27.練習
イツキのメイン武器との出会いです。
ララミーティアを着飾って一息付いたところで、時刻は既に夕方の手前まで差し掛かってしまっていた。
ララミーティアは晩御飯の仕込みをすると言って、そのままの格好で自分の小屋の中へ入ってしまった。
イツキたちに背を向けたままだったが、気分が高揚しているなと一目で分かるほどに足取りが軽くなっていた。
ベルヴィアは情報の整理をすると言って再びテラスに敷いた毛皮の上に座り込み、真面目な表情でひたすら手元のウィンドウ画面と格闘していた。
手持ち無沙汰になってしまうイツキはララミーティアの手伝いでもしようと本人に声をかけたが、何が出てくるか楽しみにして欲しいからと言って断られてしまった。
仕方なく戦う練習でもしておこうと思い、手元にララミーティアから借りていた解体用のナイフを取り出した。
地球でいうところのシースナイフで、丈夫な革の鞘から刀身をゆっくり抜く。
鞘の中は型を取った木の板を布で巻いて合わせているようで、それの上から革が貼られているようだった。
(水色か…良くわかんないけど格好いい事は確かだな)
刃は地球でよく使われる片刃ではなく両刃で、頑丈そうでグリップ部分には丈夫そうな布が何重にも巻かれている。
地球でよく見かけるような刃渡り10センチ程度の物ではなく、もう一回りほど大きな印象をうけた。
(日本でこんなものを持ち歩いていたら『キャンプの為です』と力説しても間違いなく違法だな。逮捕されちゃうよ…)
武器を持っているんだという事実に思わずににやけるイツキ。
「こういうので戦うんだよな……。しかしこの刃の部分の細工が随分繊細なんだよなぁ。無骨なのか繊細なのか。それにしても全然錆びてないな。グリップ部分の布は年期入ってるのにな…。」
しばらく手に持ったまま持ち替えてみたり、分かりもしないのにエッジの部分に刃こぼれはないか確認していたが、ついつい中二心に火がついて、無駄にかっこよく構えてみたりみる。
(はは、なんかカッコいいぞ。こんなのヒュッと投げて木に刺さったりとかしたら…!ちょっと憧れるな…)
ふとナイフ自体に魔力が若干込められているような何とも言えない感覚を覚えた。
(ん?魔力が込められるのか?魔導具ってやつかな…)
試しにゆっくり魔力を込めてみると、ナイフにどんどん魔力が吸われて行く感覚的があった。
もうちょっとかな?と思いつつ感覚的に行けるところまで魔力を込めてみると、若干ではあるが脱力感を身体で感じ始めた。
とは言えダルいという程の感覚ではなく、ただ何となく身体から得体の知れない何かがどんどん吸われていく妙な感覚だった。
随分と魔力を吸わせて、ひょっとしてこれは魔力が溢れて爆発するとか、何かしらマズいのではないかと思った頃になると、ナイフ自体が淡く発光し出し、光を帯びたままで状態が止まってしまった。
「あ…。」
ナイフが見られないように咄嗟に小屋を背を向け、この後どうすればいいのかさっぱり分からなくてオロオロしてしまう。
(やば!どうしよう…、どうすればいいんだ?光ったままだ、ひょっとして爆発するのか?)
しかし魔核についてララミーティアが説明していた事を思い出し、ひょっとして魔法が込められるのではと思い立つ。
咄嗟にナイフを落としても自分の手元にナイフが戻ってきて、グリップ部分が綺麗に手の中に収まるイメージを浮かべてみた。
(戻ってくる…。戻ってくる…。戻ってくる…)
すると発光は収まり、もとのナイフに戻った。
イツキは安心してナイフを鞘に納め、その場に座り込んでナイフを徐に横に置いた。
(戻った?あぁ焦った…。壊れるかと思った…。とりあえず爆発もしなさそうだぞ。)
顔を洗うようにして擦ろうと徐に手をあげると、ナイフがいつの間にか手元にある。
嫌な予感がしてナイフを投げてみると、まるでブーメランのように綺麗に手元に戻ってきてグリップ部分がしっかりと手に収まる。
鞘を抜いてまじまじとナイフを見るが、見た目には何の変化もない。
慌てて地面に向かって突き刺すように投げてみるが、突き刺さったナイフがまるでヨーヨーで遊んでいるかのように手元に戻ってくる。
(おっ、中々面白いぞ…!いやいや、勝手に何かしちゃってるなこれ…)
何度投げても手元に戻ってくるナイフを見て益々焦るイツキ。
(常時発動するのか!解除はどうすんだ…?これはマズい…)
ベルヴィアが一段落ついてふーっと息をつき、イツキの居る方向を見る。
イツキは玩具で遊んでいるかのように何かを投げては戻ってという動作を繰り返していた。
これは面白い物を見つけたと、ベルヴィアの表情がパァッと明るくなる。
「ちょっと!ねえねえ!何それ、面白そうね。ちょっと私にも貸してよ!」
ベルヴィアが是非遊びたいとイツキの方へと駆け出す。
すると振り返ったイツキはひどく狼狽した表情を浮かべてぽつりと呟いた。
「……これ、どうしよう…。」
ララミーティアが機嫌良く晩御飯の支度をしていると、イツキとベルヴィアの話し声が段々近づいてきているのが聞こえてきた。
まだまだ仕度中なのに何だろうと思い、外から聞こえてくる会話に意識を向ける。
「……バカねー……くれるに……わ…。」
「だって……っぽいじゃん………するんだよ。」
「……何で途中……たの?」
「いや、なんか……が……大丈夫……と。」
しばらくすると小屋の扉が開いた。
視線をそちらに向けると、シュンとして縮こまっているイツキと、その背中に手を当てて苦笑いしているベルヴィアが立っていた。
まるで子供のイタズラを謝りに来た母親のような姿に、ララミーティアもきょとんとしてしまう。
「…どうしたの?」
ベルヴィアが「ほら」と言ってイツキの背中をバシッと叩くと、イツキが怖ず怖ずと喋り出した。
「さっきティアが解体の時に貸してくれたナイフがあったでしょ…。あれ、魔力が込められそうだからって込めてたんだけどさ…。急にナイフが光り出しちゃって、慌てて手元に戻ってくるイメージを浮かべたら、ナイフが俺の手から放れなくなっちゃって…。」
「そうなの?」
ララミーティアが狐に摘ままれたような表情を浮かべる。
イツキは鞘に収まったままのナイフを床に落としてみせると、床に着地する寸前にナイフが反転してイツキの手に綺麗に収まった。
「大切なナイフを本当にごめん!」
イツキが腰を90度曲げて頭を下げる。
「…?そのナイフ、別に大切でもなんでもないわよ?ミスリル製で便利だから使ってただけよ?」
ララミーティアの言葉にイツキはガバッと身体を起こす。
「これ形見とかじゃないの…?細工が繊細だし、魔導具っぽいし…。」
「ふふ、アリーはこんな無骨なナイフ使わないわ。それは冒険者の亡骸から拝借しただけのナイフよ?安心した?」
イツキは安堵の表情を浮かべると気が抜けてしまい、膝から崩れ落ちてその場に座り込んでしまった。
ベルヴィアは一連の流れを見てケラケラと笑いながらイツキの肩をバシバシ叩く。
「それにしても変ね、ミスリルに魔力を流して光るなんて聞いたことがないわ。それに魔法が付与出来るなんて話も聞いたことがない。」
ララミーティアがイツキの手に収まったままのナイフをしげしげと見つめる。
「魔核だって、付与できる魔法は精々ちょっとした魔法だけで、あんまり強い魔法を入れると壊れるの。高濃度の魔纏岩を混ぜた武器なんかはそういう事が出来ると聞いたことがあるけれど、それでも精々火を纏うとかそんな程度の筈ね。」
「へぇ、そんなもんなんだ。じゃあこれも魔纏岩が混ざってるのかな?」
「それは無いわ。鑑定結果を見て分かるとおり純粋なミスリルナイフよ。魔力を少し流すだけでナイフの状態が戻るのが特徴なの。それにしても、自分の手元に戻るなんて聞いたこともない複雑な魔法は付与できない筈よ。付与された魔法が載っている項目がな増えているけれど、この名前…、この文字は何かしら…?」
イツキはララミーティアが鑑定している姿を見て、そういえば鑑定出来ることをすっかり失念していた事に気がついた。
「あっ、そうか!鑑定するの忘れてた!」
「忘れてたわねー、ちょっと見てみましょう。」
イツキが早速鑑定してみる。説明文の末尾に追加された付与されている魔法の項目には日本語で《戻ってくる》と記載されていた。
横からベルヴィアも興味津々で覗き込む。
「え!?『戻ってくる』?これが魔法名?嘘…これ名前変えられないの…?」
「あはは、『戻ってくる』って!魔剣『戻ってくる』ね…!あはは、苦しいー、あはは!」
「モド・テクル?変わった名前ね…。」
ベルヴィアが床をバンバン叩いて苦しそうに肩を揺すりながら爆笑している。
ララミーティアは何か可笑しいのか皆目見当が付かず話に付いていけなくて、落ち込んでいるイツキにねえねえと質問をする。
「ねえ、ベルヴィアは何でこんなに笑ってるの?何だか仲間外れみたいでイヤー!」
「えーとね…、これは『もどってくる』といって、意味は本当にそのまま「戻ってくる」なんだ…。そういう意味がある単語とか名称じゃなくて、話し言葉そのままというか…。まぁ一言でいうと相当間抜けでダサい…。」
イツキの説明にララミーティアもクスクスと笑い出してしまう。しかしイツキはそんな姿を見てつられて笑いがこぼれてしまった。
「モド・テクル。じゃあこっちの言葉で訳すと『魔剣戻ってくる』なのね、ふふふ。ごめんなさい、ふふ。」
「魔剣『戻ってくる』、あはは、可笑しい…、あはは!苦しいー苦しいー!」
「もう!ベルヴィアは笑いすぎだぞ!」
「ひー、ごめんなさい…。ふふ、あー本当。あはは。だって、仕方ないじゃないの!ふふ、ぶふっ!」
笑い転げているベルヴィアは無視して、ララミーティアに発音を教えようと何度か説明してみたが、やはり日本語の発音が難しいらしく、その後も何度か教えてみたが、いつの間にかこのナイフはモド・テクルという名前で定着してしまった。
イツキ自身も訂正してまで名乗りたい名前でも無かったので、もう魔剣モド・テクルでいいやと諦めた頃には、いつの間にか鑑定結果にも『魔剣モド・テクル』という名前がついてしまっていた。
魔剣誕生の瞬間だった。
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