35.馴れ初め
「ええ…?それからどうしたのですか?」
イツキが話の続きをせがむ。
キキョウが再びハンバーガーを食べながら話を続ける。
「当然長…私の父は『一番強い者にしかやれん。決めるのは祭の時だ』って突っぱねたわ。強い者を決めるのは祭りの時だから、全然先の話だったんだけどねえ、この人ったら『わかった』って言って出ていって諦めたのかなあなんて思っていたら、里中の人に『長の娘が欲しいから今から祭りをやりたい、俺が勝ってすぐ終わらせるから頼む』って声をかけて回ってるの、ふふふ。おかしいわ本当、ふふふ。ねえあなた?」
「キキョウの言うとおりです。何とかしたかったんです。」
「破天荒というか無謀というか…、何というか凄いですね…。」
「まさか急に祭を開催したの?」
イツキとララミーティアは、もはやテッシンが奇人変人にしか見えなくなってきて困惑している。
当初適当に質問したベルヴィアだったが、とんでもない話の展開に、前のめりになって続きをせがむ。
「ええ!それで?それで!どうなったの!?」
「里のみんなは退屈してたのね。里中の力自慢や野次馬が集まってきたわ。そうしたらこの人ね、『時間をとってすまない。すぐ終わらせるから全員で一気にかかってきて欲しい』って真面目な顔してみんなに聞こえるように大声で叫ぶのよ。わたし、この人頭がおかしいのかしらって思ったわ。」
「人族の姿のままでやったの?ドラゴンの姿ではそんな大掛かりな事は出来ないでしょ!?」
ベルヴィアが目を輝かせてキキョウに質問する。
キキョウはニコニコしたまま質問に答えつつ話を続ける。
「人族の姿でやったわ。わたし驚いちゃったわあ。いざ戦い初めても、この人ったら私の顔ばかりずっとチラチラ見ててねえ、殆ど余所見したままで参加した人全員をあっと言う間にやっつけちゃうのよ。本当デタラメに強かったわあ。わたし、こんなおかしな人とこれから番になるの?って思うとねえ、なんだか胸がドキドキして止まらなくなっちゃってねえ、長も『約束は約束だ』って渋々了承したわ。この人ったらむっつりした顔のままで私をひょいって横抱きにしてそのまま里を出て行ったのよお。嬉しかったわあ。ねえあなた?」
「キキョウの言うとおりです。私はどうしてもキキョウが欲しくてたまらなくなったのです。ここでほかの男に取られるくらいなら、今私が奪ってしまった方が精神衛生上良いなと思いましてね。」
テッシンが顔色一つ変えずニコニコしながらキキョウへの想いを淡々と述べる。
「いやー!凄い馴れ初めね!実力行使で無理やり嫁にしたい女を奪い取る!カッコいいわぁ!」
「面白い話でしたね本当に。」
「なかなか出来ることではないわ。だって、龍人族はふつうに暮らしている人だって強いんじゃないの?」
三人のそれぞれの感想を聞いてキキョウはふふふと笑いながらさらに続ける。
「まだまだ面白いのよお。里を出てもずっと横抱きにされたまま迷うことなくスタスタ歩いていくからねぇ、しばらくしてからわたしこの人に『この後どこにいくの?』って聞いたの。そうしたら何て言ったと思う?『どこにいこう?』って逆に聞いてくるのよ?私どこか行くところがあるんだとばかりに思ってたから驚いちゃってねぇ、慌てて元々どうするつもりだったのか計画を聞いたんだけどねぇ、聞けば全く何も考えずに、何となくその場の雰囲気で抱きかかえて去るべきなのかなと勝手に思って、それだけの理由で里を出てしまったって言うのよお。しかも朝起きた恰好のままで!お金も何も持たずによ?わたしが『食べるのはどうするの?』って聞いたら『お前の事を考えていると食べる必要はない』、わたしが『寝るのはどうするの?』って聞いたら『お前の事を考えていると寝る必要はない』って寝癖のついている頭をして言うのよお。ふふふ。わたし驚いて呆れちゃって『じゃあそのあなたの言う『お前』はどうやって暮らせばいいの?』って聞いたらねえ、しばらくポカーンとした顔をして『花を摘んだり歌を歌ったりして過ごせばいいだろう?』って『お前は一体何を言ってるんだ?』って言わんばかりの不思議そうな顔をして私に言うのよお。わたししばらく呆然としてしまったわあ。はー、何度思い出しても笑えるわあ。あはは、ねえあなた?」
「キキョウの言う通りです。私はキキョウがあまりに好きすぎて全く何も考えて無かったんですよ。若気の至りってやつですね。お恥ずかしい…。」
「若気の至りなんて簡単な言葉では済まないわあ。若気だけじゃそこまでは至らないものねぇ。ふふふ。あー、いつ思い出してもおかしい!」
ベルヴィアは腹を抱えて笑い転げだした。
イツキとララミーティアも我慢できずに声を出して笑い出してしまう。
テッシンはニコニコしたまま遠い目をしてふと呟く。
「キキョウが好きだという気持ちだけで、何も食べなくても寝なくてもいいくらい好きだったんです。いつもおっとりしていて、誰にでも優しくて、でもとてもしっかりしていて、花や蝶がよく似合って、ニコッと笑うとパッとそこに花が咲いたようで、好きすぎてまともに考えられなくなってたんですかね…。朝、里の中でキキョウが庭先の花壇や畑に水をやっている。昼、キキョウが額の汗をぬぐいながら畑の手入れをしている。夜、キキョウは家族の為にご飯を作る手伝いをしている。眠りにつくと、夢の中で私はキキョウとい番になって、キキョウの隣に居る夢を見る。夢の中で私に微笑みかけてくれる。寝ても覚めてもキキョウが私の世界の全てだったんです。キキョウを番にした日の朝、目を覚ましたらもう我慢の限界だったんです。」
「ふふふ、この人ったら里ではそんな風にして、いつもコソコソ私を見ていたのよお。あら何か用かしら?って思っても、すぐサッと居なくなっちゃうもんだから、あの頃はよくわからなかったわあ。この人ったらその後もしばらくずっとこんな感じでぼんやりしていたから、わたしがしっかりしなきゃって思って、2人で魔物を狩ったり素材を採取したりして売ろうって売り始めたのが始まりねえ。本当に頭がおかしいんだわこの人って思ったけれど、わたしが好きだって、お前は花でも摘んでニコニコしていてくれって、まるで息を吐くように何度も無責任にそんな事を言ってくれるの。そんな事してたら一気に生活がなりたたなくなるのにねえ、ふふふ。本当に呑気な人なのよ。でも、わたしもこの人が大好きよ。馬鹿で呑気だけれど、真っ直ぐで桁外れに強くていつまでもあの時のようにわたしをずっと好きでいてくれるわ。だからね、この人と一緒に居られるなら、別にそこまで儲かる必要なんてないのよ。ねえあなた?」
「キキョウの言うとおりです。」
ベルヴィアもすっかり2人の馴れ初めに魅せられて、うっとりしながら話を聞いている。
イツキとララミーティアもすっかり話に引き込まれて、ララミーティアはイツキの肩に頭を載せてうっとりとして話しを静かに聞いていた。
「非常に破天荒な話だけど、2人の愛情がよく伝わってきますよ。好きだという気持ちだけで食べる必要も寝る必要もないと思う感じ。わかるなぁ。」
「そうね。ステキな話。まさかそんな馴れ初めがあったなんて。」
「あらあら、ミーちゃんはイツキちゃんっていう運命の人に出会ったでしょ?後で包み隠さず全てを教えて欲しいわあ。」
ニコニコしながらキキョウがララミーティアに言う。
賺さすベルヴィアが横から割りこんでくる。
「この2人は今愛を育むのに忙しいから、私が後で全部教えてあげるわ!夜お酒でも飲みながら話しましょう!」
「お酒ですか、楽しみですね。是非馴れ初めを教えてください。」
「楽しみねえ。早く聞きたいわあ。」
勝手に盛り上がり始める3人。
こうなってしまうとベルヴィアは言っても聞かないので、仕方ないかなと半ばあきらめムードのイツキとララミーティア。
イツキとポテトを摘みながら、ふと疑問に想ったことを口にするララミーティア。
「そう言えば他の加護ってどうなったのかしら?一月経ったけど、まだベルヴィアの加護しか貰ってないわ。」
「あーそう言われてみればそうだね。ベルヴィアの加護の調整が想定以上に難航してるのかもしれないな。ほら、いざ全部の加護が揃ったときに、実は全部使うと魔力が枯渇しちゃう!なんて事があるかもしれないし…
。」
「確かにあり得そうな話ではあるわね。」
イツキはずずーっとドリンクを飲みながら思いついた可能性を口にする。
そうかもしれないと納得しかけたララミーティアだったが、お互い嫌な予感が頭をよぎる。
「ひょっとしてベルヴィア、神様たちに声掛けるの忘れてないか…?」
「順次お呼びするなんて言ってたし、あり得そうな話ではあるわね…。」
チラッとベルヴィアの方へ見やると、呑気にテッシンとキキョウ相手に上機嫌でペラペラお喋りをしている。
益々忘れているだけな気がした2人はとりあえず後でこっそりデーメ・テーヌあたりに天啓で聞いてみることにしたのだった。





