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ダークエルフと暮らす異世界間違い転生  作者: 三沢 七生


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563.ペロの賢さ

「よしっと…こんなもんかな?よしよし…はぁ終わった…」


そう言ってイツキはズラズラと文字が書かれた木簡の束をテーブルにジャラリと放り出し、同じくテーブルに鎮座している大きめの木箱を前に小さなため息をついた。


「ネジとかバネってヤツかしら?ゴテゴテした物ばかりね。あら、魔核もいっぱい。」


キッチンからやってきたララミーティアがひょいと木箱の中を覗き込む。

木箱の中には金属製のパーツが満載で、色とりどりの魔核もところどころ散らばっている。

イツキは肩を竦めながら口を開いた。


「魔導エンジンを作るのに必要なパーツらしいよ。これから定期的にこうやって木簡と木箱を渡すから、その通りに召喚してくれってさ。」


イツキはそう言って木箱の中から適当なボルトを取り出す。

興味津々でそんなイツキの向かいに並んで座って見学していたペロとエステルはひょいと木簡の束をひったくった。


「この木の板、文字いっぱい!読めなーい!」


速攻でエステルはギブアップするが、ペロはそのまま木簡の一枚一枚に目を通し始めた。


「粗目バツ型ビス3号、400本。細目棒型ボルト5号、200本。」

「ちょっとした呪文ね、ふーん…」


ララミーティアも顔をしかめながら木簡のうちの一枚を拾い上げた。

そんなララミーティアの反応を見たイツキは浅い大きな木箱をアイテムボックスから取り出して蓋をパカッと開ける。


「ほれ、こんな感じ。」

「細かくサイズが別れているのね!」

「そうそう、この巻き巻きグルグル部分の幅、ねじ回しの形、先が尖ってるかそうじゃないか、あとは物の大きさ。多分まだまだ派生品が増えるよ。」


中には等間隔に大小様々なネジやボルト、ワッシャーにナットなどが説明書きつきで並べられている。


「これを渡されてさ、言われたとおりに召喚してるんだよ。」

「わぁ、綺麗に並んでる!」


エステルが目を輝かせてイツキがアイテムボックスから取り出した木箱を眺める。

ペロも興味津々といった様子で木箱を覗き込む。


「へぇ、これがこれからこの大陸に産業革命とやらを起こす訳ね?ふーん…」


ララミーティアはあまり興味がないのか、そう言うと空いていた適当な椅子に腰を下ろした。


「細かいものばっかり見てたから目がしょぼしょぼするよ。あー疲れた…」


そう言って目頭を摘まむイツキに、ララミーティアは出来上がったハーブティーを召喚して差し出した。


「ふふ、お疲れ様。これでもどうぞ。」

「おっ、ありがとう!何なら一気に何万本とか召喚した方が話が早いんだけどね、ゆくゆくこういうのを作ってる所に発注する時のことを考えて今からこうやって頼んでるみたい。」

「そうして教国は益々発展してゆく訳ね。」

「現にさ、もう同盟国から使節団みたいなのが話を聞きに来てさ、契約を結んだりしてるらしいよー?まぁニコに任せて正解だったかな。」


イツキの言葉に大きく目を開いて肩を竦めたララミーティア。


「荒稼ぎじゃない?ララミューズ薬局は一体どこまで巨大化するつもりなのかしら?」

「変なのー、お薬関係無いね?」


ララミーティアの言葉にペロはそう言ってララミーティアの真似をするように目を大きく開いて肩を竦めた。

そうなるとエステルも真似したくなったようで「変なの!」と言って同じ仕草をしてみせる。

イツキとララミーティアはそんな2人の可愛い仕草にクスクス笑ってしまう。




ネジなどの工業製品を世に売り出す際、商会の名前をどうしようという議論は為されようとしたらしい。

らしいのだが、結局「ニコが指揮を執っている」「じゃあララミューズ薬局のネームバリューにあやかろう」「ララミューズ様から許可も得ている」という訳で、ララミューズ薬局の看板を背負った製品として世に出回る事に決まっていた。


最早健康と結び付けようのない事業だが、その辺のこだわりについてララミューズ自身は無頓着なので、最近では教国が新しい事業を始める際には健康に結び付かずとも、殆ど「ララミューズ薬局」の看板を使っていた。


何よりララミューズ薬局のネームバリューは凄まじく「ララミューズ薬局=神聖ムーンリト教国=高品質で低価格」が大陸中に定着。

ユーザーとしても安心して買える品物として非常に分かりやすい識別子なので、看板を乱用しようと互いにとって面倒がなかった。


神聖ムーンリト教国を詳しく知らない遠くの国の人々でも知っているくらいに超有名な名前となったララミューズ。

そんな遠い異国では、何でもかんでも名前が出てくるララミューズという人物を途方もない大富豪だと思っている者も少なくない。

しかし当のララミューズは未だにコルムと2人で広場に用意された小さな家で慎ましく暮らしていた。

実質的に経営者であるニコですらもララミューズとそう変わらない暮らしを送っており、取引相手とアポの無い時は「まだ履けるのに勿体ないでしょう!?」と言ってツギハギのあるズボンを履いている始末だった。


ララミューズ薬局が稼ぎ出す途方もない収益の殆どは教国やムーンリト教によって有効活用されている。


ちなみに天界から用意された魔導エンジンを製作している工房は、見た目は少し大きめのこの世界のアパートのような素朴な外見だが、中身は完全にオーパーツなハイテク環境。

流石にペロやエステルは立ち入り禁止を言い渡されており、ペロとエステルは口を尖らせつつも渋々納得していた。

イツキとララミーティアに限っては入室を許可されてはいたが、ペロやエステルが口を尖らせる手前、結局殆ど中には入っていなかった。




イツキは一人本邸から出て大きく伸びをした。


(はぁ、平和だ…)


徐に歩みを進めると、開けたところではクッション素材のレジャーシートを広げたマーウー達母親組が子供達と日向ぼっこをしている。

タイキはマーウーにぴったりと抱きついていた。


(母子ともに健康、か。うんうん)


何やらお喋りに興じているマーウー達を尻目にイツキはふらりとゲートの方へと歩みを進める。

この日は天界からの観光客が来る日で、牧場は大勢の観光客で賑わっているところだった。


特に声のかかっていないイツキはそんな賑やかな牧場を尻目にゲートを潜る。

浮遊城の中は誰もおらず閑散としている。

イツキはフラフラと適当な窓の前まで移動し、眼下に広がる巨大都市、首都ミーティアを見下ろす。


(初めはなんも無かったのになぁ…今じゃ大陸一のメトロポリスか…)


感慨深く首都ミーティアを見つめるイツキ。


(俺が設定したフィルタとは言え、拠点に悪意を持つ者は弾くってのは最高にズルいよな…)


当初はララミーティアに対して悪意を持つ者を弾く設定にしていたが、どんどん規模を拡大してゆく首都ミーティア全体を守るためにも、守護する首都ミーティアに対して悪意を持つ者を弾く結界を張っていた。

「城塞の守護者」のチートな点はズバリ、イツキの抽象的な悪人像を限り無く忠実に把握して勝手に侵入を防いでくれる点だ。

だからイツキは常に色々な人と雑談する中で悪人についての最新情報を仕入れていた。


(おっと、この後フランク達が来て報告する日なんだっけ)


今日が定例報告会の日だったことを思い出して本邸へ引き返すイツキ。




その後、フランクとアンジュとヴィクトールがやってきて、定例報告会が始まった。

ちなみに何が面白いのかペロは欠かさず参加。

エステルは退屈なようで既に参加しなくなっていた。


工業製品の大躍進によりドワーフ以外が切り盛りしていた鍛冶屋が多忙を極め、近日中にネジなどの工業製品を専門に作る工場を構える予定。

場所は嘗てフランクがお見合い相手を捜してた頃に作ったお屋敷。

結局フランクもセシーリアも「豪華すぎる家には住みたくない」と言って、重要な国賓が来たときに使う程度だったお屋敷。

しかも大抵の国賓は「折角あの安心安全な首都ミーティアへ来たのだから」と言って少し贅沢な程度のその辺の宿屋に泊まりたがり、完全にお飾りになっていた施設。


ムーンリト教も僻地の教会まで潤沢に予算を回せるようになり、嘗てきな臭くなって引き揚げた大マーリング連邦の教会にも順次教会機能を戻しつつある。

定例報告会の度に貰っているが、赤ちゃん関連の用品と飢饉対策セットを兎に角沢山くれ。

孤児を首都ミーティアに集めて里親をあてがう件も順調。


教国軍についてはトウシロウだけでなくクラウス、それにララハイディとリュカリウスも日頃から見てくれるようになったお陰で、兵士一人一人の練度が着実に向上している。

子供の頃からララミューズ薬局案件で魔力面を鍛えている者が多く、周辺諸国の基準で言えば「魔法師団」と名乗っても可笑しくない。

どうしても種族的にサキュバスやラミアなど女性しか産まない種族の女兵士が多く、男女関係なく編成して教国内のあちらこちらに展開している為か、派遣された先で兵士同士や地元住民で夫婦になって子を宿すケースが増えてきた。

そこはムーンリト教と連携し、教会に住み込みで司祭をさせたり用心棒をさせたり、冒険者として稼がせたりと、今の所は上手いこと回せている。


そして最後にフランクが改まって口を開いた。


「これまではランブルク王国のリンガを使ってきた教国ですが、教国独自の通貨を制定する事でランブルク王国と話を進めております。」


フランクの言葉にイツキとララミーティアは顔を見合わせる。


「ついにかー!」

「どんなデザインになるか楽しみね!」


貨幣の絵柄について昔ワイワイ盛り上がっていただけあり、呑気に盛り上がるイツキとララミーティア。

しかしペロがフランクに向かって口を開く。


「ねえねえ。」

「ん?なんだいペロ。」

「ランブルク王国のお金が教国にどんどん流出するからお金作るの?」


ペロの質問に目を丸くする一同。

辛うじてフランクがひきつりつつもニコニコしながら大きく頷く。


「えーと…そ、そうだよ。とても儲かっている教国にばかりどんどんお金が集まるからね。ランブルク王国も流石に許容できなくなってきているんだ。」

「ランブルク王国も困ってるけれど、ペロ達の国にとってもこのままだとランブルク王国が邪魔になるかもだから、お金造るって決めたんでしょ?」

「えっ!?そ、そうだね。ペロは博識だね…」

「この前観光に来てた貴族のおじさんとおばさんが言ってたよ。今でこそ仲好しな関係だけど、将来的な事を考えたら王国の影響力?は排除したくなるだろうって。」

「ペ、ペロにそんな事を言ってたの?」


フランクの質問にペロは笑いながら首を横に振った。


「そんな訳ないよ!ペロ、そのおばさんの膝の上でおじさん達の話聞いてたの!」


何となく想像がつく光景に苦笑してしまうイツキ達。




ペロの博識さに俄然興味を持ったフランク。

確かにペロは何にでも興味を示し、じっと観察したり耳を傾けたりしている光景は良く見受けられていた。

ここ最近、出産の際にも的確な助言をしてみせたり、ちゃんと教えてもいない文字を完璧に読み書き出来たり計算も出来たり、更に今回は貨幣のやりとりの後も独自の通貨を作る事についてフランクと会話を続け、フランクから知識をぐんぐん吸収しているように見受けられた。


「ペロ、今度私のお仕事を側で見てみるかい?きっと新しい事をいっぱい覚えられるよ?」


フランクの唐突な提案にペロは目を輝かせてイツキとララミーティアの顔を見つめた。


「んー、ペロが興味あるなら良いんじゃないかな?きっとペロにとって良い経験になると思うよ?」

「そうね。パパもママも大賛成。私達の娘は物凄く頭がいい自慢の娘ですもの。」


2人の意見にペロは満面の笑みを浮かべる。

イツキは眉を八の字にしてフランクに向かって口を開く。


「フランクも本当にそれでいい?まぁペロの事だから邪魔はしないと思うけれど…」

「ええ、良いですよ。ペロの賢さにとても興味がありますからね。どこまで知識を吸収出来るのか考えただけでワクワクしますよ。」


フランクの言葉にアンジュを腕を組んだままコクコクと頷いた。


「何だかんだペロちゃんだって年齢だけ見れば成人だもんね。首相の座に君臨する日もそう遠くないかもだよ。」

「そうなると磐石だよな。代替わりしねえ首相。じいちゃん達の娘だから悪巧みなんかもしねえ。うん、いいかもしんねえな。」


ヴィクトールもアンジュと同じく腕を組んで大きく頷いた。


こうしてペロの更なる知識向上計画が始まった。


エルダークルークドラゴンのペロ。

知識を蓄えて自分の物にする事を好みます。

超長命種よりも長生きなドラゴンだからか、人から見れば退屈そうな長時間の作業でも、ペロにとっては屁でもないあっと言う間な時間に過ぎません。

本邸のある広場でも、どこの家庭にふらりと顔を出しても我が子のように可愛がられるこの状況は、幼いペロにとって安心して様々な知識を蓄えられる絶好の環境にありました。

実践こそしていませんが、ダグの鍛冶もひたすらジッと見ていたので、口こそ出しませんが、魔法金属の配合量や混ぜるタイミングに叩くときの音の変化など、見た物は殆ど知識としてインプットされています。


これからフランクの側で過ごす時間が増える事で、ペロはワンランク上のお姉さんになる予定です。

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