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ダークエルフと暮らす異世界間違い転生  作者: 三沢 七生


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52.目覚めと氷解

今年も最後となりました。

いつも読んでいただいてありがとうございます。

来年もよろしくお願いします。

子供たちを保護したその晩、イツキとララミーティアはソファーで寄り添い合いながらゆったりと時間を過ごしていると、部屋の方からガサガサと物音が聞こえてきた。


「おっ!お目覚めかな?」

「そのようね。」


イツキとララミーティアが部屋の中に入るとガレスの後ろに隠れるようにルーチェがしがみついて様子を伺っていた。

イツキは部屋の明かりをつけるとガレスはルーチェを庇うようにしてこちらに警戒をする。


「起きたのね。よく眠れたかしら。ここは私達の家よ。」

「…あなたが月夜の聖女様、ですか…?」

「……?」


ガレスが恐る恐る尋ねる。


「そうよ。私は月夜の聖女ララミーティア。こっちは私の最愛の夫イツキ。あなた達は?」

「俺はガレス。エルデバルト帝国のトゥイールっていう町で奴隷だった。こっちはルーチェ。」

「そうかそうか、ガレス。ルーチェ。よろしくな!」


イツキがガレスに握手するための手をさしのべるが、ガレスは無言のまま押し黙ってしまう。

頬をポリポリとかくイツキ。


「まあとりあえず2人とも好きな服に着替えてちょうだい。ルーチェは私が手伝うわ。いらっしゃい?」


ララミーティアがニコニコしながらガレスの後ろに隠れているルーチェに話し掛ける。

ルーチェは不安そうな表情でガレスを見る。


「大丈夫だ。この人はこの辺じゃ有名な聖女様だ。説明しただろ?俺達が目指していた聖女様だ。」

「…せいじょ、たま?…るちぇ、おぼえてる!」

「そう。聖女様。偉いな、ルーチェ。」

「うんっ!」


ルーチェは頭を撫でてくれるガレスにまるで子猫のように甘える。

ガレスも優しい目でルーチェを見ている。

イツキはそんな2人に声をかける。


「さあさあ、2人とも、とりあえず服を着替えようか?いっぱいあるから好きなのを選んでよ。」

「…俺達、お金ないです…。でも、俺が働きます!だからルーチェだけでも…」


ガレスが悔しそうに唇を噛み締め、涙が出そうになるのを我慢している。

ルーチェはそんなガレスを心配そうに後ろから見ている。

ララミーティアはそんなガレスとルーチェを優しく抱き寄せる。


「あら、私達お金なんていらないわ。したいからしているだけよ。」

「そうだよ、子供はお金の心配なんてしなくていいよ。俺達が好きでやってるんだ。だから何も心配しなくていいんだよ。」


ガレスの目から涙が溢れてきそうになる。

ルーチェは心配そうな表情をしつつガレスの表情を伺う。


「…がれす、かなしい?おなかいたい?」

「違うんだ。助かったんだ、俺達。もう大丈夫だと思うと嬉しくてな。ルーチェ、大変だったな。」

「うれしい、なく?るちぇ、たいへんちがう!がれす、がんばるしてた、るちぇ、たいへんちがう。」


精一杯の笑顔でガレスを励ますルーチェ。

その様子を目の当たりにしてララミーティアは目に涙を浮かべていた。

イツキはガレスの肩に手を置いて、優しく語りかける。


「ガレスはずっと一人でルーチェを守ってたんだね、偉いよ。ガレスすげー格好いいよ。ルーチェもそう思うでしょ?」


ルーチェは会心の笑顔でイツキの言葉に頷く。


「るちぇ、やさしくする、がれすだけ!がれす、いつもかっこいい!すき!」


ルーチェはガレスに無邪気に抱きつく。

ガレスはルーチェの頭を撫でて、赤い目をしながら、泣くまいとして唇をきゅっと真一文字に結んでいた。



それからイツキとララミーティアは手分けしてそれぞれに新しい服を着せた。

ガレスの首に装着されていた大きめの鉄製の首輪について、イツキが外そうかと聞けば、ガレスは首を横に振った。


「これは鍵がないと外れないんだ。凄く頑丈で、みんな外したくても外せない。」

「えー?とてもそんな風には見えないけどな。どれどれ…。」


そう言ってイツキが首輪を両手で持ち、瓶のふたでも開けるかのように「よっ!と」と軽く力を込めると、首輪はいとも簡単に壊れて外れてしまった。


「イツキさん、凄い!これを素手で壊せる人なんて初めて見ました…。」

「おいおい、俺は月夜の聖女様の旦那だぞー?これくらいは強くないと何かあったとき守れないからなぁ。」


イツキは冗談めかして力こぶを作るポーズをしてウインクしてみせる。


「ほら、ルーチェも着替えたわ。いらっしゃい。」


部屋の扉を開けて扉の前に立ったララミーティアの後ろからこちらを覗くようにモジモジとしているルーチェ。

意を決したのか、パッとララミーティアの前に躍り出た。

ララミーティアが召喚した、白い質素なワンピースを着たルーチェが不安そうな表情でガレスを見つめる。

モジモジと身体をくねらせる度にスカート部分のプリーツがひらひらと揺れている。


「るちぇ、へん?」

「ルーチェ、よく似合ってるぞ。可愛いな。」

「へへ、よかった!」


そう言うとパッとガレスに抱きつくルーチェ。

ガレスはそんなルーチェの頭を優しく撫でる。

ガレスの方はイツキが子供の頃に着ていた子供用のジーンズと黒いトレーナーを着せていた。


「さあ2人とも。お腹が減ったでしょ?2人のために色々作ったから是非食べてちょうだい。」

「子供は遠慮するなよー?どんどん食べて良いからね!」


そう言って2人の背中を押すイツキ。

リビングダイニングには2人用のダイニングテーブルをもう1セット召喚して並べておいた。

2人を並んで座らせて次々と作っておいたスープやお粥をアイテムボックスから取りだす。

料理は作りたてのように湯気が出ており、2人の食欲を掻き立てる。

イツキもアイテムボックスからスプーンやフォークを取り出して二人の前に並べていった。

暖めておいた麦茶のカップも2人の前に置く。


「わぁ!おいしそ!」

「やっぱり凄い…。2人とも魔法に長けているんですね。」


ガレスの言っている意味がイマイチ分からないイツキはポカンとしてしまう。


「ん?ご飯もお茶も普通のやつだよ?」

「ふふ、違うわ。アイテムボックスの事よ。大抵の人族はアイテムボックスなんて魔法は使えないし、使えたとしても時間停止をさせる事は出来ないんじゃないかしら。」

「あ、そういえば魔核使うって言ってたくらいだもんね。テッシンさんとキキョウさんくらいしか会ったこと無いから全然気がつかなかった…。」


イツキは頬をポリポリかきながらはははと笑った。

それぞれの席に夕餉の用意が出来た所でララミーティアがガレスとルーチェに話し掛ける。


「我が家ではご飯を食べる時、両手を合わせて『いただきます』って言うの。イツキの故郷の習慣で、全ての物には命が宿っていると考えられていて、犠牲になった大切な命をこれから私が美味しく頂きます!っていう感謝、料理を作ってくれた人、野菜を育ててくれた人、全てに関わったみんなへの感謝の挨拶として『いただきます』って言うの。2人とも出来るかしら?」

「はい、ルーチェも出来るか?『いただきます』だよ。」

「うんっ!『いただきます』!」

「偉いぞ、上手だ。」

「えへへ、ほめられた!」


そんな仲むつまじい2人を見て微笑むイツキとララミーティア。


「よし、じゃあ頂きましょう!せーのっ!」

『いただきます!』


スープもお粥も気に入ってくれたようで一生懸命にモグモグと食べるガレスとルーチェ。

ルーチェは最初ごはんから煙が出ていると驚いて居たが、ガレスの話によればルーチェは暖かい物を食べたことが恐らくないと言っていた。


「ごはん、あったかいと、おいしいね!」

「そうだな。ちゃんとフーフーして冷ましてから食べるんだぞ。」


ガレスがルーチェの口を拭ってあげたり、時折ルーチェからガレスへ食べさせてあげたり、そんな様子を見て終始暖かい気持ちになるイツキとララミーティアだった。



食後、ルーチェの為に画用紙とクレヨンを用意してあげたイツキは、簡単に使い方の説明をして、キャッキャ楽しんでいたルーチェは床に寝そべって足をブラブラさせながら絵を描いている。


ソファーにガレスを座らせて、向かい合うように座るイツキとララミーティア。


「ここまで助けを求めて来た理由を聞かせて貰えないかしら。」

「分かりました。順番に説明していきます…。」



――――――――――



ガレスは物心着いた頃から奴隷商の館で奴隷として売られていた。

親も兄弟も分からず、懇切丁寧に家族構成を説明してくれる者も周りには居ない。

そんなガレスを買ったのはトゥイールの町で商人をしている男だった。


ガレスは早朝から夕方にかけてひたすら雑用をやらされていた。

朝は水くみ、店の周りの掃除、店が始まったら居住スペースの掃除、その後は小間使いとしてアチコチに配達やおつかい。

薪割りや竈の火の番。

夕方になって店が閉まると適当な食料をドサッと渡され、それで1日の自身の食事のやりくりをした。


日頃は口を開けば喋るなと鞭で打たれ、体調不良でも鞭で打たれて働かされた。

しかし店が閉まった夕方以降は最後に店の中の清掃さえすれば、後は比較的自由にしても文句は言われなかった。

ガレスは奴隷とは言ってもあくまで人族なので、亜人の奴隷に比べればかなりマシな扱いを受けていた。


こっそり寝床から抜け出しトゥイールの町をぶらぶらするのがガレスの唯一の楽しみだった。

トゥイールの町は奴隷だけでなく様々な種族の孤児も非常に多く、街中では行く宛てもなくぼんやり路地裏で座り込んでだり物乞いをしている子供が多かった。


亜人の孤児に対する町の人々の扱いは散々で、同じ空気を吸うだけで不愉快だなどと滅茶苦茶な因縁をつけて蹴飛ばされたりしている姿は特に珍しくは無かった。

町の自警団も亜人への暴力については一切関与しなかった。

そんな境遇の子供たちを見ると、人族というだけで恵まれていて幸せな部類なんだとガレスは自分自身に言い聞かせていた。


それでもあくまで奴隷、明るい未来なんて想像がつかなかった。

町にいる自分より不幸な孤児たちを見ることで不安をいつも誤魔化していた。


自由時間に町をぶらついていたそんな中で見つけたのが1人の少女だった。

町の人たちが囁きあう噂話によると、少女はある時町の入り口に捨てられていて、じっと門の前で立っていたようだった。

恐らく母親か父親に『ここで待っているように』とでも言われたのだろう。

一日中立ったままで、そのうち他の孤児たちのように町の中で宛もなくウロウロするようになったらしい。


少女は町の人々からだけでなく、他の孤児からもよく苛められていた。

見た目がゴブリンのような色の肌をしていて亜人の中でもかなり特異な存在だった上に、いつもニコニコなにを考えているのか分からなかったからだ。

恐らくゴブリンと人族か何かのハーフだろうと囁かれていた。

蹴られても、石を投げられてもニコニコしている少女。

町の住人からは魔物ではないのかと嫌煙され、たまに嫌がらせのように水をかけられたりしていた。


それでも少女はニコニコ笑っていた。


ある日ガレスは、誰にやられたのか頬を赤くはらせたままうずくまって、それでもニコニコしている少女に、お前はどうしていつも酷いことをされてもニコニコしているのかと話し掛けた。

少女は全然上手に喋れなかった。

しかしこちらの言うことは理解しているようで、頷いたり首を横に振ったりして反応は見せてくれた。


それから少女を不憫に思ったガレスは毎晩少女の元へ訪れてはなけなしの食料を分け与え、言葉を教えてやった。

少女はいつもニコニコしながらガレスの話を聞いていた。


単語を組み合わせてやっとまともに喋れるようになった頃。

少女が「ニコニコ、する、良いこと、ある。」とぽつりと言った。

ガレスは今まで一度でも良いことはあったのかと聞いた。

すると少女はいつものニコニコした笑顔で「ニコニコ、する、ガレス、会えた!」と笑顔で言った。


まるで満開の花が咲き乱れたような笑顔だった。


ガレスはこのゴブリンのような少女に恋に落ちた。


自分の名前は知らないという少女にルーチェという名前を付けた。

ルーチェという言葉の意味は光だ。

ルーチェはいつもニコニコして、ガレスにとっては地獄に差し込んだ一筋の光だった。

ルーチェは自分に与えられた名前が嬉しかったようで、何度もるちぇ、るちぇとニコニコしながら繰り返していた。


しかし奴隷でしかも子供のガレスにはルーチェを守ることなんて到底出来なかった。

この笑顔を曇らせたくなかった。


意味もなく蹴られているルーチェ。

ただそこに居るだけで石を投げられるルーチェ。

わざわざ井戸から汲み上げた水を浴びせられて震えているルーチェ。


ガレスは容赦なく悪意をぶつけられて居るルーチェに何もしてやれない自分が悔しかった。

ルーチェの笑顔がもっと見たい。

どんな仕打ちを受けてもガレスは耐えられた。

ガレスにとってルーチェはいつも光だった。


そんなある日、ガレスは日中に小間使いとして配達をしていた帰りのこと。


主人である商人の倅が短剣を持って仲間と路地裏に向かう姿を見かけた。

ガレスの背中に嫌な汗が流れる。

慌てて路地裏へ向かうと腕を切られて怯えた目をしながらニコニコしているルーチェが居た。

目に涙を浮かべてしきりに「ごめんなさい。助けて、助けて。」と譫言のように呟いていた。


何故腕を切られたルーチェが必死に謝っているのか。

何故いつもいつも悪意を向けられるのか。


ガレスは炎のような激しい怒りが身体の奥底からゴウゴウと噴き上がってくるのを感じて、気がつけば商人の倅に後ろから強烈な体当たりをかましていた。

商人の倅の足には自身の手からこぼれ落ちた短剣が突き刺さっていた。

泣き叫ぶ商人の倅にオロオロとする取り巻きたち。

ガレスはルーチェを横抱きにして路地裏から飛び出したが、その瞬間目の前に自警団の男たちが集まっていた。

ガレスは咄嗟に短剣を持った男がこの子とあっちの子供を刺して路地裏の奥の方へ逃亡したと嘘をついた。

男たちの意識が路地裏に向かった隙に必死で町の外まで走った。


外は雪が静かに降り続いている。


ルーチェを背中に抱えて朝な夕な眠らずに歩き続けた。

雪原を一歩一歩と踏み締める度、踝まで雪に足が埋まる。

粗末なサンダルは既にびしょびしょで酷く冷たい。


町の中で耳にしたある噂話に縋るしかないとガレスは思った。


どこの国にも属さない魔境の森に居る、まるで夜空のような肌に月のように輝く長い髪をしているという月夜の聖女様の伝説だ。


弱きを助けて強きをくじく。

困っている者には影から祝福を授けてくれるという最近よく耳にする眉唾物の噂だ。

例えデタラメだとしても、頼る先はそのお伽噺のような存在しかなかった。


主人の息子を怪我させて逃亡した奴隷。

見た目が魔物だと理不尽に虐げられる孤児。


2人に戻る場所なんてこの世界のどこにもなかった。


傷口の影響かルーチェは熱を出しているようで、ガレスの背中でぐったりとしている。

でも今はその熱が寒さを和らげてくれた。


途中、大きな木にあったウロで隠れるように休憩していると、早馬の音が遠くから聞こえて来て咄嗟に身を屈める。

急いでガレスは自身の服の上半身を破って、落ちていた石を中に入れて即席の武器を作った。


やがて当たりは静かになる。

魔境の森はもうすぐだ。


どれだけ歩いたかわからない。

既に身体はボロボロで、ルーチェもぐったりしたまま弱々しく息をしている。


魔物が一切出てこない事だけが救いだった。

やがて2人は鬱蒼とした森に漸く辿り着いた。


魔境の森だ。


ガレスの意識は朦朧とする。


足が重い。

疲れた。

今すぐ倒れ込みたい。


…もしもここで死んだら、次はきっと普通の子供として、普通にルーチェと幸せに暮らしたい。

花を摘んだり、歌を歌ったり、ルーチェにまた恋をして、隣でルーチェがニコニコしている、まるで夢のような生活を送りたい。


楽園はどこだ?

この先か?

空の上か?

ルーチェが理不尽に虐げられない楽園はどこだ?


朦朧とする意識を必死で振り払う。

ここで立ち止まればガレスだけでなくルーチェまで死んでしまう。


そう思うとボロボロの身体のどこからともなく膝を起こすだけの力が不思議と沸き上がってきた。




この世界は地獄だ。


おもしろ半分で人を平然と虐げる地獄だ。


そんな地獄に差し込んだ眩しい光。

ルーチェ、絶対に死なせない。


やがて向こうから2つの人影がやってくる。

武器を手に最後の力を振り絞る。


ルーチェ、俺が必ず守ってみせる。


ガレスはルーチェをその場にゆっくりと横たえ、頭をそっと撫でる。

暖かいルーチェの温もりが辛うじて身体の奥底から最後の力を沸き上がらせる。


絶対に俺が何とかしてみせると心の中でルーチェに誓い、朦朧とする意識の中、ガレスは必死で人影と対峙する。

面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。

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