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ダークエルフと暮らす異世界間違い転生  作者: 三沢 七生


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49.楽器

その晩、夕餉の前にイツキはなじみの深いアコースティックギター、各メジャーKEYのブルースハープ、鍵盤ハーモニカを召喚した。

みんなが興味津々で召喚した楽器を眺めていると、イツキは懐かしそうな表をしてアコースティックギターを撫でた。


「母さんの使ってたやつとそっくりだ。懐かしいな…。家族は母さんしか居なくて、とても裕福とは言えない生活だったけどさ、たまに河原とか公園とかに行ってこれで弾き語りをしてくれたんだ。…好きだったな。本当何もなかったけれど、それだけで幸せだった。」


イツキはギターを手にとって、徐に母親がよく歌っていた歌を弾き語りだした。



歌が終わりララミーティアが切なそうな表情を浮かべて口を開く。


「とても素敵な歌だったわ。聞いたことのないメロディだし、歌にあわせて語るのではなくメロディを口ずさむように語って。素敵だわ。」

「そうですね。これまで大陸中を回ってきましたが、初めて触れる音楽でした。」


テッシンが関心しながらも感想を述べる。

ララミーティアはふとイツキに質問をする。


「それで、語っていた言葉はイツキの世界の言葉なの?」

「…あっ、そうかそうか。このまま歌ったら日本語なのかこれ!」


ララミーティアに指摘されてイツキは日本語で歌っていたことを完全に失念していた事に気がついた。

ララミーティアは微笑みながらイツキを後ろから優しく抱きしめる。


「でも、内容が分からなくてもとても素敵な歌だったわ。」

「こっちの言葉に置き換えてみようかね。えーと、髪を…解く、解いた…?えーと…。」


そうしてみんなが夕餉の支度を始めて、やがて完成したころにイツキの即席の翻訳も完了した。


「じゃあこちらの世界版として歌うね。俺や母さんが作ったわけじゃないんだけど、あっちで昔流行った曲なんだ。」


拍手のもとイツキが静かに演奏を始める。

この曲は男性ボーカルなのだが、イツキの母親が好きでよく歌っていた歌だった。

母親は高いキーで歌っていたが、イツキにはしんどかったので原曲キーで憶えている。



演奏が終わるとララミーティアが飛びついてきて慌てて受け止めるイツキ。


「あ、あれ…、えーと。どうしたの?」

「………っ!」


耳がピコピコしているララミーティアを見てニヤニヤする一同。


「おいおい、愛する者から急にこんなロマンチックな歌を歌われて平気で居られる者なんていないぞ。」

「そうですね。歌の通りいつまでも離さないでくださいね。」

「ほっほっほ!」


冷やかす3柱の隣でウットリしているベルヴィアとキキョウ。


「やっぱり地球の歌は良いわねぇ。私もそんな事言われたいなぁ。」

「ふふ、そうですねえ。吟遊詩人のそれとは別物ねえ。こんな穏やかなのに情熱的な歌なんて聞いたことがないわあ。イツキくんも大胆ねえ。」

「やはり耳にしたことがない類の歌ですね。これはきっと流行りますよ。」


テッシンはまた儲かる手法が思いつかない閃きを口にする。


「これからもちょくちょく言葉を直して色々御披露目するよ、聞いてくれる?」

「…うん!」


イツキはララミーティアの頭を優しく撫で、やがて頭に顔を埋める。




それからの日々はララミーティアは専ら農作業と料理作りにあけくれ、イツキは短剣術の鍛錬、夜は楽器の演奏にあけくれていた。

3柱の予想通り魔境の森へやってくる冒険者はあれ以来全く居らず、魔物が姿を消した森は静かな様相を保っていた。

魔物が居なくなった事で食用の肉の確保については猪や鹿など必要なった時のみイツキとララミーティアが森へ行って狩りに行ってきた。


ベルヴィアを始め残りの面々もイツキとララミーティアがそれぞれ没頭できる物事を見つけた事にほっとしていた。

日中は互いにやることをやって、朝晩は仲むつまじげにずっと一緒に居た。


町での騒動から一月半ほど経ち、ララミーティアの畑からちょっとした葉物野菜が収穫できるようになった頃、朝食が終わってララミーティアの淹れたハーブティーを飲んでいたときにベルヴィアが改まってスッと立ち上がった。

注目がベルヴィアに集まる。


「ん、なんだ?どうしたの?」

「アテーナイユ様とミクラノミタマ様が天界に帰ります。」


アテーナイユとミクラノミタマが微笑みを浮かべて立ち上がる。


「私も管理している世界がある。そろそろ戻らないと相方に怒られるのでな。」

「ほっほっほ、私も同じ様なものです。いくら当てにされていない神とは言え、そろそろ戻らないといけないのです。」


一月以上はずっと一緒に過ごしていただけに、イツキとララミーティアは寂しさを覚える。


「何だか寂しくなってしまいますね。とは言え皆さんには皆さんの愛する世界がありますもんね。」

「そうね。私達のワガママで引き留めてはいけないわ。」


アテーナイユがイツキに向かって真面目な表情になる。


「イツキ、最後に。お前の魔剣や魔導兵器は力であっても、あれはお前の実力ではない。いいか、力に溺れるな。溺れる者はいつまでも這い上がれず、決して強くはなれない。あれは最後の最後に切るカードだ。ステータスの高さだけが力ではない事はわかったな?基本を怠るなよ。」

「はい!これからも鍛錬は続けます。」


ミクラノミタマがララミーティアに向かっていつものニコニコした笑顔になる。


「ティアちゃん、農業っていうのは非常に単調だし、人によっては足も腰も痛くなり、時間ばかりがただただかかる重労働です。でも人と人との煩わしいやりとりもなければ、育てた作物は素直に成長してやがて実が生るという良い点があります。何より、食を通じて人の命を次の世代へ繋ぐ事にも繋がる尊いものでもあるのです。もし、そのうちあちこちを旅するような事があれば、どうか私の加護で子らにどんどん恵みを分け与えて下さい。」

「ええ、いつかそんな風に旅をしたら加護の力をこっそりバラまいておくわ。本当にありがとう。」


テッシンとキキョウも帰ってしまう2柱と別れの挨拶を行った。

やがて2柱は光とともに消えてしまう。


「何だか寂しくなるな。最近朝晩は特に冷えるようになったし、尚更そう感じるよ。」

「そうね。季節ももう秋から冬よ。この辺りはうんと寒くなるわ。狩る魔物が居なくなってしまったけれど、召喚があるから今年は何とでもなりそうよ。」


イツキとララミーティアが話していると、テッシンとキキョウが口を開いた。


「2人もお互いに趣味を見つけて楽しく暮らしていますし、私達も本格的に寒さが来る前にまた行商の旅に出ようかと思っています。」

「そうねえ。2人から色々仕入れたし、またこの人とのんびり気ままな旅に出るわあ。寒くなるから大陸の南の方にでも行こうなんて相談していたのよお。」

「えっ!2人まで居なくなるの?急ね。とは言えもう2月程居るものね。あまり引き留められないわ。」


ララミーティアがキキョウと抱き合う。

キキョウは「よしよし」と言ってララミーティアの背中をトントンと優しく叩く。

テッシンはイツキと固い握手を交わし、「ミーちゃんを頼みますよ」と言ってイツキの肩をたたいた。



外に出ると既に向かいに建っていた2人の小さな小屋はなく、2人は少し離れた場所へと向かう。


「またしばらくあちこちを旅して歩き、そのうちここへ帰ってきます!その時はまたよろしくお願いします!」

「ミーちゃん!元気にしてるのよお!イツキちゃんも元気でねえ!」

「いつでもお待ちしてます!色々お世話になりましたー!」

「2人とも元気でねー!」


イツキとララミーティアは大きな声で2人へ手を振る。


テッシンとキキョウも大きな声で手を振り、やがてドラゴンの姿へと変身して南の空へ飛び立った。


「また背中乗せてねー!ありがとー!」

「お二人の旅が良いものになりますように!」


ベルヴィアと聖フィルデスは遠ざかっていく背中に向けて声を張り上げる。


「何だか急に寂しくなるよ本当。ベルヴィアと聖フィルデス様はまだ居るんだよね?まさか「はいさよなら」なんて言わないよね?」


イツキが何気なくベルヴィアに話を振ると、2柱とも気まずそうにソワソワとする。


「あら、…まさかこの流れで帰るのかしら?」

「アテーナイユ様やミクラノミタマ様みたいな感じではないんだけれど、これまでの報告とか、今後の方針とか決めるために一旦戻らないといけないんだよねぇ…。依り代の手入れも有るし。」

「私は管理している世界は無いのですが、今後新人のベルヴィアちゃんのサポーター役として正式に任命されるかもしれないのです。これまでフォローする者が全然居なかったので、私が丁度適任だろうと。ベルヴィアちゃんと一緒にしばらく天界へ戻ることになります。」


立て続けのお別れで流石に難色を示すイツキとララミーティア。


「そんな!随分急じゃないの!どうしてもっと早く言ってくれないの?聖フィルデス様もー!」

「そうですよ、ベルヴィアはともかく聖フィルデス様も言ってくれればいいのになぁ。」


聖フィルデスは「ふふふ」と言って誤魔化すが、ベルヴィアはばつが悪そうな表情で告白する。


「まぁね、イツキとティアちゃんが問題なくやっていけそうかなってみんなで見守っててさ、場合によってはみんな残るって選択肢もあったのよね。ほら、町に行ったときのさ…。あれ。」

「ああ、なるほどなぁ…。それで俺たちにやたら新しい趣味だとか何とか急に舵を切ったって訳か。」


腕を組んで納得するイツキに対して、イマイチピンときていないララミーティアはイツキの腕に縋る。


「ねえねえ、どういう意味なの?」

「心配していたのです。お互い依存し過ぎて共倒れしないか。『守れなかった自分』という自己否定的な考えに押しつぶされないか。自分に自信が持てなくなっていないか。」

「そういう事。でもこの一月半で少し安心したわ。何でも良いからやりたい事を見つけて、お互い適度に別々で行動して。」


聖フィルデスとベルヴィアの言葉を頭の中で反芻させるララミーティア。


「心配かけてごめん、ベルヴィアも聖フィルデス様も。俺達は大丈夫だよ。」

「そうね。イツキを守れない自分っていう否定的な考えは最近ないわ。あれも出来る、これも出来る自分って考えるようになったかしら。私達みんなに見守ってもらっていたのね。本当に幸せ者だわ。」


ララミーティアは聖フィルデスに抱きつく。


「ふふ、よしよし。どれくらいかかるかわかりませんが、ベルヴィアちゃんと戻ってきますよ。それまで『聖女の力』の練習も忘れないでね。」

「はい…。本当にありがとうございました。聖フィルデス様、また来てね?」

「ふふ、大丈夫ですよ。ティアちゃん。」


イツキはベルヴィアの傍まで言って話しかける。


「まぁ何か美味そうなものでも召喚するから、そっちでも食べてよ。こっちはこれから冬になるみたいだし、あんまり無理して早く来ると風邪引くからさ、たまには天界で羽を休めてくるといいよ。」

「そうね、ずっとこっちに居たから、あっちでのんびりしてくるわ。」


ベルヴィアと聖フィルデスが改まってイツキとララミーティアの前に並ぶ。


「寂しくなっちゃうから、この辺で天界に帰るわ!」

「元気でね。寂しくなったら天啓でね。」


ベルヴィアと聖フィルデスが徐々に光に包まれてゆく。


「いってらっしゃい!気をつけてねー!」

「いってらっしゃい!」


ララミーティアとイツキは手を振る。ベルヴィアと聖フィルデスはやがて光に包まれて消えてしまった。


「あっという間に2人になったなー。」

「さっきまでみんなでワイワイ暮らしてたのが嘘みたい。」


イツキとララミーティアはしばらくその場で方を寄せ合ってじっとしていた。


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