53.特訓
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
ガレスの話が終わると、ルーチェがお絵描きを止めてトタトタっとガレスの元へ走ってきて、ガレスの隣に座って抱き付く。
「がれす、ないてる」
ガレスは静かに涙を流していた。
「安心して泣いているんだ。もうこのまま聖女様のところにたどり着けずに、2人とも死ぬんだと思った…。今一緒に死ねば、きっと神様が見ていてくれて、…次に産まれたときは俺もルーチェも普通の子供で、花を摘んだり、歌を歌ったり、きっと夢のような幸せな暮らしを送るんだって…。俺は馬鹿だ。一瞬でも諦めたんだ…。もし、月夜の聖女様の話がデタラメだったら今頃はって思うと…。良かった、本当に良かった…。」
「るちぇ、きられて、こわかった。でも、がれす、たすけてくれた。ここ、つれてて、くれた。にこにこしてた、いいこと、あった!」
「そうだな、笑おう、ルーチェ。」
ルーチェはガレスを見ながらくすくす笑う。
「がれす、へん!いっぱいないてる、にこにこ!」
イツキとララミーティアそんな2人の様子を目に涙を浮かべながら優しい見守っていた。
「とりあえず俺たちは2人を追い出すような真似はしないよ。見ての通り基本的には2人で暮らしているからさ、ずっとのんびりやりたいことをして過ごすといいよ。」
「そうね。折角私を頼ってここまで頑張って来てくれたんだもの。あなた達には幸せになって貰いたいわ。私達は強いし魔法も凄いから、お金だとか食べ物だかの心配は無用よ。私達は長く生きられるから、そんなに慌てずに何年でも好きなだけここで過ごしなさい。」
そうして2人の小さい同居人との生活が始まった。
「薪割りでも掃除でも水くみでもやります!何でも言って下さい!」
ガレスがイツキとララミーティアにガバッと深く頭を下げる。
2人はうーんと考え込んでしまう。
「薪は使わないし、掃除も水くみも魔法で事足りてしまうのよねえ。」
「そうだなぁ。仕事をくれと言われても本当に何もないんだよなぁ。」
ガレスは必死の形相で2人にすがりつくように頼み込む。
「好きなことをしなさいと言われても申し訳が立たないです!何かありませんか!?」
「うーーーーーむ。何か。何か…。ティア、何かない?」
「…そうねぇ。仕事、ねえ。」
腕を組んで考え込んでしまうイツキとララミーティア。
やがてララミーティアがイツキの肩をポンと叩いてぱあっと明るくする。
「そうよ!訓練はどうかしら?午前中は私が魔法とか弓とか教えて、午後からはイツキが短剣術を教えるっていうのはどうかしら?」
「おっ、いいなぁ!採用っ!と、言うわけだけれど2人はどう?やってみる?」
思わぬ提案に不安そうな表情になるガレス。
一方ルーチェは「わーい!」とぴょんぴょん跳ねて喜んでいる。
「本当にそんな事をしてもらっていいのですか?」
「ふふん、世間のみんなが持っていなくて、俺たちに有り余っている物は何だと思う?それは暇だよ、ガレスくん。なぁティア?」
「ふふ、そうね。私達は時間が沢山あるし、何より誰かに何かを教えるなんて楽しそうだもの。してもらってもいいのよ。」
そう言うとガレスは「ありがとうございます!」と言って訓練を受けることになった。
アテーナイユから貰った木の短剣をガレスとルーチェに手渡すイツキ。
自分は暇なときに手慰みがてら作った木の短剣を持っている。
今日はとりあえず1日イツキが短剣を教えようという事になり、ララミーティアは本邸や離れの隠蔽魔法のかけ直しや、広場の雪を溶かして色々出来るように環境を整えることになった。
「本当に大丈夫ですか?怪我をさせてしまったら申し訳ないです。」
「ははっ、心配するな!俺はめちゃんこ強い!だから遠慮なく2人で好きにかかってきていいよ。」
ルーチェが「わー!」と言いながら雪の上をトタトタ走り、イツキに向かっていく。
いつかアテーナイユにされたようにイツキは自身の木刀で軽くくるっといなして、よろついた所をトンと軽く押した。
ルーチェはそのまま雪の上に倒れ込んでケラケラと楽しそうに笑っている。
ガレスもイツキに向かって何度短剣を当てようと奮闘するが、奮闘虚しくいとも簡単に倒されてしまう。
イツキの方はニコニコしながら木刀で太ももを叩いてリズムをとっている。
「つ、強い…。全然当たる気がしないです…。」
「いつき、くるくるって、おもしろい!」
その横ではララミーティアが火魔法と風魔法を使って雪を溶かして地面を乾かしていた。
「こっちはいいわよー!ほら、こっちに移動してちょうだいー!」
「ありがとう、助かったよ。」
イツキはそう言うとララミーティアの頬に軽く唇を落とす。
それを見ていたルーチェはほほう!と言わんばかりに表情を変えて、ガレスに向かう。
「ありがと、たすかた!」
ガレスの頬にぶちゅーっと熱烈な口づけをする。
ガレスは真っ赤になって固まってしまう。
「わっ!こ、こ、こういうのは本当に好きな人とか、えーと、そういう人とするもんだぞ…!」
「…?るちぇ、ほんとう、がれす、だいすきよ??」
「そ、そうか。ありがとうな、ルーチェ。俺もルーチェが大好きだぞ。」
「えへへ!いっしょ!いっしょ!」
イツキやララミーティアを真っ赤な顔で気まずそうにチラチラ見ながら乾いた方の広場へとルーチェの手を引いてそそくさと移動するガレス。
イツキとララミーティアは顔を見合わせて吹き出してしまう。
「まあ、流石に程々にしておいた方がいいのかな…?」
「そうねえ。夜まで我慢するようにするわ。」
ララミーティアはイツキにウインクを一つして投げキッスをすると、残りの雪も溶かす作業へと戻る。
それを見ていたルーチェは面白がって何度もガレスに投げキッスをしてケラケラ笑っていた。
その後イツキは真っ直ぐに相手に短剣を振り下ろす斬撃、左足から相手の懐に飛び込んでの斬突など、基本的な動作をひたすら反復させた。
昼頃になって、久しぶりに大きめのレジャーシートを広げて外で昼食をとることにした。
「さすが子供だけあって2人とも既に問題なく食べれそうだけど、どんな物が食べたい?何でも良いかな?」
イツキが2人に聞くと、うんうんと頷いてみせる。
「よし、じゃあ出すね。子供が大好きなやつ!召喚、ハンバーガーセット!」
「じゃあ私は温かい麦茶でも出そうかしらね。召喚、温かい麦茶!」
目の前に突如トレーに乗せられたらハンバーガーとポテト、飲み物が出てくる。
ガレスは目を丸くして目の前に突然現れた未知の食べ物を凝視する。
ルーチェは細かいことは気にしない様子でキャッキャ喜んでいる。
「これも魔法ですか…?」
「あー、これは魔法じゃなくて、神様の加護の力、かな?」
「かご?」
ルーチェがイントネーションの違う持ち運ぶ方の籠のジェスチャーをする。
ララミーティアがクスクス笑いながら訂正する。
「違うわ。神様から貰った特別な力よ。今の力は食べ物とか服だとか、武器以外なら召喚出来るって加護なの。私とイツキはこの世界とは別の神様から力を貰っているから出来るのよ。」
そう言うとララミーティアは「あとはこんなのね」と両手にそれぞれ聖女の十字架と大麻を出現させてみる。
「凄い!そんな事が本当にあるんですね!初めて見ました!」
「ほらほら、冷めないうちに食べちゃおうか。」
疑いもせず目を輝かせているガレスに、少しだけ鼻が高い気分になるララミーティア。
イツキの掛け声に合わせて全員で『いただきます』をして昼食は始まる。
初めて口にする物ばかりのガレスとルーチェだったが、手で食べれるという点が良かったようで、美味しい美味しいとドンドン食べておかわりも召喚する事になった。
しかし2人ともジンジャーエールは苦手だったようで、一口飲んだら涙目になってしまった。
ジンジャーエールについては結局全部イツキがアイテムボックスに仕舞っておく事にした。
お腹が膨れたからか疲れたからか、ガレスとルーチェはウトウトと船を漕ぎ始めて、やがてそのままレジャーシートの上で眠ってしまった。
イツキは羽毛布団を召喚して2人にそっとかけ、しばらくララミーティアとぴったり寄り添って静かにイチャイチャしていた。
快晴の冬空もと、穏やかな昼下がりは過ぎてゆく。
今日の18時に本編とあまり関係ない閑話を挿入しました。
よろしければ是非見て下さい。
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