4.散策
文字化けして全く読めない鑑定結果にがっくりと肩を落とす一樹。
「嘘だろ…、全然読めないんだけど…。マジで役に立たねえ…。」
想定外の結果に動揺が隠せないまま途方に暮れる一樹。
試しに地面に落ちていた黒っぽいゴツゴツとした握り拳大の石ころを拾って同じように凝視してみる。
鑑定鑑定と念じていると再びウインドウが一樹の目の前に現れる。
『魔纏岩の欠片「まてんがんのかけら」
魔力を若干纏っている岩のかけら。元々は火成岩の一種。主に~~』
(説明長っ…。でも良かった、しっかり読めるなぁ)
その後その辺の草や木など色々と無作為に調べてみた結果、スキル自体が変だという訳ではない事がわかった。
恐らくベルヴィアから用意してもらった物だけがおかしいのかもしれないという結論に辿り着いた。
とはいえおかしくてもおかしくなくても、この銃のようなものが本当に武器として使えるのかは実戦の前に確認しておかなければならない。
そう思った一樹はとりあえず少し離れたところにある岩に向かって試し打ちをしてみる事にした。
(照準がないと狙いにくいな。構えて引き金を引くんでいいんだよな?こうか?)
恐る恐る引き金を引く。
すると緑色の光の弾がくるくるとあちこち輪を描きながら岩に向かって猛スピードで飛んでいく。
岩にぶつかったと思った瞬間、岩はスライムのようにドロドロと溶けてしまった。
「…うわぁ、岩だけどグロい!あんまり生き物に当てたくないなこれ…。俺吐くかも」
グロテスクになってしまった岩を見つめながら、これが動物や人だったらと思うと気持ち悪くなって使うのを躊躇ってしまいそうな一樹だった。
しかも何を発射したのか全くの謎だ。
(しかしなんか消費したか?特に装填するようなギミックも無さそうだけど…。魔力か?でも特に疲れたり、何かしらを吸い取られたりとか無かったな。うーん、まぁいいか)
改めて銃をあちこち見てみるが、当然何も分からずに諦めて腰のホルダーにしまう。
簡単な魔法は試してみたし、万が一デカい魔物が現れても最悪なんとかなる事は分かりホッとする。
「ま、行くかね…。」
とりあえずデコボコと平坦ではない森を歩き始める。
地球にいた頃は極たまにトレッキングをしていたので、そんな懐かしい趣味を思い出すと少しだけ楽しい気分になり、鼻歌交じりで歩みを進める一樹。
(結構楽しいぞこれ。でもストックが欲しいな…。というかこのブーツ全く蒸れないし、足が疲れる感覚が全然無いぞ…)
単なる皮のブーツだと思っていたが、これもひょっとすると魔法的な何かが掛かっているのかもしれない。
蒸れることもないし、水虫になる心配はなさそうだという事実に若干テンションが上がる一樹だった。
その辺に落ちていた長めの木の枝を見繕って杖代わりにしながら歩みを進める。
たまに枝を振り回しながら、武器は剣が良かっただとか、槍もビギナーズラックがあると聞いたことがあるななどと、口には出さずに不平不満を思い浮かべる一樹だった。
途中、水の流れる音が聞こえてきて茂みをかき分けて音のする方へ行ったところ、岩場だらけの小川を見つけた。
「おぉ、結構綺麗な水だぞ!これ飲めるのかな、こんなのも鑑定出来るのかな…。」
水面をじっと見つめると鑑定結果が出てきた。
『川「名前:特になし」
比較的上流に位置するためそのまま飲料可能。
但し極力蒸留もしくは濾過して飲むことを推奨。』
「異世界と言えど直接の飲むのは最後の手段ってことか。濾過なんてやり方知らないぞ…。最終手段の飲料水として汲みたいところだけど、汲んでおく物がないなぁ。」
どうせ誰もいないんだからと独り言を普通のトーンで喋るようになった一樹は、ウインドウのマップに印でも付けられればと思いマップを見る。
引き続き砂嵐のマップに印を付けても意味がないのではと思い、とりあえず川があるぞという事だけ胸に刻みつけておいた。
せめてでもと思い、両手で水をすくってみる。
水の透明度に思わず感嘆の声をあげる。
そのまま顔をバシャバシャと洗ってみた。
「冷たっ!うわーこれめっちゃ気持ちいいな!」
是非足もと思ったが如何せん拭く物を持ち合わせていない。
それにピラニアのような人喰い魚なんかが居たらたまらんなと思いとどまり、しばらく川のせせらぎを堪能する一樹だった。
マップを見て一樹は思ったが、結構遠い。
そこそこ歩いた気になっていたが、家があるとおぼしき場所まで後半分はありそうだ。
「これ、田舎あるあるの『すぐそこだよ』と聞いて歩いてみたら30分はかかったぞというアレか?」
家はおろか町も人も見つからない。
異世界初日からまさかの野宿かと頭が痛くなる一樹だった。
途中で拾った相棒の木の枝も川でぼうっとしているうちに置き忘れてきてしまった。
「うわ、棒忘れてきた!短い付き合いだったが、ありがとう、棒。そしてごめん、今忘れてきたことを思い出した…。」
しばらく川沿いを歩いていると、木に何か実が生っている事に気がついた。
木の実は梅くらいの小ぶりな大きさで、色はりんごのように赤くなっていた。
周囲の木を見回すと、そんな実があちこちに実っていた。
「食べられるのなら是非とも確保しておきたいな…。」
そう呟いた一樹は、木の下に落ちていた実を拾って早速鑑定してみる。
『マコルの実「まこるのみ」
食用可。
魔力が豊富な森林地帯でのみ実る。
甘酸っぱい風味が野生動物にはあまり好まれない。』
食用可とあらば早速と、一樹はそのまま齧ってみることにした。
食感はりんごや梨のようにシャリシャリし、味は甘夏のような柑橘系の甘酸っぱさがあった。
「うま!これ美味いな!持てるだけ持って行こう!」
割と手が届く位置に群生しているうえ、そこまで大きいものではない。
ジャケットのポケットに入るだけ入れることにする。
あっと言う間に持てなくなり、一樹は手に持ったマコルの実を眺めてじっと見つめる。
「美味しいと分かっているのに捨てるのは惜しい…。なんか収納出来るものがあれば…。」
キョロキョロしながらそう思案した瞬間、手のひらのマコルの実が消えてしまった。
「お!アイテムボックスってやつか!」
ウインドウ魔法を再度起動し、ウインドウを色々見てみる。
確かにマコルの実と書かれた項目があるウインドウを見つけた。
マコルの実という項目以外全ての項目が文字化けしている。
文字化けはげんなりしそうなので一旦見なかったことにし、試しにマコルの実を選択してみることにした。
すると手のひらにマコルの実が現れる。
「とりあえず片っ端から入れていくか…。」
そこから飽きるまでひたすらマコルの実を収納していき、途中で「腐るのでは?」と気がつき、収納する事をやめた。
「アイテムボックスの中身が腐るかどうかの検証も出来そうだな。腐ったらどっかに埋葬するか…。とりあえずこの辺にしておくかね。」
それからは目に付いたものを鑑定し、食用可となっているものをひたすら収集しては収納し、道なき道を歩き続けた。
前世では考えられないほどに疲れないし汗もかかない。
転生したことで若返ったのか、体力が増えたのか、トレッキングが楽しくて仕方がない思いだった。
しかし荷物という荷物を全く持っていないから疲れていないだけでは?と思いついてしまい、楽しい気分も少し減ってしまった。
そろそろマーカーの部分に到着しても可笑しくないはずなのだが、砂嵐のマップは近いのか遠いのか未だに判別がつかない。
「おい、このマップ、ひょっとしてマーカーに近付くと勝手にマップの縮尺変わってないか?全然辿り着く気がしないんだけど…、野宿になったらどうしよう…、流石にテントと寝袋は欲しい…。でもまだ太陽?はまだてっぺんに行ってないはず、野宿の心配は夕方になったら考えよう」
と頭を切り替える。
そろそろ休憩したいなと思っていた頃に、ようやく開けた広場のような所に出た。





