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ダークエルフと暮らす異世界間違い転生  作者: 三沢 七生


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40.安全圏

「ちょっとイツキー。3日も眠っていたティアちゃんに無理させないでよー?」


いつの間にか窓の木製扉を開けてジト目で覗き見しているベルヴィア。

ララミーティアはパッと手を離してイツキはガバッとララミーティアから離れる。


「大丈夫だよ!そ、それより!さっきティアが目を覚ましたんだよ。」

「そんなチュッチュしてるのを見ていれば分かるわよ、とりあえず聖フィルデス様を連れてくるね。」


ベルヴィアがそう言うとさっさとイツキの小屋の方へ歩いていってしまった。

2人は目が合うとクスクスと笑い合った。


ララミーティアがベッドの上で上半身を起こして外を見ると、いつもとどこか外の様子が違うような妙な違和感を覚える。


「何かしら…。何となく、…だけれど、外の様子がいつもと違う気がするわ…。」

「ティアが寝ている間に「城塞の守護者」を練習したんだよ、今ここは城塞の中心。ティアに害意を向ける者は入ってこれないよ。ステータス画面を見てごらん。」


イツキがそう言ってララミーティアにステータス画面を見るよう促してくる。

言われるままにララミーティアが自身のステータス画面を確認すると、見慣れたマップウィンドウとは別に地図画面が表示された。


「あら、この地図は何?」

「ティアをね、この城塞の副司令官にしたんだ。これでこの一帯のあらゆる状況が把握できる。誰かがウッカリ迷い込んでも一発でわかるようになってるんだよ。」

「へぇ、便利ね!じゃあ外で昼寝をしても全然問題ないのね!」

「ああ、悪い奴は来られない上に、来たとしても俺の小屋のタレットがある。この一帯はティアにとって小屋の中同然の安全圏になったんだ。」


イツキがえっへんと言わんばかりに胸を張って言う。

ララミーティアは涙を堪えるようにして笑みを浮かべる。


「イツキは私をいつも優しく包んでくれる。私は幸せ者ね。こんなに幸せでいいのかしら。」

「いいや、俺の方が幸せ者だねっ。間違いない。」

「あら、私の方が幸せ者だわ。」

「いーや!違うねっ!」

「ふふふ、何それ。」

「はは、愛してる、ティア。」

「イツキ…ズルいわ…。」

「ふふふ、でもははは、でもないわよ!ねえ!あなた達は常にイチャイチャしないと死ぬの?何なの?バカなの?」

「まあまあ、イツキは片時も離れずに傍にいたんだ、多少は仕方がない。」


いつの間にか窓から呆れ顔のベルヴィアとニコニコしているアテーナイユがのぞき込んでいて、イツキとララミーティアは飛び上がるほど驚く。

ベルヴィアとアテーナイユの後ろから目に涙を浮かべた聖フィルデスが顔を出す。


「聖フィルデス様!ベランルージュは無事、みんなの待つところへと帰って行きました。みんなありがとうって言ってくれました。みんな幸せそうで、私良かったです。」

「…ティアちゃん、本当にありがとう。そしてごめんなさい。」


聖フィルデスが突然謝罪をする。


「頭を上げてください!どうしたのですか!?」


慌てるララミーティアに聖フィルデスが続ける。


「私の加護の中に最後の聖女ベランルージュがずっと捕らわれたままなのを知っていたのです。まさかここまで影響を及ぼす程とは思っていませんでしたが、ティアちゃんを利用してベランルージュを救えるのではないかと思って今回加護の付与に名乗り出たのです…。私は醜い神です…。子らを利用して己の…。」

「聖フィルデス様は醜くないです。私、ベランルージュから色々受け継いできたんですよ。」


そう言うとララミーティアはヨロヨロと立ち上がり、イツキに支えられたまま小屋の外へと出る。


手をかざして広範囲の浄化、地面に両手をついて魔力の流れの正常化、城塞の守護者のエリアを覆い尽くす程の結界の生成、自身を治癒、一通りを流れるようにやってみせるララミーティア。


「あぁ、私の愛した子らが護ってきた聖女の力だわ…。」


聖フィルデスがその場に泣き崩れてしまった。

 

更に聖女の十字架を取り出し、夜空に向かって白い光の矢を放ってみせる。

白い光はやがて四方八方へとまるで花火のように散っていった。


「『月夜の聖女』ララミーティア。ベランルージュから名付けて貰った素敵な名前です。私、ベランルージュの後継者として、産まれた星も時代も全然違うけれど、立派に聖女として頑張ります。」


夜風に靡く銀色の髪、月夜のように幻想的な色の肌、ララミーティアは凛とした佇まいでみんなの前に立っていた。


その姿は『月夜の聖女』の名に恥じぬ美しく凛々しいものだった。


「あぁ、ティアちゃん…。ティアちゃん…。私…。」

「ほらほら、もう泣かないで。聖フィルデス様…。」


心を通わせた1人の聖女と1柱の神はいつまでも抱き合っていた。




ーーーーーーーーーーー




魔境の森に程近いランブルク王国の辺境の町ミール。


この辺りには古くから、魔境の森には大陸中の国をたった一人で滅ぼした破滅の魔女が住んでいると代々親から子へと受け継がれてきた言い伝えがある。


そんな魔境の森にはここ十数年前から、魔女を見かけなくなっただけでなく、魔物のようなとても恐ろしい見た目をした狩人が住み着いていると冒険者の間で専らの噂になっていた。


やがて冒険者組合には魔境の森の調査、正体不明の狩人の討伐、など物騒な依頼が常設されるようになって、あちこちから柄の悪い冒険者が腕試しや一攫千金を夢見てこの辺境の町までやってきた。


しかし古くからミールに住んでいる住人は誰一人森に深入りしようとは思わなかった。


森に住んでいる魔女や狩人は確かに存在していて、決して害意がある存在ではない事を知っていたからだ。


ある者は森で迷っていたところを影から魔物の脅威を排除しながら誘導して森の外まで導いて貰い、

またある者は魔物に襲われていたところを茂みから倒して貰い、

またある者は薬草を採集しに森へ行ったところ森に踏み込んだ途端、足元に様々な薬草や食材が置かれていたり、

ある時は冒険者たちが有事の際の囮として連れて行った奴隷を置いてボロボロになって逃げ帰った際、置いて行かれた筈の奴隷が首輪を外された状態で無傷で森から出てきた事もあった。


町の周囲で魔物溢れの兆候が見られると、凍り付いた魔物の亡骸が早朝、住人の目に付くような町の外に置かれていた等々。

深入りしなければ決してこちらに牙をむけてくるような物騒な存在ではない事をよく知っていた。


遭遇した者の証言として共通している特徴は、『長い銀髪』『長い耳』『肌は暗やみのような紺色』という人物像と『「なぜか」恐ろしい気分になった』だった。


当初は森エルフかと思われたが、肌の色が全く違う。

話には聞いたことがある『ダークエルフ』という種族かもしれないという認識が町中に徐々に浸透してゆく。


姿を見た瞬間は恐怖でいっぱいになったが、見えなくなった瞬間に「自分は恩人に大してなんて失礼な事を思ってしまったのか」と後悔したと言う意見は目撃者全員の共通認識だった。


これまで冒険者組合に寄せられた情報の中で、数十年前から突如登場するダークエルフに関する情報がある。


そのダークエルフは隣国エルデバルト帝国で奴隷として人族に仕えていた。

ある日街中を恐怖で支配し、やがて町を去った。

その後各地で発見されては見失う、その繰り返し。


ダークエルフなんて種族は見たことがなくどこに里がありどんな種族なのか全く情報が存在していない点を加味すれば、恐らく稀少な種族であろうと考えられ、魔境の森にいる者と同一人物なのかもしれないと冒険者組合では考えられていた。


住人はそんな正体不明のダークエルフの狩人や魔女を恐れるどころかむしろ有り難がって、決して森にちょっかいを出すような事はしようとはしなかった。


致命傷は負わずとも、追い払われて命からがら逃げてきた冒険者たちは口々に魔女や狩人の危険性を説いて回ったが、町の住人は誰も取り合おうとしなかった。


最近この町の冒険者組合ミール支店に赴任してきた支店長は冒険者からの報告と住人達の噂の温度差に困惑しっぱなしだった。

とはいえ今の所冒険者だけが手痛く追い返されているのは明白で、町に対しては害どころか利の方が多かった。

なのでここの支店長は代々なあなあでこの問題を誤魔化していた。


この支店に昔から在籍しているエルデバルト帝国出身の副支店長の男は住人の言うことは世迷い言だから気にするなと言っていたが、恐らく世迷い言ではないと支店長の勘はそう告げていた。


ここひと月程で魔物が少しずつ強くなっているという報告はここミールだけでなく、大陸中から上がっている懸念事項だった。


当初魔境の森と関連付ける者は誰一人居なかったが、数日前から急に、調査に行った冒険者の間で途中のエリアから先に強力な結界が展開されているようだという報告が相次いだ。


魔女もしくは狩人の仕業だとハッキリしたのは、露払いに子供の奴隷を連れて行ったパーティーからの報告だった。

首輪に紐をつけられた奴隷はズンズン森の奥へ進んでいくが、冒険者パーティーは途中から結界の中に入ることが出来なくなってしまった。

いくら奴隷と言えど幼い子供、それも露払いで先頭を歩かせるその神経も疑うが、害意がない者には利を、害意があるものには害を。

これは間違いなく魔女か狩人が絡んでいるというのは明白だった。


ひょっとすると魔物が強くなっている原因も何か関連があるのかもしれないという暇人の無責任な意見が他の冒険者組合支部から上がっていた。

事態を静観している組合長とは違い、副組合長は冒険者や人族の肩を持つ男で、間違いなく危険な狩人の仕業だと他の組合支部の意見に同調していた。

副支店長はミールの町の冒険者連中にも、森の魔女か狩人の仕業だと無責任にふれて回っていた。


森から弾き出されたのは冒険者だけではない。


魔物も森の中に進めなくなり、徐々に魔物溢れの兆候が見られるようになってきていた。

ここひと月でゴブリンのような最低ランクの所謂雑魚モンスターと呼ばれる魔物は既に最低ランクとは言えない強さになっていた。


住人からは度重なる討伐や調査隊の派遣のせいで魔女と狩人から見捨てられたのだとヘイトが冒険者組合に向けられていた。


ここで魔物溢れの兆候を沈静化出来なければマズいぞと頭を抱えていた支店長だったが、明くる日の晩、魔境の森を中心に白い光が水面に一石を投じたように綺麗な円を描いて広がっていった。


住人や冒険者など全ての人々が呆気にとられる中、最後に魔境の森上空に白い光がまるで矢のように上がったかと思えば、上空で花のようにぱあっと広がって消えた。


町中その話題で持ちきりになり、魔女の怒りだとか、狩人の救済だとか、あること無いこと無責任にささやき合うのだった。


しかしそんな噂話は即座に掻き消えることになった。


町の周辺のどこを探し回っても魔物の姿が全く見つからないのだ。

鬱蒼として何人も寄せ付けない印象を与えていた魔境の森も、まるで神聖な森のように凛とした空気になっていた。


あの晩、光が広がっていった事、最後に白い光がまるで矢のように月夜に向かって登っていった事、それ以降魔物が姿を消した事、魔境の森にはしばらく目撃されていない魔女か最近頻繁に目撃されているダークエルフしか住んでいない事、ダークエルフが住人をしばしば助けてくれる事から、町の住人だけでなく警備兵までもが「狩人=ダークエルフ」「ダークエルフ=聖女」「月夜に奇跡を起こした聖女」などと囁き合っていた。



本部への報告は必要だが、決定的な事は何もわからない。

今回の支店長の代でものらりくらりとした報告書をまとめ上げてこの問題は現状維持で流すしかなさそうだ。

とりあえず一帯を浄化してくれたまだ見ぬ聖女様に日々感謝をするミールの町だった。


そんな支店長が、あの光の翌日に『月夜の聖女』とその夫が町へ来て、副支店長がとんでもない対応し、町が聖女から見捨てられた事、聖女たちだけでなく住人や警備隊、更には町長からも強烈なヘイトを買ってしまった事を知ったのはしばらくしてからだった。


面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。

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