表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダークエルフと暮らす異世界間違い転生  作者: 三沢 七生


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/616

47.帰宅

やがて魔境の森の広場まで到着し、テッシンとキキョウはゆっくりと着地する。

ベルヴィアが先にキキョウから飛び降り、人族の姿に戻ったキキョウと共にテッシンのもとまで駆け寄る。


「ほら、着いたわ。降りましょう。」


ベルヴィアが2人に促し、キキョウがパッとテッシンの背中に飛び乗り、2人を軽々と抱えてゆっくりと降りた。

テッシンも人族の姿に戻り、


「さあ、とりあえずミーちゃんの小屋でゆっくりしてください。」


と言って2人の背中を押してララミーティアの小屋まで連れて行った。

扉を開いて2人を小屋の中へ連れて行き、そっと扉を閉める。


後ろでは留守番をしていた3柱が、何かあったのかとその姿を見守っていた。

ベルヴィアは3柱の後ろから声をかける。


「少々色々ありまして、あちらのイツキの小屋でゆっくり話します。」


シュンとしているベルヴィアに続いて一行はイツキの小屋へと入っていった。




「なるほど、な。住人や警備兵からは熱烈な歓迎。しかし冒険者組合からは敵視、か。」


アテーナイユがキキョウの淹れた紅茶を飲みながら呟く。

一通りの顛末を説明して一息ついたところで、3柱がそれぞれ考え込む。

アテーナイユが腕を組んで天を仰いだまま独り言のように喋る。


「ふむ…。聞いた話から受けた印象として、2人には申し訳ないが、今回の騒動のお陰で討伐に来る冒険者は激減するのではないかと思うがな。年中魔物に悩まされていた町が突如救われた。町中熱狂だ。しかし一転、冒険者組合の仕打ちによって一日も経たずに希望が絶望に変わった。住人たちの怒りや絶望は生半可なものではないぞ。そんな冒険者にとって最悪な空気の中で、それでもララミーティア嬢を討伐しに来ようなんて思うか?森に来る前に町中で半殺しに遭いかねないぞ。」

「ほっほっほ、そうですな。アテナちゃんの言うとおり。ここは『城塞の守護者』で守られている訳ですし、町中で白い目を向けられてまでここへやってる利点は皆無ですからね。それにイツキくんの手で廃人にされているという事が冒険者組合の偉い立場の者にまで伝わっている。来る意味がないですよ。大抵の子らは一人きりでは生きられないものです。暫く静かになると考えますよ。」


アテーナイユとミクラノミタマは微笑みながら紅茶を啜る。

心配そうにしているテッシンとキキョウやベルヴィアを聖フィルデスはニッコリしながら宥める。


「昨晩から徐々にではあったのですが、先程から『聖女の力』に対する信仰心が集まってきているのですよ。よく分からない憶測でしか無かった謎の力が、突如目の前に謎の力の張本人が降臨して奇跡を起こして見せたのです。子らにくれぐれも熱狂はするなと諭す方が無理と言うものです。信仰心の向かう先がハッキリと定まったのですから、これから先『聖女の力』の影響範囲は使う度に徐々に拡大していきますよ。きっとティアちゃんにも信仰心が伝わっている筈です。」

「それだとまるで『ララミーティア神』ではないですか、聖フィルデス様はそれでも大丈夫なのですか?」


ベルヴィアは怖ず怖ずと聖フィルデスへ尋ねる。

聖フィルデスはニコニコしたまま答える。


「ベルヴィアちゃん、私達は常に子らを見守るのが仕事なのよ。注目を集めて子らから信仰心をかき集めるのが仕事ではないのです。時代によって神の姿形や名前が変化するなんて珍しい事ではないわ。世界に平和が訪れたら『古代にはなんとかという神が居ると信じられていました』なんて言ってケロッと忘れられるものよ。」

「ほっほっほ、聖フィルデスちゃんの言うとおりです。寂しいですけれどね、でもね、子らが必死で命をつないだ結果の平和であれば、私達の名前や存在なんてどうでも良いのですよ。」

「そうだな…。」


3柱はどこか遠い目をしながら微笑んでいた。

ベルヴィアにはまだよく分からない事だったが、ベルヴィアはそんな姿を見て笑顔を咲かせた。


しかしキキョウがぽつりと呟く。


「でもねえ、イツキちゃん。普段はニコニコ優しい子なのに、まるで人が変わったように激昂していたわあ。私たちが止めていなかったら今頃この大陸の地図が変わってたわあ。」

「そうですね…。あのままではいつか大陸の形だけでなく国が滅びるのも現実のものになってしまうかもしれません…。」

「俺の大切なものを平気で奪うやつらなんて言って怒っていたわあ。禍々しい魔力が溢れていて、私たちで止められなかったらどうしようと思ったわあ…。」


テッシンとキキョウが心配そうに表情を曇らせている。


「確かに私が見てる限り、あれは共依存だわ。今までもそんな鱗片は見せていたけれど、あれではまるで共依存ね。」

「「共依存?」」


ベルヴィアの突然の発言にテッシンとキキョウが声をそろえて首を傾げる。


「ええ。地球で呼ばれている、うーん、ある特定の依存状態の事を『共依存』と呼ぶの。」


ベルヴィアが喋り終え、外を眺めていた聖フィルデスがそのままの姿勢で淡々と説明を始める。


「誰かと特定の誰かが過剰なまでに依存し合って、その関係性を好んでしまっている状態を共依存と言います。イツキくんはティアちゃんに依存していて、更にティアちゃんもイツキくんの心を守ることや依存させる事で自分に存在価値を見いだしている。2人の場合は立場が逆でも全く同じ事がいえますね。依存し合っているのはちょっと厄介な状態です。」

「それだけ聞くと強い絆で結ばれている夫婦という印象と言いますか、仲むつまじいのだなと感じますが…。」


テッシンが不思議そうに言う。

聖フィルデスが「そうですね」と言って話を続ける。


「一見すると健全な愛情で支え合っているように見えますね。しかし今回のような状況になるとどうでしょう。強烈な嫌悪感や敵対心を向けられる。2人とも強い苦痛などのネガティブな感情を背負いましたね。今お互いの中では強い自己否定感が渦巻いているかもしれません。『俺は彼女を守れないのか』『私は彼を守れないのね』と。そうなるとどうなると思いますか?」

「安心を求めてもっと互いを求め合うかもしれないわあ…。」

「その通りです。」


聖フィルデスはテッシンとキキョウの方に向き直って話を続ける。


「益々共依存の泥沼にハマっていきます。悪化すると自身の無力さが堪えきれずに自害する可能性もあります。怒りの感情が正常に働かなくなるとイツキくんの場合は本当に洒落にならないです。イツキくんはこの広場が世界なんです。だからその他のエリアはどうでもいい、むしろ全て破壊し尽くしてでもティアちゃんを悪意から守ろうと本気で思われたら、正直我々でもお手上げです。」

「…。」

「…。」


テッシンもキキョウも考え込んでしまう。


「治療方法は…「ないです。」


聖フィルデスがテッシンの質問に被せるように答える。


「これは風邪などのようなわかりやすい病気ではないので『こうすれば治る!』という典型的な治療の手法は無いんです。治癒魔法でも全く何ともなりません。本人たちは至って健康ですからね。とりあえず周囲が関係性を否定せずに暖かく見守る。何かそれぞれに趣味を見つけさせる。お互いがもう少し離れる。といったところでしょうか。とは言えまだ片足を突っ込んでいるだけで、どっぷりと共依存になっているわけではないと思います。」

「そうだな。イツキには剣を教えるだとか、ララミーティア嬢は農業に専念するだとか、新しい料理に挑戦してみるだとか、趣味は相方だという状況を変えるためにも、何か可能性を模索させた方がいいかもしれないな。」


アテーナイユの提案に一堂が頷く。

ミクラノミタマも口を開く。


「そうと決まれば明日からティアちゃんは私の加護の練習がてら農業でもやらせてみましょう。イツキくんはそうですね…、剣の稽古でもさせるか…、うーん、趣味ですか…。読書?音楽?そうですね、地球の楽器でも召喚して練習してみるとかは如何でしょうか。」

「そうですね、私もイツキに何か召喚するよう働きかけます。」


テッシンとキキョウもお互い頷き合い、やがて話し出した。


「私達も特に急ぐ用事はありませんので、話し相手や相談相手として暫く留まろうと思います。」

「ミーちゃんは私たちにとって子供みたいなものだから、大丈夫かなって思うまで傍にいようと思うわあ。」


そうして明日以降の方針が決まった。

イツキとララミーティアは夜になっても小屋から出てくる事はなく、一堂も今晩だけはとそっとしておくことにした。




どれだけ求め合っても物足りない。

2人で泥沼にはまっていくような、でもとても心地良い泥沼。

もっと求められたい、もっと求めたい。

守りたいのに守れないもどかしさが相手の身体をより一層激しく求める。

世界が2人だけの世界ならばいいのに。

もっと。もっと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ