43.プロポーズ
ドラゴンの姿になったテッシンの背中にはイツキとララミーティアが、キキョウの背中にはベルヴィアがそれぞれ乗る形で最寄りの町であるミールへ向けて出発した。
テッシンとキキョウがガウガウと何か言い合うと、翼をバサバサと羽ばたかせ、ふわりとその巨大が宙に浮かび始めた。
イツキたちとベルヴィアにはキキョウの魔法で小さな結界が展開してあって、背中に居てもまるで風も感じず、振り落とされる心配もない、透明な個室の中に居るような不思議な感覚だった。
ベルヴィアは終始一人で大はしゃぎしており、「わぁ!」だの「おぉ!」だの繰り返してキョロキョロしていた。
イツキの背中にしがみついたララミーティアは、イツキの背中に顔を埋めていた。
ララミーティアの息づかいやぬくもりが感じられてイツキはこの体勢が好きだった。
「大丈夫?高くて怖いの?」
イツキがララミーティアに聞くと、ララミーティアは顔を横に振って否定する。
「違うの。イツキがね、さっき俺の妻って言ってくれた事がとっても嬉しいの。私のことで怒ってくれたり、悔しそうにしてくれたり。身体がね、全身がね、震えるほど嬉しいの。私、うまく言えなくてもどかしいのだけれど、とにかく嬉し「なぁ、ティア。」
イツキが遮るように喋る。
いつもは最後まで話をじっくり聞いてくれるイツキに少し驚くララミーティア。
その表情が見えずにララミーティアは少しだけ不安を覚える。
「どうしたの?」
「あのさ、本当に夫婦になろう。俺は全力を尽くしてティアを幸せにするつもりだよ。ティアが幸せだとね、俺も幸せだ。ずっとずっと一緒に居て欲しい。ティアは俺の人生において無くてはならない存在なんだ。ティア、愛してる。俺と結婚して欲しい。」
「…。」
ララミーティアは先程よりも抱き締める力が強くなる。
そのうちむせび泣く声が聞こえてくる。
やがて嗚咽は収まり、ララミーティアがゆっくりとしゃべりだす。
「私もイツキが好き。大好き。愛してるわ。私、もうあなたを失えなくなっているの。言葉でも身体でも伝えきれない程に愛してるわ。私からもお願い。ずっと私の傍にいて。私の傍でずっと私を優しく包み込んで欲しいの。私も一生懸命あなたに愛を伝えたい。」
「結婚してくれるかい?」
「うん…!ずっと一緒よ。」
2人はそのままの体勢で互いの温もりを感じていた。
テッシンとキキョウはまたにガウガウ良いながら優雅に羽ばたいている。
「今からララミーティア・モグサ・リャムロシカだね。」
「うん、私、イツキと同じ家名になるのね。ずっとイツキが傍にいるみたいで、心が温かい。ほら見てみて。」
イツキはララミーティアの顔を見なくても、きっと長い睫毛を伏せがちにして優しさの溢れる表情で微笑んでいるんだろうなと想像出来た。
ララミーティアは自身のステータス画面をイツキの前に差し出す。
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名前:ララミーティア・モグサ・リャムロシカ 種族:ダークエルフ族
年齢:42 性別:女
……
…
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「同じ家名になっているわ。私、イツキの妻なのね。名前が空欄から始まって、アリーに名前を貰って、旦那様の家名を名乗って。初めて名前を貰ったときも嬉しかったけれど、私もイツキと同じ家名を名乗れると思うと嬉しいわ。喜びが身体中をぐるぐる巡ってるみたい。」
「俺も嬉しいよ。こんな素敵な人が自分の妻だなんて俺は幸せ者だよ。こんな幸せ者も中々居ないな本当。この世界に来て家族が出来たんだなぁ、俺幸せだよ本当に。ありがとうね、ティア。末永くよろしく。」
「ふふ、よろしくね。イツキ。私、一生あなたのもの。この響きが好きなの。あなたのもの。」
ララミーティアは後ろからぎゅっと抱きつく力を強めた。
「それを言ったら俺だって一生あなたのもの。だよ。安心して、ずっとティアだけを見ている、約束するよ。」
身体に巻き付いているララミーティアの腕に手を乗せるイツキ。
目を閉じてララミーティアの温もりを感じると、心が温かくなっていく気がした。
「アリー、空の上から見ているかしら。」
「心配して見ているかもしれないね。」
ララミーティアは段々と涙目になりながら空に向かって声を張り上げる。
「ねえアリー。信じられないかもしれないけれど、私こんなに幸せになれたわ。だからもしも心配していたのなら、もう心配しないで。これからはイツキと一緒に長い人生を歩んでいくわ。イツキは私を何よりも大切にしてくれる素敵な旦那様よ。私を愛してくれてありがとう、アリーに出会えて幸せよ。私の大切なお母さん。どうか安心してゆっくり休んでね。」
とめどなく流れる涙がイツキの背中を濡らしてゆく。
イツキはその場でくるりと体制をかえてララミーティアを抱きしめる。
そしてイツキも空に向かって話し掛ける。
「あなたの大切なララミーティアの夫になったイツキ・モグサです。これまでララミーティアを守って育ててくれてありがとうございます。これからは俺があなたに代わりあなたが大事に育てたララミーティアを全力で守り抜き、これからも末永く幸せにしてみせます。だから安心して見守っていて下さい。」
イツキも気がつけば目尻に涙を溜めており、それを見たララミーティアは泣きながらクスクス笑ってイツキの目尻を拭う。
「ふふ、なんでイツキまで泣いてるの。」
「わかんない、でも届いているといいね。」
「そうね…。」
やがてテッシンとキキョウが何かガウガウと言い合うと、ゆっくりと降下し始めた。
下を見てみれば、ちょうど森を抜けたようだった。
振り向いて見てみると、森はずっと広く、どこか神聖な森のような雰囲気を醸し出していた。
「出発からそんなに時間が経ってないような気がするけど、相当早いんだねテッシンさんたち。しかし、これが2人で暮らしている魔境の森なんだな。こうして見ると感慨深いよ。」
「そうね。私もこんな風に空から見るのは初めて。もっと広いかと思ってたけど、遙か上空からみるとこんなもんなんだなって思う。」
「しかしあの広大な森がどの国にも属さないなんて不思議な話だなぁ。」
「それはアリーが何百年もの間、森を脅威から守っていたからよ。アリーは実際どれ程実力があったかハッキリよくわからないけれど、とてつもなく強いの。私が出会った時は死ぬ間際だったのにあの強さだから、全盛期はきっとイツキ並に強かったと思うわ。」
ララアルディフルーもどんな事情があったのかは分からないが、周囲を拒絶するように何百年も独りで暮らしていたのだろうか。
どれだけの時間を独りきりで暮らしていたのだろうか。
自分はそんな人生耐えられるだろうかとふと思う。
ララミーティアも同じ様な人生を過ごす可能性があったのだと思うと、何とも言えない悲しい気持ちに胸が支配されてしまい、片手でララミーティアが捕まっている手にそっと触れた。
「ふふ、イツキの手、好き。ゴツゴツした温かい手。」
「もしもの話だけれどさ、ベルヴィアのミスとか、俺の転生先とか、少しでも何かが違ったら、ティアが何百年もこの森で独りで暮らす未来もあったのかと思うと、何とも言えない、いや、悲しい?苦しい気持ちになるんだ。現にこうして出会えた訳だから、仮定の話で悲しむのは馬鹿だなぁとは思うんだけどさ…。はは。」
ララミーティアはそのままイツキの背中にぴったりくっついた状態で口を開いた。
「私もたまにそういう風に考えて、堪らなく寂しくなる事があるわ。でもね、そういう時は必ずイツキがね、傍にいるの。優しい表情、楽しそうな表情、私を求めている表情、ぼんやりしてる表情、日々の全てがイツキなの。だからそんな寂しさはすぐに消えてしまうわ。」
「はは、俺も一緒だ。ティアのお陰ですぐに寂しさも消えたよ。よくティアが俺がティアを包んでくれるって言うけどさ、ティアも俺を包んでくれるんだ。」
「ふふ、一緒ね。」
「ああ、一緒だ。」
イツキはふと振り返ってララミーティアを見つめる。
2人はそのまま長い長い口づけを交わす。
それはとても穏やかで優しいものだった。
離れるのが惜しくてずっとそのままで居る2人。
しばらく平原を飛んでいたが、町が見えてくると少し離れた場所でテッシンとキキョウがゆっくり着地した。
キキョウの背中から降りてきたベルヴィアが「んー!着いたぁ!」と大きな延びをしながら叫ぶ。
イツキも先に降りてララミーティアをエスコートし、やがてテッシンとキキョウもいつもの人族のような姿に戻る。
「ミーちゃん!結婚おめでとう!私感激して涙が出ちゃったわあ!」
「ミーちゃんおめでとう。末永く幸せにね。」
テッシンとキキョウが唐突に祝福している姿にベルヴィアの頭上にはクエスチョンマークが浮かぶ。
「えっ、いつの間に?えっ?えっ?結婚したの?今?っていうかテッシンさんの背中でプロポーズしたの?えぇ…。」
ベルヴィアの言葉にハッとしたが、確かにテッシンの背中の上でプロポーズしたという形になる。
しかもどういう訳かキキョウにまで筒抜けになっている。
まさかあのガウガウしか聞こえなかったアレが会話だったのかと思うイツキだった。
「はは、まぁそうなります。俺たち結婚して晴れて夫婦になりました。そんな訳でこれからもよろしくお願いします。」
「イツキの妻になりました。私、とっても幸せよ。これからもよろしくね。」
2人とも手をつなぎながら改めて挨拶する。
照れ臭そうに笑っているイツキとララミーティアだったが、さすがにベルヴィアもからかうより嬉しさの方が勝り、たまに見せる女神の表情で祝福する。
「イツキ、ティアちゃん、この度はご結婚おめでとう。私ベルヴィアクローネから心よりお喜び申し上げます。これから2人で色々苦労したり悩んだりするかもしれませんが、深く愛し合っているあなた達ならきっと大丈夫だと思います。2人の輝かしい未来をお祈りいたします。末永くお幸せにね。2人とも大好きよ。」
ララミーティアがウルウルしてしまい、思わずベルヴィアに抱きつく。
ベルヴィアは艶やかな微笑みを携えてララミーティアの背中をさする。
イツキと目が合うとベルヴィアはウインクしてみせた。
イツキは改めてベルヴィアが神様だったと思ったワンシーンだった。
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今日の18時に本編とあまり関係ない閑話を挿入しました。
よろしければ是非見て下さい。





