29.宴会
魔剣でなぎ倒した木を収納した後、ララミーティアの小屋の中のテーブルにララミーティアが用意した料理が次々とテーブルに並んでゆく。
木の大皿にはイツキがさっき検証で召喚したジャガイモを使ったガレットが盛り付けられ、各小皿には豆苗なのか、かいわれなのかひょろっとした野菜を薄くスライスした肉で巻いて焼いたものが数個ずつ載せられている。
ジャガイモについては森で似ている芋がたまに採れるらしく、イツキから説明を聞いてすぐに物にしてしまっていた。
ベルヴィアが座る椅子については、ララミーティアがどこからともなく小屋の中に運んできた年季の入った丸太のスツールがあてがわれた。
ベルヴィアは「まるでエルフの家具みたいね!」と無邪気によくわからない偏見丸出しで喜んで座り心地を楽しんでいた。
ララミーティアは「そりゃ元からエルフの家だもの」と苦笑いを浮かべていた。
その後3人で食卓を囲み、談笑しながら賑やかな夕餉はあっと言う間に終わってしまう。
ベルヴィアが思いついたかのように突如イツキにおねだりし始める。
「ねえねえー、なんか地球のお酒出してよー。イツキー、なんかお酒飲みたいよー。」
「随分やさぐれた○び太くんだな…。うーむ。とは言え、確かに晩酌なんかもいいかもしれないなぁ。」
確かに酒を飲んでいないので、まぁいいかと思い、適当に飲みやすいブレンデッドウイスキーと甘口の白ワイン、300mlちょいの大きさの瓶ビールを召喚した。
氷も召喚しようと思ったが、練習だと言ってララミーティアに水魔法で木のカップに氷を出して貰った。
見様見真似でイツキも試してみると問題なく氷が出せた。
ワインのコルクは、一々ワインオープナーを召喚するのも面倒だなと思い、強くなったし引っ張ってみようと試みてみたが、そもそもコルクを摘まむことが出来ずに大人しくワインオープナーを召喚した。
瓶ビールの栓抜きについてもついでだからと召喚した。
栓抜きに関してはベルヴィアが「凶器じゃないの!」と古いプロレスネタを引っ張り出してニヤニヤしていたが、さすがに一々面倒になって「はいはい、いいから」といってイツキは軽くあしらった。
ララミーティアはワインオープナーの先端がクルクルしている形が気に入ったようで「私にやらせて!」と目を輝かせておねだりしてきたので、教えながらやらせてみた。
ワクワクと目を輝かせながらワインオープナーをクルクル回しているララミーティアはあどけなくて、イツキは眼福だなと密かに目に焼き付けていた。
「じゃあ!じゃあ!私ウイスキーの水割り呑むわ!ティアちゃんはどうする?」
「実は私お酒は飲んだことがないの…。何か飲みやすいのがいいわ。」
ララミーティアが困ったような表情を浮かべて木のカップを持っている。
「うーむ、もっと気の利いたカクテルみたいなのが出せればいいんだけど、パッと思い付かないなぁ。白ワインとビールを割るカクテルがあったっけ?、まぁ、とりあえず白ワインそのままかな。女の人のファンも多いから初めてでもちょびちょび飲めば大丈夫じゃないかな。」
イツキがそう言ってララミーティアのカップに白ワインを注ぐ。
ララミーティアはくんくんと匂いを嗅いで、何とも言えない表情を浮かべる。
「不思議な匂いね。でも嫌いじゃないわ。」
「お!ティアちゃんいける口なんじゃない?もう辛抱溜まらん状態!さっ!飲も飲も!」
ベルヴィアは我慢できずにイツキに催促をする。イツキはウイスキーをロックで飲むことにして、氷が入ったカップにウイスキーを注ぐ。
準備ができるとベルヴィアが我慢できず勝手に「いただきまーす!」と飲み始めてしまう。
「かあああぁぁぁ…、美味しい!さすがね!美味しい!」
「あぁ、なんか久々に飲んだ気分だ。身体に染み渡るなぁ。」
「ねえねえ!おつまみも出してー。」
「おっ!良いことを言うね!確かに何かつまみが欲しいな…。」
ベルヴィアがおつまみをよこせとイツキに催促してくる。
まるて自分が猫型ロボットにでもなった気分がするが、確かにおつまみは欲しいなと思い、言われるままに缶に入ったミックスナッツと6Pチーズにビーフジャーキーを召喚する。
テーブルは完全に地球の宅飲みの様相を呈していた。
「ベルヴィア、召喚を完全に私物化してるな…。」
「えーいいじゃない。魔力は消費してるんだし、出したものは自分達で楽しんでるんだし。何も悪いことしてないわよ!バチは当たらないから平気平気。せっかくいい加護が使えるんだから有効活用しないでどうするの?」
「まぁ、神様のベルヴィアが言うなら確かにそれもそうか。暇なときにあれこれ召喚しておいてアイテムボックスに入れとくのもいいかもなぁ。」
「それなら!それなら!出して欲しいものを後で伝える!あーん、私自分に自分の加護付与したいなぁ…。いいなぁ。」
「おいおい、俺は猫型ロボットかよ…。しかも自分で自分の加護を付与してる神様なんて居ないだろ!完全に私利私欲じゃないか。」
「あはは、ねえドラ○もーん!何か美味しい物出してよぉ!仕方ないなぁ…、てれてれん!ビーフジャーキー!」
「そんなネタまで知ってるのか!古い方じゃん!めっちゃスゲー!」
わいわい盛り上がる2人をよそに、ララミーティアは淡々と白ワインを飲み進めていた。
やがて瓶をガン!とテーブルに叩きつけてイツキに向かって顔を向ける。
急に瓶をテーブルに叩きつけられたのでイツキとベルヴィアはビクッとして動きを止める。
「……おかあり、ちょーらい…。」
「うっ、くさ!」
ベルヴィアが咄嗟に顔をしかめる。
「ティア?えーと?」
「お・か・あ・り!!ちょー・らい!!」
手に持っていた瓶をガンガンとテーブルに叩きつけるララミーティア。
木のカップが間抜けな音を立てて床に転げ落ちる。
「わかった!わかったから、ほら、ね?待っててね~…。」
イツキとベルヴィアが「やっちまった」と言う顔でお互い見合わせる。
その姿を虚ろな視線で見ていたララミーティアが突如大声で叫び出す。
「ああああー!!!まーらぁ、みつめあって!!!わらし、なんれ、…ううう…、うわぁぁぁん!!!わらしのほうがイツキだいすきなのにー!!!」
急に大泣きし始めるララミーティア。
イツキは慌ててララミーティアを後ろから抱きしめてよしよしと宥める。
ベルヴィアはあわあわしながらも、ウイスキーだけはしっかり飲み続ける。
「へ、平気よ平気!私イツキ全然タイプじゃないもん。それにほら、えーと…。ティアちゃんとイツキはお似合いよ!だからあれよ、うーん。どーんと構えなさいよ!お似合いの夫婦よ!夫婦!」
「ほーら、よしよし。新しいワインだよ。ほら、ね?」
イツキが急いで白ワインを召喚し、コルクを抜いた瓶をララミーティアへ差し出す。
(ちょ、ちょっと!追加してどうするの…!)
(し、仕方ないだろ、つい…!と、とりあえず空き瓶に水入れるから、相手頼むよ…)
小声でぼそぼそ相談をする横でララミーティアは破顔し、ラッパ飲みで白ワインを飲み始めた。
ベルヴィアがすかさずララミーティアをはやし立てる。
「わ、わぁ…!い、良い飲みっぷりね!ティアちゃん凄いわぁ、もっとほら、えーとティアちゃんの良いところ見てみたいなぁー!」
(おい!煽ってどうする…!)
イツキの思っていたより斜め上の相手の仕方をしてしまうベルヴィア。
その間にもイツキは先程の空き瓶に水魔法で水を満たし、コルクで再び栓をしてから徐にアイテムボックスに隠す。
「なんら!おまえわらしのイツキをぬすむどろぼうかとおもったけろ、いいやつらな!おらっ!おまえものめー!どーんとな!どーんと!」
ララミーティアが白ワインをベルヴィアの口にねじ込む。
ベルヴィアは急な出来事に抵抗出来ず、モガモガしながら白ワインを飲む。
「ごほっ!ごほっ!!うぅ…。」
「おい!なにぜんぶのんれんら!ない!こら!やっはりどろぼうりゃ!あはははは!」
空き瓶を床に放り投げてベルヴィアにつかみかかってゲラゲラと笑いながらグラグラ揺らすララミーティア。
ベルヴィアは顔面蒼白でされるがままに揺すられている。
イツキな慌てて水を詰めた偽白ワインをララミーティアに渡した。
パッと手が放れたベルヴィアはそのまま床に投げ出されてしまった。
「あーほら!新しいやつがあるからね、飲もうよ。ね?ほら…。」
「おっ、イツキーいた!イツキーすきすき!ほかのおんな、いっちゃやら!わたしのほうが、ううぅ、すきなのに!ううぅぅ、まけないのに!わああぁぁん!!!わらしのぜんぶ、あげるからあ!ねぇーん。」
「あー!わー!ベルヴィアはほら!神様だから惚れた腫れたとか、そういう事じゃないじゃん!ね?神様と結婚したなんて話聞いたことある?神様と付き合ったりしないでしょ?ね?ほら、ベルヴィアも何か言ってよ!」
「しょうこ、みしてあげる!ほら、あらし、すきすぎて、あらま、おかしくなりそうよ!」
イツキがララミーティアの両手を握り締めて必死に取り繕う。
ベルヴィアに話しを振ったら、ベルヴィアはなんと床に這い蹲ったまま戻してしまっていた。
「うわっ、くさ!おい、ここで吐くなよ!」
「おえぇ…。気持ち悪い…。うっ…。」
「おーこら!おまえ、なにはいてんら!あはは、きたないなぁ!あはは!」
あっと言う間に地獄の出来上がりである。
床に倒れこんで戻している女神様に、悪酔いして暴君と化したララミーティア。
イツキはとりあえずアイテムボックスからバグった水を取り出してベルヴィアに投げて渡す。
「ベルヴィア、とりあえずこれ飲んで!オレの小屋通れば治るはずだから!」
ベルヴィアは水を受け取ってグッと飲み干し、ヨロヨロとララミーティアの小屋から出て行った。
「ふたりっきり、えへへ。イツキー、すきすき!ことばじゃうまくいえない!こうどうれ、しめしてあげる。」
そう叫ぶと突然イツキの顔をガシッと両手で掴んだ。
「ティ、ティア?どうしたの…?」
「えへへ…、イツキー、イツキー。わらし、ぬいじゃうー。この!からだで!イツキをめろめろに…。」
ララミーティアの虚ろな表情をした顔がじりじりと近付いてくる。
「あ、おしっこしたい…。もれちゃう。」
「えっ!わー!ちょっと待って!一緒に小屋の裏行こうね!ちゃんと裏の穴の中にしないと…!」
イツキが慌ててララミーティアの肩を抱えて小屋からどうにか出る。
小屋から出るとベルヴィアがこちらに向かって走ってくる。
「お待たせ!復活した!どうしたの?」
「大変だ、おしっこしたいって…。」
「とりあえずイツキの小屋に運びましょう!」
イツキとベルヴィアがララミーティアの両肩を抱えて大慌てでイツキの小屋までむかう。
入り口を通るとのんきにシステムメッセージが流れる。
『身体のスキャンを開始します。システムイエロー。バットステータス要素を検知。症状は酩酊。除去を試みます。除去中、成功。』
ララミーティアが突如シャキッとした。
イツキの小屋に入った3人は一瞬しーんとしたが、ララミーティアが顔を赤くしたかと思うと慌ててトイレに駆け込んでしまった。
「助かった…。俺の小屋、ありがとう…。」
「ティアちゃん、酒乱だったのね…。」
「何でも出来るティアの弱点が酒って、展開がベタ過ぎるよ…。」
イツキとベルヴィアは大仕事を終えた後のようにその場にヘナヘナとへたり込んでしまった。
しばらくするとララミーティアがトイレから音もなく出てきた。
「私、お酒を何口か飲んだ所までは覚えているんだけど、気がついたらこの小屋に居たわ。その、…急にトイレに行きたくなって…。何があったの?」
「…はは、ティアはちょっとお酒弱いみたいだね…。何事もなくて良かったよ。」
「そ、そうね。お酒は別に飲まなくても死ぬ訳じゃないんだし、ティアちゃんはお酒は控えた方がいいかもしれないわ…。」
へとへとになっている2人の姿を見て頭の上にクエスチョンマークを浮かべるララミーティアだった。
その後のララミーティアの小屋の掃除は大変で、床に戻してしまったベルヴィアがララミーティアからこっぴどく叱られていて、終始不満げと言った表情で正座をさせられたまま説教を受けるのだった。
「解せぬ…。解せぬ…。」
「ちょっと!ちゃんと反省してるの!?」
「…すんません。反省してま~す。」
「もうっ!お酒は当面禁止ね!」
もうララミーティアにお酒を飲ませてはいけないと固く誓うイツキとベルヴィアだった。
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