32.充実した日々
それからの日々は、晴れた日は狩りと採取に出掛けたり、狩ってきた獲物を解体、イツキが倒した木を丸太にするために木の枝や葉っぱを取って小屋の裏手に組み上げたりした。
雨の日にはイツキの小屋の中で採取してきたものの整理整頓、特にハーブ類は主にポーション作り用、ハーブティー用、調理用の三種類に分け、それぞれララミーティアが持っていた木箱の中にしまう作業などをやった。
アイテムボックスに仕舞っておくと言って2人で保管用の料理をする事もあった。
勿論その間にも森の調査、ララミーティアの討伐で冒険者連中が森へやってくる事がしばしばあった。
そんな輩を発見するとイツキは「俺が話をしておくからティアは家に戻ってね。」と言って強引にでもララミーティアを家へ帰らせた。
心配したララミーティアが後から何があったのか聞いても、イツキは決まって「話をしたら引き上げてくれたよ」といつもの笑顔で答えるだけで、詳細までは語ってくれなかった。
ララミーティアの知識量は凄まじく、森の中でそれぞれのハーブや食べられる野草に野菜や果物など、それらが自生している場所を完璧に網羅していた。
鑑定のスキルだけではどうにもならない知識で、全てはアリーから叩き込まれたのだと胸を張っていた。
これだけこの森を熟知していれば、確かにこの仙人のような自給自足生活も全く困らないわけだと、イツキはただただ感服するばかりだった。
ベルヴィアの加護の検証も毎日行っており、最近は何を召還しようとどうせ自分達の中でしか使わないのだからと、特にあれこれ深く考える事もなく、言われるままにイツキとララミーティアとで毛色を変えて様々な物を召喚していた。
特にララミーティア用の衣類はあれから相当充実しており、ベルヴィアから「絶対必要だから!」と唆されるままにイツキは日々地球に居た頃の女物の衣類について思い出すのに忙しかった。
しかしララミーティアは何を着せてもよく似合っていたのでイツキも満更ではなかった。
いつしかララミーティアは、狩りの時にしか出会ったときの装備はしなくなっていた。
聞けば今までは洗浄魔法で綺麗にした装備を毎日着ていたらしく、「もうあんな生活には戻れないわ」と嬉しそうに色々な服を着ていた。
召喚の検証の一環として、イツキはどうせだからついでに解体用のミスリルナイフは召還出来ないかとベルヴィアに交渉してみたのだが、「それ武器じゃないの!」と一蹴されてしまった。
魔力の消費については、この森だけから大量に魔力を吸収しているのではなく、この星全体から満遍なく吸収しているとベルヴィアは説明していた。
最近はベルヴィアも何が効率よく魔力を吸い上げるのかについて言及する事は無くなり、イツキとララミーティアは本当にこの加護だけで大丈夫なのかと少し心配になっていた。
ララミーティアは以前に比べて魔物が少し凶暴になっている点と、魔力濃度に左右されるような野草や果物など、自生する数が急増している点、何より森の中に漂う魔力量が増えている点をベルヴィアに報告したが、想定の範囲内らしく、特別何か手を打つような事はしなくて良いようだった。
イツキとララミーティアに興味津々について行く事が多かったベルヴィアは手元のウィンドウ画面と睨めっこする機会が徐々に増えていった。
そんな姿を見てイツキとララミーティアは心配したが、何もいってこないし、特に深刻そうな姿も見せない、むしろ終始ニヤニヤしているベルヴィアをしばらく見守っていようと言って、特に何も言及しなかった。
イツキがここに来てからかれこれ1ヶ月半程経過したある日の事。
イツキの小屋で3人は朝食を食べ終え、今日は何をしようかとあれこれ話をしているうちに、空から巨大な何かが二頭、翼をバサバサとさせながらゆっくり降りてくるのに気がついた。
「何かが来る!危ないぞ、ティア!ベルヴィア!」
「ドドドドドラゴンよ!2体!いや2頭?2羽?何でも良いわ!イツキ!なななんとかしてよっ!召喚しましょう!ロロロロケットランチャー召喚しましょう!エエエM72とかRPG-7とか!」
突然の出来事に気が動転して右へ左へオロオロするベルヴィアと、咄嗟にララミーティアを自身の後ろに隠そうとするイツキ。
「あら、前に言っていた行商人が来たわ。そういえばどんな見た目なのか説明してなかったかしら。龍人族の夫婦だから2頭いるのよ。」
ララミーティアがクスクス笑いながら「ふふ、ごめんなさいね」と言ってイツキの背中をパシパシ優しく叩いた。
ベルヴィアはそれを聞いてヘナヘナと気が抜けてしまったが、その後すぐに「凄いわ!ドラゴンじゃないの!」と終始鼻息を荒くしていた。
「いやぁ、びっくりした…。と、とりあえず迎えに行こうか。」
「そうね、行きましょう。」
そう言って3人は外に飛び出していった。
ララミーティアかずっと昔から交流があった数少ない人たちと言うことで、イツキのテンションは高くなっていた。
何よりこの世界の品物を売り買い出来るのだ。
いくらこの生活に満足しているとは言え、異世界の様々な品物を見るのはワクワクする。
外では既に普通の人族のような見た目になっている男女がこちらに向かってお辞儀している。
どちらも30代半ばといった見た目をしており、髪色はいずれも真っ赤で瞳は金色、かなり身長が高く、地球に居た頃に映画の中で見たような昔のヨーロッパの街の中の人のような恰好をしていた。
「お久しぶり、ミーちゃん。元気にしてましたか?」
「ミーちゃん!会いたかったわあ!」
「ちょっと!ミーちゃんはやめて…!」
男の方が片手をあげてこちらに声をかける。
女の方はニコニコして男の隣に立っている。
ララミーティアが急に失速して俯いたまま耳をピコピコさせてしまった。
女の方が一歩前に出てきて挨拶をする。
「あらあら、随分賑やかになったのねえ。初めまして。私達はこの大陸中で夫婦で行商の旅をしている龍人族のキキョウです。こっちは私の旦那のテッシンよお。」
「テッシンと申します。お二方とも、どうぞよろしくお願いします。ミーちゃん、そちらの方々は?」
龍人族というくらいだから拳で語り合うような猛々しい人たちなのかと思っていたので、物腰の柔らかそうな夫婦にホッとするイツキ。
ララミーティアとイツキは一瞬目を合わせて微笑み合い、ララミーティアが紹介を始める。
「テッシンもキキョウも久し振りね。この人は人族のイツキ・モグサ。それでそっちの人は、うーん、私達の所に色々周辺の調査をする為に来ているベルヴィアよ。」
「初めまして、イツキ・モグサです。ひと月半ほど前にティアの隣に引っ越してきて一緒に暮らしています。どうぞよろしくお願いします。」
「私はベルヴィアよ、2人ともよろしくねー!」
丁寧にお辞儀をするイツキを放置してさっさと2人の元へ行って馴れ馴れしくペタペタ触っているベルヴィア。
「失礼ですが、イツキ様は相当にお強い方のようですね。私達も長年大陸中を旅してきましたが、正直ここまで凄い魔力の方は見た事がありません。人族とは思えない程ですが、確かに人族ではありますね…。ミーちゃん、良かったですね。」
「確かにそうねえ、私達の里でもここまでの人はいないんじゃないかしら。ミーちゃん、素敵な旦那様と巡り会えたのねえ。良かったわあ!今はじゃあララミーティア・モグサ・リャムロシカって名前になったのかしらあ?」
イツキの分析ついでにララミーティアを照れさせるような事をおっとりと言い出す2人。
ララミーティアは案の定顔を茹で蛸のように真っ赤にさせ、耳をピコピコさせてながら反論を始める。
「あのっ!その…、まだ旦那様ではないわ…!」
ベルヴィアが思い出したように喋り出す。
「あら、そういえばそうね。言われてみれば2人ともなんで結婚してないの?あなた達寝ても覚めてもずーっと一緒じゃないの。チュッチュチュッチュずっとしてさ、夫婦でもおかしくないのに。結婚なんて本人たちが望めばいつでも出来るものよ!」
ベルヴィアもテッシンとキキョウの横に立って言いたい放題言い始める。
ララミーティアはますます照れてしまい、イツキの腕にしがみついてイツキの腕に顔を埋める。
「えっ?まだ夫婦じゃないのですか…、ミーちゃんの雰囲気が信じられない程に変わっているものだから、私はてっきり…。」
「あらあら、本当よねえ。ミーちゃんすっかり恋する乙女になってるわあ。そんなにお互い相手の匂いをこれでもかって程いっぱいつけておいて、なんで夫婦じゃないのかしらあ。ねえあなた?」
「ああ、不思議だなぁ。」
「2人もそう思うでしょ?本当運命の人みたいな感じなのよ!まぁ甘くて甘くて、もう見てるだけで口の中から砂糖が出てきそう!」
テッシンとキキョウは首を傾げながら益々ララミーティアを照れさせるような事を連発している。
ベルヴィアも2人に乗っかってガンガンはやし立てる。
確かに常に一緒にいるのが当たり前だったし、イツキもララミーティアも互いを求め合うのに夢中になっていた。
夫婦みたいものだけれど、具体的にその点について話し合ったことはなかった。
イツキはともかくとして、実はララミーティアも結婚の作法や方法など殆ど知識がなかったのだ。
ララミーティアの照れつつも満更でもない様子をじっと見ていたイツキは、ララミーティアの肩に手を置く。
ララミーティアはふと顔を上げる。
見つめ合って微笑みあう2人。
「ほらね?2人が出会ってからずっとこれよ?隙あらば見つめ合うの。黙って見てればチュッチュし始めるわ。狩りの途中でもこんな感じだから、たまに冷や冷やするの!」
呆れ顔でテッシンとキキョウに言うベルヴィア。
テッシンとキキョウはニコニコしながら仲むつまじい2人の様子を見ている。
「元々塞ぎ込んでいたのにララアルディフルーさんが亡くなってからはもう見ていられなかったので、いい番を見つけたようでほっとしていますよ。」
「ふふ、そうねえ。口調も柔らかいし、表情なんてほらあ、すっかり蕩けてしまってるわあ。なんだかこっちまで嬉しくなってきちゃう!」
「昔を思い出すな、キキョウ。」
「うふふ、そうねえ。」
テッシンとキキョウにまで仲むつまじい姿を見せられたベルヴィア。
「…はは、はぁ。」
もう途方に暮れるしかなかった。
18時に閑話を挿入しました。
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