33.正体
キキョウとララミーティアは広場の中心の方で早速品物のやりとりを始めた。
主にララミーティアが売る物をどんどんアイテムボックスから出していき、それを確認してキキョウが手元のメモ帳のような物にスラスラ書いている。
イツキがやってくる前のストックもかなりあるようで、イツキがまだ見たことのないような魔物や動物を加工して凍らせた物も多く出していた。
ララミーティアはキキョウがアイテムボックスから出した大量の箱の中を興味津々といった感じで色々物色していた。
イツキが何と交換するのか聞いたところ、自身も召喚出来るようになったから、召喚の幅が広がるように真新しい物を中心に交換するとの事だった。
直近で欲しい物は特になかったイツキは異世界の商人が持っている品物の数々を一通り眺め、ララミーティアの説明を受けながら見たこと無い物ばかりの品揃えにベルヴィアとともに夢中になっていた。
ララミーティアもイツキも装備品については全くいらなかったので、余計な手間をかけてはいけないと思い、装備品を見せてくれとは言わなかった。
そんなこんなで異世界で初めてのウィンドウショッピングを満喫したイツキだった。
「この森は私達の行商の旅の一区切りのようなものなんですよ。ここは魔力が満ちていますし、何より人が居なくて静かですからね。いつもしばらくここでゆっくり過ごしてから、再び行商の旅に出ております。」
「へぇ、そうなんですね。是非ゆっくりしていってください。ちなみに行商の旅を始めてどれくらい経つんですか?」
テッシンとイツキがララミーティアの小屋の付近のその辺の地面に座りながら話をしている。
ララミーティア以外で初めて知り合ったこの世界の人なので、あれこれと質問したことがあった。
テッシンもそんな会話を楽しんでいるようで、ニコニコとしながらイツキと会話をしている。
「そうですねぇ、キキョウと番になってすぐでしたから、もう200年くらいになりますかねぇ。」
「へぇ!200年!凄いなぁ、大陸中を股に掛けて行商の旅。随分軽装ですけれど、荷物なんかはやっぱりキキョウさんみたいに全部アイテムボックスなんですか?」
確かに人族のような姿になっているが、テッシンもキキョウもここまでフラッと散歩で来たようなラフな見た目だ。
「ええ。私もキキョウも上級のウィンドウ魔法を覚えているので時間停止出来るアイテムボックスが使えます、なので全部そこにしまい込んでおります。移動中はドラゴンの姿になって空を飛びますので、手ぶらの方が都合がいいんですよ。」
「ほぉ!ドラゴンの姿で人里に近付いても大丈夫なんですか?攻撃されませんか?」
「はっはっは、こちらも多少気は使いますが攻撃はされませんよ。魔物と多少小競り合いがあるだけで、基本的にはどこも平和ですからね。誰も龍人族が攻めてきたなんて思わないです。」
「へぇ、ドラゴンの姿をするのは龍人族だけなんですね。凄いなぁ。」
急に舞い込んできたファンタジー要素に興奮さめやらぬイツキ。
そんなイツキに逆に質問もするテッシン。
「失礼ですが、イツキ様はどこからいらしたのでしょうか?私どもはかれこれ200年この大陸中を旅して参りましたが、イツキ様程の強者に会ったことはないのです。強者とは隠れていようと、どうしても目立つものですからね。」
「あー、はは。まぁ確かにそうですよね…。」
やはり海千山千の商人、しかも200年近く商人をやっている人にイツキの違和感を誤魔化せるわけがない。
チラッとララミーティアとキキョウがやりとりしている方を見ると、あれこれ品物を眺めていたベルヴィアと目が合う。
「龍人族を見るのも初めてのようにお見受けしますし、殆どのドラゴンは大抵龍人族の姿であることも知らないご様子です。何より魔境の森にわざわざ引っ越してくる人族なんて今まで聞いたことがありません。」
テッシンが足元の草をむしる。
「あの塞ぎ込んでいたミーちゃんの今の様子を見れば、イツキ様がとてもよい方であるという事は十分に分かります。しかし不思議なのです。」
テッシンはむしった草を持った手をパッと広げ、真剣な表情でイツキを見据える。
「見た目が他の種族とは大幅に違い、特に人族等の魔力が弱い者から毛嫌いされている、厄介な呪いを抱えたダークエルフのミーちゃんに接触し、心から愛する人族なんて果たして居るだろうか?と。この世界は残念ながら差別意識が高いですから…。」
テッシンがじっとイツキの顔を見つめる。
確かにこの世界の人からしたら自分の違和感は凄いのだろうと思うイツキ。
ただ、この世界の常識を殆ど知らないイツキには、どこまで本当の事を言って良いものか自分だけでは判断が付かないのは事実だ。
「別に全部言っちゃってもいいわよ。この人たちはティアちゃんの大事な人たちだし、長くつきあっていくなら言っておいた方がいいと思うわ。」
ベルヴィアが珍しく真面目な顔をしてゆっくりとやってきた。
ララミーティアとキキョウも一緒にいる。
どうやらベルヴィアが声をかけて連れてきたようだ。
「…それもそうだな。海千山千の商人をだまし通せる程俺は口が達者じゃないよ。それでいいかい?ティア?」
「うん。この人たちは大丈夫よ。」
ララミーティアがそう言ってイツキの隣に座り、イツキの手にそっと手を乗せる。
「テッシンさん。テッシンさんの感じている違和感の正体はこれです。分かりますかね?」
イツキがそう言うとウィンドウ魔法で出したウィンドウをテッシンとしゃがみ込んだキキョウに見せた。
「これは…!こんなステータス見た事がないわあ!ねえあなた…、ひょっとして。」
キキョウが、テッシンに確認するように言う。
「…理解しました。イツキ様は転生者ですね。私達の里にも八百年程前に同じ様な読めない文字が書かれたステータスを持つ人族の転生者が居たと聞いています。名をトウシロー・アサクーラといい、魔法と変わった剣術の達人だったと聞いています。当時の龍人族がドラゴンの姿で束になっても全く太刀打ち出来ない程のデタラメな魔力を持っていたとされ、やがて龍人族の娘と番になって龍人族を束ねて今の里の形になったと里の者は伝え聞いています。里の名前はアサクーラと言います。」
「アサクーラ?多分朝倉だな…、その人と同郷ですね多分。俺の居た国にしか存在しない家名です。」
そういうとイツキは草が生えていない地面に指で『朝倉』と書いて見せる。
「ほら、こう書くんですよ。何だか懐かしいな…漢字。」
「私達の里の紋だわ、これ。ねえあなた。」
「イツキ様、あなたの話を私達は信じます。あなたは祖先と同郷の方のようです。その証拠に、我々の里の紋はちょっと見た程度では書けない複雑な模様の紋なんです。」
「はは、模様か。確かに独特ですもんね。」
イツキが思わずハハッと笑ってしまう。
テッシンは懐から出した紙の束に万年筆のようなもので『朝倉』とメチャクチャな書き順で書き始めた。
「そうねえ、転生者って言われた方が納得いくわねえ。だって、ミーちゃんの呪いを無視するくらい強い魔力を持って、差別意識が特に強い人族が肌の色が全く異なるダークエルフ族に嫌悪感をもたないどころか愛し合うなんて考えにくいわねえ。」
テッシンとキキョウはニッコリとしてイツキとララミーティアに微笑みかける。
イツキとララミーティアも安心して身体をそっと寄せ合う。
「過去に調整かけたときの転生者ねその人、恐らくね。ま、兎に角あっさり信じて貰えて良かったわ!ナイスフォローね、トウシロー!」
ベルヴィアが腰に手を当ててカラカラと笑い出す。
「ちなみにテッシンという名前も、キキョウという名前も俺の居た世界に居てもそこまで違和感のない名前になります。どんな字を書くかと言うと…。」
そういうとイツキは指で《鉄心》《桔梗》と書いてみせる。
「テッシンさんの《鉄心》は、恐らくですけど「鉄のように固い精神とか心」とか、そういう意味だと思います。頑固一徹な鍛冶職人とか、徳が高い、そうですね…、僧侶…、神官かな?そういう男の人なんかがつけそうな名前ですね。キキョウさんの《桔梗》は花の名前ですね。鮮やかな青い花で、気品が溢れていたりお淑やかだったりとか、女性らしいとても素敵な名前です。凛としてすごく綺麗な花ですよ。本場の俺も、どちらも良い名前だと思います。」
分かる範囲で説明してあげると、2人は自身の名前の意味を思っていた以上に喜んでくれたようで、手を取って「ありがとう」と何度もお礼を言われた。
「ところでこの『ベルヴィアクローネの加護』というのはなんですか?そのような神様を信仰しているという話はどこでも聞いたことがないのですが…。なぁキキョウ、聞いたことあるか?」
「そうねえ、私達もテュケーナ様の加護なら持っているし、デーメ・テーヌ様の加護を持っている人も見た事があるけれど、その二柱しか聞いたことがないわぁ。ベルヴィアクローネ様という神様はちょっと…。」
2人が首を傾げていると、ベルヴィアが右手の人差し指をクルクルと回し、胸の前で手を組んでいる精巧な自身のホログラムを出現させ、あっけらかんとして2人に言う。
「あ、それ私。ベルヴィアクローネっていう神様をやらせて貰ってます!今ちょっと色々あって、この依り代を用意して急遽お邪魔してるってワケ!よろしくね!」
「「かかかか、神様!?」」
もう少し言い方が言い方があっただろうと、イツキとララミーティアは呆れ顔で、えっへんとふんぞり返っているベルヴィアを見た。





