41.大騒ぎ
ララミーティアが目を覚ました翌日、朝から最寄りの町に遊びに行っていたテッシンとキキョウ、ミクラノミタマは昼過ぎに戻ってきた。
広場でくつろいでいた面々に真っ先に駆け寄り、興奮気味にキキョウが喋り出した。
「みんな!街が大変な騒ぎになってるわあ!昨晩のティアちゃんの聖女の技の御披露目を目撃した住人が『森の狩人は聖女だったんだ!』とか『あのダークエルフは月夜の聖女様だ!』とか、『聖女様が魔物を根絶やしにしてくださった!』とか、泣いて喜んでいる人までいたわあ!」
「ほっほっほ、ティアちゃん、住人から嫌われているどころか神格化されてましたよ。森で助けられたことがあるんだって住人の元にいっぱい人が群がっていて、みんなまるで英雄譚を聞く子供のように目をキラキラさせてましたよ。ほっほっほ。」
「ええ、商業組合の方にも冒険者組合からの情報は来ますが、住人と冒険者との間で天と地ほどの印象の差がありました。住人の間では元々有り難がって『森には手を出してはいけない』という暗黙のルールがあったようですよ。住人から手を出さない限りは利のある有り難い存在だと…。逆に粗暴な冒険者の方がよっぽど住人から嫌われていました。なぁキキョウ。」
「ええあなた!ティアちゃん、あなた『月夜の聖女』ですって!凄いわあ!わたし何だかとても誇らしかったわぁ!ねえあなた?」
「ええ、キキョウの言うとおりです。」
興奮して口々に町の様子を喋る3人の様子をポカンと見ている面々。
やがてララミーティアの顔は火が出るかと思うくらい真っ赤になって耳がピコピコしていた。
「ええ…?なんかティアから聞いてた印象と真逆の良い町じゃないか…。何がどうなってるんだ…?それにしても偶然だね、町でも月夜の聖女だって。」
イツキは内容が理解しきれず頭の上に大量のクエスチョンマークを浮かべていた。
キキョウが興奮したままでさらに続ける。
「助けられたって人の話を聞くとねえ、『自分は命の恩人を怖がったりして、なんて恩知らずなんだろう』って嘆く人ばかりだったわ。あの呪いは姿が見えてる間だけだものねえ。このままだとティアちゃんグッズを作って儲けようとする人も増えると思うわあ。ティアちゃん人形にティアちゃんパン、ティアちゃんの顔が刺繍されたハンカチ…。」
「…そ、そんなっ!困るわ…!」
ララミーティアが必死でキキョウに訴えるが別にキキョウが儲けようとしているわけではないので、すぐに諦める。
森で暮らしていたハズのララミーティアの評判が何故高かったのか疑問だったイツキがふとララミーティアに質問する。
「ちなみに森にきた町の人に、これまでどんな事をしていたの?」
「看破魔法で調べて問題なさそうな人には、たとえば迷っている人には、殺されたら寝覚めが悪いから魔物を倒してこっそり誘導したり。あと、籠を持ってオロオロしている子どもには薬草とか食材とか置いといて、森の中にわざわざ入らなくてすむようにもしたわ。人族に限らず子供がウロウロ出来る森ではないの。後は森で置いて行かれた露払いの奴隷を森の外まで誘導したり、あと魔物溢れが起きそうになったら魔物の始末もしたりしたわ。森にまで溢れてきたらちょっと面倒だしね。」
ララミーティアが一つ一つ思い出しながら語り出す。
それを聞いていた全員が町での印象が鰻登りに良くなるに決まっていると納得するのだった。
「ララミーティア嬢、無償で長年そんな事をしていたら、それは有り難がられて当然だぞ。聖女に結び付けられる理由も納得だ。」
「そ、そうですね。何だか事前情報と全然違っていて…。ひょっとしてティアちゃん、そんなに嫌われてないのでは?」
「ほっほっほ!照れ隠しではなく無自覚でそのような事をしているのであれば、中々の逸材ですな、ティアちゃんは。」
3柱の意見に困惑して耳をピコピコさせるララミーティア。
イツキがララミーティアの肩を抱き、肩を優しく撫でる。
「まぁさ、ティアの何気ない行動に町のみんなが感謝してるんだ。見返りを求めずに人助けを何年もするなんて中々出来る事じゃないよ。もっと胸張っていいと思うな。」
「…うん。そうね。ありがとう、イツキ。」
そんな姿を見ていたテッシンが珍しく真面目な顔をしてイツキに向かって姿勢を正してに言う。
「まるで、自分の娘が認められたようで、感無量です。それもこれもイツキ様がミーちゃんと出逢ってくれたお陰です。それが無かったらミーちゃんは未だにこの森で灰色な毎日を過ごしていたかもしれません。イツキ様、ララアルディフルー様に代わり御礼を申し上げます。ありがとうございます。」
「私からも御礼を言います。イツキちゃん、ありがとう。ミーちゃんをこれからもよろしくねえ。」
ララミーティアが嬉しそうな表情でイツキを見つめる。
イツキはそんなララミーティアに微笑み、テッシンとキキョウに決意に満ちた表情で告げる。
「こちらこそ今までティアを気にかけてくれてありがとうございます。ティアは俺がこれまでの分も、いや、それ以上に必ず幸せにします。お二人もこれからもよろしくお願いします。」
イツキも改めて2人に向かってお辞儀をする。
その時急にイツキとララミーティアの前にそれぞれウィンドウ画面が現れる。
「…城塞に接触している者が居るようだな。」
アテーナイユが静かに呟く。
「しかし城塞の範囲内には悪者は入れないのではないですか?ほらイツキ、折角だしちょっと見てきなさいよ!」
ベルヴィアがイツキの召喚したポテトチップスをバリボリ頬張りながら無責任に言う。
イツキは深刻そうな顔をしてアイテムボックスから魔剣モド・テクルを出し、その場に「ちょっと見てくる」と言って森の中に行ってしまった。
「一人で大丈夫かしら…。」
「平気よ平気、イツキを討伐するのはこの世界には無理よ。戦場のど真ん中で昼寝してても死なないわ!」
ベルヴィアが手に持っていたポテトチップスをララミーティアに差し出す。
ララミーティアはそれを受け取り、パリッと食べながらイツキが消えていった方を見るのだった。
「ララミーティア嬢、心配だったらウィンドウ画面の地図を見ていると良い。イツキが動いている状況が分かるぞ。」
そう言ってララミーティアのウィンドウ画面を指差すアテーナイユ。
確かにイツキと思われる青い丸かぐんぐんと赤い4つのアイコンへ近付いてゆく。
「本当ですね。この青いのがイツキかしら。」
ララミーティアが愛おしそうに青いアイコンに触れる。
するとイツキのステータス画面が急に現れた。
「魔物は無理だが、人族を始めその他様々な種族は城塞のエリア周辺の者のステータス画面が見れるんだ。司令官と副司令官の特権だな。ほら、この赤いアイコンに触れると…。」
そう言ってアテーナイユが横から手を伸ばし赤い4つの丸にも触れる。
「…人族ね。どうせ森の調査か私の討伐よ。いつまでこの手の輩がくるのかしら。」
「4人とも特に大したことはないな…、ステータスをよく見てみるといい。話にもならん。お、イツキが遭遇した。特に戦っているようではないな。話しているようだな。ちなみに色が薄くなればそれだけダメージを負っているという事だ。もっともイツキがその気になれば薄くなるも何も一瞬で消えると思うがな。」
アテーナイユの言葉を漏らすまいと聞き入るララミーティア。
しばらくの間は話をしているようで、それぞれのアイコンに特に大きな動きはなかった。
やがて赤いアイコンがゆっくりと町の方向へと帰って行き、イツキを示すアイコンが元来た道を引き返してきている事がわかった。
イツキを示すアイコンが近くまで来て、ララミーティアは思わずそちらの方へ駆けだす。
「イツキ!」
「ただいま。やっぱり冒険者組合から森の調査に来たらしい。ほら、昨晩のあれの調査。」
イツキが困った表情を浮かべて頬をポリポリとかく。
やがてその場によっこいしょと言って座り込んだ。
ララミーティアは首を横に振って「やっぱりね」と笑う。
後ろから残るみんなも様子を見に来て、キキョウがぽつりと呟く。
「まあ無理もないわあ。あれだけの騒ぎになったから、冒険者組合も慌てて調査を寄越したのねえ。」
「同じ人族と言うことで普通に会話は出来たけれど、俺ほら、彼らが言うところの謎の結界の中に居るからさ、お前は昨晩の光やダークエルフと関係あるのかと聞かれたよ。元々討伐狙いで、そのなんとかって街に来ていて昨晩、あの光の後すぐに森の調査依頼をついでに受けてここまで来たってさ。冒険者達がダークエルフは危険だからどうだとか、ティアについてあること無いこと言うもんだから、さすがに頭に来て言ってやったよ。」
イツキの表情は珍しく怒りで満ちていた。
「…イツキはなんと答えたの?」
「関係あるも何もそのダークエルフは俺の妻だ。光については妻がやった魔物の浄化の為にやったことだ。それに、この結界は俺が妻を守るためにやっている事だ。あんたたちみたいな人が何もしていない俺の妻を討伐しに来るが、返り討ちにするわけにもいかずにこうして結界で守る事にした。本当に真剣に困っているって言っておいたよ。結構効いたんじゃないかな。」
ララミーティアは信じられないと言った表情でイツキを見る。
イツキは妻というキーワードに反応したのかと思い慌てて「いや違うんだ」と言うがララミーティアは俯いて耳をピコピコさせる。
その様子を見て妻というキーワードの事ではないなと一安心するイツキ。
しかしその後ララミーティアが悲しそうにぽつりと呟いた。
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