31.騒がしい朝
「ねえねえー、いい加減お腹空いたんだけど!まだ寝てるのー?もう朝が始まって結構経つんですけど!スローライフが過ぎるわよー!」
小屋の外からベルヴィアのクレームが聞こえてきてイツキは目を覚ます。
閉め切った窓の木製扉の隙間から眩しい光が射し込んでいる。
そんな感想すら吹き飛ばすようにベルヴィアが扉をリズミカルに叩きながら騒ぐ。
「ごーはーん!そーれごーはーん!あよいしょごーはーん!!」
「ん…、いかんいかん。寝過ぎた…。はいよー!今起きたよ!悪い悪い!!」
イツキは毛皮を被ってまだ寝ているララミーティアをそのままにして寝ぼけ眼をこすりながらベットから抜け出し、伸びをしながら立ち上がると妙な開放感を覚える。
「ふぁー…、んー!…寝た寝た、随分とよく寝たなぁ。ねむ…。んっ?」
ふと自身の身体を見ると何も着ていない自分に気がついた。
「もう!規則正しく生活しなきゃダメよー?ティアちゃんはまだ寝てるの?案外寝坊助ねぇ、バツとして寝顔でも拝もうかしら!どれどれ…。」
一瞬で全てを思い出したイツキは慌てて外のベルヴィアに向かって声をかける。
部屋の中は何とも筆舌しがたい匂いが充満しており、意識せずとも鼻先に漂ってくるこの匂いは、流石に誤魔化しようのないものだった。
「あーっ!!ごめんっ!!外で待っててくれ!ちょっと支度する!悪い!」
「えー?何でよ!もう…。」
その声で「んー…?」と漸く目を覚ますララミーティア。
むくりと起き上がって大きく伸びをしてイツキを見ると、何も着ていない産まれたまま姿のイツキが視界に飛び込んできて、思わず俯くと何も着ていない自分に気がついて、変な声を上げてしまう。
「ひぁっ!!!イイイ、イツキ…!!!あっ、私も…!!」
「ちょ、ちょっとちょっと!どうしたの!?入るわよ!」
ベルヴィアが扉をバァンと開ける。
そこで飛び込んできた光景は、慌ててララミーティアに毛皮をかける素っ裸のイツキの姿だった。
「ぎ、ぎゃーっ!!!変態よ!!変態イツキ…!!!変態よっ!!何見せてるの!!」
「どわー!おい!!違う!違うから落ち着いて!痛い!!違う!いててっ!見せてない!見せてない!」
そこからは大変だった。
ベルヴィアからポカポカ殴られるイツキ。
そんなイツキは殴られながらもどうにか服を着たが、ララミーティアはベッドで座ったまま毛皮で身体を隠して耳をピコピコさせ続けていた。
とりあえず誤解も解け、イツキによる洗浄魔法でイツキもララミーティアも身体を綺麗にし、イツキはテラスへと追い出されて、ベルヴィアがララミーティアに服を着せる。
「おめでとうかしらー?ティアちゃーん。とっても素敵な顔をしているわよ?ついに『女』になったのね!このこのーっ!羨ましいなぁ!」
「えへへ、ありがとう。好きな人と一つになるって、こんなに幸せな事なのね。私、フワフワ浮いてるみたいな気分。嬉しくて叫びたい!こんな気分が存在していたのね!」
ララミーティアが昨日のワンピースにも洗浄魔法をかけ、ベルヴィアがとりあえずそのワンピース着せて、ララミーティアをベッドから降ろしはしたが、まるで生まれたての小鹿のようにプルプルしてしまい、とてもまともに歩けそうな状況ではなかった。
ララミーティアは「ふふ、見て見て、足が変なの」とクスクス笑っていたが、「イツキのやつ…」と呟いたベルヴィアはイツキを呼び出す。
「ふふ、見てイツキ。足がガクガクなの。」
「あらら、なんか本当ごめんな。」
ララミーティアは嬉しそうに自身の足元を指差す。
イツキはこんな事になった原因が間違いなく自分にあるので、申し訳無さそうに謝る。
「本当よ!ちょっと乱暴すぎるんじゃないの?とりあえずお風呂まで運びなさいよ。」
「そうだな、でも一人でお風呂に入れる?」
「私が一緒に入るわ。さっぱりしたいし。」
そういうと「ほら、行くわよ」と行ってベルヴィアはそそくさと小屋を出て行った。
イツキはララミーティアの元まで行き、キスを一つ唇に落とすと、徐に横抱きでララミーティアを抱えて小屋の外へ出た。
「わぁ、お姫様になったみたい!」
「先に身を清めてから朝食を食べましょう。お姫様。」
「ええ、そうして頂戴。」
2人とも目を合わせてクスクス笑い合う。
横抱きされている間、ララミーティアは目を輝かせてあちこちをキョロキョロと見ていた。
「私ね、背中に羽が生えたみたいにフワフワするの。周りの景色もまるで雨上がりみたいに全てがキラキラして見えるわ!今とても楽しい気分よ、何もかも素晴らしく見えるの!」
「実はね、俺も同じ様な気分なんだ。偶然とかじゃなくて、初めてああいう事をした後ってのはきっと何かあるのかな…。」
真面目に考え込むイツキを見てクスクス笑うララミーティア。
「ああ、何だか叫びたい気分。あんまり騒ぐと魔物が来ちゃうから出来ないけど、スキップしながら走り回りたいわ!」
「よーし!じゃあ俺が変わりにやるぜ!しっかり捕まってろよ、嬢ちゃん!」
「えっ!?」
イツキがニヤリと笑うと、ララミーティアを横抱きにしたままスキップを始めた。
イツキは「おらぁ!」とか「わっしょい!わっしょい!」と叫びながらそこら中をスキップして駆け回る。ララミーティアはギュッとイツキに捕まりながら無邪気に笑った。
イツキは「暴れろーっ!」とよく分からない大声を上げながらララミーティアを抱えたままスキップを続ける。2人はゲタゲタと大声で笑いながら広場を回っていた。
「ああっ!私幸せ!どうしたらいいの!?幸せ過ぎて幸せ!!ははっ、あーっもう!!嬉しいっ!!」
「叫べ叫べーっ!そう言うときは声が枯れるほど叫ぶんだっ!!あーーーーっ!!!!」
「あーーーーっ!!!!わーーーーっ!!!!」
イツキの小屋の前でそんな2人の様子を見ていたベルヴィアの表情は慈愛に満ちた優しい笑顔だった。
そしてそのままイツキの小屋まで運ばれていった。
ララミーティアを降ろしたイツキは流石に汗をにじませてはあはあと肩で息をしていた。
「ち、ちょっと調子に乗りすぎた…、疲れたな…。」
「さぁ、女同士水入らずでお風呂に入るわよ。イツキ、シャンプーとコンディショナーとボディーソープを出して頂戴。あと身体洗うスポンジみたいやつね!」
「はいはい、今出すからちょっと待っててね。」
そう言って次々と召喚してはベルヴィアに手渡すイツキ。
ララミーティアはベルヴィアの横で珍しそうにじっと見ている。
「あんま高級なのとかじゃなくて申し訳ないけど…。ティアをよろしくね。」
「任せなさい!イツキは朝食でも出して待ってて頂戴。和食がいいわねー。麦茶も!あれ美味しいわ。多分時間かかるから、準備はのんびりでいいからね!冷めたご飯は嫌よー?」
「へいへい、ティアお嬢様と比べて、随分ウルサいお嬢様だこった!」
言いたいことだけわっと言うとベルヴィアはイツキの軽口を鼻で笑い、ララミーティアを捕まえてそそくさと風呂場の扉に入ってしまった。
ララミーティアがイツキに教わったとおりに浴槽にお湯を張る。
ベルヴィアは「自分で用意しておいてアレだけど、これ便利ねー!」と言ってその様子を後ろからながめている。
やがてお湯を張り終わると、ララミーティアがシャワーを出して頭からお湯を浴びて身体や髪をさっと流す。
身体は特に念入りに洗い流した。
「あぁ、このシャワーも本当に気持ちいい。お風呂なんて本当に贅沢ね。もう洗浄魔法だけの暮らしになんて戻れないわ…。」
ララミーティアが一通り流し終わるとベルヴィアの肩を借りて湯船につかる。
そのまま目を閉じてお風呂を堪能していた。
シャワーを浴びているベルヴィアが、そんなララミーティアの様子を無視してアレコレ質問してくる。
「あのね、ティアちゃんティアちゃん。あのね?正直どうだった?本当に痛いの?…どれくらい痛いの?」
「えええ…、恥ずかしいわ。」
ララミーティアが口元までお湯に浸かってブクブクと息を吐いて泡を作る。
やがてお湯から顔を出し、ゆっくりと説明し出した。
「確かに痛かったし、これは無理ー!と思って最初は押し返したりしてたんだけれどね…」
ベルヴィアも興味津々な様子のまま湯船に入る。
ララミーティアの赤裸々な体験を鼻息荒く聞いている。
「へぇ」とか「ほぉ」とか大声で感嘆詞ばかりをひたすら繰り返していた。
やがてララミーティアをお風呂の椅子に座らせて、頭を丁寧にあらうベルヴィア。
「この泡は目にはいると目が染みるから気をつけてね。こんな風に手に出して、両手をこすりあわせてから、指の腹で頭皮をマッサージするみたいにがしがしするの。後は髪の毛に泡を満遍なくつけてね。こっちの色のボトルのは、髪の毛に馴染ませるようにね。」
一通り全部説明したベルヴィアは、今度は自分を洗いながらララミーティアへ話しかける。
「今のティアちゃん、とても良い顔していると思うわ。恋する女は本当に綺麗ね。これからもっと恋をしてもっと綺麗になるのよ。私が居ないとき、誰か女の人に相談したいことがあったら天啓スキルを使ってもいいからね?」
「ありがとうね。でも私、天啓スキルは持ってないわ。」
「昨日の夜にティアちゃんにも私の加護と天啓スキルを与えておいたから使えるようになったわ。だからいつでも頼ってね?どうせイツキとティアちゃんは2人で一つみたいな物だから、私の加護も与えたの。召喚もイツキと相談しながら使ってね。」
ララミーティアはパッと顔に花を咲かせて「うんっ」と頷いて微笑んだ。
2人が風呂から出てくると、既にイツキが朝食を用意していた。
「なーに話してたんだ?ベルヴィアが「へぇほぉへぇほぉ」うるさかったけど。ま、リクエスト通りに和食用意しといたよ。お腹も空いただろうし早速食べようか!って、髪が凄い綺麗になってるなぁ。とても綺麗だよ、ティア。」
「ふふ、ありがとう!」
「えー私は私は?私だって中々のものじゃない?」
ベルヴィアが自分を指さしてしつこくアピールしてくる。イツキとララミーティアは目が合うと笑いあい「うんうん可愛い」と2人とも誉めるのだった。
朝食はご飯と豆腐の味噌汁にお新香、味付けのりがあって、大きめの皿の上には立派な焼き鮭の切り身という、よくある焼き鮭定食だった。
「わぁ!美味しそう!さあ食べましょう!」
「これ魚?何?それに焼いてあってとても美味しそう…、まるで肉みたいね。」
「その魚は地球でいうシャケという魚の切り身だよ。白いご飯によく合うんだこれが。さぁ、とりあえず食べようか。」
3人は思い思いに話し合い、賑やかな朝食の時間は過ぎていった。
18時に閑話を挿入しました。
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