51.救出
「…なんかさ、今更だけど外に雪積もると変な光景だよね。」
「雪を掘って、その中で身を寄せ合っているみたいで寒々しい気分になるわね…。」
広場が雪に埋もれている冬まっただ中のある日、朝食を食べて2人でソファでくっついてイチャイチャしている中、外の光景を見ながら改めて感想を呟く2人。
本邸はその機能でリビングダイニングは外が透けて見えるようになっている為、まるで大雪の中に穴を掘って雪洞ビバークをしながら過ごしているような妙な気分にさせる。
来たばかりの頃は開放的で良いなどと呑気なことを言っていた2人だったが、冬になると開放的な気分は本当にいらない要素だった。
「ふふ、でもイツキにくっつきたくなっちゃう。」
「とんだ甘えん坊だなぁ。でも凄くわかる。」
「あら、イツキだって甘えん坊の癖に!このっ!」
ララミーティアがイツキの脇を突っつく。
「ふはははは!なんのこれしき!こんな事でへこたれる俺じゃない!ってははは、やめて!はは!負けないぞ、ほれほれー!」
「あはは、やめて!ちょっと!えいっ!」
2人で引き続きイチャイチャしている時、唐突にそれぞれの目の前にウィンドウ画面が控え目に出てきた。
「わっ!ビックリした…。これ久し振りだな。秋頃はランブルク王国の方面からちょくちょく安全そうな人たちの反応はあったけどさ。」
「うーん、誰かがこの辺まで来たみたいよ。城塞の守護者の範囲内に来ているから、悪い人ではなさそうね…。とはいえこんな時期に何かしら。」
加護の影響範囲内に黄色いアイコンが2つ。
いずれも色は薄くなっていた。
2つの黄色いアイコンに触れる。
それぞれのステータスが表示されて息をのむ2人。
「なにこれ、子供よ!しかも死にかけじゃないの!」
「とりあえず助けに行こう!」
2人はイツキが冬が始まる頃に召喚していたお揃いのダウンコートと長靴を装備して慌てて本邸を飛び出していった。
2人は器用に森の中を走りながらステータス画面を確認する。
「男の子と女の子ね。男の子は人族6歳で名前はガレス。女の子は、えっ…、ゴブリン?なんで魔物なのにステータスが…?他の種族とのハーフかしら…。名前はルーチェってなっているわ。歳は5歳。」
「ハーフってそういえばどういうルールで種族名が決まるの?」
「全部アリーの受け売りだけど、基本的には遺伝が色濃い方の種族名が表示されると言われているわ。とは言ってもどちらの色が濃いのか単純に見た目だけで決まっている訳ではないの。詳しくはよくわからないんだけれども、殆ど人族の見た目なのに森エルフ族とかになる事もあるらしいわ。」
「へぇ、なんか奥が深いんだなぁ。」
今までララミーティアとしか関わっていなかったイツキは考えたことも無かったが、確かにハーフゴブリンとか表記し始めたら、何世代か後になって訳がわからなくなるだろうなと思った。
色々な遺伝を持っているものが一々『クォーター森エルフ族、クォータードワーフ族、ハーフゴブリン』なんて表記するのはあまりに面倒くさい。
というか、4分の1とかそんな簡単な話でもないだろうとイツキは頭の中で自分につっこみを入れた。
「しかし、こんな真冬に死にかけの子供2人。何か訳ありなのは確かだな…。そろそろ着くよ。」
「ええ。」
イツキとララミーティアはやがて小さい人影を2つ発見した。
「おーい、大丈夫かー?助けに来たぞー!」
「あなた達、とりあえず私達の家にいらっしゃい。」
雪に覆われた森の中で首に黒い首輪をして上半身裸の少年が、ぐったりしている少女を背負っている。
既に満身創痍と言ったところだが、その茶色い瞳からは不屈の闘志が感じられる。
少年は栗色の髪の毛で、女の子の方は顔が確認できないが髪は薄いピンク色で、肌はくすんだ黄色というべきか、人族の色ではない事は確かだった。
「…くそ…、追っ手が…、…ルーチェ…、少し待ってろ…。」
少年はかなり朦朧としているようだ。
ルーチェと呼ばれた少女をゆっくり降ろすと、意識のない少女の頭を優しく撫で、腰にぶら下げていた服で作ったと思われるブラックジャックを手に取る。
フラフラする身体を奮い立たせ、手に持ったブラックジャックをぐるぐると力無く回し始めた。
いずれにせよこのままほったらかしていい状態の子ども達ではない事は確かだ。
真冬にこんな薄着でしかも意識のない女の子を背負って、イツキもララミーティアも想像以上の状態に、到底信じられないといった印象だった。
「落ち着け落ち着け!俺達は追っ手じゃない!この森で暮らしている夫婦だ!」
「今、…何とか、する…からな。ルーチェ…。もう少し…で、月夜の、聖女様の…。」
思わぬキーワードが出てきて、ララミーティアは賺さず反応する。
「あら、月夜の聖女を探しているのかしら?月夜の聖女は私の事ね。あなた達が彷徨っているのを見つけてここまで駆けつけたの。だから落ち着いてちょうだい。追っ手ではないわ。」
少年が朦朧としている意識の中でふとイツキとララミーティアを見ると、目を見開いた。
「あぁ、…助けて、下さい…!ルーチェ…、ルーチェだけでも…。お願いです…。ルーチェ…。」
そう言うと少年は涙を流しながら膝をつき、その場に倒れ込んでしまった。
「と、とりあえず聖女の力で癒すわ。この子たちよく見ると怪我だらけよ…。」
そういうと少年とルーチェを手早く治療して、イツキとララミーティアはそれぞれを抱きかかえて急いで本邸へと帰った。
ララミーティアがある程度治療していたので、本邸の入り口では2人ともオールグリーンと判断されていた。
とりあえず2人に洗浄魔法をかけて清潔にし、目を覚まして気が動転してはいけないので、一つのベッドに2人を寝かせた。
部屋の扉を開けたままイツキとララミーティアはソファーに腰を下ろす。
「まぁしばらくは起きないかな。いやぁ、ビックリしたな…。」
「久し振りに加護が反応したと思ったら子供2人だもんね。さすがに驚いたわ。それにあの子たちが来た方向はエルデバルト帝国の方向よ。」
イツキが苦虫を咬むような表情を浮かべる。
「またエルデバルト帝国か…。本当につくづく嫌な印象の国だな…。」
「そうね、あそこは奴隷だとか差別だとか、亜人にとっては住みにくい本当に嫌な国よ。」
ララミーティアがため息をはく。
イツキは思い出したように手を叩く。
「あっ!そういや服どうしよう…。ティア何か子供の服ってイメージ出来る?」
「あら、それもそうね…。あちこち放浪してたときの記憶で出してみようかしらね…。」
「俺の場合だとあっちの世界のになっちゃうんだよなぁ。とりあえずベルヴィアには頑張って再現してもらうか…。」
そう言って2人は片っ端からあれこれ召喚してゆく。
大量に召喚した中で問題なさそうな物をいくつかチョイスして、後は全てララミーティアがアイテムボックスへとしまい込んだ。
その後はいつ起きてきてもいいようにとララミーティアが消化に優しそうな薄めの鶏ガラスープやお粥など、イツキから召喚してもらった食材で色々練習した成果を遺憾なく発揮して次々に作ってはアイテムボックスへと仕舞っていった。
イツキもヨーグルトやゼリーなど、日本で病み上がりの子供に与えるような胃に優しい物を召喚していった。
ララミーティアは既に食べたことがある物だったので「確かに病み上がりには良さそうね」と太鼓判を押してくれた。
子ども達が起きた後の準備も終わり2人は扉を開けておいた部屋を眺める形で座っていた。
「しかしさ、月夜の聖女を頼ってここまで来たみたいだったね。」
「そうなの。ミールの町の噂が隣の国まで広まっているのね。冒険者が来るよりは良いんだけれども。」
イツキは腕を組んで考え込むようにゆっくりと喋る。
「うーむ。町中でルーチェって女の子が迫害なりなんなりされて、奴隷の少年ガレスが危険を犯してまでそれを助けた。そして行く宛てのない2人は噂で聞いた月夜の聖女に助けてもらおう追っ手から隠れながら魔境の森を目指した。」
「そんなところでしょうね。ガレスって子の方は自分の服を破いてブラックジャックを作っていたわ。この寒い季節に上半身裸になってでもね。満身創痍だったのにルーチェだけでも助けてくれって…。私、心に響いたわ。」
ララミーティアが切ない表情を浮かべながら微笑んだ。
「ああ、正直他人ごとのように思えないんだ。」
「ええ、私も自分たちみたいだなって思ったわ。命を投げ打ってでも女の子を守ろうとしてる姿、まるで小さいイツキを見てるみたい。ルーチェをそっと地面に置いて優しく語りかけて、武器を片手に全力で守り抜くんだって。」
「愛おしそうに見てたもんね。多分さ、悔しかっただろうなって思うんだ。守りたいのに満足に守ることも出来ない。だからあの子さえ良ければ、俺さ、力になってあげたいよ。じーんとしちゃってさ。」
「私も同じ気持ちよ。ふふ、落ち着いたら2人に聞いてみましょう。」
ララミーティアがイツキに寄り添う。
イツキはララミーティアのおでこに優しく唇を落とす。
子ども達が寝ている部屋からはスースーと静かな寝息が聞こえてきていた。
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