を抱えたまま地面に膝を突いてうずくまってしまうイツキ。
それを見ていたララミーティアや子供達は腹を抱えて大笑いをする。
「ふふふ、あはは!!」
「あはは、イツキ面白かったよ!夜空とか星々とか、まだ昼にもなってないのに!あはははは!!」
「すたーらいとれいぶ!!うおー!あだっ!いてぇー!!あはは!いてぇー!!」
ルーチェが何度も真似しては呼吸困難になりそうな程に笑い転げている。
そんなルーチェを見てガレスとララミーティアも笑いが止まらなくなる。
「あはは、ひーっ、死ぬ!死ぬ!息が…!息が!」
「ほらほら、ふふふ、イツキが可哀想よ、ふふふ、あはは!!」
顔を真っ赤にしたイツキが笑い転げる3人に向かってズンズンと歩み寄る。
「くそーっ!どうやら余程笑いたいらしいな!よし、身体強化をかけて、この俺様のスターライトこちょこちょで存分に笑わせてやろう!」
イツキは自身に身体強化をかけて、3人をくすぐり始めた。
ガレスとルーチェはなす統べなくくすぐられるままにゲラゲラと大笑いするが、ララミーティアはゲラゲラ笑いながらも身体強化を自身にかけて空高く跳躍してくるくると回転しながら離れた場所に着地する。
まるで体操選手の大技だ。
その流れるような綺麗な動作にイツキや子供達はつい見入ってしまう。
「やっぱりティアは格好いいなぁ…。」
「ティアすごい。ティアかっこいい。」
子供達の意見にイツキも思わず全面的に同意してしまう。
「ああ、ティアは本当凄いなぁ。俺の奥さんすげーな。」
「あー笑った笑った。どうしたの、そんなポカーンと口を半開きにしちゃって。」
ララミーティアがまだクスクス笑いながらイツキたちのところへ戻る。
「やっぱりティアが一番格好いいなって話になったよ。これまで鍛練に費やしてきた時間がケタ違いだよね。一朝一夕では出来ない芸当だもんね。」
「もうっ…!照れ臭いわ…!」
ララミーティアは顔を赤くして耳をピコピコ動かして照れてしまう。
「ほらほら、そろそろお昼ご飯にしましょう。レジャーシートまでいらっしゃい。」
そう言うとララミーティアはイツキの腕に手を絡めてピッタリとくっつく。
レジャーシートに4人で座り、イツキはガレスとルーチェにリクエストを募る。
「さあさあ子供達、何が食べたい?遠慮せずに言いなさい!」
「るちぇ、チーズバーガー!」
「あ、俺もチーズバーガーかなー。」
即答の子供達にララミーティアは苦笑いを浮かべる。
「2人とも本当にハンバーガー好きねぇ。まぁ確かに手軽だし美味しいものね。」
「召喚、チーズバーガーセット!まぁあっちの世界でもそんなもんだったよ、子供はその手の食べ物が大好きなんだ。ティアはどうする?」
チーズバーガーセットを召喚しながらイツキがララミーティアにリクエストを聞く。
ララミーティアは子供達の為にジュースを召喚しながら悩む。
「召喚、リンゴジュース。そうねぇ、流石に連日ハンバーガー系は飽きたわね…。うーん。あっ!あれが良いわ、カルボナーラだっけ?あのクリーム煮みたいな麺のやつ!」
ララミーティアはガレスとルーチェにリンゴジュースが入ったペットボトルを渡しながらイツキにおねだりをする。
「お、いいよいいよ。召喚、カルボナーラ!麺かぁ、じゃあ俺ラーメンにしようかな。召喚、サービスエリアの醤油ラーメン!」
一通り料理が出揃ったところで、4人は『いただきます』をして昼食が始まる。
ガレスとルーチェはイツキたちが食べているものを見たのが初めてでとても興味を示していたので、イツキは取り皿をアイテムボックスから取り出し、カルボナーラとラーメンをちょっとずつよそってガレスとルーチェに食べさせてみた。
ガレスとルーチェはどちらの料理も気に入ったようで、おかわりと言ってカルボナーラと醤油ラーメンを一皿ずつ召喚して貰い2人で仲良く分け合って食べていた。
「何かこういうのいいね。家族で仲良くご飯を食べてるみたいでさ。」
「そうね。取り分けてあげたり、食べさせてみたり。ただの昼食なのにとても素敵。」
イツキとララミーティアは微笑みあって寄り添い合う。
ガレスとルーチェは満腹になったら眠くなったのか、2人でピッタリくっついてレジャーシートの上で寝息を立ててしまっていた。
風邪を引かないようにいつか召喚した羽毛布団をアイテムボックスから取り出してララミーティアは2人にそっと布団をかける。
幸せな日常はそんな風にして穏やかに過ぎてゆく。
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