36.女神の悪巧み
その夜、晩御飯の前にイツキの小屋の中でイツキとララミーティアはソファーに並んで座っている。
イツキが天啓スキルを使用すると、すぐに画面が映った。
画面には斜め後ろを見ているテュケーナが映り込んでいる。
イツキが声掛けようとすると、体勢を変えずにテュケーナがボソボソと声を殺して喋り出した。
「…ベルヴィアちゃん。ねえ…新作はまだぁ?…私ぃ、早く胸きゅんきゅんしたいんですけどぉ…!ねぇ…!ちょっと…!聞いてる?」
どうやらベルヴィアと人違いしているようで、一方的にテュケーナが余所見しながら喋っている。
一瞬で悪巧みだと理解する2人。
「えーと!こちらイツキとララミーティアですけど!テュケーナ様何か勘違いしてませんか!?っていうか新作とかきゅんきゅんとか何の話ですか!?おーい!」
明らかに自分達が食い物になっている状況に少しむっとしたイツキがわざとらしく大声で言う。
急に画面がテュケーナの身体のどアップになったかと思うと、そのまま画面を身体で隠しているのか、薄暗くてよく分からない画面になってしまった。
ララミーティアも畳みかけるように声を張り上げて叫ぶように告げる。
「あのー!加護を下さる予定の神様が全くいらっしゃらないのですが!状況を確認できますか!?」
『わー!!!ちょっと待ってくださぁい!わーわー!!!』
テュケーナが大慌てで叫んでいる。
やがて既にテッシンとキキョウと3人で酒盛りを始めているベルヴィアが何も知らずに上機嫌でイツキの小屋に入ってくる。
「イーツキっ!もっとお酒出してよ!出せ出せー!酒が足りねえよ!あはは、ケチケチしないでバーンと出せーっ!ついでにおつまみも!私あれがいいわ、ほ…ら………。」
が、目の前の状況をみて顔面蒼白になってイツキの前まで走ってくる。
「どわーっ!ちょ、ちょっと!こらっ!何してんの!?わざわざ天啓使わなくたって私に直接聞いて良いわよ!わー終わり終わり!天啓はおしまいです!終了!!ね!?だめ!こら!」
『そうです!おしまい!!ね?もうおしまいですぅ!』
「おいおい、天啓を使って何が『こら!』なんだよ!」
「最近、召喚する物も服ばかりで片寄りがあったし、やけにあれ食べたいこれ食べたいが多いとは思ってたけれど、ベルヴィアとテュケーナ様で私物化してたんじゃないのかしら?デーメ・テーヌ様ー?いらっしゃいますかー?デーメ・テーヌ様ー?」
『あーあー!!わー!!大丈夫だから!大丈夫だから!!天啓はもうおしまい!天啓の営業は終了しました!デーメ・テーヌ様は来ません!残念!!ててて天啓切るボタンは…あわわ…。焦って手が…!』
勘の鋭いララミーティアの指摘で完全に狼狽するテュケーナとベルヴィア。
イツキも畳みかけるようにララミーティアに同調する。
「おかしいなぁ、デーメ・テーヌ様が出て来ると不味いことでもあるのかなー?っていうか新作だとかきゅんきゅんしたいだとか、なーんか最近進展もないのにベルヴィアがやたら忙しそうだなーと思ってたよ!まさか俺達を食い物にしてたとはなぁ。俺達を出汁にして一儲けしてたのか?やりかねないかなぁ…?」
『それは誤解よぉイツキちゃん!対価は何も取っていないわぁ!無料よぉ!』
「あっ!ちょっとテュケーナ様!!ひっかかってる!!」
『う、しまった…!』
「かかりましたね。一体どんな物を配ってたんですか?」
画面の向こうのテュケーナと、イツキの隣でしゅんとしているベルヴィアがしどろもどろになってお茶を必死で濁そうとする。
『2人がね、より暮らしやすくするためにね、えーと!暮らしやすく?うーん、とにかくあれなのよぉ!大丈夫だからね?大丈夫だから良かったねぇ!だからもう天啓はおしまい!ね?』
「違うのよ…!私たちは支援者を増やそうと思ってね?…本当よ!いや、違うのよ、テュケーナ様に早く寄越せ寄越せって言われて仕方なく!私は悪くないの!先輩の命令!命令は仕方ない!」
『わっ!ずるい!ベルヴィアちゃんもノリノリで作ってじゃないのぉ!抜け駆けはズルいわぁ!最初送ってきたのベルヴィアちゃんじゃないの!』
「違います!違います!私は悪くないの!」
女神たちの醜い罪の擦り付け合いが始まった。
すると画面の横からどぎついピンク色のウィンドウ画面がすっと出て来てテュケーナが引ったくるようにして受け取る。
『そうよぉ!これこれ!ベルヴィアちゃんも面白がってたじゃない!こんなわざわざウィンドウをピンク色にしてまで!対象年齢によってウィンドウの色を変えろなんて私一言も言ってないわぁ!』
「テュテュテュケーナ様、…それどこから出てきたんですか?」
ベルヴィアが口をパクパクさせてウィンドウ画面に指を指す。
画面の向こうのテュケーナが手渡されたピンク色のウィンドウ画面を不思議そうな表情で見ている。
『どこって…。あっ…。』
『他の神様から新作はまだかってテュケーナに聞いておいてくれって言われたり、お洋服ありがとうとか、こないだのやつ美味しかったよとか急に感謝されたり、何のことかと思えば、あなたたち私の世界をほったらかして、何て物をせっせせっせと作ってるのよ!!!しかもいつまで経っても声がかからないって聖フィルデスから心配する声までかけられてるのよ!!!』
顔を真っ赤にして頭から湯気を出す勢いで激怒しているデーメ・テーヌが画面に登場して、テュケーナとベルヴィアは顔面蒼白で白目をむいてじっと説教を受けていた。
イツキとララミーティアはそっと小屋から出て行った。
小屋から出てテッシンとキキョウの小屋に顔を出すイツキとララミーティア。
中ではテッシンとキキョウが寄り添いながらゆっくりお酒を楽しんでいた。
イツキとララミーティアが入ってきたことに気がついたキキョウが2人に尋ねる。
「あらあら、ベルヴィアちゃんがお酒と食べるもの貰ってくるって飛び出していったけれど、何かあったのかしら?」
「あー、ベルヴィアはちょっと急に仕事の事で呼び出されたみたいでして、変わりに俺がお酒でも持って行こうかなーと。」
イツキが頬をポリポリかきながら気まずそうに告げる。
ララミーティアは頭をななめに傾けながらふふっと笑う。
テッシンがニコニコしながら手元のカップを眺めつつ喋り出す。
「ベルヴィア様から2人のことは詳しく聞きましたが、本当に良かったと心から思います。なぁキキョウ。」
「ええそうね。ここ最近で一番嬉しかった出来事ねえ。あのミーちゃんが運命的な恋に落ちて、素敵な番の横でこんなに幸せそうにしているんだもの。わたし嬉しくて泣いちゃいそうよ。ララアルディフルーさんにも教えてあげたかったわあ。」
ふいに出てきた大切な育ての親の名前にピクッとするララミーティア。
「アリーに報告したかったな…。一体どんな顔したかしら。」
ララミーティアは寂しそうな表情を浮かべ、ふふっと笑う。
「決まっていますよ。いつもミーちゃんを誉めてた時みたいにデレデレした顔で『さすがは私の娘だよ!』と言います。保証します。なぁキキョウ。」
「ふふふ、いつもツンケンしてるのにミーちゃんの話になると人が変わったみたいにペラペラ自慢気な顔でミーちゃんの事自慢していたものねえ。あれはおかしかったわあ。こっちがニヤニヤしていると顔を真っ赤にして『つい喋りすぎたよ』って誤魔化しちゃって。イツキさんの事も気に入るわねえ。ねえあなた。」
「キキョウの言うとおりです。誠実そうで真面目。ミーちゃんを心から愛してくれて、しかも桁違いに強い。ララアルディフルー様が気に入らないわけがないです。今頃きっと安心してますよ。」
「私が見ていないところでは、アリーはそんな一面を見せていたのね。見てみたかったわ。」
2人の話を聞いて微笑むララミーティア。ララミーティアが目尻を拭う。
キキョウがララミーティアの前まできて、優しく抱き締める。
「ララアルディフルーさんはとても不器用な人だったわあ。それでも森の中で拾ったあなたを本当の娘のように愛していたわあ。『あの子はこの先長い茨の道を一人で力強く突き進まなきゃいけないんだ。だから私の持っている全てを託す事で、私が死んじまった後もずっと支えてあげたいんだよ。』ってミーちゃんが居ないところで言ってたわあ。」
テッシンもララミーティアの横に来てキキョウごと抱き締める。
「『寝たふりして、私が撫でる姿を薄目をあけてニコニコしながらじっと見ているんだよ。それが可愛くて可愛くて』と愛おしそうな表情で言ってましたよ。もう先が長くないから、森で生きてゆく術を教え込む時に、どうしても厳しくしてしまう。もっと愛される事も教えてあげたいけれど、自分にはどうしたら良いか分からないと漏らしていました。」
ララミーティアが目尻を拭って微笑む。
「盗み見してたのはバレてたのね。アリーはとても優しい顔をして私を愛おしそうに撫でてくれたの。ちゃんと愛されていたわ、私。それに色々教えてくれて私の糧になった経験や知識が、こうして今でもアリーの大きな愛のように私を見守ってくれているわ。それにこんな私を愛してくれる素敵な人にも出会えた。」
ララミーティアは幸福そうな表情でイツキを見る。
再びテーブルで寝酒を再開するテッシンとキキョウ。
「そのうちララアルディフルー様を埋葬したお墓に行ってみてはいかがしょうか。ララアルディフルー様がお亡くなりになった後、彼女の故郷のリャムロシカという、ここから遥か東の方へ行ったところにある森エルフの里に埋葬しております。」
「そうねえ。ミーちゃんの幸せな姿を一度見せに行ってあげるといいと思うわあ。それにララアルディフルーさんの色々な過去について聞けるかもしれないわあ。行きたいのなら連れて行ってあげる。」
2人の提案に考え込むララミーティア。
イツキがララミーティアの肩に手を回して口を開く。
「すぐじゃなくてもいいからさ、心の準備が出来たら一緒に墓参りに行こう。俺もちゃんと挨拶しておきたいしさ。」
「そうね、私の呪いも解けたし、森を出てその辺を歩いてもなんとも無くなったら行ってみるのも悪くないかもしれないわ。」
その後イツキが何本かウイスキーのボトルをプレゼントし、ララミーティアの小屋へと二人で帰った。
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