34.軽食
一通り説明も無事に終わったが、ベルヴィアが神様だと聞いて完全に萎縮してしまったテッシンとキキョウをどうにか落ち着かせるのにはイツキもララミーティアも苦労した。
「本当にそんな畏まらなくていいですよ!ほら、凄く気さくな神様なんで、畏まる方が逆に失礼というか、ね?ベルヴィア?そうだよな?」
「ちょっと!イツキ!聞き捨てならないわねぇ…。畏まる方が逆に失礼って何よ!最初はあんなに優しかったのに、よよよ…。」
イツキがした適当なフォローに噛みついたベルヴィアは大袈裟に悲しむ。
ララミーティアは賺さずベルヴィアをしっかりフォローする。
「ほら、でもベルヴィアの良いところは誰にでも気さくなところでしょう?そういう素敵な神様が居てもいいと思うわ。そんな神様は見た事も聞いた事も無いって事は、特別な神様って事ね。」
「よく言った!ティアは賢いなぁー。よしよしー。偉いし可愛い!」
「ふふ、そうかしら…。」
ララミーティアのナイスフォローを溺愛と言っても過言ではない程に褒めちぎるイツキ。
ベルヴィアはそんな姿が気に入らないのか再びイツキに噛みつく。
「私は偉くないし可愛いくないの!?まぁとにかく、私まだ新米の神様だし、イツキやティアちゃんの言うとおり、ティアちゃんの知り合いのお姉さんって感じでいいわ?恐縮されると私だけ蚊帳の外みたいで何か悲しいわー。」
片膝をついて頭を下げたままのテッシンとキキョウの肩に手を置いて「ね?」と言ってウインクを送るベルヴィア。
「そう仰るのであれば…。よろしくお願いします。ベルヴィア様。」
「そうねえ。よろしくね、ベルヴィア…ちゃん?」
ようやくテッシンとキキョウは元の接し方に戻った。
龍人族の彼らは護衛を雇った上で馬車で移動する世間一般の行商人とは違い、アイテムボックスを駆使する上に空を飛んで移動が出来るので特に急ぐ必要がない。
更に2人は相当強いようで、護衛など一度も雇ったことはないようだった。
ちょっとやそっとの護衛だと、逆に護衛を護衛するおかしな展開になってしまうと笑っていたキキョウだった。
特に何のしがらみもない2人は、今回の休養もひと月ほどを想定しているとの事だった。
イツキもララミーティアも特に問題無かったので二つ返事で快く了承した。
寝泊まりするところについては、普段はアイテムボックスに入れている小さな小屋を出して設置して過ごすらしいので、広場の適当な位置に設置して貰う事にした。
(家を持ち運ぶ…、そういう手もあるのか!)
地球出身のイツキにとっては旅行で家を持ち運ぶという方法は目から鱗の発想だった。
いつかララミーティアと2人で気ままに旅するときは自分もそうしようと心に誓うイツキだった。
テッシンとキキョウの小屋を設置して一息ついた頃にはすっかり昼頃になってしまっていた。
小屋は本当に必要最低限といった感じで纏まっており、中はララミーティアの小屋から最低限の物だけを集めましたという感じだ。
キッチンとご飯を食べるテーブルと椅子が2脚、多少大きめのベッドが1つといった具合で、恐らく必要な物は全てアイテムボックスに入っているるだろうと推測する。
イツキは先日召喚した3メートル四方のレジャーシートを敷いて、外で一緒に昼ご飯を食べることにした。
ベルヴィアが「ハンバーガーが食べたい!」とうるさいので、とりあえず大量にハンバーガーセットを召喚する。
ハンバーガーセットを召喚するときに出てくるドリンクのチョイスはジンジャーエールしか存在しないのが難点だ。
もっとあれこれ注文しておくべきだったと後悔するイツキだったが、完全に後の祭りだ。
「さあさあ、長旅お疲れでしょうからどうぞ食べてください。」
「テッシン、キキョウ、2人ともどうぞ食べて。イツキが召喚したものだから、特に材料や手間はかかってないの。気にせずに食べて。」
「やったー!じゃあ私先に食べちゃうわ!」
イツキとララミーティアの招待に困惑しながらもレジャーシートに腰を下ろすテッシンとキキョウ。
ベルヴィアがもしゃもしゃ食べている姿を見て、手で持って食べるものなのかと理解する。
「驚きましたね。その『召喚』っていうのは、加護で使えるスキルなんですか?」
「はい。記憶を頼りに武力に当たらないちょっとしたものを召喚出来るんです。」
「なるほど、それで見た事がない物が並んでいるという訳ですね…。」
「そうなの。ただ積極的にお金儲けに使うつもりもないの。下手すると経済のバランスがおかしくなる上に、便利な物が出回りすぎると技術の発展を妨げてしまうわ。」
イツキからでは会ったばかりの行商人相手に言いにくいだろうという事を察したララミーティアが先行してきっぱりと告げる。
テッシンもキキョウもなるほどと頷いているところを見ると、概ねララミーティアの意見に同意なんだろうと察するイツキ。
テッシンとキキョウは「美味しい!」と口々に言いながらハンバーガーを食べ始めた。
「確かにそうねえ。技術というものは発展するにあたって必ず登らなきゃいけない階段があるのよ。このハンバーガー?を包んでいる紙を一つとってみても、世間一般向けに出回り始めた紙とは比べ物にならないわねえ。ねえあなた?」
「キキョウの言うとおりです。とても目が細かいうえに油を弾いていますね。これは現在ある技術の何段も遙か先に存在する技術だと思います。これを捌けば大儲けできるかもしれませんが、製造元がイツキ様1人なんてものは技術でも何でもありません。将来あったはずの製紙技術の可能性を全て潰してしまう事になりかねないです。」
心配そうな表情のイツキとララミーティアをニコニコしたまま見つめ、キキョウがちょこんと頭を下げる。
「ちゃんと教えてくれてありがとうねえミーちゃん、イツキさん。私達は2人で旅をするのが一番の目的だから、店を持とうだとか、これ以上儲けようなんて思ってない、商人としてはダメな部類の商人なのよ、ねえあなた?」
「キキョウの言うとおりです。私はキキョウと2人で旅が出来ればそれだけでいいのですよ。」
寄り添ってニコニコしながらジンジャーエールをずずーっと飲むテッシンとキキョウ。
「何か個人的に欲しい物があればいつでも召喚から、是非言ってください。」
「そうね。私も2人には何かお礼がしたいの。いつでも頼ってね。」
テッシンとキキョウは「ありがとう」と言って相変わらずニコニコしていた。
ベルヴィアがポテトをひょいひょい食べながらそんなふたりに質問する。
「それにしてもさ、儲けようと思ってないって、そもそも2人は何でわざわざ行商人になったの?」
確かにイツキも疑問に思っていた事だった。
ふとララミーティアをチラッと見ると、私も知らないと伝えるように困った顔をして肩をすくめる。
キキョウがドリンクを置いて話し始める。
「元々、私はアサクーラの里の長の娘だったの。力が重んじられる里において私の婚姻は勝手が許されないなんてよくある頭の固い里だったのねえ。とはいえ私も『まあそんなものかしら』と思って特に良いとも悪いとも何とも思ってなかったのだけれどねえ。」
キキョウがポテトをつまみ始める。
それを見てテッシンもポテトを食べ始める。
「ある日、家族でいつも通りに朝ご飯を食べていた時に、この人が急に家までやってきて『長の娘を貰いたいのだが、何とか手に入らないか?』って訳の分からない事を言い始めたの。まるで、塩が切れたから分けて貰えないか?ってような感じでねえ。ふふふ、今思い出しても笑ってしまうわあ。家族揃って、こいつは何を言ってるんだ?ってポカーンとしたわ、ふふふ、ねえあなた?」
「キキョウの言うとおりです。お恥ずかしい…。」
出だしからのあまりのめちゃくちゃな衝撃展開に思わず飲んでいたドリンクで咽せてしまうイツキとララミーティアだった。





