54.魔法について
お昼寝も終わった後、まだまだ疲れているだろうと考えたイツキとララミーティアは相談し、午後からはララミーティアによる魔法の練習が始まった。
ララミーティアは手のひらを上に向けて、鷲掴みにするように手を少しだけ丸めると、早速魔法の実演を見せてみた。
「じゃあまずは簡単な物から見せていくわね。先ずは火魔法。」
人差し指からライターの火ような小さい火がぼうっと現れる。
「次は水魔法。」
次は中指からビー玉ほどの水玉が現れる。
「次は土魔法。」
次は薬指から小さい土の塊が出てくる。
「次は分かりにくいけれど、風魔法。」
目では確認しにくいが、確かにヒューっという音が当たりに聞こえる。
ララミーティアは小指の上に砂をパラパラと振りかけると、砂がぱーっと飛散していった。
「ね?じゃあ次は光魔法。」
親指の先から小さな光がぼうっと浮かんできた。
「最後に闇魔法。」
手のひらだけが突如暗くなる。
「これが基本的な6属性の魔法よ。」
これにはガレスとルーチェは割れんばかりの拍手を送った。
後ろから見ていたイツキも見事なコントロールについ拍手を送ってしまう。
「すごい!きれい!」
「凄い!こんなに同時に出せるなんて!しかも詠唱してなかったですよね?」
ララミーティアは魔法を全てかき消すと、手をパンパンと払ってガレスの質問に回答する。
「詠唱はなくてもいいし、ない方がいいわ。」
「何故詠唱しない方が良いのですか?」
ガレスが手を挙げて質問する。
「実際にやってみるわね。例えばウォーターシュートでも。」
ララミーティアが右手を前にスッと向けて俯く。
「我が元に大いなる水の加護を、今ここに顕現せよ、ウォーターシュート!」
ララミーティアの出からすごい勢いで水が飛んでいく。
まるで消防車で放水したようだった。
「これはこの威力の水がこれだけの時間出る魔法なの。ただそれだけの魔法よ。次に詠唱しないでやるわね。」
すると今度は手をかざした瞬間に先程より猛烈な勢いの水が斜め上の上空へ飛んでゆく。
やがて左右に揺れた後、徐々に勢いは落ち着いていき、最後はポタポタと水が滴って終わった。
「詠唱しない魔法は自由自在よ。それに発動が早いの。詠唱する場合は発動する前に相手に何が発動するのかバレてしまうのよ。当たり前よね、打つ前にわざわざ声を出して魔法の紹介をしているんだもの。どれくらいの物がどれくらいの勢いでどれくらい継続するか。慣れている相手だったら簡単に対策されてしまうわ。」
「…まあ、確かに…。」
「それにいちいち詠唱を憶えるのも面倒だし、何より…やっぱりちょっと恥ずかしいわ。」
ララミーティアが少しだけ耳をピコピコされて俯く。
イツキはやっぱりララミーティアも詠唱が恥ずかしかったのかと、思わず吹き出してしまう。
「はは!確かに!良い歳したおっさんが「汝の加護を~」とか叫んでたらちょっと笑っちゃうかもなぁ。」
「ま、まぁちょっと恥ずかしいですね。」
苦笑いするガレスに、ララミーティアも苦笑いを浮かべつつ説明を続ける。
ルーチェは興味深そうな表情でララミーティアをジッと見ている。
「但し人族とかその手の魔力が豊富じゃない種族は無詠唱はしないわ。何故かと言うとMPの消費の効率が凄く悪いの。」
「それじゃあ俺たちは詠唱するしかないという事ですか?」
ガレスはがっくりしてララミーティアに聞く。
ララミーティアはウインクを一つしてガレスとルーチェを見る。
「MPは空にすると持てるMPの量と魔力量が増えるのよ。イツキ、あれ。使ってもいいかしら。」
「あれ?ああ。まぁこの2人にならいいんじゃないかい?別にここで消費するだけだし。」
イツキは持ち物ウィンドウのお馴染みのバグった水を選択し、アイテムボックスから大量にボトボトと出す。
「ここだけの話にしておいて欲しいのだけれど、これを飲めばMPが回復させられるわ。MPがなくなると頭痛や身体のだるさがしんどくて、みんなMPと魔力を効率よく増やす練習が出来ないの。だけどここではそれがないわ。2人を誰にも負けないにしてあげる。」
「ありがとうございます!良かったな、ルーチェ!」
「うん、よかった!」
そこからはララミーティアの鬼のような特訓が始まった。
まずは基礎の魔法が発動出来るところまで持って行って、いざ簡単な魔法が出せるようになったら、MPが尽きて倒れるまでひたすら発動させ続けるよう本人たちに促した。
ガレスやルーチェがクラクラして倒れると、ララミーティアがイツキの水を飲ませてまた同じ事の繰り返し。イツキは息をのんでひたすら見守っていた。
「詠唱魔法は威力倍増の対象にならないの?」
イツキが腕を組んで子供達を見守っている姿勢のままララミーティアにふと尋ねてみる。
魔法威力倍増を持っているララミーティアなら詠唱魔法の方が低コストで高威力を出せるのではないのかとイツキは考えたからだ。
ララミーティアは肩をすくめてみせる。
「詠唱魔法は本当に全部が決まってるから威力は変わらないの。そのくせコストだけはちゃっかり増えてたから詠唱魔法はあまり練習してないわ。」
そう虫のいい話はないらしい。
ララミーティアも城塞の守護者の機能でガレスとルーチェのステータスをずっとチェックして、MPと魔力があがってゆくのをじっと見守った。
イツキがララミーティアの傍まで行ってガレスとルーチェの様子を見守る。
「これはアリーの訓練方法なの。あの人、魔力回復の秘薬をすごい持っていたから、朝から晩までこれをやらされたわ。段々慣れてくるとなかなかMPが空にならなくてね。あれこれすぐMPがすぐ減る魔法はどんなものか検証したものだわ。」
「はは、大変だっただろうなぁ…。それにしても凄いね。MPと魔力があの水を飲む度に上がっていくよ?こんなの毎日遣ってたら凄いことになんない?」
イツキが腕を組みながらララミーティアに聞く。
「凄いことになるわね。一部の森エルフとイツキにしか出来ないズルい技よ。魔力…、まあMPね、MPがなくなると本当にしんどいの。だから魔力回復の秘薬なしでこれをやる人が居るのなら、私尊敬しちゃうわ。」
そうしてこの訓練はなんと夕暮れ時まで続いた。
ガレスとルーチェはその場で大の字になって倒れ込んだ。
「2人ともお疲れ様。よく頑張ったわね。」
ララミーティアが2人の近くにしゃがみ込んで頭を撫でる。
「はぁはぁ、強くなりましたかね…?」
「るちぇ、つかれた…。」
「始めた時より遥かに強くなっているわ。このまま毎日続ければすぐにでもその辺の冒険者なんかに負けないくらい魔法が使えるようになるわ。退屈かもしれないけれど、とても大切な練習よ。ド派手な魔法よりも最後に物を言うのは基礎的な魔法なの。」
「2人とも今晩のご飯の後にご褒美が待ってるから、楽しみにしといてよー?よし、本邸に帰ろう。」
イツキが腰に手をあててにっこりとする。
ガレスとルーチェがヨロヨロと起きあがったので、イツキは2人に洗浄魔法をかけて綺麗にする。
そしてそのまま2人を軽々と抱き上げて本邸の中へララミーティアと入っていった。
その晩はイツキが鯖の塩焼き定食を召喚してガレスとルーチェに振る舞った。
2人とも魚を食べるのは初めてのようで、イツキとララミーティアが隣に座って箸の使い方をおしえながら骨をとってあげて食べさせた。
最初は慣れない箸に悪戦苦闘する2人だったが、先にルーチェが、そしてガレスも何とか夕餉が終わる頃には箸が使えるレベルにはなっていた。
その後イツキのアコースティックギターの弾き語りを目を輝かせて聞いたり、イツキが召喚したタンバリンやカスタネットなどの簡単な楽器を2人にプレゼントして、楽器の演奏に夢中になっている2人だった。
そしてイツキがララミーティアも含む3人をダイニングテーブルまで呼び出して、スーパーで売っているちょっと高級なバニラアイスを召喚して振る舞った。
ガレスもルーチェも初めて食べるアイスクリームに興奮しっぱなしだ。
「こんな美味しいものがあるんですね!美味しいな、ルーチェ!」
「るちぇ、これすき!おいしい!」
口の周りが汚れるのも気にせずに食べる2人を見て、微笑みながら口を拭いてあげるララミーティア。
そんなララミーティアの姿を見て、いつか子供が出来たらこんな風に過ごすんだろうなとこっそり想像して微笑むイツキだった。
この後は風呂にでも入れようかとララミーティアと相談していたが、2人はソファーで力尽きてすうすう眠っていたので、洗浄魔法をかけた後にベッドまで運んでそっと扉をしめた。
結局お風呂はイツキとララミーティアの2人で入ることにして、2人して向かい合って湯船にゆっくりと浸かる。
自然と「あああああー」と声が重なってしまい、クスクス笑いが止まらなくなる。
「なんか、子供が居るっていいな。って思った。」
「そうね。私も本当に子供が出来たみたいで幸せな気分だったわ。」
「そのうち子供出来るといいな。」
「ダークエルフがどんな感じで妊娠したり出産したりするのか分からないのよね。アリーもさすがにそこまで教えてくれなかったわ。」
ララミーティアが自分の顔にパシャっとお湯をかけて顔をこする。
イツキはお風呂の縁に頭を預け、天井をみながらぼんやり喋る。
「俺の予想だと、多分百年間あたり、産める赤ちゃんの数はせいぜい1人とかそこらだと思う。」
「あら、根拠は?」
イツキは人差し指をピッと立てる。
「長寿のエルフ系の種族が人族みたいにポコポコ子供を産んでいたら、今頃大陸中エルフだらけだよ。エルフ系の種族って多分少ないよね?」
「確かに少ないわ。ふふ、言われてみればそうね。」
「後はこれも予想だけど、子供が出来そうだぞっていう周期があると睨んでいる。なんか体がうずくだとか、うーん、まぁいつもと何となく違うぞ?っていう身体からの合図?デリケートな話で恐縮だけれど、ティアの月の物の周期って一月とかそこらじゃないんでしょ?長命種ならではの何かサインがないとスパンが長すぎて妊娠するタイミングを見極めるなんて至難の業になると思うんだよなぁ。」
ララミーティアは考え込むように難しい顔をするが、すぐに降参だとばかりに苦笑いを浮かべる。
「月の物の周期は確かに一年に一回では長いけれど、半年に一回って程短くもないわね。これまでその辺を意識して生きてきた訳ではないけれど、そういう感覚めいたものは感じたことがないわね。そう言えば次に月のものが来るのは春頃かしら。」
「うーん、年齢的なもんなのかなぁ。エルフ系種族にとって「40代で出産だぁ?お主なーにを言っとるのじゃ!?」って感じかもしれないしね。」
「あはは、誰それ!?ふふふ、おかしい!」
イツキがよく分からない老人の物真似を始めてララミーティアがゲラゲラ笑い出す。
やがてララミーティアがイツキの隣に移動して寄り添うように座る。
「そのうち行ってみようかな、リャムロシカの里。あの2人の背中に乗せてもらって。色々聞いてみたい話もあるし。」
「そうだね、急ぐ話でもないけど、そのうに行ってみたいね。」
「…拒絶されないかな…。それが心配よ。だって森エルフと正反対な色でしょ、私。」
膝を抱えて座るララミーティアの頬に優しくキスをするイツキ。
「その時は墓参りだけして帰ろう。大丈夫、俺たちには帰る場所があるよ。」
「うん。ありがとう、大好きよ。」
しばらく唇を求め合う2人。
段々のぼせそうになってきて風呂から上がった。
風呂上がりにはイツキはいつも冷たい牛乳を用意していた。
2人で牛乳を飲みつつゆっくりと夜は更けてゆく。
今日の18時に本編とあまり関係ない閑話を挿入しました。
よろしければ是非見て下さい。
面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。





